面白ければ、いいなぁ。
ちょっと違っていたというお話
人理継続保障機関フィニス・カルデア。
魔術と科学の力によって人類史を観測し、未来を守る研究機関。
人類の希望はこの施設と、その内に存在する僅かな人々に託された。
いや、特異点Fにおけるレフ・ライノールの言葉の通りなら、『人類』とはもはや彼らだけを指す単語であり、それ以上その数が増えることはない。
人理焼却。
その目的を未だ彼らは知らないが、過去から現在にあまねく全ての人類史を燃やし尽くすという
“今”に生きる人々ではなく、“昔”に生きた人々の存在すら許さないその計画によって、人類という存在は根底から焼き尽くされた。
人類は直に敗北する運命にある。いや、既に敗北しているといっても過言ではない。
しかし、やはり『人類』に希望は残されている。
それはたった一人の少年。
魔術を知らず、科学にも精通していない、掃いて捨てるほどいる普通の人。
そんな彼の肩に、カルデア内の20人程度の『人類』と、そして失われた全ての人類の存在が掛かっている。
彼――藤丸立香には絶望を覆せる可能性があった。絶望に立ち向かう勇気があった。絶望に屈さない強さがあった。
されど、絶望を打ち破るだけの『力』を持ってはいなかった。
だが彼は一人ではない。一人だけで立ち向かう必要などはないのだ。
力がなければ借りればいいのだ。
そう、英雄たちの力を。
「先輩、そろそろ召集の時間です。急ぎましょう」
「フォウフォーウ」
「うん、そうだね、行こうかマシュ」
彼を先輩と呼ぶ彼女はマシュ・キリエライト。
その身にサーヴァント――英霊という人類史に刻まれた英雄・偉人の魂の分霊を宿す、デミ・サーヴァントである。
特異点Fにおいて、藤丸立香の力となった盾の少女である。
彼女の肩にはフォウさんと呼ばれる正体不明の可愛らしい珍獣が乗っかっていた。
「やあ、立香くん。呼び立ててしまってすまない」
「違うぜロマニ。そこは『二人の逢瀬を邪魔してすまない』っていうところさ」
好き勝手に二人を出迎えるのは、こちらも二人の男女。
カルデア医療部門のトップであり所長代理でもある優しげな風貌をした男性ロマニ・アーキマン。通称ロマン。
最も美しい存在になるため性転換まで果たしてしまった、歴史に燦然と輝く万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ。通称ダヴィンチちゃん。
「お、逢瀬なんてそんな……。そもそも私たちはまだ出会って間もないわけですし」
「はーいストップ。ダ・ヴィンチちゃんもふざけないでください。マシュは純情なんですから」
「フォウフォフォーウ?」
「ハッハッハ、いやすまないね。どうも若い二人を見てると私の悪戯心が働き始めるようだ。何たってほら、私天才だから」
「天才は関係ないと思うんだけどなぁ」
人数も倍になり賑やかさを倍増する面々。
そこに人理救済に対する重圧は感じ取れない。
タイムリミットの一年までしばらくの猶予があるからかもしれないが、彼らはまだその身に悲愴さを帯びてはいなかった。
「さて、それじゃそろそろ本題のほうに移ろうじゃないか」
「先に脱線させたのはレオナルドじゃないか」
「細かいことをいつまでもウジウジ言うなって。そんなんじゃすぐにハゲるうえ、隠してた大福にカビが生えるぞ」
「うえぇえ?! ハゲは良いけどカビは関係ないでしょ! いやハゲも良くないけど!」
「ドクター、ダ・ヴィンチちゃん。また脱線しています!」
「おっといけない。今度こそ話を戻そう。その前に、君は今回の目的は理解できているかな?立香くん」
「えっと、確か、新たにサーヴァントを召喚するでしたよね」
「そう、大正解だ」
立香の回答に満足げに頷きつつ、ダ・ヴィンチは補足を加えていく。
「まだ君たちには言ってなかったが、昨日の時点で特異点の観測が確認された」
「特異点……。」
「そう、今後私たちが修正していかなければいけない人理定礎。その一つ目に当たる点だ」
「本音を言うと今すぐレイシフトして貰いたかった所なんだけど、それをするにはあまりに戦力が足りていない」
「こっちにはマシュが居ますけど?」
「私じゃやはり力不足だという事でしょうか?」
立香がロマニの発言に噛みつくように応え、マシュは自分の力のなさを自責する。
「そうじゃない。先の特異点で騎士王の聖剣を防いだというこれ以上ない実績がある。マシュの力が足りていないということはない。とはいえだ。どこまで行ってもマシュは一人。マスターを守ると同時に敵を撃破していくというのは、流石に荷が重いとこちらは判断した」
ロマニの諭すような発言に、二人は納得の表情を見せた。
特異点Fでも一人だけだったら厳しいだろうと感じていた。
「そういうわけで、こちらとしてはまず戦力の拡充を図ることにしたのさ。単純に、一人より二人、二人より三人の方が何かと都合良いでしょ?」
「そこでこの天才ダ・ヴィンチちゃんが一人徹夜で召喚システムについて調整していたというわけさ。褒めてくれてもいいんだぜ?」
「さすが万能……! さす万!」
「さす万ですダ・ヴィンチちゃん!」
「まったく褒め上手だな君は。残念ながら出る物なんてカビが生える前の大福だけだぜ」
「それ僕のだよねレオナルド?!」
「あれ? でも、召喚システムは既に完成していたはず。調整とは一体何を?」
マシュは首を傾けながら問いを投げかける。
カルデアではフェイトと呼ばれる守護英霊召喚システムが開発されていた。
このシステムによってダ・ヴィンチは召喚され、マシュはデミ・サーヴァントとなった。
未成熟な点は多々あれど、召喚する分には特に問題がないという認識をマシュは持っており、事実それは間違っていない。
「だけど誰が呼ばれるのか分からないバクチ的な要素があるのは否めない。致命的に反りが合わないだけならまだマシで、破滅願望の持ち主なんて呼んでしまった日には目も当てられてないだろ?」
そこで、とダ・ヴィンチは人差し指を立てる。
「召喚にある種の指向性を持たせることで、特定の人物を呼びださせようとしたってわけさ。そうすれば相性が悪かったり人格が破綻している、いわゆるハズレを引かなくていいはずだからね」
「さす万。やはり天才は格が違った」
「まったく君って奴は。はいこれ大福」
「だからそれって……」
「では具体的に誰を呼ぶのかは決まっているということなのでしょうか?」
「その通り。今回の召喚では――冬木で君たちが世話になった『彼』を呼ぼうと思うんだが、問題はないかい?」
ダ・ヴィンチの質問に立香とマシュの二人は笑顔を返す。
特異点Fでは戦闘のみならず、様々な面で『彼』に助けられた。性格的な相性にもまるで問題はない。
これから先の特異点攻略、それの大きな助けとなることだろう。
「ようし! そうと決まったら早速召喚だ!」
「はい! すぐに取りかかりましょう先輩!」
「善は、ムグムグ、急げだね、ゴク」
「ああ、僕の大福が……」
彼らが会話していたのは召喚ルーム。
その部屋の真ん中に巨大な盾が横たわっており、周りには金平糖のような形をした虹色に輝く石が複数置かれている。
「準備は万端さ。後は君が『彼』の名前を呼び、強く念じればそれで召喚が始まる」
「分かった。スゥー……来てくれぇぇ! クー・フーリンっ!」
立香の叫びと共に、召喚ルームが光で満ちる。
立香が呼んだ『彼』の名前。
それこそが特異点Fで彼らと共に戦った、ケルト神話で無双を誇った大英雄、光の御子クー・フーリンである。
強烈な光の奔流から顔を背けつつ、マシュは再び疑問を口に出した。
「そう言えば、どのような方法でクー・フーリンさんを特定して呼び出せるようにしたんですか?」
「ああ、そのことか。幸いにもというか当然というか、冬木での闘いのおかげで、君たちと彼の間には『縁』が生まれていてね。今回に限りその『縁』だけを頼りにして召喚できるようにしたのさ」
質問を受けたダ・ヴィンチが自慢げに微笑む。
「いやぁ、大変だったんだぜ? 基本不確定かつ曖昧な召喚にならざるを得ないこのシステムで特定の人物を招くように、召喚に使う
「なるほど。それはご苦労お察しします。お疲れ様でした」
「盛り上がっている所悪いけど、二人とも、そろそろ彼の光の御子のお出ましだ」
ただ溢れ出していた光の波が次第に収まりを見せ、盾の真上に収束し始めた。
やがて光は人の形を成し、その内側にあるものを露わにしてきた。
「クー・フーリン、召喚に応じ参上した」
現れたのは特異点Fで見た時と同じ、長身痩躯の赤い目をした男。
特異点Fの時とは違い、長く青い髪は一つに括られ背中に流されていた。
特異点Fの時とは違い、手には杖ではなく槍が握られていた。
特異点Fの時とは違い、その声音は底冷えするような冷徹さに満ちていた。
特異点Fの時とは違い、全体が青ではなく黒っぽかった。
特異点Fの時とは違い、何か棘見たいなものが体から生えていて、挙句の果てには何故か尻尾みたいなものが生えていた。
結論、特異点Fで見たことのある顔だが、雰囲気がまったく違う男が現れていた。
そう、これは何の因果か、冬木攻略で来たクー・フーリンがちょっと違ってたというお話。
久々に文章書いたら、凄く下手になってる気がする。