冬木のクリア特典が星5だった件について   作:和尚我津

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本日二話目。



ああ、思い出した

 火の粉が舞いあがり、旗は揺らめき、打ち鳴らされる金属音。

 そのすべてが、黒のジャンヌの怒涛の攻撃を物語っていた。

 清姫の炎は相殺され、クルタの槍は痛苦を与えず、マシュの盾はまるで打楽器の如く撃ち続けられている。

 辛うじて戦線は維持されているものの、一人でも欠けた瞬間崩れかねない綱渡りのものだった。

 

「流石は光の御子。この短時間で私の力に対応するなんて。褒めてあげるわ」

「そうか。なら褒美替わりに、さっさと死ね」

 

 言葉の通り、クルタの技量によってこの戦線は成り立っていた。

 その分、彼が負うダメージも凄まじく、無事な箇所を探す方が難しかった。

 

「クルタさん!私も!」

「前に出てくるなシールダー。そこで守っていろ」

 クルタの隣に並ばんとしたマシュを制止する。

 彼女にマスターの守りを任せているからこそ、クルタの攻めの姿勢は維持されている。

 それはマシュも分かっている。しかし、一向に良くならない現状に、焦りを隠すことができない。

 

「くぅ、私も、一緒に……」

「無理しちゃダメだジャンヌ!」

 

 聞かぬ体に鞭を打って戦いに加わろうとしたジャンヌを、立香が止める。

 未だ両手に纏わりつく炎は、燻り肉を焦がしていた。

 呪われているのか、弱まれど消えるそぶりは見せていない。

 

「わたくしの炎も、お邪魔虫程度の役にしかたっておりません。なんと口惜しい」

 

 マシュの背後、立香の傍に立つ清姫も悔しさに顔を顰める。

 彼女が傍に居る理由。マスターの傍に居たいからという理由も多分にあるが、マシュの守りを抜かれた時、身を張ってマスター守るためでもあった。

 

 

 そして、その時は思いのほか早く来た。

 力づくで吹き飛ばされるクルタ。

 旗を振り上げ迫るジャンヌに向けて、マシュが盾を力強く握り、衝撃に耐えるため一歩、足を後ろに下げた。

 それを見て、黒のジャンヌは笑みを浮かべる。

 その一歩は彼女に、迎撃が来ないことを示していた。

 ジャンヌは旗を振りおろし――そのまま地面に突き刺し、叫んだ。

 

吼え立てよ(ラ・グロンドメント)()我が憤怒(デュ・ヘイン)!」

 

 それは、白のジャンヌが決して持つことのない、復讐者(アヴェンジャー)の彼女だけが持つ、宝具の名前。

 

 怨念という負のエネルギーを持って、敵を燃やしつくす、復讐者(アヴェンジャー)に相応しき宝具。

 対軍に位置するその宝具を、彼女はたった一人の人間を対象に発動する。

 

 とん、という軽い音とは裏腹に、再び地面を滑っていく立香。

「ますたぁ、どうか、お元気で」

「え、清ひ――」

 足元から突如として伸びた鉄の杭が、彼女の身体を穿っていく。

 

「あ」

 不死に値する能力や宝具を持っていない彼女に、生き延びる理由はもはやなく。

 光となり、消えていった。

 

「マスターを狙ったつもりなのだけど。まあいいわ。まず一人」

 

 予想とは違った結果に、黒のジャンヌは特に気にも留めてはおらず。

 

「清姫さ――!」

「マシュ!前を向くんだ!敵は、まだ前にいる!」

 

 立香は悲痛な声を挙げて、マシュに指示を出す。

 彼の言う通り、戦いはまだ終わっていないのだ。

 

「あら、随分と冷たいマスター様なのね。」

 それを聞いた黒のジャンヌは、冷酷だとマスターをなじる。

「な!なにを――」

「そうだね。俺もそう思うよ」

 マシュは一瞬にしてカッとするが、立香はそれを甘んじて受ける。

「悔やむし、嘆くし、泣き喚きたいさ。けどね……」

 

 何の力も持たない少年が、黒のジャンヌに、屹然と睨み返す。 

 その目を見て、ジャンヌは思う。

「そういうのは、全部、全部終わってから、たっぷりするつもりさ。だから、そのために、この戦いに、勝たなきゃいけないんだ!」

 ファヴニールへと立ち向かった時と、暴力の化身に挑んだ時と同じ、折れない瞳をしていた。

 

「だから、頼む!戦ってくれ!皆ぁ!」

 

 その叫びに応えるように、黒の旋風が空に赤い線を引きながら、黒のジャンヌに襲い掛かる。

 

「ったく!本当にしつこいわよ!この死にぞこないがぁ!」

 

 言葉の通り、襲い掛かったクルタの身体は、まさに半死半生。

 常人では動くことすらできない傷を負いながら、その動きに陰りはなく、淀みなく。

 

 

 立香の叫びに応えるのは一人ではない。

 

「やぁぁぁっ!」

「ッ、チィ!」

 

 (マイク)の一突きを首を傾げて回避した。

 

「ちょっとアンタ!竜の少女(ドラゴンガール)って、アタシとキャラ丸被りじゃない!さっさと引退(消滅)しなさい!」

「なにワケわかんない事、言ってるのよ!」

 

 乱入したエリザベートの言葉に、律儀に反応する黒のジャンヌ。

 

 その彼女を囲うように、楽団が現れる。

「なっ!」

「よしっ!アタシの歌の出番ね!」

「完全無欠にまったくもって違うっ!黙ってハケてろ!!」

 

 アマデウスの怒鳴り声を皮切りに、演奏が始まる。

 それは耳に心地よく、なのにいやに心をざわつかせる。

 

「うるさいわね!」

 

 体から溢れだした炎が、演奏と楽団を燃やし尽くす。

 

「これで、っ!?」

 炎が収まった瞬間、足元から湧き上がったガラスの水晶が、ジャンヌを捉えていく。

 

「ヴィヴ・ラ・フランス!百合の王冠(ギロチン・)に栄光あれ(ブレイカー)!」

 足が取られ、動きが止まった瞬間、突撃してくるはガラスの馬。

 

清姫()の恋路を邪魔したのですから、馬に蹴られて死んでしまえ!ですわ!」

 マリーの宣言通り、黒のジャンヌの身体に馬の蹴撃が襲う。

 その速度は馬車の時と比較にならず。

 馬の重量と速度を掛け合わせた攻撃は、強力無比。

 

 されど竜の力はそれを上回る。

 勢いに押され、地面を抉るが、そこで止まった。

 その両手は馬の脚を捉えはなさない。

 

 不発に終わった攻撃を、彼女は嘲う。

「残念ねぇ。狙いが外れて」

「いいえ、狙い通りです」

 

 ゲオルギウスが、剣を振りかざし黒のジャンヌの背後に迫っていた

 

「だから言っているでしょ、残念だってね」

 

 彼女は素早く片腕を離し、旗を持って後方に突き出した。

 竜として目覚めた彼女には、竜殺しの気配がよく感じ取れていた。

 背後の気配に気づくことなど、朝飯前だった。

 

 

 旗の穂先は、過たず、ゲオルギウスの胸を貫いた。

 

 

「言いましたよね。狙い通りだと」

 

 

 胸への傷を無視し、足を止めることなく前進する。

 穂先は背中を突きやぶり、旗が体に入りこみ、血で汚していく。

 

 驚愕に目を見開く黒のジャンヌ。

 ついに、彼の聖剣が刃圏に、彼女を捉えた。

 

「これこそがアスカロンの真実!」

 

 宣言と共に、輝きを放つ聖剣。

 ジャンヌは力づくでガラスの馬を放り投げ、空いた片腕で剣を抜き放つ。

 

「汝は竜!罪ありき!」

 彼女が首を刎ねんとするのと同時、彼の宝具は、その真価を見せた。

 

力屠る祝福の剣(アスカロン)!」

 

 二つの剣線が宙を踊った。

 

 ジャンヌの剣は、ゲオルギウスの首を捉え、跳ね飛ばし。

 ゲオルギウスの剣は……彼女の頭上を通過し、空を斬った。

 

 

「は、はは。何よ。宝具まで発動しておいて、まさかのこけおどし?一体何の冗談よ?はは、ハハハッ!……は?」

 

 

 突如感じる違和感。

 自らの力が急速に萎んでいくのを感じ取る。

 いや、萎んでいるのではない。

 力を齎していた存在が、徐々になくなっていくかのように。

 

『これは!?彼女の竜としての因子が、減少している?』

 

 ロマニの言う通り、彼女が感じている通り。

 強固な力を、固い鱗を与えていた竜としての力が、彼女の身体から抜けていっていた。

 

「な、何で?!――っまさか!」

 

 そう、それこそが力屠る祝福の剣(アスカロン)の真実。

 竜を滅し、罪を滅す剣(・・・・・)

 竜とは罪。罪とは竜。

 竜という罪を斬り捨て、罪を竜として斬り捨てる。

 すなわち()殺しの剣。

 

 彼は、黒のジャンヌに憑いたファヴニールという竜を、そして『悪竜現象』という、竜に堕ちる罪を、斬ったのだ。

 

「ふ、ざけるなぁ!」

 

 ――消えたのなら、また罪を重ねればいい。

 ――魔力はある。方法は分かる。もう一度、あの力を。

 

「全呪解放――噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)

 

 それを見逃すほど、クルタという男は、お人よしではなかった。

 

 槍が消失し、外骨格がクルタの全身を覆う。

 その姿は、まさに異形の化け物。

 全身から生やしているのは爪なのか棘なのか、はたまた刃なのか。

 五体の全てが凶器に変わった、狂気の姿。

 

 その怪物が今、露わになった魔女の柔肌に、牙を立てる。

 

「あっああぁあぁぁ!!」

 

 吼えたて、守りを固める竜の魔女。

 消えつつある竜の因子をかき集め、鱗を纏い、身を守る。

 

 されど、獣の牙を守るには能わず。

 

 クルタの一撃は鱗を砕き、肉を裂き、心臓を貫き。

 そして、花が開くように、死を招く赤い棘が、ジャンヌの身体を内側から、食い破っていった。

 

 爪を抜き、元の姿に戻るクルタ。

 同時に落下する、黒のジャンヌの体。

 誰がどう見ても、長く持たないことは明白だった。

 

「っかふ、あ、あーあ、結局、何も、残せない、まま、ここで、死ぬのね」

 

 ――このまま、誰の記憶にすら残らず、たった一人で。

 

 口から洩れるのは、今までのように怨嗟に満ちたものではなく、諦観を多分に含んだ言葉。

 歴史は修正され、彼女という存在が残るものは何一つとして、ない。

 

「待っていてください」

 

 そんな彼女の手を握るのは、もう一人のジャンヌ・ダルク。

 焼け爛れているのもおかまいなく、死に瀕した同じ姿の少女に声をかける。

 

「……待つって、何をよ?」

「『座』に居る私が、必ず貴女を迎えに行きます。ですから、待っていてください。世界の裏側だろうがどこだろうがご心配なく。私、そういうのの経験者ですから。へっちゃらです。だから――」

  

「――絶対に、一人にはさせませんから」

 

 黒のジャンヌは見開き、笑い、そして思う。

 やはり自分は、コイツが嫌いだと。

 

 そこにもう一人、近づいてくる人影があった。

 

「そんなに寂しいならさ、いつか、カルデアにおいでよ。歓迎するから」

「……バカなの?私、アンタの、仲間を、殺したのよ?」

「その時は、ちゃんと清姫とゲオルギウスに謝ってね」

 

 そのあっけらかんとした態度に、コイツはどういう神経をしているのか、彼女は心底疑問に思った。

 偽物の自分より、本物のこいつらの方がよっぽど、イカレている。

 それが今の彼女の、偽りない本音だった。

 

「こんな罪人に、よくそんなことが、言えるわね」

「罪はさきほど、ゲオルギウス様が切って捨てました。どのような罰を受けるのかは、まだ分かりませんが、その時は一緒に償いましょう」

「また、世界を滅ぼそうと、するかも、よ?」

「その時はまた、力づくで止めるよ。ね、クルタ?」

「マスターの自業自得に付き合うつもりはねぇよ、テメェ一人でやってろ」

「酷い!」

 

 まったく、本当に嫌いだ、こいつら。

 

「だれが、『座』にいるアンタの、世話になるか」

 

 でも、まあ、本物より、少しだけ、マスターの方がマシかもしれない。

 

 だから、いつか、カルデアに行ってみるのも、ありかもしれない。

 

 ――そこは、古今東西、あらゆる英霊が集う、唯一の場所。

 

「ああ、――思いだした(・・・・・)

 

 その言葉を最後に、竜の魔女は、儚く消えていった。

 救国の聖女に、抱かれながら。

 

 




ゲオルギウス先生の設定はオリジナルです。
他にもオリジナル設定一杯あって今更な感じですが、一応報告しておきます。

次回は8/6(火)の12時or夜に更新予定です。
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