そこで出会う別の世界からの来訪者の少年。
互いに求めるものを同じとする2人。
足りない部分を補い合うことができる2人に敵はなしか……
第5話『俺は剣、きみは盾』
〜〜一夏視点〜〜
一夏
「ん……うっ……ここは?」
空からさす陽の光に目を覚ます。
俺はなぜか森の中で気を失っていたようだ。呼吸ができることから、ここは空気が存在していることはわかるが。
あの場所での出来事が夢幻と思えたが、【ユン】老師との死闘(※ほとんど一方的)の末、自分自身から漲ってくる力が、それが夢じゃないとなんとなく思えた。
一夏
「【ユン】老師と別れて、あの空間から出たと思えば、まさかこんなところに放り出されるとは。にしても、ここがどこなのかっていうのもあるが、この場所なんだか……」
辺りを見回しても人が通ってこれるような隙間も無いくらい森が広がっているが、なぜかこの場所にさす陽の光や周りの空気が、妙に神秘的に感じてしまう。
キィン!
一夏
「・・・?今の音は……」
すると、突然どこからか鍔鳴りのような透き通った音が響く。
俺は音のする方に導かれるまま、なんとか通れるくらいの細道を縫うように進む。
道を抜けると、そこはひらけた空間。道はそこで終わっていた。
ただ1つあったのは、石を積み重ねたお墓と思しきものだけ。
その台座の部分になにかが置かれているように見える。
一夏
「これは……」
俺は墓のもとまで行く。墓には名前は彫られていないため、誰の墓かはわからない。しかし、台座に置かれているものには見覚えがあった。それは、あの場所で【ユン】老師との修行にて、俺が使わせてもらっていた太刀だ。
その太刀を手に取り、鞘から抜く。やっぱり、ただのそっくりな造の太刀ではない。あの時の修行でもそうだったが、ものすごく手に馴染む。
なぜこの太刀がここにあるのかはわからないが、もしかしたら老師からの配慮なのか。
ーーー…………
一夏
「“ともに“・・・か……」
そうこの太刀から聞こえた気がした。とりあえず、太刀を腰に差し、墓に対し一礼し拝む。
すると、いつの間にか向こうに別の道が現れており、俺はその道を進んでいく。
一夏
「なんだよ、ここってどっかの町の裏山だったのか」
森を抜けると、すぐそこは山の登山道へと続いていた。人がいるのがわかるように、元々レジャーも兼ねた山なのか、しっかりと道もある程度舗装がされている。
俺がいた森から、てっきりどこかの山奥くらいと思っていたが、下の方に町が広がっているのが見えた。
一夏
「・・・やべぇ、人が来た……」
すると、こちらに複数の人が来た気配を感じ、物陰へと隠れ、息を潜める。
この場合、その人達に保護をしてもらうのが一番だと思うが、現在の俺の状況。
○見た目子供
○住所不定
○銃刀法違反
おまけに、向こうと言葉が通じるかも不明。仮に言葉が通じたとしても、状況を説明したとして、十中八九
とりあえず今は、遠目からでも、出来るだけ多くの情報を得なくては。
???
「・・・ん?」
???
「どうかしたの?」
???
「いや、人の気配がしたと思ったが、気のせいみたいだ」
どうやら向こうから来るのは、男女の2人組。話している言葉は日本語みたいだ。登山客のようだが、2人とも相当な手練れ。それに、男の方は一瞬だがこちらの気配に気づいたみたいだし。
登山客(女)
「そういえば、今回も例の場所を探してたわけ、【恭】ちゃん?」
登山客(恭ちゃん)
「当たり前だ。名前などの記録こそ少ないが、過去に数々の伝説を打ち立て、《剣仙》と呼ばれるまでに至った方を祀った祠がこの山のどこかにあるはず。俺も、剣士の端くれとして、一度はこの目で確かめたいからな」
登山客(女)
「でも、そんなすごい人を祀った場所が、本当にこの町のこんな山にあるとは思えないけどねぇ」
そう言って2人はそのまま下山していく。それにしても、さっき【恭】ちゃんと呼ばれた男が話していた、《剣仙》と呼ばれた人を祀った祠。
それを聞いて、すぐに先ほど俺が出てきた道を振り返る。
しかし、そこには最初から道など無かったかのように、岩壁が道を消していた。
一夏
「ははは……消えちゃったよ……」
あの謎空間といい、もう不思議体験は俺としてはもう十分。深く考えるのはやめよう。
一夏
「とりあえず、今日の寝床を探すか」
いつの間にか、周りは陽の光は夕陽を思わせる橙色。今日のところは町に出るよりも寝床を見つけて、情報を探るのは明日にしよう。
そう考え、寝床を探すために森の中を進む。
幸いなことに、もともとこの山はキャンプ場も兼ねていたためか、中腹くらいの場所ですぐに寝床は見つかった。
一夏
「今のところ、反応はないか」
現在は焚火で照らしながら、片手にある石に目をやる。
【アリシア】のココロの残滓の一つが封じ込められた宝石。
あれ以降、ほかの残滓への反応は見られない。
一夏
「やっぱり、ある程度近くにいないと反応しないのか。まぁ、地道に探していくしか方法なないか」
宝石を弄びながら、今後の方針を考える。
一夏
「その前に……」
焚火から火かき棒代わりに使っていた枝を抜くと、あらぬ方向へと投げ放つ。
???
「うわっ⁉︎」
すると、枝を投げた方から叫び声が上がる。
一夏
「出てこいよ。ま、もし敵対するってんなら、こっちも……」
傍らに置いていた太刀の鍔に指をかけ、向こうを脅す。
そして、少しして草むらから、一人の金髪の少年が現れた。
登山客というには格好が特殊な、どこかの民族衣装のような出で立ちだ。
???
「で、出ます!出ますから!あ、あの、こちらに敵対する意思はありません。なので、刃を収めてもらえませんか?」
一夏
「ふん。で、お前は何者だ?なんでこっちを覗いてた?」
???
「えーと、僕の名前は、【ユーノ・スクライア】。ある物を追って地球にやって来ました」
一夏
「あっさり名乗るのな。俺の名は、【織斑 一夏】。一つ聞くが、ここは地球なのか?」
ユーノ
「はい、そうですが。それがなにか?」
今俺がいるここが地球とは。あの時の登山客が日本語を話していたってことは、日本である可能性が高い。
でもまさか、こんな形で戻ってこれるとは。しかし、ここが日本のどこなのかもわからない状態で、調べられる手立てもない。
それに今の俺の目的は、【アリシア】を元に戻すことだ。
一夏
「いや、なんでも。つぅか、そんなに固くならなくていいぞ。さっきは手荒な真似をして悪かったな。俺のことは気軽に【一夏】って呼んでくれ。それで、もう一つ質問するが、お前の口ぶりからすると、【ユーノ】は地球以外の場所から来たみたいに聞こえるんだが?」
ユーノ
「えーとそうだなぁ、こことは別の世界って言えばいいのかな。
僕はそこの、《ミッドチルダ》という世界から来たんだ」
一夏
「待て【ユーノ】、今お前、《ミッドチルダ》から来たって言ったか?」
ユーノ
「うん、そうだけど……」
【ユーノ】が嘘を言っている可能性もあると考えたが、自分がいた世界と同じ名前を咄嗟に出すとは思えないため、【ユーノ】が本当のことを話しているのを前提で、俺はこちらの身の上を話す。
聞けば、【ユーノ】はスクライア族という、様々な世界の遺跡発掘を主に生業とした一族らしく、そこで発掘した物を《時空管理局》に保護してもらうように手配していた矢先、輸送船の事故でそれが暴走し、地球へと散らばったらしい。
一夏
「んで、【ユーノ】はそれを追って地球に来たってことか。なんでまた1人で?《管理局》に依頼とかしなかったのか?」
ユーノ
「たぶん、してくれていると思うよ?」
一夏
「思う?」
【ユーノ】の話によると、事故後に発掘の依頼主より、それを発掘責任者として先に地球へと先行し、発掘物を確保せよ。《管理局》にはこちらから連絡する。以後の処置はこちらに任せよ。とのことだが、遠回しに《管理局》に連絡するなとか、早い話が、
『おいこら、こっちが依頼した物を落っことすとは、どおしてくれるんだ、あぁ?落し前として、テメェが直接行って回収してこい。警察とかにチクッたらどうなるかわかるよなぁ?』
なんだかヤ○ザのような言い回しだ。俺には完全に裏があるようにしか思えないんだが。
一夏
「俺から一応忠告するが、【ユーノ】の方から早めに《管理局》に連絡入れといた方が良いぞ」
ユーノ
「え?でも、向こうが連絡しておいてくれるって……
それに、それを発掘した人物として、魔法文化のない地球で、もしそれが発動なんてしたらえらい騒ぎになるからね」
【ユーノ】、責任感があるのはいいが、いくらなんでも人を信用しすぎだって。
一夏
「いいから、連絡しておけよ。いいな?」
ユーノ
「う、うん……」
一夏
「んで、話は戻るが、お前が探しにきたっていう、発掘物ってどんなんだ?」
ユーノ
「えーと、これだよ」
ユーノが取り出した赤い宝石から映像を見せる。
一夏
「え?これって、こいつと……」
色合いは微妙に違うが、その形は俺の持つ【アリシア】のココロの残滓とよく似ている気が……
ユーノ
「ちょ、それ!それだよ!それを早くこっちに!」
一夏
「うわっ!待ってくれ!まずはこっちの話を……」
【ユーノ】は飛びかからんばかりに、【アリシア】の残滓を奪おうとするのを必死で止める。
一夏
「はぁはぁ、まずは、こっちの話を聞いてくれ……」
ユーノ
「ご、ごめん、僕も気が動転して……」
【ユーノ】が発掘し、地球に散らばり、わざわざ回収しに来たもの。
名前を《ジュエルシード》。普通に見たらただの宝石だが、その内には莫大な魔力が内包されており、下手に触れようものなら、魔力の素養がない人物が持っても些細なことで発動。発動者の願望を歪んだかたちで実現。それも、そのほとんどが暴走する結果を招く代物らしい。
ユーノ
「だから、見つけたらすぐに封印しなくちゃいけないんだ。きみの持っているそれも、すぐに封印の処理をしなくちゃ」
一夏
「悪いが、こっちも事情があって渡すわけにはいかない。その代わり、俺の知っている情報を話すからさ」
【ユーノ】に一旦【アリシア】の残滓を見せ、【ユン】老師から教えてもらった残滓のことを話す。
ユーノ
「なるほど、持ち主のココロの一部を取り込み、チカラを増幅させる。そして、【一夏】の持っていた《ジュエルシード》には、きみの追っている人物のココロの一部が封じられていると。でも驚いた、これを見る限り、封印されてないにも関わらずチカラが安定している。これなら暴走する危険性は無さそうだね。はいこれ、返すよ」
一夏
「わかってくれたようで何よりだ。サンキュー」
【ユーノ】はすぐにこちらの話を信じてくれた。思ったが、すんなり俺に返してくれたことといい、【ユーノ】は責任感は強いが、純粋に人を信じやすいところがある。だから、今回の《ジュエルシード》捜索だって、体良く押し付けられたといったところだろうな。
一夏
「さて、【ユーノ】」
ユーノ
「なんだい、【一夏】?」
一夏
「お前のその《ジュエルシード》捜索、俺にも手伝わせてくれないか?」
ユーノ
「え?そんな、これは僕がやるべきことで、関係の無いきみを巻き込むなんて……」
一夏
「お前をこのまま放っておくと、むしろ俺の方が目覚めが悪くなる。
ま、探す物は同じみたいだし、手を貸すよ」
こいつの性格じゃ、仮に《ジュエルシード》を全て集めきれたとして、その先方に引き渡した途端、向こうに手柄を丸々横取りされる可能性だってある。悪ければ、気づかないうちに犯罪の片棒を担がされるかもしれない。さらに悪ければ、今回の件の全責任を背負わされた挙句、口封じとか……
ユーノ
「ありがとう、きみが協力してくれるなら、とっても心強いよ、【一夏】」
一夏
「こっちこそ、しばらくの間よろしくな」
お互いに硬く握手を交わす。
一夏
「そういえば、さっき【ユーノ】が使ってた、あの赤い宝石みたいなのって、あれってデバイスなのか?」
ユーノ
「うん。まぁ、使えてるってだけで、使いこなしているとはいえないけどね」
一夏
「それでも、俺としては羨ましいけどな。俺には魔力の素養もないから使えもしないけど」
ユーノ
「え?何言ってんのさ。【一夏】にも魔力があるじゃないか。それに、きみが腕につけている物だってデバイスだよ」
一夏
「は?なに言ってんだよ。俺に魔力があるだって?こっちはいままでそんなものとは無縁だったんだぞ。まぁ、
いきなり【ユーノ】にそう言われ、俺自身が一番驚く。
それに、俺が腕につけているブレスレットがデバイスだと。
【ユーノ】にブレスレットを見せながら、これを得た経緯を思い出す。これは俺が【プレシア】さんから保護された時に、俺が知らないうちに最初から持っていたものらしく、その後はお守り代わりにつけていただけだ。
ユーノ
「うーん、でも、魔力に関してはすぐにわかるよ。試しに《リンカーコア》を見せて。イメージはそうだな、自分の中心にちからを集める感じかな」
一夏
「いきなりそう言われてもな。さっきも言ったように、魔法なんか無縁だったからいきなり言われてできるもんでも……現に、なかなか集まらないぞ。なんつぅか、所々塞き止められているような感じだな」
ユーノ
「ははは、まぁ、最初のうちはそんなものさ」
【ユーノ】は軽く言うが本当に難しい。しかし、【ユーノ】の言った通りに、ちからを真ん中に集めるイメージをすると、俺の胸の中心に白銀色の光が浮かび上がる。
一夏
「嘘だろ。まさか、本当に俺に魔力が……」
ユーノ
「うん。魔力総量を見る限り、【一夏】の魔力量は大体、一般魔導士の平均より少し上ってくらいだね。デバイスが使えればいいんだけど、これに関しては起動しようにも残念ながらこちらからの反応がない。詳しい専門家に見せないとわからないな」
デバイスに関してはすぐに使えることはできないようだ。その後、【ユーノ】からいくつか魔法を教えてもらうことができた。いくつか失敗したものもあったが……
???
(ヴォオオオオオー!!)
一夏
「なんだ⁉︎」
突然異様な気配を感じると、獣のような唸り声が周囲に響き渡る。
ユーノ
「まさか、これは!」
【ユーノ】は声の主の正体に気づき、すぐに結界魔法を発動。
ユーノ
「【一夏】、構えて。来るよ!」
一夏
「おう!」
俺は太刀を抜き、気配がした方に身構える。
すると、周囲の木々をなぎ倒しながら現れたのは、なまじ生物を模したような、不気味に光る赤い目。手足の無い身体からは触手を蠢かせている、黒いどろどろとした塊。
一夏
「なんだよ、アレ?」
ユーノ
「気をつけて、アレは暴走した《ジュエルシード》から現れた思念体だよ。アレは倒すには魔力を通した攻撃で封印するしか方法はない」
一夏
「簡単に言うが、そう簡単に封印されてくれるたまじゃないだろ?」
物理攻撃は効かず封印するしか方法がないらしいが、向こうは完全に俺たちを獲物として捉えているようで、簡単にいかないだろう。
ユーノ
「ところで【一夏】、実戦経験は?」
一夏
「こういった実戦はこれが初めてだ。けど、不思議と恐怖は感じない」
あの師匠との死闘を経験したからか、思い出せば、技を教えてもらうことはなく、老師の技を何千、何万発もくらって、身体に直接覚え込まされた。
おかげで、《八葉一刀流》を体得することができたが。
それと同時に……
一夏
「生半可なことじゃ倒れない打たれ強さと、簡単に折れないくらいの図太い精神は、嫌でも付いた!」
戦う覚悟は充分。やるしかないなら、全力でやるだけだ。
思念体
(ヴォオオオオオオー!)
先に仕掛けてきたのは、思念体。その巨体をバネのように、上から2人を飲み込まんと口を開けながら飛びかかる。
一夏
「ハァッ!」
【一夏】と【ユーノ】は左右に避けると、【一夏】は太刀を一閃。思念体は避ける暇なく身体を前後を両断される。
ユーノ
「まだだ!」
が、【ユーノ】が叫ぶ。瞬間に両断された思念体は何事もなかったかのように、【一夏】に向かって触手を伸ばす。
一夏
「チィ!キリがないな」
ユーノ
「危ない!」
【一夏】も触手を斬り払うが、思念体の触手も斬った先から次々と回復していく。
【ユーノ】もまた、【一夏】へと届きそうな攻撃を防御魔法等で援護をする。
一夏
「サンキュ、【ユーノ】」
ユーノ
「ダメだ!普通の攻撃じゃすぐに回復する。
一夏
「わかってる・・よっ!でも、コイツ執拗に俺ばかり狙ってないか?」
太刀で斬っているが、魔力上手く操りきれていない攻撃では、斬った先から回復していく。【ユーノ】も魔法で攻撃を仕掛けているが、思念体は一切目もくれることなく、【一夏】にだけ攻撃を仕掛けている。
ユーノ
「おそらく、【一夏】の持ってる《ジュエルシード》の魔力に惹かれているんだと思う」
一夏
「くそっ、俺はネギを背負った鴨かよ」
思念体が狙っているのは、普通の《ジュエルシード》よりも純度の高い魔力を有しているらしい、【一夏】の持つ【アリシア】の残滓。
思念体もその魔力を嗅ぎつけ、【一夏】達を発見したのだ。
まさに、好物を目の前に置かれた猛獣のように、思念体は【一夏】だけを襲う。
2人とも思念体に遅れをとっているわけではないが、つい先ほど自分に魔力があるとわかったばかりで、魔法をまともに操れない【一夏】。魔法を使いこなすことはできるが、決定的な攻撃力を持たない【ユーノ】。このままじゃジリ貧となってしまう。
ましてや、現在【一夏】と【ユーノ】がいる場所は山の中とはいえ麓近く。もしここで2人ともやられてしまえば、思念体は町にまで降りていきかねない。
一夏
「【ユーノ】、上の方まで場所を変えるぞ!援護頼む!」
ユーノ
「わかった!」
2人は思念体を引きつけながら、山の中を木々の間を縫いながら駆け上がる。思念体も周囲のものをなぎ倒しながら、【一夏】を見失うまいと追いかけていく。
途中で逸れたのか、【一夏】1人がたどり着いたのは崖の間に架けられた吊橋。そう簡単に落ちるような作りではないが、人が1人通れるくらいの幅だ。
【一夏】はその橋を渡っていく。が、橋の中間に差し掛かったところで、思念体は上から身体を伸ばし、【一夏】の前に回り込む。
思念体
(ヴォルル♪)
思念体は獲物を追い詰めたと、現すように唸り声をあげる。
しかし、
一夏
「ここなら……」
【一夏】の目に諦めの色は浮かんでいない。
一夏
「【ユーノ】、いまだ!」
ユーノ
「任せて!」
橋の入り口から、遅れて【ユーノ】が現れ、思念体を結界で閉じ込める。
思念体
(ヴォオオ⁉︎ヴォオオオオオ!)
ユーノ
「グゥウ……【一夏】、急いで!」
突然のことに、思念体は結界を破ろうと、雄叫びをあげながら体当たりを繰り返す。
【ユーノ】も堪えながら結界を貼り続ける。
一夏
「《八葉一刀流・四の型・紅葉切り》!」
【ユーノ】は同時に結界を解除すると、【一夏】は太刀を鞘に納め、居合の構えから思念体とすれ違いざまに抜刀。渾身の魔力を込め、連続斬りを放つ。思念体は切り刻まれ、その中心に青く輝く石、《ジュエルシード》が現れる。
一夏
「いまだ【ユーノ】、封印を!」
ユーノ
「わかった。《ジュエルシード》封印!」
【ユーノ】がデバイスを《ジュエルシード》の前に翳しすと石は吸い込まれる。無事《ジュエルシード》を封印することができた。
一夏
「おつかれ、【ユーノ】」
ユーノ
「そっちこそ」
【一夏】は太刀を鞘に納め、【ユーノ】と合流しようと橋を渡る。
戦闘が無事終了したと、【一夏】は完全に気を抜いていた。
その瞬間、闇の中から触手が【一夏】へと伸び、彼の武器を叩き落とすと、その身体を雁字搦めにされる。
一夏
「なんだこいつ⁉︎」
ユーノ
「そんな、まだ生き残りが⁉︎いや違う、《ジュエルシード》の反応がない⁉︎」
先ほど相手をしていた思念体と同種。しかし、その身体は先ほどのものよりも一回り小さく、今にも崩れ落ちそうなほど不安定なものだ。【ユーノ】が反応を探るが、肝心の《ジュエルシード》が見当たらない。
一夏
「まさかこいつ、さっき切った……」
ユーノ
「そんな、《ジュエルシード》は取り除いたはずなのに⁉︎」
その思念体は【一夏】が最初に両断した半身だと予想。【ユーノ】は信じられない様子だが、あの時思念体は【一夏】に両断された瞬間、その半身をそのまま潜ませ、【一夏】の《ジュエルシード》を奪う機会を伺っていたのだ。
思念体
(ヴォオオ……オオオオオ)
思念体の半身は必死に【一夏】に触手を伸ばし、締め付けていく。
一夏
「グワァアァ!締め付けが……」
ユーノ
「まさか、直接【一夏】の持つ石からチカラを⁉︎」
思念体は【一夏】に直に取りつき、彼の持つ【アリシア】の残滓の《ジュエルシード》から魔力を吸収しチカラを強めているのだ。
一夏
「ガァアアア!」
ユーノ
「コノォ!【一夏】を離せ!」
【ユーノ】は【一夏】を助けようとするが、思念体は触手一本で払い飛ばす。
ユーノ
「アグッ!」
一夏
「【ユーノ】……無茶・・するな……」
触手が身体に巻き付いた状態ながらも【ユーノ】を気遣うが、触手はどんどん身体を覆い、締め付けは強くなっていく。
一夏
「コノォ、このまま・・・奪われて・・たまるか……」
武器もなく、身動き一つ取れない状態で、【一夏】は今取れる行動を考え、唯一動く足で橋の欄干まで走っていき、自らその身を投げ出す。
思念体にむざむざ【アリシア】の残滓を奪われるくらいなら、思念体もろとも橋の下へと落ちようと考えたのだ。
落下の衝撃で思念体の拘束が緩んだが、このまま自由落下していく。
ユーノ
「【一夏】⁉︎」
【一夏】がとった突然の行動に、【ユーノ】は慌てて駆け出し、半身を乗り出し、【一夏】の手を掴む。
なんとか引き上げようと試みるが、【ユーノ】の力ではこれ以上上がることはできない。
加えて、いまだに【一夏】の身体を思念体が纏わりついているため、徐々に【ユーノ】も橋の外へと滑り出していく。
このままいけば、【ユーノ】も橋の下へ落ちてしまう。
一夏
「【ユーノ】……」
すると、【一夏】が徐に【ユーノ】の名を呼ぶ。その表情は、ただただ【ユーノ】に対し、申し訳なさそうにしていた。
一夏
「ごめんな。協力するって言っておきながら、こんなかたちで途中で止めちまって……」
ユーノ
「なにを・・言って……」
そして、【一夏】は躊躇することなく、【ユーノ】から手を離す。【ユーノ】だけで【一夏】のことを支えていられるわけもなく、【一夏】の手は【ユーノ】から滑り落ちる。
ユーノ
「!!!?」
【ユーノ】は再び手を伸ばし掴もうとするが、その手は虚しく空を切る。
【一夏】の姿はそのまま暗く広がる谷底へと消えていく。
ユーノ
「【一夏】ーーーーー!」
必死で彼の名を呼ぶが、返ってくるはずもなく、谷底に溶けるだけだった。
〜〜ユーノ視点〜〜
どうしてこうなったんだ。
僕がアレを地球に運んできてしまったからか。
どうして彼がこんな目にあったんだ。
彼は僕に協力してくれると、手を差し伸べてくれただけなのに。
どうしてこんな結果になったんだ。
ユーノ
「僕が・・・巻き込んでしまったから……」
彼の言葉に甘えてしまい、僕が彼を巻き込んだから。
こうなってしまったのも、すべて僕が招いてしまった結果だ。
彼は今回のことに全く関係なかった。ただ彼は
ユーノ
「まだだ!すぐに追いかければ、まだ間に合うかもしれない!」
一縷の希望を願って、彼のもとへ追いかけようと身体を動かす。
ユーノ
「あ・・れ?身体・・・が・・・」
魔力が底をついた所為か、自分の意思とは裏腹に、身体に力が入らず、崩れ落ちる。
ユーノ
「そんな……追いかけなくちゃ……僕の・・・友・・達・・・を……」
そのまま地面に倒れ込み、意識は闇に沈んでいく。
その夜、とある町では
???
「……んー……なんか……変な夢……」
謎の夢で目を覚ます少女がいた。
物語が動き出す。
To be continude
またある場所では……
???
「ふふふ……ようやくだ。ようやく俺の舞台が幕を開けるぞ!アーーハッハッハッ!」
馬鹿のような高笑いを上げている者がいたとか。
次回予告
チカラを失い、なお己の使命を全うしようとするなか、そこに再び現れる、力を持つ少女。
再び関係のない者を巻き込むことになることに苦悩する少年。
次回リリカル・ストラトス第6話
『チカラを持つ少女』
◎この物語の解説
・《ジュエルシード》と【アリシア】の残滓の違い
形状は同じだが、普通の《ジュエルシード》よりも純度の高いエネルギーを秘めている。
色合いが【一夏】の持っていた物は藤色。
内包されているココロの記憶は悲しみに関するもの。