五月五日
深夜の路地裏には、絶叫と悲鳴が響き渡る。血飛沫で塗られた壁、大量の鮮血でできた血の池。ここで何があったかは言うまでなく、殺人だ。それもかなりタチの悪い殺され方で。
全身を何かで抉られたり、果物のように綺麗に切られたりして肉片が当たりに散らされている。血の特有の鉄の匂いが辺りに充満している。
「あぁ…つまんねぇな…。」
人間の頭と思わしきモノを小石を蹴るが如く蹴り捨てる一人の女性。こんな物騒な場所には似合わない高級ブランドの衣服に身を包み、清楚な雰囲気を晒し出している。名を『
暗部組織の一つ『アイテム』のリーダーにして、230万人の学生の頂点に立つ
『粒子』又は『波形』のどちらかの性質を状況に応じて示す電子を、 その二つの中間である『曖昧なまま』の状態に固定し、強制的に操ることができる能力。
極めて雑に説明するならば「全身からビームを撃てる能力」。
本人曰く、「イージス艦程度から簡単に切断できる」と豪語するほどの破壊力を持つ。
現に、死体をバラバラにしたのもこの能力によるもの。人間程度であれば、ただの肉片に変えるのもワケなくできる。
彼女に殺された男性は、とある研究所の研究所員。学園都市の敵対勢力に、情報を売買しようとしたところを暗部に感知され、それに伴い派遣された麦野によって粛清という名の死を与えられた。
当然と言えば当然。裏切りには制裁をもって答えるのが当たり前。例え仕事の一つだとしても、麦野は何より裏切りを嫌う。それが自身に関わる人間であろうともだ。
「あぁ…また服を汚しちまったぜ…」
折角の高級ブランドの服が返り血を浴び、べっとりと着いてしまっている。清潔感のない血染めの姿で佇んでいるが、麦野自身それらをあまり気にしてなどいない。
うっかり服に醤油を零した程度にしか思っておらず、高級ブランドの服とはいえ、替えならいくらでもある。一つ駄目になった程度で残念がることもない。
「(とっとと帰って寝るか…)」
能力を行使で、多少の疲労感を覚える麦野。髪をかきあげ、その場を立ち去ろうと路地から出ようと歩き始める。
麦野が拠点としているアジトへの道のりはかなり遠い。タクシーを拾おうにも、こんな血塗れの格好では警備員の御用になるのが関の山だ。
「(仕方ねぇ…)」
おもむろにポケットから携帯を取り出し、電話をかける。耳に携帯を当て、プルルルル、プルルルルと鳴る機械音をBGMにし待つこと数秒。
「ーーーーー。」
「あぁ、私。悪いんだけどさ…今日泊めてほしいんだ。大丈夫か?」
「ーーーー。ーーーーー。」
「わかった。それでいい。直ぐに向かう。」
通話相手との交渉を取りつけ通話を切り、目的地へと歩き出す。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
歩くこと数分。
漸くたどり着いた目的地は第七学区の高層マンション。見る限り、裕福な人間が暮らしていそうな造りだ。事実ここを使用出来るものは、大能力以上のものに限る。
そんな麦野は慣れたかのような手つきでパスワードのロックを解除しマンション内に入る。
「やあ、待ってたよ。」
壁にもたれかかり、麦野に手を振る少年。パーカーを着込み、中性的な顔立ちをしているのが特徴だ。
長年の付き合いのある友達のような雰囲気を晒し出している。
「久しぶりだな。
「おいおい、ここでは神野芸夢か管理人と呼んでくれ。創作者の方は好きじゃない。」
と言いつつ芸夢は苦笑いを浮かべる。
という嘘か本当か分からない噂ではあるため、信憑性は低い。所詮は誰かがでっち上げたくだらない
しかし、この少年。
『
それは麦野が芸夢と初めて出会った一年前までに時間を溯る。
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『一年前』
統括理事会。学園都市の上層部より麦野に下された一つの
暗部の仕事を何年もこなしてきた麦野はこの指令に少し不満を抱く。報酬自体は悪くない額であるが、不満に思ったことはそこではない。
たかが一人の暗殺のため、わざわざ自分が駆り出された事だ。本来であれば下部組織で事足りる事だ。
「ちっ、とっとと終わらせてやる。」
行き場のない苛立ちを抑え、意識を切り替える。たった一人の暗殺であるならば、私だけでいいと言い、麦野は単独で任務に着いていた。
もうすぐ日付けが変わろうとしている深夜の路地裏。指定されたポイントで息を潜めながらターゲットを待ち構える。
「コツン…コツン…」
深夜の路地裏に響く足音。少しずつ少しずつ麦野の方へと近づいてくる。
「コツン…コツン…」
深夜の静寂とともに、暗闇から現れたのはターゲットの少年『
麦野は芸夢が現れた事に嬉しさを感じ、薄らと笑を浮かべる。
それと同時に能力を発動。麦野の背に四つの光球が出現させる。光球のエネルギーを収束させ、光線として撃ち出す。
四つの光線は高速で芸夢へと迫る。
「(決まった。)」
光線は芸夢の背中にまで迫り、着弾。するかと思われた時だった。
「キィン!!」
と甲高い音ともに光線が弾かれる。
なにが起こったのか。撃った張本人である麦野には良く分からなかった。自身の放った光線が芸夢によってありえない方向に弾かれたこと以外は。
自信満々に放った一撃をいとも簡単に弾かれた事に驚き、数秒思考が停止した。
「ん?」
ふと芸夢は後ろ振り返る。あたかも今気づいたかのような反応をする。あれだけ派手な音を立てた行動にも関わらず、自身が狙われていると認識したのはたった今の出来事だ。
薄らと笑を浮かべ、新しい玩具を見つけた子供な無邪気な目で麦野を見つめる。
「ふぅーん、なるほど。今日の刺客は君って訳か。いや~
皮肉めいた口調で麦野へと語りかける芸夢。
ハッと麦野の思考が回復する。自身の攻撃が当たらなかったという現実に唇を噛んで悔しがる。激しい悔しさ共に怒りが込み上げてくる。
「てめぇ、今何をしやがった。アタシの攻撃どうやって弾きやがった!!」
自信満々に放った一撃を易々と止められた事に、麦野は若干のイラつきを覚える。そのせいか、先程までの落ち着きようから一変して口調が悪くなる。
「何、簡単なことさ。僕の能力で君の放った光線を反射しただけさ。『
反射。向かってくる力に対してそれらを跳ね返す。放った光線が不規則に曲げられのはそういう事だったのか。しかし、超能力者級のものを弾くとなれば、言うほど簡単ではない。
だが、同時に能力の相性が悪いことが分かってしまい、苦悶に満ちた表情を浮かべる麦野。たかだか一人の少年の暗殺で、苦戦を強いられると思ってもみなかった。予想外の出来事に思わず、チッと舌打ちをする。
「たかたが一回弾いた程度に調子に乗るなよ、クソ野郎!!」
激昴した麦野は再び光線を放つ。先程よりも威力上げた一撃。
「キィン!!」
反射板と粒機波形高速砲はぶつかり合う。ぶつかり合う二つの能力の余波により、コンクリートの壁は砕け、アスファルトの歩道がひび割れていく。
周りの風景を変えるほどの力と力のぶつかり合い。この緊迫した状況、先に動いたのは麦野だった。
「これでてめぇも終わりだァ!!」
麦野は懐から何かを取り出す。長方形のカードの様な形をしたものを空中へと投げる。
そのカードに極大の光線を撃ち込まれる。
「まさか!?」
打ち込まれた粒機波形高速砲は幾多の光線へと拡散させる。一つ一つが必殺となりうる威力を持つ粒機波形高速砲が拡散されたことで脅威の破壊力を生み出す。
芸夢もこれには驚き、乱反射板を強化するも時既に遅し。
粒機波形高速砲に破られる。
「これで死ねぇぇぇぇぇ!!」
再び粒機波形高速砲を撃ち込まれる。
『次回に続く。』
ちょっと描き漏らしなどがあり、申し訳ありません。
それでも見てくださった方は、本当にありがとうございます。
麦野編は2部に分けますのでご了承ください。
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