[習作]超科学級の落第生の補習記録   作:夜草

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禁書目録編 マジック

禁書目録編 マジック

 

 

 

ビル

 

 

「ねぇ、手っ取り早くお金を稼ぐ方法って何かなー?」

 

「さ、さあー……地道にコツコツ働くのが、一番じゃ、ないかな……?」

 

「うんうん。少なくても強盗するのはリスクに見合わないと思うよねー」

 

 女子生徒の質問に、後輩ができたばかりのまだまだ新米<警備員(アンチスキル)>は、顔をひきつらせながらも答えてくれた。

 ふんふん、と頷く女子生徒。

 ただし、

 

「な、ナメてんのかオマエら!?」

 

 立て篭もりの強盗犯に拳銃を頭に突き付けられて捕まっている状況下でそんな話をする余裕があるとは思わないが。

 

「よ、よみかわせんせ~い……!」

 

「く、来るなッ!! 近づいたら殺すぞ!!」

 

 ビルの二階から大声で聴こえてくる<警備員(ウチ)>のドジっぷりが広く喧伝しないことを切に願う73支部の<警備員>――黄泉川愛穂。

 何があったかは割愛するが、<警備員(ウチ)>の新米と<落第防止(スチューデントキーパー)>お付きの天然娘が強盗犯グループに捕まって、近くの建物に逃げられて立て籠られた……現状を説明すればこんな感じだ。

 

「私には構わず、生徒を!」

 

 自分よりも生徒の身を案じるのは殊勝な心掛けであると思うが、だったら捕まえられて、しかも犯人を挑発するような(陽動としてあえて気を惹こうとしていたのなら大した役者であるが、それはない)ドジは踏むなじゃん、とあとでどうこってり絞ってやろうと考えつつ、肩を軽く回す準備体操。

 調べたところ、中にいる仲間も含めて相手は4人。

 単独犯であれば、学生の人質がおまけになければ、支給されてる防具の盾でもブン投げて後輩の鉄装もろとも強盗犯を撃退してやりたいところではあるが、

 

 コツコツ、と耳に付けたイヤホンから何かを爪で叩く硬質な音。

 

「ようやく着いたじゃん」

 

 そう言って、同僚から“ボール”を要求する黄泉川(ピッチャー)

 

「ホントにやっちまうぞ!?」

 

「きゃー!?」

 

 観客(人質)が悲鳴を上げる中、ピッチャー振りかぶって……

 

 

「“お前ら”! 失敗は仕事で取り返すじゃん!!」

 

 

 投げた!! ―――同時、ランナー走った!

 

 

 

 現場に着いた途端、豆狸の円周が作業着を着た男に捕えられていながらもボケっとしていることに頭が痛くなった。その隣で豆狸のボケが連鎖してドジって捕まっている鉄装先輩を見て、申し訳なく頭を下げながら、表で犯人らと交渉するふりをして注意を逸らしてくれている黄泉川先輩へ通信機から合図(サイン)を送り、廊下から室内に潜り込んだ。―――同時に大きく振りかぶって投じられた黄泉川先輩の豪快なストレートが、犯人の顔面ど真ん中にデッドボール。

 

 ワンクッションを置いた発煙筒(ボール)が下に落ちるよりも早く突入、犯人の視界を塞いで、鉄装先輩の身柄を確保。鉄装先輩はのんきに『あ、コージおじちゃん』などと手を振る円周を連れて室内から離脱。そして煙に乗じて、残った立て篭もり犯たちの無力化・拘束する、単純な手はずだ。

 予定を冷徹に遂行すべく、一度だけ深く息吹を吐いて―――止めて目を瞑る。続いて窓から投げ込まれた黄泉川投手の第二球目の発煙筒が室内に転がる音。缶ジュース大の金属筒からもうもうと噴き上がった――ただし今度は目の痛くなる催涙ガス――白煙と慌てた男達の中心に、飛び込む。暴徒鎮圧用に支給されている催涙ガスが充満する中で身体ごと突っ込んで来られようと、誰もまともに視認できなかった。

 

「なんだこら!」

「誰だ、こいつぶちかますぞ」

「撃つなボケ!!」

 

 初球でデットボールを食らった主犯格(リーダー)の声が、若干涙交じりの鼻声で、煙に巻かれた光の届かない底を揺らした。足音の乱れから男達の体勢の崩れを読み取る。白濁した風を貫き爆発的な加速で踏み込む。3cm先も見通せない、どころか目を瞑っている状態でも、足音で標的の位置をはかれる。昔に何も視えない暗闇の洞窟で、どんな状況でも肉薄すれば必殺できるよう訓練されたのだ。

 まず、ひとりの男の心臓の真上に、全体重を乗せた肘を叩きこんだ。肋骨が折れた鈍いい感触と、肺から空気が押し出される笛のような音と同時に、主犯格は意識を失った。

 

「ボス!」

 

 その声で頭部の位置を確認し、二人目の襟首を掴み背負い投げに切って捨てる。

 

「殺すぞ、ガキ殺すぞ」

 

 三人目が最も弱い(と思われる)ものに飛びついたことに、この世界の恥部を見られたようで暗澹たる気分になった。豆狸な女子中学生のいた位置で待ち構えて卑劣な男を一打ちに仕留める。

 

「円周さん! 逃げて!」

 

 鉄装先輩の祈るような叫びと共に、白い煙幕に満たされた室内のドアが勢い良く開かれた。

 

「動くな、こいつら殺すぞ!!」

 

 四人目が怒声を上げ、こちらに背中を向けることになるのに拳銃を出口へ向けた。<警備員>にとって素手の殴り合いでは、柔道や空手の有段者もいる大人の犯罪組織のほうが、能力なんて常識外れな力を使う学生より注意を要する。だから冷酷と言える判断で確実な突入タイミングを待った。間合いの感覚を潰すため、立て篭もり犯の視界を催涙発煙筒で奪った。不意打ちとはいえ、彼らの自滅は情けないの一言に尽きた。

 予測通りに位置は把握している。振り向いて、こちらの接近に気付かれるより早く、腰の柄にお守りのストラップを付けた警棒を抜いて、

 

「―――」

 

 ゴンッ! と“空振った”。

 

 

 

「もう…いい…です…終わりました」

 

 足元に、意識を失った最後の四人目が崩れ落ちた。

 そして、吹き込んだ風に煙を拡散しながら室内の視界は晴れていった。

 女子生徒に抱きついて身を盾にする先輩女史は、大きく、大きく、安堵の溜息をついてぐったりと崩れた。

 が、しかし。

 

(これで…連れていくのが難しくなる)

 

 予想通り、この件が原因で、女子生徒の見回り同行はしばらくの間、厳禁となった。

 

 

棚川中学

 

 

「たーったたったたんったーっ」

 

 木原円周。

 同級生。出席番号10番。基本五十音順の席順だから、席は近くも遠くもない―――斜め前方、将棋の駒で言えば、桂馬なら一手で取れる位置。この席からは背中と、時々は横顔が見える。二つにまとめたお団子の髪、背は女子中学生には平均的で、ぎりぎり病的とはいえないラインで痩せている。きっちり制服を着こんでいる姿はこの一学期でついぞ見たことがなく、いつも適当に着崩しているが、ファッションというより単に窮屈を嫌っているだけのようだ。

 少なくともこれまではクラスには友達らしき友達がおらず、いつも一人か、副担がついてる。教室で寝ていることは少ないが、唐突何かに始めると態度にうるさい先生の授業であっても講義を無視して熱中してしまってる(その後、廊下で副担がぺこぺことその先生に怒られているのをよくみる)。休み時間には決まってふらふら~、と姿を消すことが変わっていると言えば変わっているもののおおむねのところ、単に独自の価値観と世界をもっている女生徒に見える。

 それはあながち間違いではなかった。なかったけれども、木原円周のややっこしさは、教室では見られない所にあると思う。

 

「たたたんったたーったたたらったんたーっ」

 

 学校のパソコン実習室。授業で利用される教室だが、放課後は自由に解放されている。学生証のIDとパスワードを入力すれば誰でも使えるのだ。

 プロのピアニストが演奏する指使い並の速さ。右左両隣のも含めて計三台のパソコンを同時で、何とも調子っぱずれな鼻歌だが、手はリズム良く高速でキーボードを打っていく。ブラインドタッチもまだまだな自分には出来ない芸当。

 確かルイコから初春もものすごい速さでキータッチできるって言ってたし、おっとり系は見かけによらず頭の回転が早い法則でもあると思う。

 時々、その一台に一機ずつに繋がった音楽プレーヤを操作しながら忙しなく並行で作業を進め、普段のありようがウソのよう。

 でも、“自分らのため”なのになにもせず、たったひとりで働かせているのは悪いと思ったのか、ちょっぴりぽっちゃり系のマコチンが、おずおずと、

 

「何か手伝おうか、木原さん」

 

「いいよー、私ひとりで大丈夫ー」

 

「じゃあ、さ、何か飲み物買ってこようか? 喉渇くっしょ」

 

「もうすぐ終わるから、平気ー」

 

 むーちゃんが肩をすくめて、こちらを見るが苦笑いを返す。

 一度、集中した彼女を止めるのは、先生にも無理である。指名されればあの数学の授業のようにトンデモナイ回答が飛び出すので、職員室では『教師泣かせ』と要注意人物に挙げられている。なので、反応を返してもらっただけでも、自分達には大きな進歩と言える。

 

「にしても、七宝先生。円周にパスワード教えてなかったなんて、意外とうっかりしてる」

 

 おかげで、アケミ、マコチン、むーちゃんの三人のIDとパスワードを使っている。

 

「うん。授業は、教科書を読むとき噛むことが多いけど、何か親しみやすいよね……顔は、ちょっと怖いけど」

 

「あれだけ目つきが鋭いから、最初はテロリストか殺し屋かと思っちゃったし」

 

 自分たちよりも付き合いが長いはずなのに、棚川中学で一番に木原円周に泣かされている副担。最初の一週間くらいは、その顔のせいで生徒たちから一部の先生にも避けられたりもしていたが、今では問題児に泣かされる可哀想な新人教師として同情票を集めている。

 

「でも、そんなに見かけ倒しじゃないよ。この前、不良をひとりで倒しちゃったんだし」

 

 あの一件。<警備員>の副担は、能力を使う<スキルアウト>らを捕まえた翌日に、学校の指導室でアケミを叱ったが、それは自分を見捨てて逃げてしまったことより、どうしてあんな物騒な輩がうろつくような路地に入ったんだというもので、逃げたことはむしろ褒められたりする。

 子供は大人に守られる権利があるんだから遠慮なんてするな、と少し心が軽くなった。

 円周との秘密で、“ひとつ”内緒にしてしまって申し訳なくなったが。

 

 

「かんせーいっ! 三人の分の<幻想御手(レベルアッパー)>できたよー」

 

 

道中

 

 

 偶然に彼が副担として受け持つクラスの生徒である、『激掌の同士(ゲーマー)』の鴻野江君が言うには、

 

 最初は目つきが鋭くて怖かったけど、木原さんに振り回されてるのを見てると苦労が顔にしみついてる先生。

 この街じゃ不人気な日本史を教えてて、教科書を読むときよく噛むんだけど、それでもきっちり授業の予行練習をやってるのがわかる感じがするし、親しみやすかったりする。

 

 ……確かに、鉄装も黄泉川先生からの紹介で初対面の時は思わず悲鳴を上げて腰を抜かしてしまったり(そのことは先輩に今での酒の(ネタ)とされてる)、彼の指導を任された際は逃げ出したくなったりもしたが、見かけ倒し、と言い方はあれだけど怖いのは見た目だけだとわかってからは、良い人、と思っている。

 こう何かと一生懸命なところや、強面で悲鳴を上げられたときはあとでひとりでこっそり落ち込んだり、よくドジったりする自分を気遣ってくれたり、先輩に弄られたりするとこを見てると親近感が湧いてくる。

 あと、それから、最近は女子生徒とも打ち解けてきているらしい。何でも<スキルアウト>に絡まれていたところから助けてくれたのがきっかけなのだそうだが、この前の事件でも思ったけど中々現場慣れしてて頼もしい、腕っぷしも自分よりも新米でありながら第73支部で黄泉川先輩に次いでの実力者だろう(ただし、射撃訓練ではどういうわけか隣にいた自分の的を撃ってしまうという自分よりも下手な最下位)

 手や腕が傷だらけで、大人なのにエネルギーが余ってる感じがしていたが、おかげで銃器の類を嫌っている黄泉川先輩と共に現場突入の先陣に連れ回されたりする(というか、彼は銃器の扱いが致命的にダメなので後援は任せられない)。

 黄泉川先生は『案外、見かけ倒しじゃないかもしれないじゃん』とか言ってたけど。

 

(よし! この前の失態をフォローしてもらっちゃったけど、先輩として頑張んないと! うん、親しげに呼び合えるようコミュニケーションを先輩の私から取るべきよね! そうだ―――)

 

 『激掌』の(可愛い)プロレスラーキャラだけどあんまり強くない不人気な隠しキャラ(ジェイミー)と同じなのだ。

 そう思えば、彼の面相の悪さも全然怖くない。むしろ可愛い!

 

 

 

 豆狸の性格は、名前の通りに“円周”率の覚え方に当て嵌められる。

 π=3().1(ひとつ)4()1(ひとつ)5()9()2()6()5()3()5()8()9()7()9()3()2()3()8()4()6()……

 ―――身一つ世一つ生くに無意味違約無く身文や読む。

 

 身文は、『言葉は身の文』の略。

 つまりは、『何もないような身ひとつの状況でも学習でき、意味もなくルールを破ったりはせず、人の言動からそのパターンを観てしまう』……それが、木原円周だ。

 

 その天上天下唯我独尊の豆狸に、友人ができた。

 

「え、それは良かったじゃないですか、ジェイm……(ポウ)先生」

 

 ツーマンセルのパトロール中。いつもの頬に絆創膏をつけてる相方の鉄装綴里は喜んでそう言ってくれた。

 彼女は、自分の身の回りに近づける大人の女性の中で、希少なまともな人だ。新米で自分とも歳が一番近い。アーケード格闘ゲーム『激掌シリーズ』が得意で、初めて顔合わせした時はお近づきの一環で(どうにか)ゲーセンに付き合って、格ゲー初心者だけど科学に愛された申し子と『大宮ジェイミー』の名は伊達ではないとばかりに白熱のバトルを繰り広げてもらって豆狸とも遊んでくれる良い人。

 その意見も良心的。

 たったひとつ欠点を挙げるとするのならばドジっ子属性をもっているところだけど、訓練でいつもいじめてきたり、『失敗は行動で取り戻してこいじゃん』ってひとりで制圧してこいなんて無茶ぶりをぶっかけてくるジャンジャン先輩よりまともじゃん。

 目下、大圄先生との共通点でもあるメガネをあの近頃ゲームばかりして目を悪くしていそうな無常識な(非常識ではない)豆狸に付けさせようかと考えたりもしたが、眼鏡型光線銃(メガネレーザー)みたいなものを造られたらたまったもんじゃないし、間違っても天然ドジが身に着いちゃったら混沌(カオス)に悪化しそうなのでやめた。

 とにかく、いい人なのだ。

 だけど、それに素直に賛同できない自分は相当ひねくれ者なのだろうか。

 

「ええ…まあ…そうなんですが」

 

 濁した言葉を腹に呑みこみつつ頭をかく。木原円周にちゃんとした人間関係が築けるかどうか心配だったし、クラスに馴染めるかも不安だった。あの不良に絡まれた一件がちょっとした冒険(スパイス)になって仲良くなれたのなら、不良を相手した甲斐があったというもの。だが、問題が起こった時のことを考えると、胃が重くなってきた。もちろん、その時は保護者の自分が問い詰められるのだろう。

 

「これからは、きっと人と上手く馴染めるようになりますよ、ジェイm……(ポウ)先生」

 

「はい…何事もなく…円周が円周のまま…経験になれば…満足です」

 

 豆狸の長老たる祖父はあの『古狸』だが、円周は一族の教育を受けずに育った子だ。<学習装置(テスタメント)>の入力前に回収できた。そして、虎を野に放つような危険な賭けだとは承知してるが表の教育機関で日常を学べれば………それで、自身の『目的』は果たせる。

 そう、その『先天的才能』を侮っているとも取れるが、まだあの人が信じていた『木原円周』を信じていたかったという……

 

「あ、でも、寂しくなっちゃいますね、ジェイm……(ポウ)先生」

 

「いえ…それはないです」

 

 捕まってるのに世間話で犯人をキレさせるのが賑やかと言えば賑やかであるが、今自分が求めているのは心の平穏である。

 友人たちと遊んでいるなら、大人の自分らは邪魔になるだろうし、かといって無理に連れてってその機会を奪ってしまうわけにはいかない。これまでパトロールに同行していたが、ここ最近の能力者犯罪の増加により、<警備員>は手が足りない。それに前回のように混ぜるの厳禁な『豆狸のボケ』と『先輩のドジ』が掛け合わさったせいで人質に捕まってしまうこともあるし、新人でも生徒ひとりの専属にさせておくわけにもいかないのだ。

 『虚空爆破(グラビトン)事件』の犯人を、あの常盤台の超電磁砲(レールガン)が捕まえたと一般生徒が活躍することもあるが、本来、この学園都市を守るのは<警備員>でないといけない。

 

「それで、ジェイm……(ポウ)先生。仕事が終わったらいつもの屋台(トコ)で黄泉川先生が月読先生と一緒に呑みに行きましょうって誘われてるんですが」

 

「それは勘弁してください…鉄装先輩」

 

「『顔とは正反対にかわいい奴だからねぇ、いじりがいがあるじゃん』って、絶対に連れてくるようにと言われてるんです。すっかり気に入られましたね、ジェイm……(ポウ)先生」

 

「本気で…勘弁して…ください」

 

 巨乳、眼鏡、幼児? と属性の揃った大人の女性三人とお酒なんて、独身男性には羨ましがれるシチュエーションなんだろうが、そこに色気なんて期待できない体育会系なノリで、一番年下で下っ端は酒の肴にされる生贄。ついでに先輩方行きつけのあそこは焼鳥におでんからテビチにタケノコのお刺身……豚のかしらが丸ごと出てくる何だかわからない郷土料理など頼めばなんでも出てくるわけのわからない屋台だ。そして、部屋が隣ということから五、六升も飲んで酔い潰れた大人の女性の介抱をいつも任され……現実とはかくも裏切られるものである。

 

「じゃあ、今日は円周さんを連れてはいけないところまでしっかり、一緒にパトロールを頑張りましょう、ジェイm……(ポウ)先生」

 

「了解です…鉄装先輩」

 

 ところで、さっきから“J-PO(ジェイ ポー)”と言っているが、ラップ調にハマっているのだろうか……?

 彼女の『激掌』お気に入りの“禿頭(スキンヘッド)顎髭大毛(逆モッサリ)超筋肉(ムッキムキ)上半身逆三角形(ゴリマッチョ)”な隠しキャラ(ジェイミー)を、『すっごく可愛いよね!』と賛同を求められて困るセンスの持ち主……

 いや、人の趣味や価値観にとやかく言うのは失礼だし、意味がわからなくても後輩として無難に話を合わせておこう。

 もしキャラ付けに悩んで似合わない真似をしているのだとすれば、そんな無理はやめて是非ありのままでいてください、と説得したいところではあるが。

 

「え、っとこっちがエリアEですよね」

 

「そっちはエリアD…です。それから…次は…エリアF…です」

 

 鉄装先輩は、ドジっ子だけど、良い人なのだ。

 

 と、いつもとは違う人気の少ないルートを通ったからか。早速、“いつもと違う”トラブルに遭遇した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「何だい、アンタ。一銭も金を持ってないのにあれだけ食ったって言うのかい!?」

 

「ごめん。久しぶりにフィッシュアンドチップスだったからついいっぱい食べたくなっちゃった。おいしかったんだよ」

 

「そうかい。それは良かった……払うもん払ってればね。あたいらは、女の財布から無理やりは取りたかはないんだが」

 

「うーん、それなら教会に来てくれたら……バチカンじゃなくてイギリス清教の方の」

 

「へぇ、そんなのが学園都市にあるのかい。いったいどこに?」

 

「それはわからない。そもそもここにあるのかな?」

 

「おいッ!? それじゃあ、アンタはどこに住んでんだい!?」

 

 前と同じように、複数の<スキルアウト>に少女一人が囲まれている……状況ではない模様。

 邪魔だから適当に括った風なポニーテールに、スカートではなくジーンズ。こんな暑いのに大きなバラが背中に載ってるスカジャンを羽織って、エプロンをかけてるヤンキー少女。紅一点でありながら舎弟兼従業員な不良少年が7名を取り仕切ってる様はなかなか堂に入っており、調理場である荷台を牽引できるように原付二輪を改造した移動屋台を切り盛りしているようだ。

 

「<屋台尖塔>からの出張屋台でしょうか」

 

「そのよう…ですね」

 

 この第七学区と隣接している第十学区は、配達業者がわざわざ迂回する逸話があるほど治安最悪なところだ。<警備員>でもよく問題に取り上げられており、近々そこの一掃作戦が検討されているとかどうとか。して、そこの立体駐車場にワゴン車やキャンピングカーを改装した飲食屋台が400から500も詰め込まれているのが、<屋台尖塔>。

 移動屋台なので引っ越しは可能―――ただし、無法地帯ではない第七学区では許可証が必要である。いきつけの屋台もちゃんと許可を取ってる。

 しかし、あそこにいるのは全員が未成年。

 というわけで、こちらお巡りさん二人組に最初に気付き、げっ、とバンダナを巻いた舎弟のひとりは思い切り後ろめたい態度を明確に示してくれた。

 

「ちっ、こんなときにお上かい」

 

 姐御ポジションな女子高生もこちらに気付いたようだが、顔見て逃げるような真似はしない。

 

「姐御。どうします? <警備員>でもLevel2となった俺らの力があれば……」

 

「こっちから堅気の人間に手を出すんじゃない。それが『(くろがね)』のやり方だって教えたろ」

 

「で、でも……あっちの男はとても堅気の人間には見えねぇんですが」

 

「あたいに口答えかい! 埋めるよ!」

 

「す、すいません!?」

 

 舎弟らに手を出すな大人しくしてろそして店をたたむ準備だけしておけと指示を出す。だけど、無料ゼロ円スマイルだけは置いてないようだ。

 

「一応お訊きしますが、許可は?」

 

「取ってないよ。あたいら、ちょっと今月は出費が多くてね。許可証を発行する金もなかったんだ」

 

 鉄装先輩と視線を交わす。

 腹も据わっている。話も通じないわけでもない。前の<偏光能力(トリックアート)>の<スキルアウト>を相手したみたいに、暴力沙汰にはなりそうにない。

 

「では、支部の方へきてもらえますか?」

 

「ああ……けじめはつけるよ」

 

「姐御っ!」

「待って!」

 

 と、待ったがかけられた。

 舎弟の男が出せるとは思えない高音域の発声。

 フィレオフィッシュとリーフレタスに数種類の香草を薄く焼き上げた特性生地で包んでレモン風味の秘伝のソースをかけてる。

 それの紙包みらしきものがテーブルに十数枚と一口かじったものを右手にひとつ持ってる、修道女。ほわっ、と鉄装先輩が息をのむほど綺麗な、銀髪碧眼の外国美少女。

 それとはまた別の意味でこちらも生唾を呑みこむ。

 

「待って! その人は良い人だよ! 掃除ロボット(アガシオン)に追われて、おなか減って行き倒れそうになった私のために、わざわざここでごはんを作ってくれたの!」

 

 真っ白い修道服に身を包んだその姿は、中身もまるっきり修道女だ。

 もう何となく展開が読めてくる。

 移動中にフラフラしていたのを見かけて、見過ごせずに振舞ったのだろう

 確かに、その修道女は、人に自然と守ってあげたくなるような雰囲気がある。

 それとは別にして、今日の昼休みは豆狸の捜索に費やしたせいで満足に食事ができなかった身としては、一口でもその人情をいただき……

 

「(……でも、<屋台尖塔>の選考通らず弾かれた姐御のメシマズ創作料理を……)」

「(……ああ、見た目は普通なのに、前に試食された時は舌が一日中麻痺した……)」

「(……その俺たちがファミレス通いにならざるをえなかったものをあれだけ……)」

 

「コソコソ話してないで言いたいことがあったら堂々と言いな!」

 

 たいが、職務中なので遠慮しておこう。

 それよりも問題なのは、だ……

 

「さりげなく疲労回復のために酸っぱい味付けをしてる心配りとかしてくれてるし、雨の日に捨て猫を拾ってくれる不良タイプに良い人なんだよ」

 

「アンタ、あたいをなんだと思ってるんだい?」

 

 鉄装先輩にしがみつている修道女を見て、どこか気が削がれたのか姐御と呼ばれてる女子高生は、頭を掻きながら、

 

「舎弟らは帰らせてくれ。そいつらはあたいの道楽に付き合わせちまっただけだ」

 

 あたいはここで残る。それでいいだろ―――と店の椅子に革ジャンのポケットに両手を突っ込んだまま、どかりと座る姐御。

 そして、修道女へ呆れたがしょうがないとでもいうような視線を送る。

 次に彼女はこう言うだろう。

 

 『……それからその子は迷子のようだから、保護してやってくれ。<警備員(あんたら)>の仕事だろ』、と。

 

 

 ―――そうはいかない。

 

 

 童話のように『迷子の子猫さん』を助ける『犬のおまわりさん』といく展開はまずい。

 今日はいつもより張り切って鉄装先輩が前に出てくれるので、去ってくれるまでは目立たずに――できれば一声の情報も耳に届けぬよう――彼女との会話に割って入るような真似はしたくはなかったが。

 

「……それから――「鉄装先輩」――「ひゃん!?」」

 

 横合いから鉄装先輩の肩に手を置いてやや強引に下がらせる。

 

「どうやら…情状酌量の余地が…あるみたいです」

 

 後輩の自分が前にしゃしゃり出るなんておこがましくて先輩には悪いが、ここは無理にでも通そう。

 

「どうやら…初犯みたいですし…鉄装先輩…わざわざ支部に…呼ばなくても…いいんじゃないんですか?」

 

 厳重注意だけで済まそうと提案。

 ついでに、不良たちには、二度目は無いぞ、と少々力を込めた目で語る。

 ヒッ!? と悲鳴を上げられたが、やはりこういう時の強面は便利である。

 それから、さもこの姐御の心意気に感動したかのように、

 

「え、でも―――「問題となってる…未払いも…代わりに…払います。…そうすれば…遺恨なく…彼らも…撤収できるのでは…ないでしょうか」」

 

 立て板に水の勢いで鉄装先輩を説得しながら、目は姐御の背後で一番レジに近い不良へ『いくらだ?』と問う。

 穏便に事を済ませることをちらつかせれば不良は口が開けないようだが、素直に指で代金(おいくら)かを示す。

 右手の五本指と左手の人差し、中、薬の三本指――しめて、八。

 800円……ではないだろう。十数枚の包み紙という状況証拠を検める限り、桁がひとつプラスされてもおかしくはない。

 念のために、『本当か?』と眉根を寄せれば、こくこくこく! と怯えたように何度も頷く。少し力を入れ過ぎたみたいだ。

 

「わかった…払おう」

 

 新米の給料で女子一人を養わなければならない身であるが、飲みに行くこと以外に嗜好品の類を購入する無駄遣いもいしていないし、黄泉川先輩直伝の<警備員>の割引節約術、ついでに豆狸捜索に時間を費やすせいで昼食代がとても浮いている。おかげで少しの余裕はある。―――それでも、一万近い出費が痛いのは変わりない。

 気の変わらない内に、二つ折りの財布を取り出して、五千円札と千円札を三枚。

 

「待ちな! アンタから金は受け取れないし、お咎めなしじゃあ、あたいのけじめは付けない!」

 

 姐御が待ったをかけた。

 ええ!? 払ってくれるんですし貰っておきましょうよ! と進言する不良に『埋めるよ』と恫喝しながら、支払いを拒絶する。

 だが、こちらだってそうはいかない。ここは何としてでもことなかれ主義を貫かせてもらう。

 

「無理につけようとする…けじめは…自己満足に過ぎない。…リーダーだからと…無理をしなくていい」

 

「<警備員>がそんなんでいいのかい!」

 

「<警備員>の仕事は…治安維持だが…君たちは…人様に迷惑を…かけてるわけではない。…それに…何であれ…人助けは…褒められる行為だ。それに…今日会ったばかりだが…君が…信頼できる人物だと…わかる」

 

 訓練ではいつも苛め(しごい)たり、無茶ぶりする黄泉川(じゃんじゃん)先輩だが、彼女はいざという時は後輩部下よりも前へ、矢面に立てる人だ。

 人を見るときは、その下についてる部下を見れば、大凡は計れるというが、紅一点だというのにしっかりとまとめられているのは、それなりの人格人望がないとできない。

 

「<警備員>関係なく…これは…君への…個人的な投資だと…思ってくれていい」

 

「あ、あたいの……!?」

 

「そうだ」

 

 ポケットの中に突っ込まれたまま受け取りを拒否する姐御の手を両手でとる。

 

「いや!!」

 

 らしからぬ悲鳴。

 その原因もすぐにわかった。

 話を聞く限り、彼女はあまり厨房に立った経験がない。だというのに何かしらの、おそらく金銭的な理由があって慣れない屋台を開いている。それでも初心者だからと言って投げ出さないのだから、その手は火傷と切り傷の絆創膏だらけだ。いくら不良を気取っていても、女子だ。あまり人に見られたくない心理が働くのも当たり前だ。

 が、

 

「良い手だ。…君の手は…そんなに…恥ずべきものでは…ない。…ちゃんと…女の子の手を…してる」

 

「は、ハァ!? あたいのボロボロの手なんか見て……―――か、からかうんじゃないよ!!」

 

「からかってない…本気だ」

 

 目を合わせ見るように屈み、なるべく温和な表情を心がけ―――さりげなく紙幣を握らせた。

 よし。

 修道女が蚊帳の外に置かれているのが気付かれるよりも早く、この場を辞退するんだ。

 と、背後からこれまで黙っていた鉄装が、困ったように微笑んだ。

 

「巡回中だというのに手を握ってなにをしてるんですか、七宝先生?」

 

 鉄装先輩の優しい声に、血が冷たくなった。嫌な汗をかきながら、そっと爆発物から距離を取るように姐御の手を離して後逸し、良心的な先輩の元へ戻る。

 もしもこの一連の行動を黄泉川(じゃんじゃん)先輩が見れば、年下の女子学生を口説いて援助交際してもいいけど責任は取るじゃん、などと冗談をかまして背中をブッ叩いてくるだろうが、理解ある大人の女性である鉄装先輩なら、きっと変な誤解などしていない筈だ。

 

「はい…巡回の途中…でした。…すみません」

 

「今日の飲みは、七宝先生もちですね」

 

「え……?」

 

 そう言って、身近の常識人は自分を置いて巡回に戻っていった。

 その無情な先輩権限の宣告を受けたら、今月は破産……豆狸捜索関係なしに金銭的な理由で満足な昼食ができなくなりそうであるが。

 ……やはり、勝手をしてしまったのが悪かったんだろう。大人しく従うとしよう。

 

「あ~~! 待て~~~! そこの使い魔(アガシオン)!」

 

 とこのまま自然解散で終わりにしたかったのだが、巡回に戻った途端、沈黙を保っていたはずの子羊が鳴いてしまった。

 

 

 

 一難去ってまた一難。それも是非とも避けたかった災難だ。

 しかし、こうなってしまえば誘導しても無視は無理だろう、今月の昼食代が無駄となった。

 

「あなた達にお礼を言おうと思って、後を追ったんだけど………」

 

「清掃ロボットに、落とした最後のひとつが回収されちゃったと?」

 

 清掃ロボットにしがみついた修道女を宥め賺して降ろしながら、鉄装は質問する。

 

「この国には三秒ルールって偉大な決まりごとがあるんじゃないの?」

 

「道路はルールの適用外だと思うけど……」

 

 先程のことを反省し、大人しくしている。というか、もうどうとでもなれ、と後輩は先輩に全部任せた。

 

「それで、あなたはどこの生徒さん?」

 

「生徒じゃないんだよ、シスターなんだよ」

 

「シスター……? え、っとそれじゃあ、お名前とIDは?」

 

 たまらず、そこでストップをかけたかったが、良心的な大人の女性である先輩が迷子の少女を見過ごせるはずもない。

 流石にここで鉄装先輩に全部任せて自分だけ先に行くのは薄情なので、一歩離れた位置で、見守ることにする。

 

 

「私の名前は、インデックス、って言うんだよ。あいでぃー、というのはよくわからないけど魔法名は『Dedicatus545』だね」

 

 

 その名を聞いて、自分の悪寒はやはり正しかったのだと。

 

 

 刹那。

 大量の漆黒の影が、彼女たちの周囲に現れた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「―――きゃっ!」

 

 思わず顔を覆いたくなるも、条件反射的に鉄装は迷子の修道女を抱いて、その身で守る。

 

 ばさばさばさ!

 

 しかし、黒い群れは蹂躙する。

 

 ばさばさばさ!

 ばさばさばさ!

 

 鴉だった。

 それも、ただの鴉ではない。奇怪に歪んだ鴉であった。

 嘴はねじれ、翼は溶け崩れ、()()()()とした皮膚の内側をあらわにして、それは飛んでいるのだった。

 もう一種のホラー。例え科学技術が産み出した人工動物だとしても、こんなの生物として認められない。

 そんな鴉が、突如に大量に降り落ち、修道女ごと鉄装を埋め尽くそうとしているのだった。

 

「なに……これ!?」

 

 鉄装の戸惑いを、別の声が引き裂いた。

 

 けーっ!

 

 災いの如く喚く、妖鴉の鳴き声。

 

 けーっ! げーっ! ゲーっ!

 

 反響し、共鳴し、圧倒する。

 溢れ、笑い、這いずり、濁り合う。

 漆黒の羽と災禍の鳴き声とが、人間二人のいる空間を満たし、内側から破壊せんと暴虐する。できそこないの粘土のように、()()()()()()()()()()()()と、羽と肉とを散乱する。

 その、悪臭。

 嗅いだ鼻さえも腐らせてしまうような臭い。

 いや、臭いだけで幸いだ。

 呑まれた衝撃で眼鏡が取れて、この不気味な光景をぼやけて見えるのだから。

 

「……ぁ」

 

 鉄装の喉が干上がる。

 おぞましさに、身体も心も硬直する。敗北する。気絶さえもできない。

 

「―――嫌ぁっ!」

 

 鴉についばまれ、ついに叫び声をあげた。

 その声に、

 

「鉄装、先輩!」

 

 応える者がいた。ぼやけた視界の中で、見るも怖気が走る妖鴉を、無我夢中で殴りつけ、こちらに手を伸ばそうと右足が一歩中へ入ろうとする―――

 

「が―――っ!」

 

 だが、瞬間、その膝が落ちた。

 背後から、“姿の見えぬ何者か”に、後頭部を思い切り殴られたのである。怯んだところへ、黒群の一羽がその身を礫としてその身を撃った。

 

「七宝君!」

 

 自分を助けようとした後輩が地面に蹲るのが鉄装の見た最後の光景。

 

 ばさばさばさばさばさばさばさばさ!

 

 耳障りな音だけを残し、影は何処へと飛び去っていった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 爪と嘴の傷跡で埋め尽くされた地面にまみれている夥しい羽根。

 その感触。

 その悪臭。

 むせると同時、喉から吐き気がこみ上げる。

 しっかりとしたアスファルトの地面が、今ばかりは腐れた汚泥が溜まった沼に思えた。考えたくもないけれど、死体に包まれているような気分だった。学園都市という一切のオカルトを排したはずの街は、すでに異界でしかなかった。

 

「………」

 

 だが、騒ぐものは誰もいない。

 神秘は、秘匿されるもの。

 むしろこうした汚い不浄から人は精神衛生上の防衛反応で目を逸らし忌避してしまうもので、あの『人攫い』は、人の関心をこちらから逸らす『人払い』もセットの術だったのだろう。

 この臭いに嗅ぎ慣れていなければ、自分もこの場から立ち去り、この汚れた身体をシャワーで洗い流そうとしただろう。

 この羽根もこの街の清掃ロボットが掃除するよりも早く勝手に存在を蒸発していくはずだ。

 しかし、その中心にいたはずの人は見つけられない。

 

 ぐきり、と胸の中で暴れるソレを腕の力で縊り落とす。

 

 ああ、こうなるんじゃないかと思った途端に、こうだ。

 いくら魔力を覚えなかったとはいえ、鉄装綴里よりも早く、彼女の姿を認識していれば、無視して避けられたというのに。

 いや、あのとき、“目の前で攫われようとしている”を見て、つい感情的になっていなければこんな事態にならなかったかもしれない。

 先日は不良相手に偉そうに講釈を垂れていたというのに、連綿と受け継がれてきた襲名を継がずに飛び出した己は、未だにこんな“見世物しかできない”腕は、まともに戦えば一流には勝てない三流だと自覚していないのか。

 

(だが…今のオレは…生憎この街を…何が何でも…守らないと…いけない)

 

 幸い、向こうは油断している。

 回路を持つ人間だと気付かず、勝手に死んだと思っている。

 だが、こちらはその術を識っている。しかも、“元同業”だ。

 使い魔の捨て身の一撃をもらったが、一部の(というより、ひとり)先輩は飛び道具にだって使っているこの街の治安維持部隊に支給される防具はとても優秀で、どてっぱらを嘴の切っ先で穿たれたが腸内臓までは届いていない。

 本当に、この街の科学技術は優秀だ。

 こんな術式の探知も満足にこなせない三流であっても、まだ追いかけることができるのだから。

 

 

「仕方ない…貯金していた…“退職金”を…切り崩すとするか」

 

 

 ガチン、と封鎖させている精製回路(レール)を解放する。

 

 

第十学区 廃墟

 

 

 全てが、漆黒の羽にひしがれていくようだった。

 空気も空間も鴉に埋まり、その中の存在など丸呑みで取りこんでしまえた。黒く禍々しい重圧は、消化器官の蠕動のように、次の場所へと追い込む。

 呑まれて。

 呑まれて―――

 呑まれ―――て―――

 

「………っ」

 

 黒が漸く霞む。

 

「はっ……!」

 

 胸に当てられた耳へ伝わる鼓動。

 早急に自分を抱きしめていた女性を視る。

 

「う……」

 

 その顔は蒼褪め、意識は覚醒するかしないかの瀬戸際を彷徨っている。

 鉛どころか、まぶたが溶接でもされたようで、精一杯に開こうとしているのはわかるが、瞳は光を入れることはない。

 

(―――汚染されてる……!)

 

 あの妖鴉(アガシオン)は、呪病の気を放っていたか。まだきちんと対処法を施し解毒すれば、後遺症なく回復できる。

 自身はこの『教会』としての必要最低限の要素だけを詰め込んだ修道服<歩く教会>があったから免れたのだろう。

 生地は聖骸布を正確にコピーしたもので、布地の織り方から、糸の縫い方、刺繍の飾り方まで全てが計算されて作られたこれの強度は、法王級。例え零距離で拳銃を撃たれようとこの身に衝撃は全く伝えないし、呪おうとしても弾かれる。

 しかし、その恩恵に預かれるのは“ひとりまで”だ。

 

『すまんの。厄介な猟犬二人組がおったんでの。少々手荒な方法で連れて来させてもらった』

 

 どこからともなく老成した声が聴こえた。

 警戒しながら周りを窺えばそれらしき姿は見えぬが、自分と女性とを中心に、ぽっかりと周囲数mの空間が空いているも、室内の壁は全て妖鴉で埋められている。

 術者が、使い魔を待機させているのだ。

 

 けーっ!

 

 鴉たちは飢えているように獰猛で、主人の許しを得れば、すぐさま鳥葬を始めるだろう。

 

「……『修験道』だね」

 

 10万3000冊を記録した『魔道図書館』は一目でこの現象を看破した。

 

『ほう……』

 

「あなたは、修験者の術士――山伏。『修験道』……とりわけ熊野神道と習合したものでは鴉は神使だからね」

 

 神使。

 要するに、神様の使いで、西洋で言えば、<天使>だ。

 

「さっきの『人攫い』の現象――<天狗攫い>も『修験道』の術の内」

 

 昔話にあるよう、<天狗>は透明になれる笠蓑を持っており、それで姿を隠して子供を山へ攫って行くという。

 

「ホッホッホ、正解じゃよ。流石は、数多の<原典>をその頭に収めた魔女狩りの道具よ。お若いのに<禁書目録>こちらの文化圏まで網羅しているとは……いやはや、そうでなくてはな」

 

 どっこいしょ……と。

 誤魔化しのない声に振り向けば、そこに真っ赤な天狗鼻の仮面を付け、笠蓑を羽織り、地べたに坐した老人と思しき男性が現れた――ではない、透化していた術式を解除したというのが正しいだろう。この<歩く教会>と同じように、あの<隠れ蓑>は装着者に常時、完全なる透明化、景色と同化の恩恵が預かれる。その魔力さえも断つ気配遮断(ステルス)は伝承防御と呼ばれる伝統工芸品みたいな霊装だ。

 おかげで接近に気付くのが遅れてしまった。

 その右手で扇ぎ振る黄色く変色した大きな枯葉は、奇怪な人の手のようにも見える。

 ヤツデの葉だ。<天狗>の伝承を基にした象徴武器(シンボリックウェポン)だろう。

 <天狗>は団扇一本で、飛行、縮地、分身、変身、風雨、火炎、人心、折伏……など何でも自由自在である。

 

 ―――だが、それだけの武器を持っても、<禁書目録>を守護する『教会』は破れない。

 

 摂氏3000度の業火の巨人だろうと、聖人が振るう天使さえ裂く斬撃だろうと、(セント)ジョージの竜王(ドラゴン)でもない限り、破壊不能な法王級(絶対)の結界。

 解析した結果、この山伏が<天狗>の術法に妖鴉(アガシオン)をぶつけようと<歩く教会>がある限り、この場から逃げられる。

 自分ひとりならば。

 

「理解したようじゃな」

 

 自分を庇ってくれた人。彼女を置いてはいけない。かといって、自分ひとりでは大人の女性を持ち上げて移動させるのも無理だろう。魔術を知っていても魔力がなくてはどのような奇蹟も起こせない。

 状況を理解させるだけの間を与えて、山伏はその<葉団扇>を振り上げ―――<禁書目録(インデックス)>の修道女は、<警備員>の盾になる位置で両手を広げる。

 

「待って。この人は関係ないこの街の人間。これ以上傷つけようとしないで!」

 

 修道女の額に冷や汗が垂れた。

 攫われう直前に<警備員>を撃つのが見えたが、この山伏は、“人を殺せる”。

 鼻高の仮面でその表情を直接窺い知ることはできないが、嗤っている。この修道女に人質に価値があると証明できたのだから。山伏は、焦らすように、ゆっくりと<葉団扇>を降ろし、

 

「じゃろうて。ならば、その者に修道服を着せる時間を与えてもいいぞ―――どうするかね?」

 

「……っ」

 

 わざわざもうひとり攫ったのは、それが狙いか。

 <天狗>では破れないこの<歩く教会>の結界を自ら解かせるため。

 そして、ここで法王級の加護を失えば、<葉団扇>の精神干渉を仕掛け、10万3000冊の叡智を奪いに来る。<歩く教会>が邪魔でなければ、それだけの自信があるのだろう。

 しかし、こちらも『魔道図書館』は伊達ではない。

 ……あらゆる魔術の対抗策を編める<禁書目録>の叡智がある。絶対の盾を失っても、回避さえできればいい。そして、逃げのびるだけの隙が作る。

 できる。

 既に手順(ルート)は頭の中で組み上がっている。

 しかし、<禁書目録>を狙う魔術師は彼ひとりだけじゃない。使うものが使えば、世界さえも掌握できる叡智の書庫。ここで逃げのびてもまた別の魔術師がいる。実際、ルーン使いと<聖人>に狙われているのだ。彼らからも絶対に守らないといけない。長期的に考えれば、ここで一時の情けをかけるのは間違いだ。

 それに万が一……―――

 

「迷ってる時間は無いぞ。魔道に耐性のないものに、ここの瘴気は辛かろうて」

 

 迷いに止めを刺す一言。知識量ではこちらが上回っていても、老獪な駆け引きは向こうが上か。自分に彼女を見捨てることはできない

 修道女はそのフードを脱いで、瘴気を吸引することを避けるガスマスクとして鉄装綴里の頭に被せる。

 して、修道服に手をかけながら、問うた。

 

「あなたは何がしたいの?」

 

「<大天狗>となるためよ」

 

 山伏の老人は、胸の裡を躊躇わずに晒す。

 仏門の知識があるため『人間道』に戻れず、

 宗教上の罪を犯したわけではないので『地獄道』、『餓鬼道』、『阿修羅道』、『畜生道』に堕ちず、

 邪法を扱うため『天道』にも行けず

 結果、『六道』の輪廻からも外れた魔界、救済不能の『天狗道』へと外れることとなる。

 <天狗>とは、慢心した山伏が死後に転生した先にあるひとつの境地であり、特に優れた大智をもつ修験者は<大天狗>に至れる。

 その神通力は、<神仙>に<魔神>にも匹敵するといわれ、国をも揺るがす大魔王と恐れられた。

 

 そして、この国の歴史上の人物で、人から<大天狗>となった者がいる。そう、“至れると実証されている”ものなのだ。

 

「かの崇徳上皇は、自らの舌を噛み千切りその血潮で大乗写経に大魔縁とならんと呪詛の誓約を記し―――<大天狗>へと至った」

 

 当時の法皇の意向から、5歳で先代に譲位されて天皇となったが、後にわずか2歳の幼子にその位を譲位させられ、政治の場から遠ざけられた。

 そのことに不満を募らせた崇徳上皇は乱を起こしたが惨敗。島流しの刑に処され、その地で崩御(死亡)した。

 だが、ただでは死ななかった。

 本来はその功徳で国家と人民を鎮護・救済するべく五部大乗経を己が血で汚し、属性を反転させ、

 地に災禍を招き、人の仏性を否定し、一切衆生を『天狗道』へと堕とそうとしたのだ。

 

「儂はの。上皇の偉業を再びこの地に成す。そのためならばこの命も惜しくはない。これまで積み重ねてきた修練は、単独でもそこへ至る自信もある。じゃが、必ず成功させるためにも『魔道図書館』の大智を頂きたい!」

 

「そんなことしたら、この街は―――!?」

 

 仮面に遮られていようとその憎悪が溢れ出る。

 しわがれた老人の唇が、黒い色のついた言葉を放つ。

 

「そうだ! この国の土壌を科学などという異学で侵食されたおかげで我が流派は廃れた! この国だけの問題ではない! 彼奴等は存在だけで我ら魔術世界にとって有害! この所業許すまじ。我が怨念で学園都市に祟りをもたらすのだ!」

 

 昂った感情についに坐していられなくなったのか山伏は立ち上がり、こちらに距離を詰めてくる

 インデックスは、距離を取るために、この街の治安維持の女性の身柄を引きずり後ずさろうと―――

 

 ズキリ、と。

 内から圧迫されるような頭痛。

 

 耐えられなく、修道女の身は崩れ落ちた。

 あの男が何かをしたわけではない。

 <歩く教会>で守られている以上、<葉団扇>では干渉はできない。

 だから、これは自身の不調が原因だ。

 

(なんで……こんなときに……っ)

 

 ここ最近、不定期に、しかしだんだんと襲う間隔が短くなってくる原因不明の頭痛。

 この身は数多の防御機構を格納している。宗教防衛、と言えば聞こえは良いかもしれないが、一歩間違えば人としての基本性能すら失うレベルの精神調整を、何十回も繰り返されているのだ。だから、この頭痛も不思議ではない。むしろ、頭痛程度で済んで幸いだと喜ばなければならない。

 だが、それにしたって、よりにもよってこんな時に……

 

「あまり我らが魔術世界を代表する叡智に乱暴な真似はしたくはないんじゃがの」

 

 接近され、接触までも許してしまった。

 邪魔な修道服を脱がそうとするのではなく、布地一枚に覆われた下腹部を、老人は気持ち悪い手つきで撫でる。

 

「大乗写経をも収めているこの穢れのない肉体を、儂の手で汚してみるのもいいのかもしれん。10万3000冊と呪詛の誓約をかわせれば、上皇以上の大魔縁となろうよ」

 

 生理的な怖気が走る。

 この粘つくような指が犯そうとしているのに、頭痛で力が入らず、声も発せられない。

 仮面の奥にあるその空洞のような暗い瞳は理性という支えが切れて宙を彷徨わせつつ、興奮して垂れてきた口元のよだれを手で拭おうとし―――

 

 

「―――うるせぇ。ガキ相手に楽しむなよヘンタイ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 塩を撒くようにばら撒かれた、葉。笹の葉。

 それが一斉に、魚に変化し、宙を泳ぐ捨身魚雷となって、山伏の使い魔である妖鴉を追尾・撃墜し、相殺されていく。

 

「おー、おー、『天狗は鯖が苦手』だっていうが、効果覿面だな。ま、そうなるように組んだんだが」

 

 ―――何、じゃと?

 

 自分とは別に<禁書目録>を追っていた二人組を警戒し、逆探知されようが偽の位置情報(ダミー)へ誘導する(ライン)をいくつも用意していた。

 しかし、ここに招かれざる客がいる。

 それもあのとき刃向ってきて、殺したはずの若造が。

 

「んで、呆けちまってるが、耳が遠過ぎて聴こえなかったのか? とっととそいつらから離れろ。腐り過ぎた実は迷惑だっつてんだ」

 

 それも、雰囲気が違う。ただの見かけ倒しだったその外見に、見かけ通りの内面が入れ込まれたような変革だ。背中に冷たい者の走る狂人のような、最早別人にも思える笑いを浮かべている。

 違いは他にもある。

 魔力だ。

 それもこの何十年も修練を重ねてきた己と負けないほどの精製量。

 魔術とは才能なき人間が才能ある人間に追いつくために作られた技術である以上、誰であろうと、使える、ものであるが、効率よく使うには魔力が必要だ。

 魔力精製は、呼吸法といった手軽な方法がある。それ以外にも、瞑想でも、準備運動でも、食事制限でもいいが、要するに、血液の流れ、内臓のリズムなどを自分の望み通りの数値で操ればいい。

 しかし、体内器官の大半は自分の意思でそう簡単に操れるものではない。体内器官が自動的に動いているのは、そうでれなければ危険だからだ。無理にやれば体中の血管や神経に莫大な負荷がかかり、自滅する。タタリだのバチだというのは、そうした体内器官、さらに魂をいじくろうとした失敗例なのだ。

 だから、異能のセッティングは慎重にやらなければならないし、時間と手間がかかる。

 そして、一度セッティングが済めば、本人が魔術を発動しているかどうかは関係なく、魔術師は、体内器官の生命活動で、生命力を魔力に精製するように身体を作られてしまっているのだ。

 そうなれば、魔力精製は止めようと思えば止められるものであるが、魔術師に魔力精製を止めるのは、生命活動を――呼吸を止めて我慢するのと同じだ。常に隠し通すのは無理だ。精々できるのは息を潜めるくらいで、どんなに対策を講じていようと直接の接触を許して魔術師か一般人かの見分けがつかなくするのは不可能だ。

 

 だから、この現実を受けいれるとするならば、この男は今さっき魔術師として生まれ変わったのだ。

 

「お前は……何者だ?」

 

 山伏が思わずそう訊いてしまったのは、とても同一人物とは信じられなかったから。

 この変貌が、演技であるはずがないし、魔力を精製できるようになっているのは異常だ。長年に培われてきた経験が警鐘を鳴らしている。既に<禁書目録>の修道女からは手を離している。逆に言えば、最大限に警戒しなければならないということ。

 山伏の言葉に、<警備員>の男はゆらりと頭を振って山伏を見た。

 夢遊病者のような動きだが、その視線が自分に突き刺さってくるのをはっきり感じる。

 同時に、第六感的なものが目の前の存在に結論を出した。

 ………コイツは危険だ。

 

「アン? さっき会っただろ? もう忘れてるとは、随分とボケが進んでんな」

 

 当然の答えとして答えられたのを、山伏は強く否定したいが、そんなのを吹き散らすかのよう再びその人を小馬鹿にするような笑い。高く高く……まるで、赤子が自分の生誕をこの世界に示すかのように……どこまでも……果てなき空に響き渡れと言わんばかりに笑う。

 ガリッ、と山伏の老人は奥歯を噛む。

 

「お前は、死んだはずだ! 儂が、殺した! あれを食らって無事で済むはずがない! それにどうやってこの場所を探り当てた! 探査術式を迎撃するように仕込んであったはずだ!」

 

「魔術なんて使ってねぇよ。オレの身を守ったのも、オレがここに来れたのも、ジジィが否定したがってる科学様の技術だ」

 

 そう言って、『人攫い』のとき<警備員>が落としていた彼女の眼鏡を見せる。

 

「『十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない』ってクラークの三法則のひとつだが、知ってるかジジィ」

 

 次に、サイレンサー装着の拳銃のような代物を見せびらかし、

 

「コイツはオレが前の職場で世話になった<嗅覚感応(センサー)>っつうモンでな。香水や消臭剤を取り扱ってる企業の技術を軍事的に転用した警察犬よりも利口な、半端な魔術よりも使える、追跡道具。退職金代わりに盗ってったんだが、ヤンチャ過ぎる豆狸を探すのに大変重宝してる」

 

 この先端に取り付けられたマイクのようなスポンジ状の猟犬の鼻(センサー)に標的の匂いを嗅がせると、グリップより少し上の辺り――拳銃で言うならハンマーのある部分に設置された3インチほどの小型液晶モニタに、足跡の予測が出る。

 複雑に混じった匂いの中から必要なものだけを取り出すことができるため、特殊な洗浄液で匂いを消さなければ<嗅覚感応>からは逃れられない。

 

「貴様! 魔術師でありながら、異学の道具に頼ってるというのか! この外道め! 成敗してくれる! <魔法名>を名乗れぃ!」

 

「天狗になってるジジィには言われたくねぇし、オレは魔術師じゃねぇ。<魔法名>なんざ端から持ち合わせちゃいねぇよ」

 

「黙れえぇええぇぇいっっ!!!」

 

 老体でありながら山伏の鍛え上げた声量から来る喝破を当てても、ますます笑みは深くなる。嘲りと嘲笑、悪意だけで固められた笑顔で笑っている。

 山伏の背筋を、冷たい何かが這い回った。

 何かが不味い。

 これ以上、この存在を許してはいけない。

 

「いいぜ、お望みの殺し合いに付き合ってやる。腐ってる実がいつまでも枝にくっついてちゃ他に迷惑だからな。剪定してやるから、とっとと堕ちろよ老害」

 

 そういって<嗅覚感応>をしまい、代わりに腰から抜いたのは、警棒だ。この街の治安維持部隊に支給されている殺傷性の低い武器だ。

 おのれ、殺し合いをするとほざきながらふざけた真似を……っ!!

 また一度、今度こそ完膚なきまでに殺し尽してやる。

 

「後悔するなよ、青二才が」

 

 昂る感情を鎮め、呼吸を落とし、体温を落とす。相手の目を睨みながら、そっと足を踏み出す。<隠れ蓑>の伝承防御術式が働いて、完全に山伏の姿が風景の中に溶ける。

 目測で、相手の得物は30cmほど。その間合いに近づかれなければ、攻撃など食らわない。遠隔から<葉団扇>の繰り出す攻撃術式で片を付ける。

 足音はなく、回り込むように死角へ入るが、<警備員>の男は警棒を、右手に、左手に、と交互に持ち替え弄びながらさきほどまで山伏がいた辺りを眺めている。そっと<葉団扇>に魔力を込めると、狩人が猟銃の照準器(スコープ)に獲物を捉えるが如き集中で狙いを定め、必殺の一撃で薙ぎ払う―――そんなイメージに雑念を割り込ませたのは、少女の視線。

 

「隠れても、そこにいるのはわかってるんだよ」

 

 見ていた。

 見られていた。

 完璧だと思っていた術に差し込まれたその動揺は、山伏の動きを止めさせる。そして、自らの欠点を突く彼女の言葉は、雑念だとわかっていても入りこまれてしまう隙を狙っている。

 

「あなたの<隠れ蓑>の伝承防御の隠行には感服するけど、あくまでそれはあなたが私に補足される前の話。どこから発動したのかさえ分かれば、あなたの動きは予測できる」

 

 インデックスには優れた完全記憶能力があった。

 自然体で、秒間30コマの映像を一枚一枚記憶して瞬時に精査できる。

 たとえその姿を消していようが、魔力を隠していようが、10万3000冊を記録する知識量がその術の癖を悟らせ、その攻撃術式で収束する魔力龍脈の流れを読み取ってしまえるのだから、その位置を探し当てるのも雑作にない。

 そして、目は口ほどに語るとの格言もある通り、<禁書目録>の視線誘導は万の助言に匹敵し、こちらが<葉団扇>を振るうよりも速く、<警備員>の男は動いた。

 

「ほれ」

 

 軽く手首を曲げ、再び笹の葉から変化させた魚雷を放つ。狙いは鼻高天狗の面を付けた顔。それを団扇で払いのけた山伏は、この一振りに天狗の火炎と旋風が暴れる音を聞き、そして、自分の胸に信じられないものを見た。

 

「……な」

 

 何かが刺さっている。その男の右手に持った警棒は人体をさせるものではないし、そもそも届いていない。胸に刺さっている感触だけがある。ちょうど心臓の位置だ。深々と突き刺さったソレは、山伏の心臓を完全に貫いていた。

 今の、ほんの一瞬の、隙に……!

 見えなかった。あの男が警棒を突き出す動きさえ、全然見えなかった。殺傷性は低いと侮っていながら、急所を刺された。

 死が間近に迫る『恐怖』がこみ上げ、声も出ない山伏に、男は冷ややかに言う。

 

「大六天魔王だろうが、それ以上の梟悪だろうが、『恐怖』っつうのは覚えるモンだ」

 

 ―――そうだ。

 あの笹の葉の変化術。そして、この悪寒。ようやく思い出した。思い出してしまった。異端の才能に長じていたが故に、自身と同じ外道に堕ちた修験者がいたことを。そして、表に出て来なくなったのでとうの昔に滅んでいたと思われていたその一族は、『魔術に恐れられる』敵だ。

 なんという迂闊さ。なんという無警戒。そんな大事なことに、今更気付くなんて……

 

 

「貴様が……今代の<果心居士>!?」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 <今剱(いまのつるぎ)

 

 伝説の名工――三条宗近が作ったとされる刀で、鞍馬山に奉納された後は源義経の守り刀となり、最後の自刃にも使われた経緯を持つ。

 その刀には妙な伝承があり、刀身の長さは“六尺五寸”、メートル法に換算すれば、一尺が30.3cmであるからにして、およそ197cm――ほぼ2mと、かなりの大太刀でとても自害用には向かない代物。それも源義経は戦の守り刀(おまもり)として鎧の下に忍ばせていたのだという。どれほど長くても鎧の下に秘蔵できるのは精々一尺(約30cm)であろう。実際、他の文献では六尺五寸ではなく、その十分の一の“六寸五分(約20cm)”だとも記載されている。

 故に、おそらく幼少のころにもらい受けた大太刀を源義経は守り刀とするために『刷り上げ』たのだ、という説が有力だ。

 『刷り上げ』とは、刀剣の刀身をより小ぶりにしてしまうほど大幅に研ぐ作業で、刃が著しく損傷した刀の修繕や長刀を短刀に造り変える場合に行うものだ。

 

 しかし、『刷り上げ』など行っていなかったとしたら?

 

 『自身の身長以上の長物を懐に隠す』などという、“物理的矛盾を覆す方法”が、あったとしたら?

 

 お守りを付けた物理的には20cmの物差し程度の警棒は、目には見えないだろうが“精神的な干渉範囲(リーチ)”は10倍となっている。

 

 しかし、こんなのは手品でもやるようなものだ。よくマジシャンが最初の挨拶代わりに手の中からステッキを出すような、一発限りの吃驚芸。次回は通用しないだろう。警棒のリーチに油断してくれたからこそ、相手はもろに食らったのだから。

 とても殺し合いで使えるようなものではないが、遣いようを考えれば何とか実戦に活用できる程度。

 それに<今刀>の術式は、本来、戦闘用ではなくて……

 

「痛っつ……腹を切るって…感覚だけは…あるから…何度やっても…慣れない」

 

 山伏を“刺した”警棒を今度は自分の腹に突きつける。

 物理的には問題ない幻刀で“自害”するため。

 

「だが…こうでもしないと…いつまでも…ハイになって…面倒なことに…なるからな」

 

 あの『科学に愛される一族』がいるように、『魔術に怖がられる一族』がいる。

 魔力精製回路のセッティングを間違えれば、その魔術師は自滅する。二度と魔力を精製できなくなる。などと様々な症例がある。

 何にしても、魔力精製回路のセッティングの失敗は絶対に起こしてはならないものなのだ。

 

 その絶対に起こしてはいけない失敗をしてしまった先祖は寺から追い出された。

 

 タタリにあったんだろうか、バチがあたったんだろうか、または営業悪魔(メフィストフェレス)に魂でも売って契約でもしたのだろうか。そんなのはあやふやだ。

 わかっているのは、それは子孫末裔まで拘束され、何度壊そうとしても勝手に復元してしまうとんでもない呪いであること。

 魔力の精製量は何の問題はないが、特異的な性質を帯びてしまう体質であること。

 

 その効力が、『恐怖』。

 人を含め動物は、危険なものが発する音や燃え盛る炎を遺伝子レベルで怖れるよう設計されている。

 一族のものが発する魔力は、それと同じようなもので、感知しただけで相手に恐怖を植え付け、恐怖を増幅し、やがては恐怖で幻覚を視てしまう。

 何の術を使わなくても、勝手にそうなってしまうのだ。常時、強力過ぎる『人払い』を働かせているといってもいい。

 

 ただそばにいるだけで殿様が、己の裡に閉じ込めた恐怖(トラウマ)の蓋が開いてしまい、過去に殺した女の幻を見てしまって、発狂することだってありえる。

 そして、人は恐怖から目を逸らしてしまうもの。

 

 故に、この魔力に当てられた不必要なまでに過剰に警戒してしまった山伏が接近を許したのも、

 そこへ移動するのが、見えなかった、ではなく、見なかった。見ようとしたくなかったからだ。

 そして、実際は無事なのに、幻刀で精神的に刺されたという恐怖が増幅され、意識の安全装置(ブレーカー)が働いて気を失った。

 

 遣いようによっては、武器にもなるし役に立つことがあるが、この通りに『色』がついてしまっているので、純粋な魔力としての質はかなり悪い。魔力を精製させる元の原油である生命力に不純物(問題)があるからどうしようもない。こんな純度の低い魔力しかつくれないようでは、簡単な術式を発動させるのだって他の魔術師ようにうまくいかない。

 それにこのまま魔力発散を元気にさせておけば、けして強くもないのに世界中を敵に回しかねないので、この切腹用の術式が施された警棒の先に延びる幻刀を自らの腹に刺し、呪いじみた回路を壊す。

 

「……あなたが<果心居士>なんだね」

 

 以上の説明をこちらがせずとも悟っているであろう、一時の協力者であった修道女が、話しかけてくる。

 <果心居士>

 元は修験者であったが外法に長じた才能があったとして破門され、第六天魔王の織田信長が自身よりも悪人だと称した松永久秀、さらには豊臣秀吉といった時の権力者たちを『恐怖』させたという生年も没年も本名も一切不明、『服部半蔵』と同じく忍者であったとも噂される“幻術師”――現代における奇術師(マジシャン)である。

 

 故に、彼は魔術師ではない。魔術師などと名乗らない。魔法名(殺し名)なんて持ち合わせていない。所詮は相手を『恐怖さ(驚か)』せることしか能がないのだから、吃驚して一瞬心臓が止まったくらいはあっても、とてもこんなもので人なんて殺せるはずもない。

 それに作れば作るほど人から避けられ、孤立を招いてしまう魔力しか精製できないのだから、『魔術に恐れられる一族』は、魔力回路を封じる術や追手から逃亡する術を考案し、魔術ではなく魔力にできるだけ頼らない、消費してもできるだけ節約する奇術幻術を模索してきた。

 が、

 

「いいや…今代の<果心居士>は…死んだ」

 

 それは一族の呪いに嫌気がさした最後の跡継ぎが、魔術とは別のもうひとつの異能――科学に憧れた愚か者であったせいで終わっている。

 と、修道女はそのことをあまり追及せず、頭を下げた。

 

「助けてくれてありがとう。そして、ごめんなさい」

 

「こちらも…助かった。君が庇ってくれなければ…鉄装先輩は…無事ではなかった…だから…頭を…下げなくてもいい」

 

 謝罪を断ろうとするも、修道女はふるふると頭を振り、

 

「だって、あなた、最初は私のことを避けようとしてたでしょ? 最初はご飯のお礼も言いたくてあとを追ったんだけど……私のせいで、迷惑かけちゃったね」

 

 彼女は、わかっている。

 <禁書目録>という重荷がどれほどのものであるか。

 それは、今が精一杯の自分なんかが庇えるようなものではない。それがわかっていたから直視したくなかった。

 

「ああ…いい迷惑だ」

 

「うん……」

 

 彼女を助けられるのは、おそらく自分以上の大馬鹿者でないと無理だ。

 だから、その言葉を自分は否定しない。

 しかし、今の自分は仮にも子供たちの味方である<警備員>。ここで何も言えなかったら、また先輩にどやされてしまうだろう。

 『失敗は行動で返せ』と教えられているのだから、失言は言葉で返そう。

 

「奇術師は…子供に…手品(マジック)の種を…見破られたら…廃業しなければ…ならなくなるからな。…君みたいな…賢い子の前に…立つなんて…いい迷惑だ」

 

 結構恥ずかしいが、青臭い言葉を口にする。

 この薄幸の修道女に幸あらんことを祈りながら。

 

「もし…困ったことがあれば…<警備員>の第73支部へ…そこの人間は…多少の面倒事で…嫌がる顔をする者は…ひとりもいない」

 

 それから、貸した昼食代を返す当てがあるなら―――と。

 修道女は、それに少しだけ救われたかのように、弱くだが微笑んでくれた。

 

 

 では、今日の大一番。

 ここに来る怖い怖い二人組猟犬から逃げる脱出手品(マジックショー)の仕掛ける作業に移るとしよう。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 出所がわからない熱は、古来、魔術(オカルト)の痕跡だった。

 たとえば十九世紀、大西洋で帆船マリー=セレスト号から乗員がそっくり消える怪事件が起こった。その無人で漂流していた船には、直前まで人がいた気配があった。まだ湯気を立てていたコーヒー。調理室で火にかけたまま煮立っていた鍋に、船員の部屋に残っていたチキン。だがその船に『直前までひとがいた』とする根拠は、ほとんどが熱だ。

 

 

 バンッ!! と扉が外れんばかりの勢いで中へ突入。

 

 

「「大丈夫ですか(無事か)、インデックス」」

 

 思わず、そんな口調となってしまう。

 10万3000冊を狙う他所の魔術師に彼女が攫われた時は全身の血が凍る想いだった。

 そこから現場に急いで駆け付け、魔術師の術式の残滓から探査術式を発動させ―――それが偽情報で一杯喰わされたとわかった時はプロでありながら犯人へ罵声をありったけ叫び散らしたいところだった。

 

「………っ、ぐ………禁書…目録……」

 

 ようやく探り当てた現場にいたのは、身包みをはがされ縛られた老人のみ。

 直前まであの子の気配があったはずなのに、いない。

 しかし、ここに彼女がいなかったのは二人を逆に安堵させた。

 それはきっと無事に逃げられたという証拠であろう。

 もしもここで拷問のようなことが行われていたとしたら、己を抑えられた自信はない。

 

「コイツが……っ」

 

 二人組の片割れ、黒衣のローブを纏った赤髪の長身の男が、親の敵、それ以上の憎しみを込めて老人を――魔力の反応からして『人攫い』の犯人――睨み、霊装たるカードを切る。

 

「まさか、僕達の目の前で、僕達を出し抜いて、あの子に手を出す輩がいるとは思わなかったよ。ああ、よっぽど命が惜しくないと見るね」

 

 カードに刻まれた意味(文字)が彼の魔力を込められて意味を成す。

 斬りつけた相手を爆散させて灰塵にする炎剣を、気を失って無抵抗の魔術師に叩きつけようと―――したところで、もう一人の女性に肩を掴まれた。

 

「止めるな。コイツはここで殺す。学園都市(ここ)上層部(うえ)には話を通してある。住民だろうが何人消えても構いやしない」

 

「あなたの気持もわかりますが、それでも、不要な殺生は無意味です」

 

 彼女との力量差、そして性格を知る男は、チッ、と舌打ちして炎剣を消す。

 この男がイギリス清教の人間に手を出したのは事実。連行させてしかるべき処置を受けさせる。

 本来ならば、あの子に接触させる前に自分達が処理しなければならなかったのだから、ある意味この事態は自分達の失態だ

 

(しかし、あの子が“撃退”するとは珍しいですね)

 

 法王級の結界に守られ、あらゆる対抗策を知る、それだけで自分達の追跡を免れ続けている彼女であるが、それでも攻撃できるような武器は持っていなかったはずだが……

 それにこの現場も妙だ……

 

 帆船マリー=セレスト号の真相。

 熱の伝わる自然現象を固定し、あたたかさを保つ陣を敷いた、それはちょっとでも部屋の状態が変わっただけで儀式破壊されてしまうような硝子細工で、その戸を開けようと“特殊な右手がなくても触れただけで”、食べ物を温めていた魔術が破壊され、生活の気配がある無人の風景が完成するのである。発見した船員たちは、自分たちが乗員消失という謎の最後の仕上げをしたと気付きもしなかったろう。魔術師たちが快適に過ごすための魔術を残して素人の訪問者から逃げ去った事例は、他にもお伽噺にもあり、善良な旅人が今まで人がいたようなあたたかい家に出会うお話の原型がこれである。

 

 故に、ここに探知材料となる魔力の残滓はない。

 しかし、彼女はその役割上、魔力を精製できない体質だ。

 同じくここの奇妙さに何か痕跡はないかと視線を巡らせていた男は、煙草を一本咥えて、

 

「ああ、そうだね。百回焼き殺したってし足りないところだけど、もうすぐ一年だ。時間がない。僕たちは、こんな奴に構ってる余裕なんてない……」

 

 焦燥、怒り、そして、どうしようにもならないものが混ざった苦渋の面相。

 女性の方も同じ。その腰の2mを超す大太刀に手を添えて、

 

「ええ、刃をあの子に向けることになろうと、次こそは刀を、抜きます。<歩く教会>の結界があるなら……」

 

「……ああ、僕も今度こそ、本気でやる。もう、二度とこんなことは起こさせやしない。邪魔するヤツがいるなら<魔法名(殺し名)>を名乗って焼き滅ぼす。君が止めたって無駄だ」

 

 そして、あの子の――を消す。欠片も残さず殺し尽す。

 何度だって。

 

 

ファミリーサイド

 

 

『あんにゃろ、先輩を使うとはいい度胸してるじゃん』

 

 

 巡回中、相方の先輩教師鉄装綴里がドジって素っ転んで怪我をしたとかで病院へ。

 そういうわけで、今日の飲み会はお断り。それから、迎えを代わりにお願いします。

 いつも呑んだくれを背負って帰る後輩より。

 

 みたいな、連絡(メール)が着たそうだ。

 付き合いをキャンセルされ雑用を押しつけられた先輩の黄泉川先生は愚痴ってるけど、<警備員>の巡回帰りに棚川中学に寄って代役を果たしてくれるだけでなく、ちゃっちゃと自分ら二人分の夕飯を(炊飯器ごと)用意してくれたりする。

 『アイツが帰ってきたら一緒に食べるじゃん』、って言われたのでまだ炊飯器を開けてないけど、きっとおいしいだろう。

 おじさんも、『どうして…炊飯器で…炊かれた煮魚なのに…普通に上手いんだ?』といつも不思議がりつつ残さずに食べてるし。

 自分には黄泉川先生のようになるな、とか何とか言ってるけど、しっかりと餌付けされて懐いてるようにしか思えない。

 あれでも昔は数多おじさんのところで“猟犬”をやっていたのだから不思議である。

 と、木原円周は部屋で一人、三度目の飯を無視して没頭しているのだが、

 

「困ったねー。幻生おじいさんの匂いがしたんだけどなー」

 

 自前のスマフォを半自動的にハッキングできるように改造しているも、本来彼女は、水の一滴からでも新科学を抽出できる以上、学習するのに、学校も友人もテレビもインターネットも必要としない。

 しかし、学習する成果を発揮するには、身体ひとつでは色々と足りないのである。

 それに木原円周は<木原>が足りないのだから、不足分は外から補わないとならない。

 そんなわけでこの<幻想御手>の根底にある<木原>に惹かれて没頭していた。

 

「うん、うん。やる前から失敗するのは予想してたよ。この制作者がしようとしてることはわかってるけど、これに<樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)>の代用させるのは無理だって。でも、ただの失敗で終わらせるのは<木原>らしくないからね!! 『実験体(モルモット)を壊すことで限界を研究する第一歩』だよね、幻生おじいさん」

 

 <幻想御手(レベルアッパー)>の理論はわかったけど、それを再現するには、身近にある設備道具の性能(スペック)では無理がある。

 だけど、元々あったそのネットワークに介入することはできる。

 こちらで調整させたアケミ、マコチン、むーちゃん――実験体(ともだち)をリンクに繋げることで、“改造”データがネットワークに浸透し、より性能が向上するだろう。ただし、近々、暴走することになるだろうが。

 やはり、この少女は<木原>なのだろうか―――

 

「……んー、でも那由他ちゃんなら実験体をこのままにしないだろうから、ワクチンも作っておかないとねー。それに、このままだとコージおじさんに怒られちゃうし。もうすぐ夏休みだから機嫌とっておかないとねー」

 

 ……………。

 <学習装置(テスタメント)>を半端に終わらせてしまったことが原因の誤作動か。

 どんな理由であれ、無数の人格(カード)があろうが、それを選ぶのは円周自身。

 その一族で唯一の光ある可能性を拾ったのなら………まだ望みはあるか。

 

 

「ふん、ふん。そういえば補習であすなろ園に行く事なったけどどんな所かなー?」

 

 

 

つづく

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