L・s(リリカル・ストラトス)   作:ハッピー野郎

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母親のためにその身を粉にして働く少女。
手放したはずのもの。
手元に戻ったそれは以前と変わりないものか。


第8話『かつて手放したもの』

 窓からなにもない異様な空間だけが広がる《時の庭園》。その閑散とした廊下を女性が1人カートを押しながら進む。

そして、ある部屋の前に着き中に入る。その部屋だけ窓の外から日の光がさす。そこから鳥や風に揺れる草花が見えるが、どこか映像としか思えないような一定の動きしかしない。その中央に薄いカーテンに仕切られたベッドが置かれている。

 カーテンの隙間から、誰かが眠っているようだ。女性はカーテンを開くと、女性は愛おしそうに人物の頬に手を添えていた。

 

➖数日前・地球➖

 

???

「ここが《地球》……」

 

 そう言いながら夜の森に1人の女性、【リニス】が降り立つ。

 

リニス

「ここに《ジュエルシード》が。とりあえず、"あの子達"が活動しやすいように生活拠点の確保と、あとは……」

 

 彼女が《地球》に来た目的は、《ジュエルシード》を集めるための下準備のために先行してやって来ていた。そして、もう一つの目的が……

 

➖《時の庭園》➖

 

リニス

「《ジュエルシード》の所在がわかったんですか、【プレシア】」

 

プレシア

「ええ。場所は第97管理外世界《地球》よ。まさか、こんな形で行くことになるとは思わなかったけど……

 

 私の主である【プレシア】は、自分の目的のために探していた《ジュエルシード》の所在がわかったことを喜んでいたが、どこか悲しげな表情をしていた。

 

プレシア

「《ジュエルシード》の居場所がわかった以上、"アレ"が使い物になるように早急に仕上げなさい。まぁ、《地球》で最低限の生活ができる拠点くらいは整えておきなさい。その後は、私の前から消えるなり好きにしなさい」

 

リニス

「わかりました……」

 

 "あの子"のことをアレ呼ばわりとは。反論したい反面、彼女の使い魔である自分と【プレシア】との精神リンクで彼女の心情を理解しているぶんその言葉を呑み込む。

 あの子の向こうでの生活環境を整えるのは、少ない彼女なりのあの子への情からだと思いたい。

 

プレシア

「それと、この場所の【織斑】という人間に会って来なさい。向こうが求めるなら私が直接出向くのも厭わないわ」

 

リニス

「いいのですか?あまりそこの人間と関わるのは得策ではないかと。そもそも、この人物と【プレシア】との関係は?」

 

プレシア

「余計な詮索はやめなさい。少なくとも、あなたが知る必要がないことよ。(少なくとも、"あの子"の身内には私からあの子の最期を伝える義務があるのだから……)」

 

 そう話す【プレシア】の顔はやはり悲痛なものだった。

 

➖《海鳴市・森》➖

 

リニス

「この【織斑】という人間と【プレシア】の関係は一体?ッ!魔力反応⁉︎そんな、《地球》には魔導師はいないはず」

 

 【プレシア】からの命令を確認していたところ、突然感じた魔力に、自分以外に《ジュエルシード》を狙う魔導師が現れたと思い周囲を警戒する。

しかし、いつまで経っても襲ってくる気配を感じない。

 

リニス

「ん?あれは……」

 

 すると川上の方からなにかが流れてきている。それはそのまま川岸に引っかかったので、そこへ向かう。そこにいたのは、男の子。

 

男の子

「ウッ!うぅ……」

 

リニス

「この子魔力が。それにこの傷すぐに治療しないと!」

 

 彼からは微かに魔力を感じる。それに先ほどまでなにかと戦っていたと思える傷がひどく目立つ。辛うじて生きているが予断を許さない状態に変わりないため、すぐに【プレシア】へと通信をつなぐ。

 

リニス

「【プレシア】聞こえますか⁉︎こちら【リニス】です!」

 

プレシア

『騒がしいわね。どうしたの【リニス】?わたしの言いつけは済んだの?』

 

リニス

「いえ、それはまだ。ですが、到着した場所で負傷者の少年を発見しました。見たところ魔導師のようで、すぐに処置をしないと危険な状態です」

 

プレシア

『はぁ…【リニス】、私を失望させないでちょうだい。私達にそんなことに構っている余裕があるはずないでしょ?いいから、さっさと私の言った用事を済ませて来なさい』

 

リニス

「クッ!それは、この子を見捨てろってことですか……」

 

プレシア

『私の使い魔らしくわかっているじゃない。ましてや幼いとはいえ魔導師なんて、もし《管理局》に属する人間だったらこちらの目的を知られる危険もあるのよ』

 

 【プレシア】の言いたいことはわかる。彼女の残された時間が少ないとはいえ、ここまで非情になるなんて。

しかし私は、彼女の命令に従ってこのままこの少年を見捨てることが正しいとは思えない。

 

プレシア

『ちょっと待ちなさい。その少年の顔を私の方に見せなさい』

 

リニス

「は?わかりました」

 

 倒れた少年が【プレシア】に見えるように画面を向ける。

 

プレシア

『・・・気が変わったわ。すぐに《時の庭園》に戻ってきなさい。そこの少年も一緒に連れてね』

 

リニス

「え?ですが今……」

 

プレシア

『同じことを言わせないで。さっさとその少年と一緒に戻ってきなさい』

 

リニス

「わかりました」

 

 最初見捨てろと言っていた【プレシア】がこの少年を見た途端、態度を変えるなんて。彼女が一体この少年になにを見たのかわからないが、今は彼を連れて行くのが先決。

 

 【リニス】は少年を抱えると、《時の庭園》への座標を開き転移していくのだった。

➖《時の庭園》➖

 

プレシア

「どうしてあの子が《地球》に?いえ、それよりもあの子はとうの昔に私の前からいなくなったのに」

 

 当時と変わらない姿であるけど、見間違えるはずがない。

 

プレシア

「生きててくれた……ああ"【一夏】"……」

 

 【リニス】が《地球》で保護した少年は、あれは間違いなく、【アリシア】と一緒に事故に巻き込まれて私の前から消えてしまった【織斑 一夏】だったのだ。

 【プレシア】が《時の庭園》に【一夏】を保護してからしばらく経ち。

 

???

「おーい!【フェイト】ーー!」

 

フェイト

「どうしたの?【アルフ】?」

 

 金髪の少女【フェイト】に、彼女の使い魔の【アルフ】が呼ぶ。

 

アルフ

「ねえねえ、あたし達が今度行く世界が決まったんだって?」

 

フェイト

「うん、ついに母さんの探していた《ジュエルシード》が見つかったんだ。場所は《地球》って世界らしいよ」

 

アルフ

「それはいいとしてさ、どうしてあの女(【プレシア】)はそんなものを欲しがっているんだい?」

 

フェイト

「わからない。けど、母さんが必要だって言うなら、わたしはそれに従うだけだから」

 

アルフ

「【フェイト】……」

 

 【プレシア】の命令に従うためだけに、感情の無いような話方をする【フェイト】に【アルフ】は複雑な表情を浮かべる。

 

アルフ

「そういえば、【リニス】が向こうでのあたし達の拠点を確保してくれたみたいだけど、こっちに戻ってきてからこっちに顔見せないね」

 

フェイト

「うん。なんでも母さんの指示でなにかしてるみたいだよ」

 

アルフ

「そっかー……って噂をすれば、あそこにいるのって【リニス】じゃないかい?」

 

フェイト

「うん、そうだね。あの部屋から出てきたみたい」

 

 用事を済ませた後らしく、カートを押しながら【リニス】がこちらに気付くことなく部屋から出てそのまま向こうに行ってしまう。

 

フェイト

「この部屋ってたしか母さんが入るなって言ってた……」

 

アルフ

「でも、鍵は掛かって無いみたいだ。ちょっと入ってみようか?」

 

フェイト

「え⁉︎ちょ、ちょっと【アルフ】!勝手に入っちゃ……」

 

 鍵が掛かっていないことをいいことに、【アルフ】は部屋の中に入って行ってしまう。その後を【フェイト】も追いかけて行く。

 

アルフ

「は〜ずいぶんとのどかな部屋にしてあるね」

 

フェイト

「うん。あれ、あそこにあるベッドって……」

 

 部屋の中に入ってすぐ、部屋の雰囲気もそうだが、真ん中に置かれたベッドが目についた。

そのままベッドの方へ行き、カーテンを開ける。

 

フェイト

「え?男の子?」

 

アルフ

「どうしてこんなところで寝てるんだろうね?」

 

 そこにいたのは、見慣れない男の子がベッドで眠っていた。【リニス】は母さんの指示でこの男の子の世話をしていたらしい。

 

フェイト

「それにしても、この男の子……」

 

 この男の子を見ているとなにか懐かしいような気持ちを感じてしまい気づいたらその男の子に触れてしまったいた。

 

アルフ

「【フェイト】?」

 

フェイト

「ハッ!【アルフ】そろそろ行こう。ここにいたら母さんに怒られちゃう」

 

 そもそもこの部屋には入っちゃいけないって母さんから言われていたのに、勝手に入ってしまったのはわたし達だ。

 

フェイト

「・・・え⁉︎」

 

 部屋を出て行こうとした後ろを向いた瞬間、わたしの手が突然掴まれた。

振り向くと、さっきの男の子の手がわたしの腕を掴んでいたのだ。

 

男の子

「きみ・・は……」

 

 すると眠っていたはずの男の子が、ゆっくりと目を覚ましていた。

 

 ここはどこだ?どうして俺はここにいる?

自分の周りに広がるのは、果てしなく何もない空間ばかり。

 

 俺はなんでここにいるのかわからない。そもそも俺は……

 

突然気配を感じた。気配の感じた方を向くと、そこにいたのは女の子。

しかし、顔はノイズが掛かっているように見えない。なのに……

 

 どうして、そんなかなしそうにしてるんだ?

 

そして、女の子はかなしそうな表情のまま俺から離れて行く。

 

 待ってくれ!

 

俺は女の子に向かって手を伸ばす。俺がその子の手を掴んだ時、その女の子はおらず、そこにいたのは見知らない金髪の女の子がいたのだ。

 

一夏

「きみ・・は……」

 

 "俺はその子のことをまったく知らない"はずなのに、どこか懐かしさを感じていた。

 突然目を覚ました【一夏】と、いきなり彼に掴まれ動けない【フェイト】。互いに呆けたままでいると、物音を聞きつけた【リニス】が戻ってきた。

 

リニス

「【フェイト】、【アルフ】!ここには入ってはいけないと【プレシア】から……」

 

フェイト

「ごめんなさい、【リニス】。でも、この子が……」

 

 【フェイト】が【一夏】の方を指す。【リニス】も目覚めた【一夏】を見て驚きを露わにする。

 

リニス

「あなたは……⁉︎【フェイト】、あなた達はすぐにこの部屋から出て行きなさい!【プレシア】に見つかればなにをされるかわかりません。早く!」

 

フェイト

「わかった。行こう、【アルフ】」

 

 【リニス】に促され、【フェイト】達は部屋を後にした。

その後、【リニス】から【一夏】が目覚めたと知らせを受け、【プレシア】が部屋に駆け込む。

 

プレシア

「【一夏】、よかった目が覚めたのね!私のことわかる?」

 

リニス

「【プレシア】、彼は目覚めたばかりです。あまり激しく動かすのは……」

 

 【プレシア】からの問い掛けに【一夏】はいまだに呆けたまま、ゆっくりと彼女へと顔を動かす。そして、一言。

 

一夏

あなたは誰ですか?(・・・・・・・・・)

 

プレシア

「へ?」

 

 目覚めた【一夏】は、【プレシア】のことを知らない様子で答えたのだ。

 

プレシア

「な、なにを言ってるの?【プレシア】よ⁉︎あなたと【アリシア】と【リニス】、一緒に暮らしていたでしょ?覚えてないの?」

 

一夏

「わからない。なにも覚えてないんだ」

 

リニス

「もしや、あなた記憶を……」

 

 【一夏】の様子から、【リニス】は彼を保護した時の状態を鑑みて、【一夏】が自分達の記憶を失っていると考えつく。

 

プレシア

「・・・・・・」

 

リニス

「【プレシア】?」

 

 そして、【プレシア】は黙って部屋から出て行った。

プレシア

「ふ、ふふふふ……」

 

 実の娘の【アリシア】を失い、生み出したアレは見た目こそあの子と同じでも、中身は別物。息子のように思い始めていた【一夏】は生きて戻って来ても、私のことをなにもかも忘れてしまっていた。

そして、私の身体も……

これは、子供達から逃げ続けていた私が背負う罪だとでも言うの?

 

プレシア

「なら背負ってやるわ!《ジュエルシード》を全て集め、《アルハザード》への道を開いてみせる!そして私は今度こそ全てを取り戻してみせる!ハハハハハッ!」

 

 壊れたような【プレシア】の笑い声が廊下に響き渡るのだった。

一夏

「【プレシア】さまからの命であなた方の世話役を仰せつかりました、【ソウル】とお呼びください」

 

フェイト

「え?母さんから?」

 

アルフ

「フンッ!あの女からのって時点で、あたしは信用できないけどね!」

 

 【フェイト】達が《地球》での拠点にしているマンションで、記憶を失った【一夏】、もとい【ソウル】と【フェイト】、【アルフ】との顔合わせ。

しかし、【フェイト】はいきなり自分の世話役だと言う【ソウル】に困惑。【アルフ】は【プレシア】からの手の者ということに警戒心剥き出し。

 

フェイト

「そもそも、きみと母さんとの関係って?」

 

ソウル

「申し訳ございません。自分は、事故によりここに来る以前の記憶を失っており、運良く【プレシア】さまに保護をしていただいたということしかわからなくて。それに、向こうと連絡を取りやすくするためということで、あの方の使い魔の【リニス】を譲り受け、契約を交わさせていただいてます」

 

フェイト

「そっか。きみも大変だね」

 

アルフ

「うーん。【リニス】がすんなり契約を結んだってんなら、少なくとも信頼してもいいのかねぇ」

 

 2人は【ソウル】の話を信じ、警戒を緩めてくれる。

 

フェイト

「じゃあ早速、《ジュエルシード》を探しに行こうか?」

 

ソウル

「お待ちください。今日はもう遅いうえ、まだお食事も済んでいない様子。すぐに支度をしますからお待ちを」

 

フェイト

「必要ないよ。そんなことをしている暇があるなら、1つでも多く《ジュエルシード》を見つけないと」

 

ソウル

「そんなこと・・だと?」

 

 【フェイト】の言葉に【ソウル】のまとう雰囲気が変わった。

 

ソウル

「食事とはその人が活動するために必要なエネルギーの源。ましてや【フェイト】、あなたは【プレシア】さまから大役を仰せつかった身だろうが!そんなことでまともに役目を果たすことができると思うな!」

 

フェイト

「は、はい……」

 

ソウル

「そして【アルフ】、それはなんだ?」

 

アルフ

「な、なにってドッグフード……」

 

 【ソウル】は【アルフ】の後ろに置かれた、彼女が大量に買い込んだであろうドッグフードの山を睨みつける。

 

ソウル

「使い魔といえど、お前今の姿を考えろ!元が狼だからって人の姿でも犬の餌ばかり食ってんじゃねえ!」

 

アルフ

「ひぃぃ!ご、ごめんなさい!」

 

 先ほどまでのかしこまった態度から一変。【ソウル】の雰囲気に完全に呑まれ、大人しくなる【フェイト】と【アルフ】。

 

ソウル

「いいか、俺の目の黒いうちは1日3食50品目、しっかりと取ってもらうからな。復唱!」

 

フェイト

「い、1日3食50品目……

 

ソウル

「声が小さい!」

 

 【ソウル】の作った食事を取った【フェイト】と【アルフ】は、《ジュエルシード》の探索に入り、早速一個発見することができ、幸先の良いスタートを切るのだった。

その際、2人が【ソウル】の料理の虜になったのはまた別の話。

 

To be continude




《ジュエルシード》を求める少女達。
かつて背中合わせで戦った2人は対立する。

次回
『邂逅する2人立ちはだかる友』

※リリカルなのは原作との相違点
○【リニス】が消滅せず【ソウル(一夏)】と契約しています。
○【ソウル】が【フェイト】と【プレシア】との間を取り持っているため、【プレシア】の【フェイト】への当たりは少し軟化予定。
○物語の最後に獲得した《ジュエルシード》は、サッカーカップルが発動させた物の設定です。(※【なのは】がすでに魔導師として戦う覚悟を持っているのもあり)

 ど〜も〜ハッピー野郎で〜す。毎度更新遅くなって申し訳ございません。
 早々に【フェイト】と一緒にいた人物が登場しました。はい、この作品の主人公です。わかっていた方もいたと思いますよね(笑)
記憶を失った【一夏】の偽名は、単純に声優ネタと【フェイト】が鎌使いというところからでした。
pixivの方も同時に更新していきますのでよろしくお願いします。
読み辛い箇所があればぜひお知らせください。
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