冬木のクリア特典が星5だった件について   作:和尚我津

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すいません、予定より遅くなってしまいました。

2019/8/9
タイトル、本文等修正しました。


オーダーを寄越せ

 黒のジャンヌが光の露となり消滅した後、そこには、黄金に輝く二つの光があった。

 

『立香くん!それが聖杯だ!凄い!ホントに両方とも聖杯だよ!』

『聖杯二つ分の魔力を持っていた存在に、良く勝てたね君たちは』

 

 ロマニは続けて、この聖杯が特異点発生の原因にもなっていると告げた。

 

「じゃあ、これを回収したら、特異点の修正は完了ってことなんだよね」

「それでは、これにてお別れ、ということですの」

「はい。皆さん、今回はご協力、真にありがとうございました」

 

 マシュは盾の内側に聖杯を一つ入れた。

 もう一つはそのまま手に持っている。

 

『よし、これよりレイシフトを行い、立香くん、マシュ、クルタを回収。それに伴って、第一特異点の修復はクリアだ。皆、準備は――」

「ふむ、このまま帰って貰っては、いささか困るのだがね」

 

 聞きなれない声が、激戦を終えた戦場を通ってゆく。

 いや、サーヴァント達に聞き覚えがなくとも、カルデアに所属する者たちには、その声の持ち主がハッキリと分かった。

 

 立香が声の主の方へ向いて、叫んだ。

 

「レフ・ライノールっ!」

 そこに立つ人物こそが、カルデアを爆破し、所長を殺害した張本人。

 人類を裏切った者、レフ・ライノール。

 

「藤丸立香。なぜ私が貴様如きに呼び捨てにされなければならないのか。まったく持って不愉快だが、まあいいだろう。さて、そちらは回収させてもらうよ」

「あっ!」

 

 その言葉と共に、マシュの手に持っていた聖杯が、レフの下へと浮遊していき、その手に収まった。

「腐っても宝具、そちらの盾に入っている方は回収できないか。だがこれ一つで十分だ」

 

 ――貴様らに絶望をくれてやるにはな。

 

「ここで出す予定ではなかったのだがな。これも全てイレギュラー(・・・・・・)のせいだ。許したまえよ」

 

 不敵な笑みを浮かべ、唱えるは世界への呪詛。

 

「――顕現せよ。牢記せよ。これに至るは七十二柱の魔神なり

 

 聖杯が輝きだし、皆の視界を焼いていく。

 

『な、何だこの魔力反応は?!』 

『サーヴァントでも、ましてや人間なんかでもない。間違いない、これは――』

 

 ――悪魔そのもの。

 

「……な、んだよ……これは」

 

 光が収まり、目を開けると、そこには、絶望が聳え立っていた。

 

 一言で言うならば、醜悪なる肉の柱。

 黒を基本とした巨体に、いくつかの赤いラインが走り、その線に沿うように、幾つもの眼球が剥き出しのまま取り付けられ、周囲を観察するようにぎょろぎょろと動いている。

 

 ――その視線が、立香たちに集中する。

仮想宝具(ロード) ()疑似展開/人理の礎(カルデアス)!」

我が神は(リュミノジテ・)ここにありて(エテルネッル)!」

愛すべき輝きは永遠に(クリスタル・パレス)!」

鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)!」

 

 誰かが何かを言うまでもなく、サーヴァント達は一斉に宝具を発動させた。

 城門を、聖域を、宮廷を、城を。

 一瞬で展開された数多の防壁に向かって、光の柱が連なった。

 

「ぐ、おおおぉお!」

 

 複数のサーヴァント達によって築かれた、宝具による防衛ライン。

 鉄壁堅固なるそれが、驚異的な力によって、じりじりと押されていく。

 

『無茶だ!相手はファヴニールクラスだ!奴と同等の相手と、これで三連戦目だぞ!消耗が激しすぎる!』

「グダグダ言う前に、この状況を覆す手でも考えやがれ!」

『そ、それは……』

「まあ、ないだろうね。皆が皆、満身創痍。もはやこれまで、って感じさ」

「フン、関係ない。俺が奴を殺してくる。それで全てが終わりだ」

『それこそ無茶だ!今の君は魔力が少なすぎて消滅寸前なんだぞ!勝ち目なんてない!』

「策の一つも持ってねぇ役立たずは黙ってみていろ」

「……魔力不足、か。ねぇクルタ」

 一人黙って話を聞いていた立香が、クルタを呼びかけた。

 

「チッ!なんだ?マスターも俺を止めるのか?」

「一つ聞きたいことがある」

 

 立香は真っ直ぐとクルタの目を見つめ返す。

 

「万全の、真の意味で万全のクルタなら、あれを斃せるかい?」

「無論」

 

 寸の時間もなく告げられた答えに、立香は笑顔を浮かべる。

 

「よし分かった!ロマン、ダ・ヴィンチちゃん」

 

 立香の腹は決まった。

 

「聖杯の使い方を教えて。今すぐに」

 

 

 

 

 

 ――マスター、もう、長くは持ちません!

 

 喉元まで出かかった悲痛な叫びを、辛うじて飲み込むマシュ。

 ここまでの連戦で彼女らの消耗も激しく、余裕はまるでない状況だった。

 

 聖杯。

 逆転の一手になり得るそれを渡してから、如何ほどの時間が経ったのか、今の彼女には見当もつかない。

 時間の感覚はとうに麻痺し、一瞬と永劫が混ざりあい一体化していく。

 

「待って、あと、もう少し」

「ああ、本当にあと少しだ」

 

 その声なき叫びに、立香とアマデウスは応えていく。

 

 彼らの前には、横たわるクルタの肉体。

 聖杯という特大の遺物(異物)を取り込ませるため、一時的に仮死状態にする必要があったのだ。

 

 まるで、既に死んでいるかのような姿。

 英霊たる身ゆえ、躯は残さないと言えど、そう思わずにはいられない様な光景だった。

 

 そんなクルタに向けて、立香は必死に祈りを捧げる。

 

 聖杯の本質である、願いを叶える力。

 他者の祈りを受け、聖杯はそれを具現する。

 

 強く、強く祈ること。求めるモノを。欲する事を、イメージすること。

 それが、聖杯にとっては何よりも必要なことなのだと、ロマンは語っていた。

 

 その様は敬虔な信者を想起させながら、内実は極めて俗に貪欲に求めていた。

 

 彼は祈る。イメージする。

 知らないはずなのに、何故か知っている、光の御子(クルタ)全力(最強)の姿を。

 

 

 祈り(願い)を受けている聖杯を、アマデウスはクルタの中に埋め込んでいく。

 今の彼は音楽家ではなく、キャスターとしての能力を前面に押し出して行動していく。

 アマデウスは本職のキャスターではないことを、本当に珍しく後悔しながら、作業に取り組んでいく。

 ただ天才芸術家(アマデウス)だからこそ、天才芸術家(ダ・ヴィンチちゃん)の抽象的指導方法についていけてるわけだが。

 

「早く起きろ寝坊助野郎め!子守唄の時間は終わってるぞ!」

 

 口汚く罵りながらも、天才音楽家の指先は、淀みなく作業(演奏)を続けていく。

 

 その声が届いても、クルタはひたすら眠り続けている。

 

 意識は遠く、奥の奥まで、堕ちていっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見ていた。

 

 数多のサーヴァントが、一人のマスターの下に集っている。

 

 英雄も、反英雄も、仲間だった者も敵だった者も、皆がそこに集まっていた。

 

 宿命の好敵手達も、犬猿の仲の者も、殺し殺された者同士も、そこでは手を取り合っていた。

 

 夢のような、奇跡のような空間。

 

 

 そんな彼らが、消えていく。

 

 一人、また一人と、魔神柱たちに消されていく。

 

 いつの間にやら、マスターの傍に居たのは、片手で数えられる程度の数にまで。

 

 マスターが己に笑いかける。

 

 泣きながら、怒りながら、時にはほとほと困ったようにしながらも、心の底から笑っていた。

 

 そんなマスターが、酷く、疲れたように、悲しそうなように。

 

 己に笑いかけていた。

 

 

 

 これは、一体、だれの夢だ。いつの夢だ。

 

 分からないが、ただ一つ、やることだけは分かっている。

 

 ――敵は全て、殺すだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

「もーむりー!こんなところでアタシの伝説は終わっちゃうのー?!」

 元来、守る機能を持っていないエリザベートの宝具は、他の者より消耗が何倍も激しい。

 霊基はほとんど限界を迎え、(マイク)に寄りかかり、辛うじて立っているような状況だ

 

 それはエリザベートだけではない。

 声に出さずとも、マシュも、ジャンヌも、マリーも、皆等しく、限界を迎えつつあった。

 

 

 決壊するまで、あと幾何か。

 

「――うるせぇぞクソガキ、静かにしろ」

 

 背後から、男の声がした。

 

 それは以前から聞いてきた馴染みのある声であり、まったくの別人を思わせるような迫力を感じさせる声だった。

 

 振り返らずとも分かる。気配が、魔力が、押さえつけてなお溢れ出る威圧感が、その男が秘める力の強さを教えてくれる。

 

 いつも近くで感じていた、禍々しく我が身を穿つような魔力が、今、唸りを上げて、その男の存在を世界に知ろ示す。

 

 ケルトの英雄、光の御子、クー・フーリン。

 

 カルデアにおいて、クルタと呼ばれる男が、より強大な力を伴って、目覚めたのだと。

 

 聖杯をその身に取り込んだ彼の姿もまた、以前とは異なっていた。

 増大した魔力の影響を受け、外骨格はより広範囲に渡って彼の身に備わり、纏うフードには血を吸ったような赤いファーが現れ、その身を包んでいた。

 

「シールダー、今までよく耐えた。後は任せるがいい」

 

 称賛の言葉を聞いて、不思議と彼女の身体が軽くなっていく。

 安堵によるものか、はたまた、成したことに対する矜持を得たのか。

 その言葉は、立香の言葉とはまた違うベクトルで、彼女の力と相成った。

 

 クルタは、地に突き刺していた槍を手に取る。

 途端、赤黒く、ともすれば紫のようにすら見えた槍は、鮮血の如く鮮やかな朱色に変わっていった。

 

 そこでクルタは、唐突に、立香の方へと向き直った。

 

 一瞬、言い淀むような、言葉を探しているような僅かな間を置いて、彼は立香にある要求をする。

 

「マスター。改めて、俺にオーダーを寄越せ」

 

 その言葉を受けて、立香は、この特異点最後の命令を下す。

 宝具の壁の向こうへと指を差す。対象は、レフ・ライノールだったもの――魔神柱。

 

「……俺が命じる。全力を持って――あのデカブツをぶっ壊せ!」

「承知した、我がマスターよ」

 

 主命を受け、クルタは遂に、動く。

 軽く息を吸い、そして――吼えた。

 

 

「ッ――――アアアアッァアアアァア!」

 

 

 初めてのサーヴァント戦で見せた、精霊すら脅かす、魔獣の咆哮。

 

 同じであって、全くの別物であった。

 質も、規模も、最初のそれとは全く違う。

 

 大地のみならず、世界すらも震わせ――魔神柱ですら慄き、動きを止めた。

 

 ただの一喝で、敵の砲撃を封じたクルタは、その隙に宝具で作られた防衛線の前に躍り出た。

 

 誰の目にも、瞬間移動したかのようにしか見えない程の、神速の歩法。

 

 

 

 動揺から覚めた魔神柱は、ここで初めて一個人に視線を向ける。

 

 穴熊から這い出た、たった一人の英霊。

 先ほどまでの失態を忘れたかの如く、まずはそれを排除せんと、光の柱が地面を走る。

 

 クルタは駆けた。

 その速度に追従することが出来ず、光の柱は全て後方に置き去りにされた。

 

 

 彼が求めるのは必殺の一撃。

 それに必要なのたったの三歩。

 

 一歩目、音の壁はあっけなく破られ。

 二歩目、空気との摩擦で全身が赤熱し。

 三歩目、ここに至るまでの速度を全て、この一歩にてゼロにする。

 

 限界を超え強化した足で地面を踏み込み、そこから延びる外骨格の棘が杭となり地面を捉え、強引に体を制止させる。

 その衝撃を受けた地面の一部が吹き飛んでいき、反作用の力がクルタの強靭なる肉と骨を砕いていく。

 激痛が走る。

 ――無視する。

 

 強大な慣性を力づくで押さえつけ、行き場を失った運動エネルギーを、足から腰、背中、肩、腕へと伝えていく。

 完璧な体重移動を持っても御しきれぬ力は、クルタの肉体を引き裂き引き千切り、潰し破り、想像を絶する苦痛を彼に与える。

 ――無視する。

 

 その過程で負った傷は、ルーンの力によりたちどころに癒され、そしてまた負傷し、地獄の苦しみを彼に齎す。

 ――無視する。

 

 負傷、治癒、負傷、治癒。

 幾度も繰り返される、死に至る痛み

 ――その全てを、無視する。

 

 その果てに、全ての力は、赤き魔槍へと集約される。

 

 

 

 貪欲なる魔槍は、主の右腕が壊されるのすら厭わずに、その勢いすら喰らって、やがて空を駆けた。

 

 魔神柱が、叫ぶ。

『あり得ぬ。あり得ぬ!あり得ぬわぁぁっ!たかが羽虫一匹如きに!この私が!敗れるなどぉ――!』

 

 その叫びは魔槍にとって何の価値もありはしない。

 

 慣性を喰らい、魔力を喰らい、主の苦痛すら喰らった魔槍が喰らわんと欲すのは、あとただ一つ。

 ――愚かに刃向かった敵の、死なり。

 

 

 クルタが唱えたは、必殺の一刺。

 

 

「――抉り穿つ鏖殺の槍《ゲイ・ボルク》

 

 

 その一撃、魔神の柱を、抉り穿った。

 

 




これにて第一特異点は終わりです。
この抉りボルクの投げ方は、某攻略ウィキのコメント欄からパクり、もとい拝借しました。
次の更新は未定です。

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