冬木のクリア特典が星5だった件について   作:和尚我津

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これは全てネロのため

 古代ローマの地に降り立った立香一行。

「皆、ちゃんといる?」

「大丈夫ですマスター。ドクター、我々四名、無事に転移完了いたしました」

「フォウフォーウ」

「あれ?また着いて来ちゃったの、フォウくん」

「訂正、こちら五名、転移完了です」

『了解。それじゃ早速――』

「状況報告。転移地点は林の中。周囲に市街地等の視認は出来ず。転移座標にズレが見られる。周辺状況確認のため、索敵に移る」

「あれ、エミヤ!?」

「すでに姿が見えません。どうやら気配遮断を用いたようです」

 

 アサシンであるエミヤが斥候として周囲の把握の任に付いている間、立香たちは現状をドクターに咆哮していく。

 第一特異点(フランス)に引き続き、第二特異点の上空にも光の帯の確認が出来ていた。

 

『こちらアサシン、包囲中の戦闘集団を発見。どちらの勢力にもサーヴァントの気配あり。現状では敵性の判断は出来ず。監視を続行する』

 マシュやフォウくんがシミュレーターではない、真の自然を満喫していると、アサシンからの念話が立香に届いた。

 

「了解!こっちも今からそっちに行くから!待っててね!」

 

 魔術協会の制服を翻し、立香たちは報告のあった場所へと赴く。

 

 

 

 

 

 

 アサシンが監視している現場。木々が疎らに生えているだけの平地。

 そこでは、統一された装備に身を包んだ兵士たちが円を象り、種別の違う装備を纏った少数の兵士たちを取り囲んでいた。

 その中で、周囲とは装いが異なる三人の人間が集まり、話をしていた。

 

「……何故?何故(なにゆえ)生きて、いや、ローマに敵対しておられるのですか!?」

 真紅の装束に身を包んだ小柄な少女が、金色がふんだんに彩られている鎧に身を包んだ男に問いかける。

 激しい詰問から勢いが余り、身を乗り出そうとするところを、白い着物のような衣服を纏う、同じく小柄な女性に抑えられていた。

 

「それについては、すまない。本当にすまなく思っている。弁明の余地はなく、謝って許されるようなことでは断じてない。余はこのローマを滅ぼそうとしているのだから」

 激昂する少女とは裏腹に、応える男の口調は穏やかであった。

 視線は地を向き、支配者に足るその気配も、今は完全に消沈している。

 語る言葉、その態度は、罰を待ち受ける罪人に等しい。

 

「だがこれだけは言わせてくれ」

 

 頭を上げた彼の表情には、晩年に見られた狂気は見られない。

 あるのは、この現実を嘆く、悲哀の感情。

 

「これは全てネロのためなんだ。ローマを滅ぼすことが、ネロが望んだことなんだ!ローマの兵士を葬ることも、ローマを侵略することも、ネロを殺すことも、全てネロのためなんだ!余だってローマを滅ぼしたくはない。ネロを殺したくはないんだ!だがそれが、他ならぬネロのためならば、余はその茨の道をも進もう。なぜなら、余はネロを、愛しているから。だから――」

 

 もう一度言おう。

 今の彼には、狂気はない。

 バーサーカー(・・・・・・)の霊基を与えられながら、狂化の影響は微塵も感じられない。

 

 故に真紅の少女――ネロは恐怖する。

 理性を持って、自分のためにと宣いながら、自らを殺そうとする伯父――カリギュラの姿を。

 

「――許さなくてもいい。憎んでくれていい。だから、ローマの滅亡のために、そして、ネロのために死んでくれ。我が愛しい妹の子、愛しい余のネロよ」

「……世迷言を」

 

 いっそ、狂っていてほしいと、願うほどに。

 

 恐怖を掻き消し、ネロは叫ぶ。

 

「余が、ローマ帝国五代皇帝たるこのネロ・クラウディウスの望みが、ローマの滅亡だと!?ふざけるな!それ以上口を開くでない!叔父上の姿をした亡霊め!」

「ああ、その通りだネロ。だが心配などしなくてもいんだ。その憎悪も、狂気も、ネロのその気持ちは、ネロに向ける必要はない。余が一身に受け止めよう。ネロが秘めるその気持ちも、ローマが隠す悪意も、全て余が、あの世へと持っていこう。その気持ちを受け止める余に、殺されてくれ。ネロよ」

 

 話は終えたとばかりに、カリギュラが一歩踏み出す。

「下がれネロ!兵の下まで下がるんだ!」

 呼応するように白の着物の女性――荊軻が前に出てくる。

 ネロを後方に下がらせ、自らはカリギュラと相対す。

 

 暗殺者(アサシン)としての本分が、まったく生かすことのできない状況ではあるが、彼女は動じない。

(生前のあの時と、状況は変わらん。今度は失敗せん)

 その刃に、かつての時と同じ決意を乗せる。

 

 そんな周りの反応を無視し、カリギュラはさらに歩を進めていく。

 

 彼の意識はネロにのみ向いており、ネロを呼びとめようとした。

 

「待つんだネロ。これは全てネロのために――」

 

 その瞬間、この時代では聞こえるはずのない発砲音が、途切れることなく響き渡った。

 

 カリギュラに、銃弾の雨が降り注ぐ。

 咄嗟に交差した腕に、絶え間ない衝撃が襲い掛かる。

 

 突然の状況変化。それに荊軻は戸惑うことなくその変化に乗じ動き出す。

 

 銃撃により視界が塞がれたのを見て、接近。

 

 最短距離を、最速で。 

 相打ち覚悟は元より。自らの命すら惜しまず、刃を振るう。

 それ即ち不還匕首(ただ、あやめるのみ)

 

 荊軻は必殺の確信を得る。

 初撃は躱されるかもしれないが、問題はない。飛び退り、宙に浮いて身動きが取れないところに飛び込むのみ。

 

 十歩もいらない。一歩。

 

 それで殺せる。

 

 予想通り、カリギュラは後退。

 同じく、荊軻も跳躍。

 捨て身だからこそ出来たその一撃は、しかし空を切る。

 

「やれやれ、ネロを前にして、冷静さを忘れてしまっていたようだ。まさか、今の余が伏兵の存在を見落とすなんてな」

 

 【魔力放出(・・・・)】のスキルによって、空で軌道を変えたカリギュラが、冷静に言葉を発する。

 

「だが余が手ずから、愛おしいネロを殺さなければいけないこの状況。冷静さが保てるわけもなし。こうなるのはある種必然か」

 

 自嘲を含んだ独白の合間に、【魔術(・・)】スキルによって短剣を投影。

 

 【投擲(・・)】のスキルによって、枝の上に潜むエミヤの心臓に狙い過たず放たれた。

 

 エミヤは先んじて場を離れる。

 

 ネロたちの前に転がり出るエミヤ。

 その隣に荊軻が並ぶ。

 

「貴様は味方、だと思っていいんだな?」

 

 エミヤはその問いを無視して、兵士たちに囲まれているネロに語りかける。

 

「確認なんだが、お前はサーヴァントではなく、この時代を生きているネロ・クラウディウス本人、でいいんだな?」

「……何を言っているのかよく分からんが、この天地において、先にも後にも、ネロ・クラウディウスは余ただ一人である」

「了解した。こっちにも色々都合があるんだが、僕たちはアンタたちの味方だ」

 

 これがその証拠だ。

 その言葉と共に、エミヤのキャリコが火を噴き、カリギュラに襲い掛かる。

 

「フン」

 

 まるで何事でもないように、無手の両腕で全ての弾丸が叩き落とされる。

 正面からの攻撃では牽制になるかも怪しいようだ。

 エミヤは冷静に結果を受け止め、敵の情報も同時に集めていく。

 

「ネロを逃がすつもりだろうが、そうはいかない」

 

 カリギュラの一言で、包囲網はどんどんと狭まっていく。

 円が縮むことによって余剰となった兵が連なっていき、肉の壁に厚みが生まれた。

 キャリコの斉射でも、容易に穴が開くことがないほどに。

 

 包囲の一角を銃撃で崩し、その隙間からネロを逃がすというエミヤのプランはこれにて崩壊。

 この時代に有り得ざる武器。その連射性能を見て、カリギュラが瞬時にその脅威と、エミヤの狙いを読み取った結果である。

 

 カリギュラの暗殺。ネロの退却。

 狙いを悉く外された形となったエミヤだが、動揺は見られない。

 彼には分かっているからだ。

 戦場に感情は不要。そしてやるべきことは変わらないということが。

 

「アンタは兵の下で守りを固めておけ。もし隙を見つけたら、すぐ逃げろ。……皇帝陛下の叔父上様は、僕たちで処理しよう」

「さらっと私を頭数に入れたな、お前」

「怖気着いたか、暗殺者(アサシン)

「まさか。四人目の皇帝の首が、そろそろ欲しかったところだ」

 

 無表情で敵を見据えるエミヤ。不敵に微笑む荊軻。

 

「ま、待て!余らも共に戦うぞ!」

「止してくれ。都合があると言っただろ。アンタはとにかく、生き残るだけ考えていてくれ」

「釈迦に説法だろうが、皇帝ならば大局を見据えろ。少なくとも、ここで命を擲つ必要はあるまいて」

「……すまぬ、二人とも」

 

 二人の言葉を聞き、大人しく彼女は兵の下へと入っていく。

 皇帝としての判断ではあるが、まるで納得していないことは、その表情が物語っていた。

 

 カリギュラがおもむろに手を挙げると、兵の動きが停止する。

 ネロたちを中心に、カリギュラの立つ位置を半径として、円の縮小は終わりを告げた。

 

「無駄な抵抗はよせ。お前たちは、守り切れると思っているのか?」

「さて、それはどうかな?サーヴァントの数だけ見ればこちらが有利。どちらかが死んでも、貴様さえ殺せればこの程度の窮地、容易に脱することができるだろうさ」

 

 荊軻はその笑みを更に濃くして答える。

 自らの死など毛ほども忌避していないことは、先の攻防からも分かる。どちらかが死ぬとは言ったが、そうなった場合、彼女は喜んで死ぬのであろう。

 

 反対に、エミヤの顔には何も浮かんではない。

 恐怖も、歓喜も、決意も、何もない。

 

 カリギュラに銃口を向けながら、ただ、一言だけ告げた。 

 

「逆に問おう。逃げなくていいのかい?」

 

 その視線は、カリギュラの背後まで迫った、赤い魔槍の姿を捉えていた。

 

刺し穿つ(ゲイ・)死棘の槍(ボルク)

 

 解放された宝具の一撃は、阻まれることなく、曲がることなく。

 真っ直ぐに心臓を貫いていた。




次は9/23の正午ごろ、投稿予定です。

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