冬木のクリア特典が星5だった件について   作:和尚我津

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余こそが、カリギュラ

 戦場の空に、鮮血が宙を舞う。

 

「二度も暗殺を喰らうほど、余はお人よしではない」

 

 赤い薔薇を胸から生やした名も知らぬ兵士(・・・・・・・)を投げ捨て、カリギュラは一歩踏み込み、拳を繰り出す。

 

 クルタの胴体を狙って繰り出された一撃。 

 宝具発動後に一瞬硬直したが、辛うじて右腕を差しこむことが出来た。

 

「ぐっ!」

『えぇ!?ウソだろ?!』

 クルタの右腕は、確かにカリギュラの一撃を受け止めた。

 しかしその威力は、腕が(ひしゃ)げ、血を撒き散らし、衝撃が内臓へと突き抜け、その体を大地から切り離すほどのものだった。

 

 宙を跳ねるクルタの体。

 

「攻めよ!ローマの(つわもの)どもよ!」

「くっ!」

 

 カリギュラの号令に従い、包囲していた兵たちがネロへと攻撃を仕掛ける。

 ネロの身を守るために、荊軻とエミヤの動きが封じられた。

 

 クルタを吹き飛ばしたカリギュラが視線を向ける先はただ一つ。

 ネロ・クラウディウス――ではなく。

「っ!」

 マシュの背後から付いてきた、カルデアのマスター、藤丸立香。

 

 肉薄するカリギュラ。

 マシュは決断する。

 

仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!」

 

 盾の英霊としての本能が告げていた。

 このカリギュラの攻撃は、宝具を用いねば防げぬと。

 

 現れたるは、未だ理想に到達し得ぬ、不完全な城壁の如き、守護障壁。

 それを揺るがす剛腕の一撃が、振り下ろされた。

 

「ウォォっ!」

「くぅっ!」

 

 カリギュラは止まらない。

 一撃、一撃、一撃。

 連続で撃ちこまれる両の豪拳。

 宝具に匹敵する威力の拳の雨が、城門を砕く破砕鎚の如く叩き付けられる。

 余りの衝撃に打ち付ける手の皮が捲れているが、まるで構うことなく。

 

「シャアっ!」

「見えているぞ!」

 止むことがないのではないかという連打は、クルタの攻撃によって終わりを告げた。

 

 横一閃。

 魔槍の薙ぎ払いがカリギュラの背中を襲うが、これを彼は跳躍して回避した。

 膝を抱えて丸くなり、爪先スレスレを魔槍が通過していくのと同時、体を伸ばし、マシュの宝具を思い切り蹴りつける。

 地面と平行になった体はクルタの下へと滑空。体ごと回転させるようなバックブローが、正確にクルタの頭を狙って放たれた。

 

 カリギュラの攻撃を見て、直に触れて、その威力を理解させられたマシュは、脳漿撒き散らすクルタの姿を幻視した。

 

 だが致命の一撃と言えど、当たらなければ意味がないのが道理。

 大地に刺した脚部の棘を支点に、強引に地面へとその体を引っ張った。

 空振ったカリギュラは追撃を仕掛けようとして、横から加わった衝撃によって吹き飛んだ。

 

 勢いよく大地を滑ったカリギュラの体は、突然停止し、その場で素早く体勢を立て直した。

 その体に、目立った傷は付いてない。

 彼は体の埃を払いながら、自らを吹き飛ばしたものの正体を見つめた。

 

「なるほど。尾による一撃か。これは貴重な体験をした。例を言おう」

 

 高々と挙げられたクルタの尾が怪しく揺らめく。

 観察を続け、潰したはずの右腕が既に回復していることにも気づいた。

 並大抵の傷ではなんら痛痒がないことをカリギュラは悟る。

 

 マシュの宝具は解除され、クルタの隣へと並び立つ。

 その背後にはやはり立香が立っており、そちらを一瞥したカリギュラは、今度こそ意識を目前に立つ二人のサーヴァントへと移した。

 

 一方、立香たちも目前のサーヴァントに最大限の警戒を敷いていた。

 聖杯を取り込み、膨大な魔力と拡大した霊基を得たクルタならば、なまなかな英雄ではまず相手にならない。

 こちらの攻撃は常に必殺となり、反対に宝具による攻撃でしか手傷を負わない。

 伝説にて最強と位置付けられた英霊――トップサーヴァントと呼ばれる者で、やっと戦闘が成立するだろう。

 それでも、苦戦どころか、拮抗することすら、まずありえない。

 

 これが以前、ロマニから告げられた台詞であった。

 

 翻って、眼前の敵はどうだろうか。

 クルタと確かな干戈を交え、未だ傷らしい傷を負わず、それどころか、決して浅くはない手傷をクルタに与えるほどの存在。

 戦闘が成立し、まず間違いなく拮抗している。

 

 カリギュラとは、それほどの武勇を残した人物なのか?

 違う。ローマ皇帝として歴史に名を残しはしたが、そのような人物では決してない。

 常時の聖杯戦争ならともかく、聖杯をその身に取り込んだクルタに、善戦できるような英霊ではない。

 

 何故、クルタとまともに戦えているのか。

 

 その答えは、他ならぬロマニから告げられた。

 

『間違いないっ!皆、気を付けろ!そこにいるカリギュラは、クルタと同じように、聖杯をその身に宿している(・・・・・・・・・・・・)……っ!』

「なっ……!」

 

 睨み合う両者の空気を裂くような絶叫だった。

 告げられた事実に、マシュが思わず呻く。

 

 そう、単純明快な(ことわり)

 

 敵もまた、聖杯という圧倒的アドバンテージを有していただけの話。

 それだけの、単純で恐るべき理。

 

「ほう、余の中の聖杯に気付くか。姿を現さぬところを見ると、魔術師かなにかなのだろうが、なかなか優秀であるな。そして、そこの戦士もまた、余と同じく聖杯を取り込んだものであったか。なるほど。初手の一撃で腹を突き破れなかったのを不思議に思ったが、それならば合点がいく」

 

 カリギュラは感心したように言葉を続ける。

 

「僅かながら手合せしたが、どうやら貴様はかなりの使い手のようだ。見たところ、その得物も大層な魔槍であるようだ。さぞ名のある英雄なのであろう。これはいかに余といえど、苦戦は免れぬな」

 

 やれやれといった様子で首を振るカリギュラに、ロマニは声を荒げる。

 

『い、いや!それでもおかしいぞ!どちらも聖杯は取り込んでいるんだ。条件は一緒のはず。であるならば、皇帝である彼がクルタと白兵戦でまともに勝負なんて、出来るはずがない!』

「了見が狭いな魔術師よ。その言は合っているが、間違ってもいる。余は皇帝ゆえに、そこな英雄と渡り合えているのだ」

 

 カリギュラ。

 悪名としての面が強いが、その名は間違いなくローマ皇帝として列せられたもの。

 その事実は、彼に一つのスキルを与えた。

 

 それ即ち、【皇帝特権(・・・・)】。

 

 英霊固有のものを除き、、本人が持ちえないスキルを、短時間ながら自らのものとして取得できる、破格のスキル。

 皇帝として、この世の全てを手中に収めた者に相応しいと言えるスキルである。

 

 ここに至るまでの彼の戦闘は全て、このスキルを駆使した結果だ。

 

 【気配感知】のスキルで、クルタの接近に気付き。

 【直感】が、魔槍の危険性を告げ。

 【スケープゴート】を用い、その危機から逃れ。

 【怪力】に【魔力放出】、【勇猛】、そして【もう一つのスキル】を併用し、クルタの右腕を粉砕した。

 

 通常ならば持ちえぬことが出来ぬ豊富なスキル群。

 それを用いて、彼はクルタという大英雄との戦闘を成立させていた。

 

 強力なスキルであるが、使いこなすのは難しいスキルでもある。

 膨大な数に上るその中から、最適なスキルを選択し、組み合わせることが出来る判断力は、他ならぬカリギュラ自身によるものである。

 

 理性を取り戻したバーサーカー(・・・・・・・・・・・・・・)だからこそ出来る芸当であった。

 

 

 そのスキルを知らないカルデアの皆には、カリギュラの発言の意味は分からない。

 だが、分かることがある。

 

「よく分からないけど、これは逆にチャンスなんじゃないの?だって、今目の前にこの特異点の聖杯(原因)が見つかったんだからさ。あのサーヴァントを倒して、聖杯を回収すれば、タイムアタックの記録が出せるよ」

 

 そう。立香の言う通り、聖杯が目の前にある。

 カルデアにとって重視すべきはそこなのだ。

 

「他の色々なことは、倒してから考えよう!」

 

 ならばこの好機を最大限生かすのみ。

 

「二人とも!奴を倒すぞ!」

「イエス、マスター!」

「言われるまでもねぇ」

 

 マスターから指示が出た。

 それだけで、二人のサーヴァントが纏う空気が変わった。

 明確に、こちらを倒すべき敵として、気を漲らせた。

 それを見てカリギュラは、ほう、と唸る。

 

 何ら力を持たないマスターの一言で、こうも英霊に変化を与えるとは。

 彼に興味を抱かせるには、十分な光景であった。

 

「ふむ。余に名乗る栄誉を与えよう。貴様らの名は?」

「……藤丸立香だ」

「マシュ・キリエライトです」

「で、こっちの怖い顔したお兄さんはクルタ」

「なるほど。いい名だな、リツカ、マシュ、クルタ」

 

 顎に手を当て、満足げに頷くカリギュラ。

 僅か、空気が弛緩する。

 

 その間隙を縫うように、四条の刃が、立香の身へ迫る。

 

 それらは全て、マシュとクルタによって叩き落とされた。

 

「やはり、簡単に(マスター)を殺らせてもらえんか」

「随分なご挨拶だね。名乗ったのに、名前じゃなくて刃が帰ってくるなんてね」

「おや、余の名前を知らぬとは。何という無礼者どもだ。無知とは罪。首を刎ねられようと文句は言えまい。だがローマ皇帝が礼儀を知らぬと思われても癪というもの。よろしい、心して聞くが良い」

 

 彼の身から殺気とは違う、王のオーラというべきものが溢れだす。

 

 

「余こそが、連合ローマ帝国の皇帝が一人。カリギュラである」

 

 威風堂々。これが悪名と言えど、一国の頂点に立った者が持つ威なのだと、百の言葉以上に分かりやすく伝えていた。

 

「なるほどな。真っ先にマスターを殺ろうとするのが、テメェが言う皇帝のやり方ってわけだな」

「そう言うな、クルタよ。余としても気は進まぬが、余が最も忌避すべき事柄を回避できるのであれば、それを躊躇う理由など微塵もない」

 

 王の威を纏ったまま、カリギュラの目線が立香を射抜く。

 

「リツカ。貴様を殺せば、人理は燃え尽き、この特異点もまた終局を迎え、ローマ帝国は消滅するのだろう。――ネロを殺さずともな」

 

 彼は知っていた。

 立香を殺せば、その時点で人理焼却が完了することを。

 ネロを殺さずとも。ローマが終わることを。

 愛する妹の子を手に掛けずに済むということを。

 であるならば、カリギュラが立香を狙わぬ理由などない。

 

「ネロのためとはいえ、ネロを殺すのは非常に心苦しい。身が裂け、魂が砕かれるようだ。そんな時だ、貴様が現れたのは。これこそ天佑。ネロを殺めずに済むのであれば、余は喜んで貴様を殺そう。フジマルリツカよ」

 

 ――そのためならば、そこな城壁(ルーク)戦士(ナイト)を打倒することなど、惜しむべき労ではない。

 

 カリギュラから、先ほどの王気すら霞む、強烈な殺気が立ち上る。

 

「……下がってろ、マスター」

「マスター、私の背後から、絶対に出ないでください」

 それに応じるように、二人の気配もまた濃くなっていた。

 

 闘争の空気が場に満ちていく。

 

「その魔槍。素手で相手するにはいささかキツイものであろうな。だが、だからこそ振るいがいがあるというものよ」

 

 両者の気配がぶつかりあい、膨れ、そして弾けた。

 

「この【全ての力(パンクラチオン)】をな!」

 




次回は、9/23の18時少し過ぎたごろに投稿します。
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