────耳を澄ます。
バグはシステムと相反する物だ。バグは存在する限り、システムとの不合理による
──── ジジッ ────
微かな音に、少女はすぐさま反応した。
バグの場所に目星をつけ、少女は駆け出す。すぐさま、バグの姿がその目に映った。
人型────ではあるが、その姿は酷く粗く明瞭な姿を捉えることは出来ない。ただ。その目が赤く染まっている事だけは視認できた。
────敵は大きくない。バグとしては、それほど強い部類でもない。
しかしそれは、あくまで
故に、少女は対抗手段を発動した。生身のままで戦えない
「Voidoll────
少女の声に呼応して、宝石が再び輝き出す。しかしそれは、先程のバグ空間を発見した時とは比べ物にならない程の光だった。
そして────その光に包まれて、少女はその姿を変えた。
異様に細い四肢に、釣り合わない大きさの
少女の面影を残しながらも、彼女はその姿を大きく変貌させていた。
『Voidoll』────それが、少女の操る力の名だった。あるいは、少女が借りる力の持ち主の名だった。その力で、少女はバグを削除すべく双眸をバグへと向ける。
そして────少女は、急速に突進を開始した。
バグの元へと一直線に突っ込む。その速度は恐ろしく速い────しかし、バグはそれにすぐさま反応して迎撃を繰り出した。
少女はそれを、バックステップで回避する。そして、攻撃の隙を突くようにその手を突き出した────すると、その手から鉤爪のようなものが突出する。その爪で、少女はバグを引き裂いた。
────しかし、まだバグは消滅しない。手負いのまま、損傷など気にも留めずになおも攻撃を繰り返す。
「────ッ」
少女はその攻撃を受け、苦痛に顔を歪める。
────少女はこの力をまだ上手く使いこなせておらず、単調な加減速と移動は出来るものの複雑な回避行動や咄嗟の行動が取れない。故にバグの攻撃への対応にも遅れ、手痛い一撃を喰らってしまった。
しかし、少女はその痛みを堪えて戦闘を続ける。バグと対峙して、その上で逃げ出すなど考えられた事ではない。
それに────Voidollの真価は、
「やああぁぁッ!!」
気合一閃。少女は気迫と共に、
Voidollの
さらに、Voidollは任意に『ダッシュ』する事で自身の速度を向上させる力も保持している。この二つを重ね掛けする事で────少女は、
当然、力を上手く使いこなせていない少女にその速度を制御する事は出来ない。だが────
バグの反応速度をさえ追い越したその突進に、小細工は必要ない。反撃などされない、防御は必要ない、中途半端なブレーキはむしろ隙だ────
「だぁぁあッ!!」
少女は、鉤爪を槍のように変形させ────勢いのまま、バグの土手っ腹を貫いた。
バグは動きを止め、一瞬だけ少女を一瞥し────そして、灰のように崩れた。
「……勝っ、た……?」
少女は張り詰めていた緊張を解き、その場に頽れた。
────バグ空間に来るのも、バグと戦闘をしたのも初めてではない。しかし、単独でバグと対峙したのは────これが初めてだった。緊張しないと言えば嘘だろう。何せ、バグと対峙するのは死の危険すら孕んでいるのだから。
「はぁぁぁ……ああもう、早くこんなとこおさらばしよ────」
少女は、そう言ってすっくと立ち上がる。そしてVoidollの変身を解除しようとし────
──── ジジッ ────
その音に、解除の中断を余儀なくされた。
この音がまだ聞こえる。それは即ち、
少女は、緊張の面持ちを取り戻す。既に疲弊した身だが、バグを放置していそいそと逃げられる訳もない。再び、少女はバグの捜索を始めようとした。
────しかし、その必要はなかった。
何故なら────バグは既に、少女の後ろにいたのだから。
少女はバグの接近に気付かない。バグはそんな少女に構うことなく、その腕を振り上げた。
「豁サ縺ュ縲∫ァ?#縺ョ諱ィ縺ソ繧呈匐繧峨&縺帙m」
「────ッ!?」
バグの声に、少女は瞬時に振り返るが────遅い。バグの一撃が、少女にクリーンヒットする。
「っあ……!」
痛みに顔を歪める。先程既に半分だった体力が、容赦なく削られていく。
少女は思い切り吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる事でようやく静止する。まだ痛みに鈍る視界で、バグの姿を確認し────そして、少女は絶望した。
バグは1体ではなかった。そこに確認できたバグは3体────しかも、その全てが先程戦ったバグより強い個体だ。そして、そのバグを前に自分は体力がほぼ底を突いている。絶望以外の何も感じられる事はない状況だった。
────バグの世界において、体力とは即ちバグに侵されない為の論理装甲の耐久値を意味する。つまりそれがゼロになった時、
つまり────少女もまた、死の寸前に身を置いているという事だ。あるいはもう、死を待つばかりとさえ言える状況だった。
────嘘だ。こんなにもあっさりと、死ぬのか?
違う、そんなのは違う、まだ死にたくない、誰か助けて────
少女は情けなく、懇願した。誰に届くはずもない、誰もいない世界で助けを求める。
しかし、そんな思いは声にすら出ることは無く────
────しかし。
「────その子に触れるな!!」
そんな声が、
紫の入ったピンク色の髪と眼が特徴的な女性だ。少女よりも高い身長、凛とした顔立ちをしている。
「もう大丈夫。そこで待ってて?」
女性は少女におどけた笑みを一つ浮かべて、すぐさまバグへと向き直った。途端に女性はその眼差しを鬼のように強くし、理性の壊れているハズのバグをすらたじろかせる。その隙を見逃さず、女性はホルスターの銃を素早く抜いて腰溜めに撃った。
西部劇のガンマンなどが使う早撃ちの技術────クイックドロー。それを即座に実行、的確にバグに叩き込む。
あまりにも早い銃の連射。瞬く間にバグが霧散していく。
一瞬で3体のバグが削除される。その技量は疑いようがなかった。
驚きの早業に少女が呆けていると────女性が歩み寄ってきて、少女に声を掛けてきた。
「大丈夫だった?────コカネーションちゃん」
女性が口にしたのは、少女の名前だった。