冬木のクリア特典が星5だった件について   作:和尚我津

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本日二話目。


頼もしい限りだ

 また新たに仲間を加えたカルデア一行は森を出発した。

 藤丸立香を変な名前《子犬と安珍》で呼ぶ二人が、そこに竜殺しの英霊ゲオルギウスが居ることを伝えた為だ。

 

「ですが、そもそもお二人は、何故あの森にマスターがいることがわかったんですか?」

「何日か前にタレコミがあったのよ。『最期に好きなアイドルの生歌を聞きたいと言ってる、今にも死にそうなファンがあの森に居る』って。アタシの歌を聞けずに死んじゃうなんて可哀想だと思ったから足を運んだのに。ピンピンしてるじゃない。ガセネタ掴まされちゃったわ」

(わたくし)は数日前、自称占い師という方に出会いまして、『思い人、この森にあり』という占いを頂きましたの。少々胡散臭かったですが、嘘をついている気配もなかったので、占いに従ってあそこまで足を運びました。嬉しいことに大当たりでしたが。うふふふ」

 

 内容は違えど、両者――エリザベート・バートリーと清姫は共に、誰かにジュラの森を訪れるよう誘導されていた。

 

『ふむ、一体誰が教えたのか?いやそもそもどうやって、あの場所に立香くんたちが居ることを知ったのか?』

「より正確に言うと、予めあの森に行くことが分かっていたみたいだね。その情報提供者は」

「サーヴァントとしての力、でしょうか?多くはないとはいえ、未来視ができる英霊も居るはずですし」

「それでしたら何故わたくしたちの前に姿を現さないのでしょうか?恥ずかしがり屋さんなのかしら?」

 

「どうでもいい。考えたって姿形すら知らぬ相手のことが分かるわけではあるまい。少なくとも敵対はしてねぇんだ。ありがたく利用させてもらえ。……まあ仮に敵対するというのなら、殺すだけだが」

 

 謎の情報提供者の存在についての憶測をズバッと殺すクルタ。

 

「そうだね。誰かは分からないけど、悪い奴じゃないと思うよ。黒いジャンヌに情報が渡ってたら、とっくにファヴニールに襲われていたんだろうし。そうしなかったってことは、そういうことなんでしょ」

「悪い人でありませんわ。だって、こうやって、安珍様と出会えたんですもの」

「は、はは。ちょーっと近すぎるかなーって思うんだけど?」

「そんなことはありませんわ。愛しい人の傍に居ることは、当然のことですもの」

「いえ、やはり近いです!先輩は生身の人間なのですから、そんなにしがみ付いていると疲れが貯まるのも早いはずです!なので早急に距離を開けてください!」

 

 過剰なまでのスキンシップに、世界を救わんとする藤丸立香も思わずたじろぐ。

 見かねたマシュが間を引き裂かんと行動する。その際思わず立香をマスターではなく先輩呼びしているのだが、慌てっぷりも一入なのだろう。

 

「クククっ。大した色男っぷりじゃねぇかマスターよ」

「助けてもらえると嬉しいんだけど」

「諦めろ。その手の女は厄介だ。俺もアイツにゃ……」

 

 突如としてクルタの言葉が詰まる。

 

「どうしたの?」

「……いや、なんでもない」

 

 

 クルタの脳裏に浮かぶのは、眼前を埋め尽くすほどのケルトの大軍と、死体の山。

 それだけなら元となるクー・フーリンが持ち合わせてもなんらおかしくはない。

 

 そう、機械化した兵士の群れや、異なる神を父に持つ自分と同じ太陽神の子が居なければ。

 自分を殺した女が、隣に侍っていなければ。

 

 それが記録ではなく、記憶(・・)として、脳裏を過った。

 

 

「――以上が私たちが知り得ている情報で、そして竜殺しとしての貴方の力を求めている理由になります。ライダー・ゲオルギウス」

「……ありがとうマシュ殿。やはり、彼が言っていた援軍とは、貴女たちのことでしたか」

 清姫とエリザベートの案内に従ってしばらく、彼らは無事にゲオルギウスと対面することが出来ていた。

 その道中での遭遇戦にて、エリザベートの攻撃()を近距離から聞いたアマデウスがショックのあまり真人間になってしまうという珍事が発生したが、ここでは割愛する。

 

「聖ゲオルギウス。私たちは彼女たちの案内でここまで足を運びました。彼女たちはある人物から私たちのこと、そして貴方の所在を教えられたそうですが、貴方もまた誰かから、私たちのことを聞いていたのでしょうか?」

「君は……竜の魔女ではない、もう一人のジャンヌ・ダルクか。その通り。しばらく前にある男性――間違いなくサーヴァントだったが、彼から竜の魔女に対抗している戦力が、ここを訪れるということを聞かされました。彼はその後、この街の住人を安全な場所へと導くため、この街から離れていきました」

『なるほど。だからこの街には人間が一人も居なかったんだね。遠目から見ても滅ぼされたわけでもなさそうだったから、不思議だったんだけど、そういうことだったんだね』

「彼の言葉に従って、ここで待っていたところ、貴方たちが現れたという状況です」

 

 ゲオルギウスの言葉から、ここでもやはり、その『彼』という人物が先回りして情報を伝えていたようだ。

 さらにはゲオルギウスが動けるように住人の避難を買って出たらしい。

 至れり尽くせり。用意周到。住人(オーディエンス)の少なさに文句を言っているドラゴンガールが一人居るくらいだ。

 

「その人なんだけどさ、こっちに戻ってくるつもりはあるのかな?」

「いや、ここにはもう来ないでしょう。彼曰く『行くところがある』とのことでした」

「うーん、気配りはいいんだけど、俺たちを避けてるようにも感じる」

『確実に、その人物は君たちを避けているね。天才の私が言うんだ。間違いない』

「やっぱそうかー」

 

 しかして決して立香たちの前に姿を現そうとはせず。

 

「私も彼とは話をしましたが、姿を見ることはありませんでした。いえ、正確には認識できなかったというべきか」

「認識できなかった?」

「あ!それアタシもアタシも!なんかシルエットと声だけは男って感じだったんだけど、それ以外は全然分からなかったわ!」

(わたくし)も同じくですわ。ただ隠しているだけで、嘘をついているわけではなかったので、見逃しましたが」

 

 直接会って話した彼らも、その『彼』が何者なのか、まるで分かっていない状態だった。

 

「とはいえ、何故姿を隠すような行動をしているんでしょう?考えても仕方ないとはいえ、やはり気になってしまいます」

「会いたくない人でもいるんじゃない。僕にも顔も見るのも嫌いな、素直じゃない捻くれ物が一人いるしね」

「ダメよアマデウス、ちゃんと仲良くしなくちゃ。それに貴方ほど性格がひん曲がっている人なんてそうそういませんわ」

「そうですね。ますたぁ(旦那様)の居場所を教えてくれたお方ですし、折角ですから仲人(なこうど)を頼もうと思っていましたのに」

『早い!早いよ立香くん!最近の大人の階段はエスカレーター式なのかい?!あと何だか副音声が聞こえる気がしたんだが?!』

「一番あり得るのは、クルタを怖がってってパターンかなぁ。心当たりある?」

「あるぞ。ありすぎて分からんが」

『ヒュー♪立香くんも順応しているねぇ、スルースキルに磨きが掛かっている』

「ライブに相応しい場所はどこかしら?観客が少ないっていっても、アタシの歌を求めている子イヌ(ファン)を待たせたわけだから、ちゃんとやってあげないとね!」

 

 ここに集ったカルデア一行の面々が、好き勝手発言していく。人っ子ひとりいない無人の街に相応しくない賑やかな声がこだまして、一気に収拾がつかない状態になっていった。

 一瞬にして変化した場の空気に、ゲオルギウスも思わず目を見開く。

 

「す、すいません。聖ゲオルギウス。急に騒がしくしてしまって」

「いえ、問題ありません。しばらくここで一人寂しく過ごしてしまっていたせいで、彼らの賑やかさはむしろ歓迎すべきものですよ」

 

 そう言って今度はその目を細めるゲオルギウス。

 

「頼もしい限りだ」

 

 彼の口から、自然と転び出た言葉だった。

 

 彼は思う。

 立香たちは此度の敵がいかなる存在なのか、どれほど強力なのかを知っている。

 知っている上で、今笑っているのだ。

 空元気なのかもしれない。無理やり笑っているだけなのかもしれない。

 しかし、どこにも悲壮感や諦観といったものを感じさせることはない。

 勝つ気なのだ。あの悪名高き竜を相手に彼らは。今、私の下へと足を運んだのもそのためだ。

 

「はい。マスターくんが言い切りましたから。あの邪竜を倒すと」

「ほう」

 

 賑やかで、ともすれば戦場や特異点に居ることすら、忘れてしまいそうになる場の中心に、藤丸立香はいる。

 この中で、間違いなく一番弱い存在だ。

 戦士でなく、魔術師ではなく、ましてやサーヴァントでもない、一個の脆弱な人間。

 そんな少年が、英雄ですら尻込みしかねないあの邪竜を目にしてなお、倒すと決めたのだ。

 

 これに動かされない英雄は、この場にいない。それは、かのゲオルギウスでさえも。

 

 輪の中心へと近づくゲオルギウスは、立香へと手を差し出す。

「よろしく頼む、マスター。共に邪竜を倒し、世界を救おう」

「――うん、よろしく!」

 立香は、間髪入れず、臆することなく、その手を取り、握手を交わした。

 

「盛り上がってきたわね!それじゃ、景気よくライブでもおっぱじめて――

「それじゃあ皆ファヴニールを倒すための作戦会議をするぞどこか空いている民家を教えてゲオルギウスそうかあそこが良さそうかじゃあ行こう皆夕日に向かってレッツゴーだ!!」

 

 立香は言葉と共に、抑えきれぬとばかりに歩みだした。それは、このフランスを救うための、前進の一歩である。

 逃げの一手とか、戦略的撤退とか、彼が何か(ライブ)に臆して走っているわけではないのだ。決して。

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