※ネタです。続きません。
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その辺に居るような中年太りのオッサン―――正確に言うなら、山賊のような風体の中年、ベアト。でっぷりと肥えた―――言い方を良くするならば、かなりふくよかな腹の脂肪を揺らしながら、彼は森の中を歩いていた。
森の中には人の気配はなかった。シンとした静寂に包まれ、柔らかな風が時折吹き抜ける。ベアトは丸いサングラスをかけ直し、木の下に腰を下ろした。その時に、教団から支給されたズボンから『プチッ』と不吉な音がして、ベアトの頬を汗が伝う。ズボンの、尻の部分が破れた。
―――何故だ!? 何故私はこんなハイスピードで肥えるのだ。
―――日々トレーニングをしていると言うのに、一体どういう事だ!?
表情は変わらないが、脳内で「どういう事だ、ありえん!」と叫ぶ。
「ふむ……まあ、こういう事もあるだろう。仕方ない……仕方ないのだ」
そう自分を納得させようとした時、脳裏に過る痩せ形のコムイの姿。
「ぬおおおおおおお!! 何故だぁあああ!」
動いても動いても一向に痩せない自分と、殆ど動いていないにも関わらず痩せているコムイ。体型の差は歴然。いくら足掻いても、ベアトはコムイの体型に近づくことすらできない。
「ふんぬッ!」
忘れようと木を思い切り殴り付け―――あまりの痛みに悶絶した。
×××
森を抜けた先には、それなりに栄えている街があった。煉瓦を敷き詰めた道を歩くベアトは、町並みを見回しながら前へと歩く。道化や絵師などが路上で自らの芸を披露している。それを見ている客達は、道化の帽子の中へ金を投げ入れ、絵師の絵を見ている物達は、気に入った物を見つけ買っていく。
「普通の街ではないか」
先程木を殴り付けた手をさすりながら、ベアトは呟く。何の変哲もない、つまらないと言っては失礼かもしれないが、何処にでもある普通の街。人々は笑顔で歩いて行く。異常な点は―――見られない。
―――イノセンスのある場所に奇怪アリ……奇怪が無いのでは話しにならん。
―――さて、どうしたものだろうか。
―――いいや、それ以前の問題だ。この街に奇怪が存在すると言うのか?
あまりに普通な光景にベアトは疑問を抱いた。彼が探しているのは“イノセンス”というモノ。別名神の結晶。それは、何を思ってか―――そもそも意思があるのかわからないが―――奇妙な現象を引き起こす。
「……ふむ」
考え、周りを見回すが、やはり平凡な街並みだ。奇怪は全く確認できない―――つまり仕事ができない。“エクソシスト”としてこの街に来たベアトは、どうしたものかとまた呟いた。
「―――あの中年男、やはりエクソシストか?」
「だろうな、あの胸のローズクロスは間違いなく黒の教団の物だ。……確か教皇の象徴だったか」
「そんな事どうでもいいわ! これが気付かれたら終わりよ。折角見つけたっていうのに、伯爵さまに渡せなくなってしまうわ」
「ああ、そうだな。伯爵さまに助けてもらえなければ、またこの街は廃れてしまう……絶望に打ちひしがれる者がまた増えてしまう」
「そうなっちゃヤバいな。気付かれないように―――隠しておこう。此処なら、誰にも気付かれない」
「そうね。此処は私達しか知らないもの……伯爵さまに渡す時に取りに来ればいいだけの話……」
「いいか? 二人とも、此処を悟らせるなよ。それから、この場所に我々以外を入れるな」
「ええ、わかってるわ」
「勿論!」
―――翌日。
「―――何もないではないか!?」
街をかけずり回り、博物館の地下室に入り、下水道を駆け回り、人の家に不法侵入してまで彼はイノセンスを―――或いは怪異を探していた。だが、収穫は全くなかった。強いて言うなら、ベアトのダイエットに協力したくらいの物だ。ぜぇぜぇと荒くなった息を整え、通称『動けるオッサン』ことベアトはまたも街を奔走する。
「やっぱり探してるのね……」
「奴らの仕事なんだろう? 当然のことだ」
「にしてもちょっとヤバいんじゃないか? あの男、中年のクセしてなんか妙に素早いぞ……」
「まあ、それは不気味だけど……それだけでしょう? きっと何もできない筈よ」
「どうだろうな。奴が探している物がもしも
「―――私達、どうなっちゃうの?」
「……わからない。わからないが、碌でもない事になるのは確かだな」
そう小声で話す彼らの前には、机に置かれた一つの箱。その箱の中には、微かに発光する黒く小さな立方体が入っている。
男二人、女一人の彼らは、箱の中身をじっと見つめていた。暗がりのなかの立方体は唯一の光源と言っても良い―――故に目立つ。
「むっ! 丁度いい、其処の君たちに問おう!!」
地面を揺らしながら、ついでに腹の贅肉も揺らしながら、盗賊面の男が走って来た。それに気付いた女が慌てて箱のふたを閉めようとするが、慌てていた所為もあってか手が滑り、机から転がった。微かに翡翠色の光を放つ小さな立方体は、駆け寄ってきた盗賊面の男の前で止まる。
「……む? これは―――」
「っ!!」
盗賊面の男が立方体を拾い上げようとした時、一人の男が彼に向って突進する。
「うむ、よきにはからえとはいうが―――何のつもりだ、青年よ」
「重っ……!!」
「……体重のことを言っているなら黙りたまえ、青年。これでも気にしているのだよ……」
突進を正面から受けた盗賊面の男はびくともしなかった。平然と立方体を拾い上げ、それを眺める。
「……ふむ、人の物を勝手に盗っておいて名乗らないとは私とした事が―――ベアト・アメルングという。趣味は運動、特技は反復横とびだ!」
「……黒の教団の人間ね?」
女がベアトに問い、鋭い視線を向けている。
「そうだ。ある任務があって此処に来ている」
「その任務って?」
「イノセンスという物の回収だ。良ければ、この立方体を譲ってもらいたい」
盗賊面に笑みを張り付けた彼は、目の前の三人に言う。ベアトに突進した青年は既に仲間の二人の傍に居た。
「そういうわけにはいかん……駄目だ、それは渡さない」
「生憎、私の仕事はこれの回収なのだ」
「知った事か」
「お前たちの事情も、私にとっては知った事ではない―――実に取るに足りん」
ベアトは鼻を鳴らした。
「それが無くなってしまっては、困る……。また、街を廃れさせるわけにはいかないのだ」
「この街がどうなろうと私には興味が無い」
ごそごそと黒いコートのポケットを漁っていたベアトが取り出したのは、小さな球体だった。面と言う面が黒いその球体が、更にどす黒い闇を作り出し―――三人を飲み込んだ。
「それでは諸君、良い夢を」
闇は球体に吸い込まれるようにして消えて行く。地面に横たわり、安らかな寝息を立てる三人に目をやったベアトは、軽く一礼した。
「すまなかった」
―――結局のところ、あの男女は何を恐れてこのイノセンスを保管していたのだろうか。街が廃れてしまうと言っていたが、これが無くなったところで街が廃れてしまう理由にはならない。金めぐりが悪くなる―――そんな現象をイノセンスが起こす訳が無い、それは人の経済の話であって、自然の理を乱すような超常現象ではない。ありえないのだ。イノセンスが起こせる現象にも限りがある。
ふむ、と思考を巡らせる。だが、一向に答えらしい答えが浮かばない。
「まあ、構わん」
別に街が一つなくなろうが、一体誰が困ると言うのだ―――早く教団に帰ってコムイに報告するとしよう。
「―――キミが行ってきた街なんだけどね……」
「む? どうしたと言うのだ?」
ベアトは任務を終了させ、既に教団に返ってきていた。司令室でコムイと向き合っている彼は、先程ツインテールの少女―――リナリー・リーに注いでもらったコーヒーに口をつける。
「AKUMAの集団に壊滅させられたらしい」
「……ふむ?」
あの男女が恐れていた事態はそれだったのだろうか。
「キミはその事について何か知っているかい?」
考えた。あの男女の事を言うべきか否か。
そして、口を開いた。
「いや、何も知らんなあ? まあイノセンスは回収できたんだ、それでいいじゃあないか」
続きません。
大事なことなので二回言います、続きません。