関係あるのか?あるに決まってるだろ!
英霊召喚で現れたのは、狙い通りクー・フーリンだった。
だったのだが、少々キナ臭い風向きになったということをロマニ、ダ・ヴィンチの二人は感じていた。
何せまったく雰囲気が違うのだ。
彼らがクー・フーリンの召喚を狙ったのは、英雄としての力量は当然のことながら、彼の人格が気さくで面倒見のいい好漢だったからという理由の方が強かった。
これから先の一年間、カルデア唯一のマスターとなる藤丸立香には、心身共に多大な重圧が掛かることは予想に難くない。
今はまだ何事もないが、特異点攻略を進めていけば変調を来たす可能性が極めて高い。
一年間というタイムリミットに対する焦り、人類救済という重すぎる期待、そして平和な日本で暮らしていた少年が味わうことになる、今まで誰も経験したことのないであろう数多の鉄火場。
これで何の問題も起こりえないなどと宣えるのは、愚者を通り越して狂人の類と呼んで差し支えないだろう。
そんな少年の心の負担を少しでも取り除けるように、心理的に寄り掛かることの出来る人物として選ばれたのがクー・フーリンだったというわけだ。
だというのに、その肝心要のクー・フーリン本人が、予想とは違う人格で現れたのだ。
一見して冷徹。温かみなどを感じることの出来ない様子に、二人は動揺を覚えた。
マシュもまた人生経験は少ないながら、内なる霊基が現れた男の脅威を認識し、知らず知らず身構えるような形となった。
彼女の宝具に当たる盾が、現れたクー・フーリンの足の下にあるという状況も、彼女の警戒を後押しした。
武装はないがそれでも先輩でありマスターでもある少年を守るという決意のもと、彼女はクー・フーリンの前に立ちはだかろうとした。
したのだが、そんな彼女の行動は一歩遅かったと言わざるを得ない。
「久しぶりクー・フーリン!ていってもつい先日のことなんだけどね。というか見た目が青から黒に変わってるけどイメチェンしたの?」
まるで何事もないように、気さくにクー・フーリンに話しかける一人の少年。
カルデア唯一のマスター、藤丸立香その人だ。
目の前に現れた黒いクー・フーリンに警戒する三人にまったく気付かず、友人に接するように自然体そのままの形で話しかけていた。
「……俺の色がお前に関係あるのか?」
底冷えするような声音はそのままだが、どこか呆れを含んだ口調でクー・フーリンは問い返す。
彼は立香の後ろに立つ三人が警戒するのに気付いており、そしてそれが当然の反応だとも感じていた。
なぜなら
恐らく彼らは本来の自分を知っているのだろう。故に今の自分との差に戸惑いを感じているのが理解できる。
だというのに、目の前に居る少年はそんなことなどお構いなしに話しかけてきたのだ。
愚者なのかそれとも他に理由があるのかは定かでないが、少年のその無警戒さに彼は呆れを禁じえなかった。
「関係あるのか?あるに決まってるだろ!」
そんなクー・フーリンの思惑など露知らず、立香は熱弁を振るう。
「日曜朝の五人組的に考えて、レッドとブルーは絶対に必要だったんだ!今回でブルーは確保できたと思ったのに、まさかクー・フーリンがイメチェンしてブラックに変わっていたなんて!」
「え、そこなの立香くん?」
思わずロマニがツッコミを入れてしまうような主張だった。
もっと他にも色々言うべきところがあるはずなのに、彼は五人組の戦士隊をモチーフにしたカラーリングについて悩んでいたなんて。そう思わざるを得ないロマニだった。
外見で触れるならもっと他にもあるだろうと。たとえば棘とか、尻尾とか……。
「でもその尻尾はいいよ、実にいい。その攻撃的なフォルムは今までの日朝とは一線を画すスタイルだろうからね!尻尾いい!」
触れるには触れたが、やはりどうでもいいことであった。
ここでパンっという手を叩いた音が三回部屋に響く。
「あー、盛り上がっているところ申し訳ないけど、ちょっと落ち着いてくれ立香くん」
発生源であるダ・ヴィンチが混沌に成りかけていた場の空気を締め直す。
何事もなかったかのように行動する立香のおかげで僅かながら気を持ち直していたダ・ヴィンチが、状況確認し始めた。
「予想とは少し違う毛色の人物が現れたんでね。確認がてら少しばかり質問してもいいかな?」
「面倒だ」
試合終了。
「えっと、ほら、僕らも突然のことだからさ。君のことを詳しく知りたいなぁ~、なんて、思ってるんだけど」
「面倒だって言っただろ。死にてぇのか」
「あっはい、すみません」
淡々とした口調で殺害宣告されたロマニがすごすごと引き下がる。
取りつく島もないとはこのことである。
「えーいいじゃん。そんな余所余所しい転校生みたいな態度とらなくてもさぁ。新人歓迎の質問タイムは重要だぞ」
世界を救う予定の男、藤丸立香。剛胆にもまったく怯まず助け船を出す。
なお後ろの三人は藤丸の勇姿に少しハラハラしていたりしなかったり。
「必要はない。俺はサーヴァントとしてここにあり、マスターとしてお前がいる。そしてサーヴァントは敵を殺す兵器である以上、兵器と対話する必要などあるまい」
それは彼のサーヴァントとしてのスタンスを如実に表した言葉である。
一個の人ではなく、一個の兵器として自らを規定しているのだ。
「で、でしたらやはり話す必要はあると思います」
「あ?」
クー・フーリンの言葉を聞いて、今度はマシュが話しかけた。
凄まれて怯みながらも、自らの意見を述べていく。
「へ、兵器というのならその詳細を知る必要がマスターにはあります。兵器であるならば銃の暴発と同様、使い方を誤れば使用者であるマスターに危害が及ぶ可能性があります。であれば、その兵器の使い方や特徴、性能を知るのは当然の流れかと。勿論マスターにはクー・フーリンさんのステータスが見えているのでしょうが、ここはやはり本人から直接聞くのが一番だと思います」
何も知らない兵器ほど怖いものはありません。
その言葉と共にマシュの発言は締めくくられた。
ロマニ、ダ・ヴィンチはマシュの発言に説得力があることを認め、立香は『確かに』と言いたげにしきりに頷いていた。
そして肝心要のクー・フーリンはというと。
「……っち。で?何が聞きたい?」
マシュの言葉に納得したのか、否定する材料が見つからなかったのか、はたまた面倒になったのか。
理由は分からずとも、質問を受け付ける姿勢を見せた。
話が聞けると判断したダ・ヴィンチは質問を始めた。
「まず最初に聞いておきたいんだけど、君は光の御子クー・フーリン、で合ってるんだよね?」
「ああ」
「それじゃ次に。君のクラスはランサー?」
「違う。バーサーカーだ」
「え?」
面倒そうなクー・フーリンの答えにマシュは驚きの声を上げる。
バーサーカーとは、その名の通り狂戦士を示すクラスだ。
理性を奪い去ることにより、サーヴァントとしてのスペックを底上げする。
それがバーサーカーのクラスに与えられた特性。
だというのに、目の前に居る男からは確かな理性を感じさせる。
確かに粗暴な雰囲気が漂ってはいるが、バーサーカーと言われて、はいそうですかと納得できるような存在ではなかった。
同じ疑問をダ・ヴィンチも抱いたようで、そのまま質問する。
「バーサーカーにしては理性があるようだけど、何か原因があるのかい?」
「知らん。そもそも俺は本来のバーサーカーとは違う」
「本来の、バーサーカー?それは一体どういう意味だい?」
ロマニの質問にやはり面倒臭そうにクー・フーリンは答える。
「本来バーサーカーとしての俺は、理性がないクソッタレな化け物の姿で召喚される。召喚直後暴れちまうようなロクでもない怪物だ。今の俺はバーサーカーどころか、クー・フーリンとしては絶対に有り得ない姿で召喚されている状態なわけだ」
「絶対に有り得ない姿?なんだそれは?『座』に居る君の本体の中に、君は居ないとでも?」
「ああ」
「何でそんなことに?」
「知るか」
カルデアの人員の中で、クー・フーリンの話を十全に理解できたのはやはりロマニとダ・ヴィンチだけだった。
世界の外側にある『座』、その英霊の全て集積されているその場所に、
異常なことである。
通常は座にある英霊の一側面を分霊として送り出すのサーヴァント。
もし彼の言葉を信じるなら、どの世界線、どの時間軸を見ても、欠片だって『座』には彼という存在はないということになる。
補足するなら、ベースとなるクー・フーリンはしっかりと『座』から送られた分霊である以上、彼は間違いなくクー・フーリンであるのだが、そんなこと彼らは知らない。
ロマニの驚愕の声が響く。
「なんてこったい……! それじゃ君はクー・フーリンであって、クー・フーリンじゃないってことじゃないか?!」
驚愕の面持ちでクー・フーリンを見つめる二人を後目に、立香は彼に話しかける。
「ドクターの言っていることは合ってるの?」
「さあな。例えそうだとしても、俺は俺だ」
「そうか……。じゃあ新しい名前を付けなきゃだね!」
「はぁ?」
立香の提案に呆れた声を出すクー・フーリン。
「だって要は俺たちが冬木であったクー・フーリンとはもう違う人なんでしょ?じゃあ別の名前が必要だよね」
「要らねぇだろ別に」
「でもあまりクー・フーリンからイジるのも良くないとは思うしなぁ」
「聞けよオイ」
小声で様々な案を口ずさむ立香。
「なんかしっくりこないな。マシュ、なんかいい案ない?」
「わ、私ですか?……そうですね、クー・フーリンさんの幼名がセタンタなのでセッちゃんとかどうでしょうか?」
「う~ん、全然アリだけど、ちょっと可愛らしすぎるな。今の外見にあったカッコいい感じで行きたいんだよね」
「だから要らねぇし、関係ねえだろ」
「あるに決まってるだろ!名付けにおいてのカッコよさは!」
真剣に、クー・フーリンの様々な可能性について考えていたロマニとダ・ヴィンチの二人だったが、立香が生み出す、ぐだぐだ感に力が抜けてしまっていた。
最初は警戒していたというのに、今となってはその緊張の糸を張り直す方が難しい。
二人もまた立香が生み出した何とも言えない空気に包まれることを是とした。
「う~ん、そうだな。厳密には違うんだろうけど、冬木の騎士王サマよろしく、反転しているっぽいから、クー・フーリン・オルタナティブっていうのはどうだい?」
「アリ!アリだけどちょっと長い!」
「それなら略すのはどうかな?クオルタ、いやクルタの方がいいかな。ほらだって彼バ――」
「ドクターそれ採用!それじゃ改めてよろしくクルタ!」
「よろしくお願いしますクルタさん!」
「それじゃそういうことで、マスターを宜しく頼むよクルタくん」
「……勝手にしやがれ」
彼らの態度に、心底面倒そうな顔をクルタは浮かべるのだった。
(バーサーカーだから
ドクターは一人心の中で自らが発案した名前の秘話をこぼすのだった。