「大星」という苗字は、大概出席番号が一桁後半になる。ア行の姓を持った人間は比較的多い。よって、その席は2列目の前の方、ということになる。
今の三行は、『私と大星の席が隣同士』という事実を解説しただけである。読み飛ばしてもらっても構わない。
「…いや、流石に名前ぐらい知ってるさ。大星淡。」
「あっそりゃそうだよねー」
「…それで?こんな、受験シーズン間近に迫ったこの時期に、何で貴女は私を麻雀部に誘ったんだ?大体、大会だって、もう終わったろ。」
大会、というものにあまり興味を感じなかった私だったが、正門側の校舎の壁に麻雀部の〇〇優勝おめでとう!!(前述の通り、私は興味がなかったので完全なるうろ覚えだ)とデカデカと横断幕が掲げられていると、大会が終わったことぐらい察しがついた。
「いやー、それがねぇ!麻雀を教える楽しみを知ったの!」
「……そうか。確かに、後輩に指導するのは良いことだと思うが、部活ってのは同級生と切磋琢磨して実力を高めるモンじゃないのか?私なんぞに構わず、部活に行けよ。」
「あー、そういうの無理なんだよねぇ」
「…?」
「
「…!?」
この世界には、麻雀を打つときに奇妙な力を発揮する人間が一定数存在する。ドラが集まる打ち手。東場が異様に強い打ち手。過去に、哲も、一索で待つと必ず上がれる打ち手と戦ったことがある。ちなみに、その時の卓では、哲は一索4枚を配牌時に集め、その打ち手が立直した直後に槓をして、上がり目を潰した。「私の鳥さんがぁ…」と半泣きになっていたので、申し訳ない気分になったことをよく覚えていた。
淡の話をしよう。
やはりと言うべきか、彼女も奇妙な力を持っていた。しかも、破格の強さだった。
配牌時の手が良いか悪いかによって麻雀(サマなし)で上がれるかどうかは大体決まってくる。その配牌を、彼女は操れた。
『絶対安全圏』。淡が名付けた名前だ。自身以外の配牌は全て必ず五向聴で始まるという厄介極まり無い能力。
分からない読者がいた場合は、ポーカーで必ず配られたときにブタしか引けない、と思ってくれれば分かるだろうか。
無論、そんなことをされてしまえばほぼ確実に上がらない。だが、この世には豪運の持ち主がいる。案外、五向聴など軽く超えてきてしまうかもしれない。だが、
淡が強いのは、その更に奥があるからだ。
彼女の二つ目の能力は『ダブリー出来る』という、彼女の脳筋っぷりが滲み出たものだった。これによって、どんな豪運の持ち主が相手でも本人は何もせずとも勝てる。
本当はもう少し先…「山が差し掛かった時にカンをすればカンドラがモロ乗りする」という物があるのだが、また後の話…。
これが大星淡が大星淡たる所以だった。
当然、それを毎日のように受け続けるチームメイトは堪ったものではない。自分の配牌はどこまでいっても進まないのに対し、大星はダブリーを軽く見せつけてくる。彼女のチームメイト達の牙は、もう既に折れるどころか、粉々になっていた。
大星淡がここまで大口を叩けたのは、これらが原因だった。
「だからね!勝負じゃなくて、教えを説くことにしてみたの!」
「…よし、良いだろう。放課後、麻雀部に行けばいいんだな?」
「よっし!ばっちこいだよ!」
哲からすれば、それは淡に自覚がないと分かっていても明らかな挑発に聞こえた。まだ、「私は強い」と言われたならおぉそうかと思うだけなのだが、「私に勝てるヤツはいない」と面から言われてしまった。だから、その尖った鼻を折りたくなる気持ちが沸々と湧き出てくるのを感じた。そして、何よりも…
_____コイツは、あの執念と熱意をぶつけ合ったドサ健とは違う、哀愁のような何かを感じる孤独感に包まれている。
『私』になって少し衰えてしまった勘が、そう訴えてきた。
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『私』は、基本的に不器用であった。6歳の頃、左手芸のコツを掴み直そうと練習したことがあったが、今でもその動きはぎこちない。ぶっこぬきだけでさえ、牌と牌のぶつかる音を立ててしまう。『私』には、あまり玄人としての才はないようだ。
だが、麻雀の神様は俺のことが嫌いではないらしい。他の強者が持っているように、私にも能力があったのだ。
『相手の能力が分かれば、その返し技を繰り出せる』…つまり、前述の事象を例とするならば、相手が一索で上がるのを得意とすれば、それを積み込みによって私の手配に4枚収める。だが、自動卓ではそれは出来ない。積み込み防止用の機械だから、当たり前だろう。
それを、私は可能にした。
大星淡の能力、『絶対安全圏』、『ダブリー』、『山に差しかった時にカンをすればカンドラがモロ乗りする』能力を東風、そして南3局までかかってようやく看破した。
「南四局、私の親だな。」
「…あ、うん。サイコロ早く振ってよ。」
どうやら、私が大見得切って挑みかかったのにこの時までヤキトリなのに対し、失望しているのだろう。待ってろ、目を覚まさせてやる。
自動卓特有の騒がしい音が鳴るなか、次の牌が下から出てくる。
『ダブリー』、そして『絶対安全圏』。どちらも強烈な能力だ。これに対抗するには…
______これが玄人の真骨頂…!
何処かで、房州さんの声が聞こえたような気がした。
「…ツモ。天和、四暗刻、緑一色。トリプル役満だ。これで勝負あったな。」
これは、淡の初めての、正真正銘の敗北だった。
弁明です。
哲ちゃんは玄人なんですが、咲の世界は自動卓が普及し過ぎてるのでどうしても能力として積み込みしてもらわないとキツイんですよね。淡々と天運使ってツモりまくるのもいいかもしれないんですけど、それなら小泉ジュンイチローに任せればいいかなーと。
やっぱり、哲ちゃんのカッコいい所は燕返しと2の2の天鳳だと思ってるので、こういった形になりました。
日間短編小説ランキング11位、ありがとうございます。