適当に読み飛ばしてくだしあ
数日前——
『アルベドがアインズの子を妊娠!!』
その日、ナザリックは揺れた。
驚愕のニュースは瞬く間にナザリック中に駆け巡った。どのくらい瞬く間だったかというと、情報が伝達しきるのにかかった時間は凡そ120秒、たったの2分であった。それぐらい衝撃的なニュースだった。まぁ、新たに神の子が誕生しようというのだ、シモベ達にとっては驚天動地の大事件であろう。
そして、このビッグニュースに対する各々の反応はというと、大体このような感じだ。
「アインズ様のお世継ぎが?そうですか……それはそれは喜ばしいことです。大慶至極に存じます」
仕える主人が増えるという望外の喜びと驚きに包まれながらも、紳士な態度を崩さずに静かに祝いの言葉を述べるセバス。
「至高の御方にお世継ぎが!?おお、なんたる福音か!このデミウルゴス、心より祝福させていただきます!」
待望だった至高の存在の後継の登場に純粋な祝福を送りつつも、胸中で様々な算段を立てるデミウルゴス。
「アインズ様に御子が!?それは実に素晴らしい!あの素晴らしい光景が現実に……あぁ良い、良い光景だ……」
明るい未来を思い浮かべて、妄想世界にトリップするコキュートス。
「アルベドに赤ちゃんが!?しかもアインズ様の子供!?」
「す、すごいねお姉ちゃん!アインズ様をお祝いしなくちゃ!」
「そ、そうね。でも、アインズ様が一体どうやって……?」
吉報を諸手を挙げて祝うマーレと、降って湧いた疑問の所為で微妙に喜べないアウラ。
「ンアインズ様がお世継ぎを!?それは、もしや私の新たな兄弟が誕生するということではないか!?Das ist wunderbar!!(素晴らしい)Ich gratuliere!!(おめでたい)」
そして、この件に対し誰よりも喜びの声を上げたのはパンドラズアクター。喜びの余り、ドイツ語まで飛び出してしまっていた。
とまあ、殆ど全てのシモベ達がアルベドの妊娠、もといアインズの子の登場を祝い、祝福の言葉を述べたのだった。そんな感じでナザリック全体がお祭りムードの中、何やら干からびたカエルのようにしおしおになってしまっている者が若干3名。
「ははっ、俺、童貞のまま一児の父親だってよ……はははははっ。いや、今は母親なのかな?はははは、ははははははぁ……ああああああ!!夢だ、これは悪い夢だ……」
まず1人目。あの後、正気に戻って自身の状況を正しく認識してしまったが為に、SANチェックが必須な状態のアインズ様。幸いなことに、ショットバーに入ってから先の記憶は殆ど無かったのだが、目が覚めたら色々汁塗れだったり股間が痛かったりで、大体察して目のハイライトが消失。更に妊娠発覚のダブルパンチで再起不能に至った。
因みに、彼にとって一番ショックだった出来事は、アルベドの体に宿る母性本能の影響なのか、お腹の子が愛おしくて愛おしくて堪らなく感じてしまうことだった。子を堕ろすなど以ての外で、それどころか、気を抜くと腹部を撫でながら聖母の微笑みを浮かべてしまっている程だ。そんな自分自身の姿に、深い絶望を感じていたのである。
「アインズ様とお会いできない?お声を聞くことも許されない?1ヶ月もの間、アインズ様と一切関わってはいけない……?そんな……そんなの嘘よ……嘘、嘘、嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘、嘘よぉぉぉおおおお!!」
2人目は、この頭を抱えて悶え苦しむ白骨死体だ。勿論中身はアルベドである。あの後、正気に戻って死んだ目をしたアインズに、1ヶ月接触禁止の厳罰を下された。残念でもないし当然の結果である。
因みに、アルベドの姿のアインズが接触禁止を命じると、入れ替わりを秘匿している今対外的にマズイので、アルベド自身に命じさせた。自らアインズとの接触を断つと宣言するのは、アルベドにとっては自害するよりも遥かに恐ろしく厳しい行為であったという。
「アルベド……妊娠……アインズ様の……お世継ぎ……アインズ様の……アインズ様の……アインズ様……アインズ様……アインズ様……アインズ様……アインズ様……アインズ様……」
そして3人目は、第一から第三階層の守護を任されている、階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン。アルベドとは正妻の座を争っていた犬猿の仲だ。
そんな彼女は現在、アイデアロールに成功してしまったのか目の焦点が虚ろで、アインズの名を呟きながら壁に頭を打ち付けては反動で倒れ、また起き上がっては壁にぶつかって倒れるという奇怪な行動を繰り返していた。知らぬ間に正妻の座を奪われていたことと、先日の失態も相まって深刻な精神的ダメージを負っており、その症状は3人の中でも特に重症だった。
そんなこんなで、3人は暫く各々の自室に閉じこもって錯乱状態だった訳だが、その中で真っ先に正気を取り戻したのはアルベドだった。優秀な彼女は、失態を犯しておきながら何もせずに徒らに時間を浪費するという行為を良しとしなかった。
「こんなことしている場合ではないわ……今回の失態を帳消しにすることはできないかもしれないけど、少しでもアインズ様のお役に立って信頼を取り戻さなければ……このままアインズ様に見捨てられないように、最善を尽くさなくては……」
そしてなにより、アインズに見限られてしまうのが恐ろしかった。もしかしたらアルベドに失望したアインズは、他の至高の存在と同様に姿を隠してしまうかもしれない。考えただけで死をも生易しく思える恐怖に体が震えた。アンデットの特性により感情が抑制されるが、その恐怖はこれっぽっちも収まることはない。それ程までに、アインズがいなくなる可能性をアルベドは恐怖していた。
取り敢えず立ち直ったアルベドは、自分は何をするべきか検討する。直接会うことが不可能な以上、失態を取り返す為の手段は限られる。アインズは、望んだモノを全て手に入れられる強大な力をと叡智を持っている。(アルベド視点)そんな、神にも勝る超越者に満足して貰うには、一体何を捧げるべきか。
「やはり、この世界を献上する他ない……」
この世界を征服すること、それはアインズの兼ねてからの願いだ。(アルベド視点)この悲願を達成することこそ、アインズの望み。であれば、世界征服を為すのを手助けするのに出来ることは何か。
「ナザリックの力をより高めること、それこそが私が今為すべきこと!」
そうして、アルベドによるダークエルフ軍製造計画が始動した。元々《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》は軍事利用も加味して開発した魔法だったので、計画の進行もスムーズだった。
因みに、この計画について、アルベドは言伝でアインズに許可を取ったのだが、妊娠発覚のショックで放心状態だったアインズは計画についての報告を一切聞いてはいなかった。右耳から左耳へと素通りしていく情報に対して、生返事で適当にGOサインを出してしまったのである。
「あぁ、何と慈悲深きお方なの……感謝致しますアインズ様。私にもう一度機会をお与え下さるのですね。どうか暫しお時間をくださいませ、必ず、必ずやこの世界をアインズ様に献上してみせます!」
そして、そのGOサインはアルベドの決意を強める最後の一押しとなったのだった。守護者統括アルベドは、これにて完全復活を成し遂げた。
次に正気を取り戻したのはアインズだった。彼は、自身の状態がまだ完全に手遅れになった訳ではないことに気がついたのだ。
「そうだ、落ち込んでいる場合じゃない。このまま手をこまねいていたら本当に最悪の事態になってしまう!その前に出来るだけ、出来るだけ早くこの身体から脱出しなくてはならない!!」
今はまだなんの変化も見られない腹部を見ながら決意を露わにするアインズ。その場所が膨らみ始める前に元の体に戻ってしまいさえすれば、精神的ダメージは少なく済ませることが可能なのだ。産まなければセーフ、という考えが彼の頭を支配した。果たして本当にセーフなのかは怪しいところだが、取り敢えず精神の安定を図ることには成功した。
そうと決まれば行動は早かった。元々アインズが研究するという名目で預かっていたワールドアイテム『強欲と無欲』を取り出して、ある場所へと向かう。その足取りに迷いはなく、もう後には引けないという確固たる決意が見て取れた。
そうしてやってきたのは、一般メイドの仕事場だった。アインズの目的はちょっとした確認である。それは、レベル1のホムンクルスである一般メイドは『強欲と無欲』を装備出来るのかどうか、というものだ。レベル1の一般メイドが装備可能ならば、ナザリックの殆ど全ての者が装備が可能ということになる。嘗て似たような実験をやった時は、使わなければ装備自体は可能という結果になった。
そしてその確認の真なる目的とは『アルベドと入れ替わるのは無理だが、別の誰かと入れ替わるのは可能なんじゃないか?』という疑問を解決する為ものだった。そう、アインズはこの体から離れられれば元の体に戻らなくてもいいと考えたのだ。とはいえ、入れ替わる候補はなるべく精査しておきたい。そんな訳で、レベル的に本来なら装備出来ない者がワールドアイテムを装備出来るかどうかをチェックしようと思った次第だ。
そう思ったのだが、ここでちょっとした問題が発生した。
「うーん、どうしたものか」
アインズとしてはメイドに用があっただけなのだが、偶然にも、そこにはダークエルフ軍製造計画の為の実験を指示しているアルベドがいた。この時点ではアインズは知らぬことだが、既にノーリとアジーンの姿もあった。
接触禁止を命じた手前顔を合わせづらく、アインズは物陰に身を隠す。そして、アルベドの実験風景を覗き見た。
「あれは……アルベドは一体何をやっているんだ?」
前述の通り、全く話を聞いていなかったアインズ。アルベドが何をしているのかさっぱり把握できていない。
「そういえば、アルベドが近々何かするって言ってたっけ?全く話聞いてなかったけど、アルベドなら大丈夫だろうってOKしたが、この前のこともあるし少し心配だな。何をやってるかだけでも分かればいいんだけど……」
怪しげな実験の様子に僅かに不安を覚えたアインズ。実験の真相を探るべく、影からコソコソと聞き耳を立てる。頻繁に聞こえてくるのは、サンプルがどうだとか、ノーリとアジーンがなんだとか。アインズにはよく分からない単語ばかりだ。
「《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》?知らない魔法だな……きゃっ!」
その時、不意に背後から強い力で何者かに腕を引かれた。余りに唐突だったので、危うく転びそうになりながらも何とか踏み止まる。そして少し不機嫌になりながら下手人を睨むと、そこにはもっと不機嫌な顔をした少女が仁王立ちしていた。
「何をしていんすの、アルベド?」
それは、3人の中で一番最後に正気に戻ったシャルティアであった。いや、正気というよりは、瘴気と怒気に包まれながら怒りのパワーで動いている感じだ。何故シャルティアは怒っているのか、その理由は主に2つ。
1つはアルベドの命令違反。接触禁止を命令されながらもアインズのことを覗いている、紛うことなき命令違反の現場を見たからだ。ただ、これに関してはシャルティアも同類だった。実は、先日のアインズへの反逆行為に対する罰として、1ヶ月の自室謹慎を言い渡されていたのだ。アインズの手を引き物陰に身を隠したのも、勝手に出歩いている現場を見られないようにする為である。
「アインズ様に夜這いを仕掛けて、魔法で無理矢理子を孕んだそうじゃありんせんか。ええ?アルベド」
そしてもう1つの理由は、とある噂に起因していた。その噂とは『《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》の発案者はアルベドなのではないか』というものだった。尚、正確に言うと、この時点では《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》についての情報は開示されていないので『生殖器を生み出す魔法があって、それをアルベドが作ったんじゃないか』という噂である。
アルベドが妊娠、その為の魔法を作ったのはアルベド、極め付けはアルベドに課された1ヶ月接触禁止の罰。それらの情報があれば、余り賢く設定されていないシャルティアの頭脳でも、ある1つの仮説が成り立つ。そう『今回の妊娠はアインズの意思ではなく、アルベドの勝手によってできたものではないか?』という説だ。
中身が丸切り入れ替わっていることを除けば概ね当たっているその説は、シャルティアの怒りのエンジンに熱い火を注ぐ原動力となっていた。表情は般若の如く歪み、いつでも殴りかかれるように拳はきつく握りしめられている。
「……まあいいか。シャルティア、ちょっとコレをつけて」
が、アインズもシャルティアの怒りに構っている程の余裕はない。シャルティアがそうであるように、アインズも結構切羽詰まっている状態なのだ。彼の脳内は、一刻も早くアルベドの身体から脱出する、という目標で埋め尽くされていた。
深く考えずに、シャルティアの体を入れ替わりの候補として定めたアインズ。シャルティアの手を取って『強欲と無欲』の片方を無理矢理その手に嵌める。
「ちょっ、いきなりなんでありんす!?」CV:原由実(アルベドの声優)
「……へっ?」CV:原由実(アルベドの声優)
一瞬、余りにも一瞬。エフェクトも効果音も情緒も描写も何もなく、一瞬で入れ替わっていた。外見に変化は何一つなく、中身だけが綺麗に入れ替わった。側から見れば、アルベドが急にシャルティアの真似をし始めたようにしか見えないだろう。
「な、何がどうなって……?」
キョロキョロと周囲を見渡すシャルティア。景色が急に変わった、声も低くなっている気がする。そして、目の前には白い籠手を付けた自分の姿。理解不能な現象の数々に、思考回路が軽くショートする。
「入れ替われたぁぁぁあああ!!」
「うわっ!?」
唐突に目の前にいる自分が歓喜に満ちた叫び声を上げた。シャルティアにはもう何が何だかわからない。だが、一つだけ分かることがある。この謎現象を起こしたのは、恐らくアルベドだということだ。
「ちょっとアルベド!一体何をしたんでありんすの!?」
「まあまあ、詳しい話は向こうで。一旦ここを離れるぞ」
アインズは慌てふためくシャルティアを宥めつつ、リングオブアインズウールゴウンを使い転移をした。
シャルティアの自室にて、シャルティアの姿をしたアインズが、アルベドの姿をしたシャルティアに向かって話をしていた。
「単刀直入に言おう、私はアルベドではなくアインズだ」
アインズはこれまでの経緯をあらかた説明した。当然、アルベドに襲われたこと等の隠しておきたい部分は濁しての説明だ。
「という訳で、私このワールドアイテムの実験を行なっている最中なのだよ
「アルベドの体の中に、アインズ様がいらっしゃる?……はっ!申し訳ありませんアインズ様!先程はとんだ無礼を——」
「よせシャルティア、この件でお前を罰するつもりは毛頭ない。寧ろ今後もそのままの態度で接しろ。入れ替わりの事実を他のシモベに知られるわけにはいかないからな」
「しかし……」
「敬語も無しだ。これからは、なるべくアルベドと同じ言葉遣いを意識するように」
「……はっ、承知致しましたアインズ様」
「……うーん」
なんだか既視感のあるやりとりだった。やはり、敬語禁止はかなり難易度の高い命令のようだ。アインズは演技指導の必要性を感じつつも、長くなりそうだと感じ後回しにすることにした。そう、色々あって忘れていたが、一つやっておきたいことがあったのだ。
「ところでシャルティアよ《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》という魔法を使うことは出来るか?」
それは、先程アルベドが使っていた謎の魔法についてだった。アインズは《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》という魔法に聞き覚えはなく、ユグドラシルには存在していない魔法だと思われる。となれば、あの魔法はアルベドが作ったか、或いは現地の魔法を習得したということになる。
どういう経緯で手に入れた魔法なのか、恐らくは既に報告済みなのだろうがアインズにはその報告を受けた時の記憶はない。しかし内容を直接聞くのは、自ら出させた接触禁止令の所為で出来なくなってしまっている。それに一度報告を受けたことを今更聞き直すのもなんだか気まずい。そんな訳で、一度使ってどんな魔法か調べようと考えたのだ。
「《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》でありんすか?私の習得魔法にはない魔法でありんすが……」
「いや、恐らくはアルベドが習得している魔法だ。体が入れ替わった今、お前でも使えると思うんだが、どうだ?」
「アルベドの魔法……えーと、多分使えると思うでありんす」
何やら魔法の名前に思い当たる節を感じたシャルティア。それは、アルベドの体に宿る記憶の欠片。アインズとアルベドが入れ替わる前、アルベドがその魔法を使った名残。それをシャルティアは機敏に感じ取った。
「そうか、ではやってみてくれ」
「はい、アインズ様」
シャルティアは右の手の平を手前に差し出した。その仕草は意図して行われたものではない。シャルティアが宿るアルベドの体は、勝手に最適な行動を取っていた。
そして、魔法が放たれる。
《クリエイト・マジカルセル/魔法細胞創造 》
シャルティアが魔法の言葉を紡いだ途端、眩い光が手の平を中心に巻き起こった。神聖さを感じさせる暖かな輝き。遍く生命が内に秘める、神秘の煌めき。心安らぐ柔らかな光に照らされて、2人は心が浄化されるような心地になった。
(この神々しいエフェクト、まさか聖属性の魔法か?)
聖属性の魔法はアインズ達アンデッドには脅威となる。アルベドがアインズを害するような魔法を作り出すとは思えなかったが、大事をとって少し距離をとった。
光はとめどなく溢れ出し、たっぷり数十秒の時間を掛けてようやく収まった。魔法を使う前後で大きな変化はないが、シャルティアの手の上には何かがあった。光によって眩んだ視界が、徐々に回復する。そして、2人の目に飛び込んできたものは、
「おおっ、これは……!?」
「この、感触は……まさかっ!」
長さ20センチくらいの肉の棒だった。
【諸事情によりカット】
一番重要なシーン(18禁)カットする屑
SAN値回復したら書く