冬木のクリア特典が星5だった件について   作:和尚我津

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ここらが潮時か

 カリギュラとクルタは同時に踏みこむ。

 

 先手を取ったのはクルタ

 槍と無手。比べるまでもないリーチの差。

 

 連続で放たれる高速突き。

 

 カリギュラはその全てを【心眼・真/偽】を用いて全て捌いていく。

 手の甲で、掌で、肘で。

 逸らし、流し、弾く。

 

 絶え間なく続く連撃から眉間を狙った一突きをカリギュラは選択した。

 【魔力放出】も使い、一際強く槍を上に弾き、潜りこむように接近する。

 クルタは弾かれた勢いすら利用して、縦回転させ石突を振るう。

 顔面へと迫るその一撃を、カリギュラは更に下。地面すれすれまで体を潜らせることによって回避する。

 髪の毛が頭皮ごと引っこ抜かれるが頓着せず、ガラ空きとなった胴体を狙って突き上げる様な形でのタックルを敢行した。

 

 クルタを捉える直前、カリギュラは強引に体を停止させ、【直感】が囁くままに、両手を交差させ顔面を守る。

 投石器が直撃したかのような衝撃が、彼の腕と鼓膜を震わせた。

 いや、投石器ではない。クルタを最速足らしめる脚力を秘めた前蹴りが直撃したのだ。

 踵側から生えた棘が、カリギュラの掌を貫く。

 

 カリギュラは勢いよく前進していたためか、蹴られた腕を支点に、まるで押し倒されるように、その場で仰向けになるような不器用な形で地面から浮きあがった。

 

 両足は無様に、足の裏を天に向けるように高く揚げられ――クルタの足を挟み、巻き着くように動き出す。

 両手はいつの間にか、爪先と踵の棘を掴んでいた。

 

 腿の棘を避けるようにして、足でクルタの膝を固定し、【怪力】と【魔力放出】を発揮させ、足先を強く上方へ押し上げる。

 変形の膝十字。

 

 可動域外に向けて掛かる力に、関節が嫌な音を立てる。

 瞬時に足に力を籠め、抵抗する。一瞬の拮抗を作り、逆手に持った槍を、自らの足にしがみついている無様な英霊へと突きたてる。

 

「流石の健脚。そう簡単には砕けんか」

 

 カリギュラは技を解き、【魔力放出】を駆使し素早く移動・回避した。

 

「だが、足首は頂けたようだ」

 

 その言葉の通り、掴まれたクルタの足首は180度回転しており、関節が砕けていることは明白であった。

 膝を極めることが不可能と判断した瞬間、両手で足首の関節を捻り砕いていたのだ。

 

 だが大した傷ではない。

 ルーンを起動させ、嫌な音を立てながら元の姿へと戻っていく。

 数瞬後には、何事もなく元通りとなるだろう。

 

 即ち、その数瞬の間は、いかに最速の英霊だろうと、機敏には動けないということ。

 

 カリギュラはクルタから目線を切り、駆けだす。

 残った片足で迫るクルタを振り切り、一目散にマシュへと、立香へと近づいていく。

 

 狙いは明白。

 立香の首。

 

 マシュはカリギュラの前に躍り出る。

 その心中には僅かばかりの逡巡があった。

 彼の攻撃の威力は先ほど体感したばかり。

 宝具は先ほど使用したばかり。連続使用には不安が残る。

 だが宝具を使わなければ、防ぎきれることは出来ないだろう。

 ――そうなれば、マスターは、先輩は……。

 

「マシュ、俺を守って!」

 

 だがその不安は立香によって拭われた。

 その言葉と共に、彼の右手は輝きを放つ。

 令呪を使用したのだ。

 

 盾の英霊を後押しするマスターの強力なバックアップに、マシュの迷いは消えた。

 

 カリギュラの一撃を、盾で受けとめる。

 強力な力を込められた拳に、されどマシュは押されなかった。引かなかった。

 彼女の全ては今、背後に居る立香を守ることに注がれている。

 ここより先へは一歩たりとも踏み込ませない。

 その意識が、覚悟が、彼女の手足に力を与えていた。

 

 この衝突で、カリギュラは容易にマシュを撃破できないことを悟る。

 マスターを失うかもしれない恐怖と、その彼からの守護を任された信頼が、『誰かを守る』という本質を最大限に発揮させている。

 負けはしない。だが勝つことが困難な難敵。

 

 そう判断したカリギュラは、マシュを回り込むようにステップを踏む。

 容易に撃破できない、ならば無視して突破するのみ。

 まるで短距離の瞬間移動に等しい、驚異的な速度で行われたそれに、しかしてマシュは追随する。

 カルデアでカリギュラと同等、いやそれ以上の敏捷性を持った相手と訓練してきた賜物であった。

 

 一瞬たりとも同じ位置に居ない高速の攻防。

 カリギュラはあらゆる角度から攻撃を重ねていくが、その全てに無駄なく最適に受けられている。

 

 彼は悟る。

 こと盾の使い方、他者を守護する技術において、マシュは群を抜いている。小手先の技は通用せず。マシュの守りを突破するには、正面から押し破る以外に方法はないのだと。

 そして、自らの【全ての力(パンクラチオン)】ならばそれが可能だと。

 だが、時間切れだ。

 

 マシュから距離を取り、再度クルタを見遣る。

 足首を治したクルタが、すぐ傍まで迫っていた。

 

 心臓を狙って突き出される魔槍。

 その鋭さは、回避できるものではなく。

 

 その穂先は、カリギュラが突き出した左腕に飲まれていく。

 掌に刺さり、前腕内部を突き進み、遂には肘から食い破って出てきた。

 

「捕えたぞ!」

「っ!」

 

 魔槍に貫かれたカリギュラの左腕は、それでもなお前へと進んでいった。

 槍の側面から出た棘のような刃に裂かれても、その勢いは止まらない。

 カリギュラの左手が、遂に槍を握るクルタの右手を掴んだ。

 

 ズタズタとなった左手が、万力を思わせる力で右手を固定する。

 

 そのまま、カリギュラは右腕を振りかぶる。

「ウォォォォォっ!」

 音の壁を突き破る、閃光の右ストレート。それが顔面へ向けて放たれた。

 直撃すれば肉片すら残さぬと思わせるその一撃は、しかして僅かに傾けられたクルタの顔の左側面を通りぬけた。

 

「おらぁっ!」

 空を切った右腕の外側から、左腕が振るわれる。

 クロスカウンター。

 先の一閃すら上回る速度の拳が顔面を捉え、その手応えのなさに顔を顰める。

 ボクシングでいう所の、スリッピング・アウェー。

 【心眼・真/偽】と【直感】の声に従い、視認すら出来ぬその一撃を受け流していた。

 

 そこからは、両雄の拳が乱れ撃たれた。

 クルタは敏捷性と経験による勘を生かし、かわし、逸らし、直撃を避け。

 カリギュラは【皇帝特権】による数多のスキルを駆使し、流し、弾き、直撃を避けた。

 

 互いが互いに一撃で絶命足らしめる、超接近戦。

 秒間何十発という拳が交差していく。

 攻防に使われている腕は、皮が剥がれ、肉が削がれ、骨を剥き出しにし血を撒き散らし、それでも留まることを知らない。

 

 その応酬に変化が訪れる。

 

 クルタが、撃ちだされた相手の右腕を掴んだのだ。

 これを好機と読んだのは、掴まれたカリギュラの方であった。

 余りの俊敏に、捕えたくともどうしようもなかった所だったのだ。

 押し倒さんばかりに、両手に力を籠める。

 ステータスと【怪力】によって生み出された力の差は大きく。

 その勢いによって、クルタの体勢を崩す。

 

 僅かなれど、明白な隙。

 

 左足を一歩踏み込み、その無防備な腹目掛けて蹴りを放つ……ことが、できなかった。

 

 蹴り足となる右の足に、クルタの尾が巻き付いていたのだ。

 

 チャンスは、一転してピンチへと変わる。

 

「死ね」

 短く、明確な宣告。

 動けなくなったカリギュラの顔に棘を突き立てんと、蹴り上げた。

 

 両手は使えず、片足が取られているこの状況。致命の一足が刹那の後、着弾する。

 カリギュラの判断は早かった。

 

 ボン、という音が聞こえると、カリギュラは旋回することで、クルタの蹴り上げを回避していたのだった。

 そのまま、左の後ろ回し蹴りを放つ。

 

 蹴り上げた直後ではあったが、持ち前の敏捷性を生かし、軸足のみの発条を使って後退。距離を取る。

 

 クルタは半ばまで吹き飛んだ右腕(・・・・・・・・・・・)を無視し、落ちた槍を左手で拾い、カリギュラは右手で左腕の欠損部(・・・・・・)を抑える。

 

 カリギュラは、拘束された右腕と右足、そして左腕から、強烈な【魔力放出】を行ったのだった。

 左腕に関しては槍が刺さったままだったため、許容量を超えた魔力を充填、一気に放出することで、内側から破裂させたのだ。

 

 それは『壊れた幻想《ブロークン・ファンダズム》】にも似た一撃。

 

 敵の狙いを瞬時に嗅ぎ取ったクルタは、被害が及ぶ前にすぐさま拘束を解いたのだが、相手に掴まれていた右手は振り払うことが出来ず、左腕の爆発に、あえなく巻き込まれてしまったのだ。

 

「ふむ、流石にここらが潮時、か」

 

 カリギュラの視界に、ネロを包囲していた友軍の姿は見えず。

 

 ネロと麾下の兵、そして荊軻とエミヤに蹴散らされたのだろう。

 負傷した状態で、さらに二人のサーヴァントと戦ったところで結果は見えている。

 勝ち目がないのなら逃げる。当然の選択だ。

 

「逃がすとでも思ってんのか?」

 

 語る言葉には当初と変わらぬ冷徹さが秘められている。

 簡単には癒えぬ傷を負いながら、クルタの戦意は衰えることがない。

 ここで仕留めるのだと、その目が物語っている。

 

「まあ、無理だろうさ」

 

 カリギュラは軽く答える。

 例え自分のみ無傷な状態であろうが、クルタの両足が健在である以上、逃げだした所で早々に捕まってしまうことだろう。

 

「だが、撤退戦において、殿(しんがり)を置いていくのは常識であろう」

 

 それでもなお逃げたいのならば、話は簡単。

 足止めとなる人間を置いておけばいい。

 それも、長い時間を稼げる人物を。

 

『皆!新しいサーヴァント反応だ!』

「というわけだ。余が逃げるだけの時間を稼げよ、レオニダス」

「……かしこまりました」

 

 いつの間にか、顔を兜で覆い、槍と盾を持った半裸の男が、カリギュラの傍に立っていた。

 レオニダスと呼ばれた男は、不服そうに返事を返すのみだった。

 

 カリギュラは、ネロの方へと向き直った。

 

「ネロよ!すまない!余のお前を愛する気持ちが、余にとって安易な道へと走らせてしまった!次に会う時は、余が必ず、お前を殺して見せよう!だから、その時まで息災で!」

「……叔父上」

 満面の笑みで、自らを殺すと宣う叔父の姿に、戸惑わずにはいられない。

 その言葉を最後に、カリギュラは【気配遮断】を用いて、戦場から離脱した。

 

「お待ちください。彼の皇帝を追うのならば、まず私を斃してからです」

「なんだテメェは。失せろ」

 

 追撃をしかけようとしたクルタの前に立ちはだかる男は、滔々と語る。

 

「私はランサー、名をレオニダスといいます。いささか不本意ではありますが、彼の皇帝を守るため、貴方たちの前に立ちふさがる男ですよ」

「そうか、なら死ね」

 

 言い切る前に魔槍片手に躍りかかる。

 その姿を見て、レオニダスは宝具を展開する。

 

「見よ!これがスパルタの魂!炎門の守護者(テルモピュライ・エノモタイア)ァ!」

 

 眼前に現れた、守勢に特化した三百人の兵士たち。

 

 

 

 

 その勇者たち、まさに難攻不落を体現しており。

 彼らを撃破した時、カリギュラの姿は、影も形も見えなくなっていた。




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