「よくぞ来たいずれ圧制者に至る者よ。さあ、艱難辛苦待ち受ける叛逆の祭典へといざ参らん!」
「はいはい、ちょっと落ち着きなよ」
前線に到着した立香たちを出迎えたのは、
「……なんというか、すごく、大きいです」
「マシュ!女の子がそんなこと言っちゃいけません!」
「え?はぁ、すいません……?」
「分かってくれたならそれでいいよ。それにしても……すごく、大きいです」
「フォ!?」
「え?マスター?」
『ちょっと!?立香くんも正気に戻って!』
「仕方ないじゃない、男の子だもん」
「どういう理屈だそりゃ」
「あっはっは!賑やかな子たちだね!」
全裸に限りなく近い半裸の
「二人とも、出迎えご苦労!紹介しよう!此処に居るのが、新たに我がローマの客将となる、カルデアの者たちである!」
ネロの言葉を皮切りに、自己紹介するカルデアの面々。
クルタの紹介はロマニが受け持っていたが。
彼らの前に立つ二人のサーヴァントが応える。
「名とは自己を確立する礎となるもの。それを高らかに世界に宣言する事、これすなわちこれ叛逆である!」
「今度は私たちの番ね。私の名前はブーディカ。こっちのデカいのが、スパルタクス。キミたちと同じく、ローマの客将をやらしてもらってる。よろしくね」
『ぶふぉっ!』
その名を聞き、思わず吹き出すロマニ。
失礼極まる行為だが、それは彼の驚愕を知らぬゆえ。
片や、ローマ帝国に反旗を翻し、解放した奴隷たちと共に帝国から勝利を奪った剣闘士。
片や、ローマ帝国の略奪と凌辱の苦しみを、復讐という炎で燃やし尽くさんとした女王。
どれだけ好意的に見ても、ローマ帝国に対して友好的になどなるわけのない面子なのだから。
それを察したブーディカは苦笑を浮かべる。
「まあ、そっちの考えていることも分かるよ。けど
「間違えてはならない、先に果たすべきは、人類史への圧政に対する叛逆であることを」
二人の内心に蟠りがないとは言えない。
分かっているのだ。裡に秘めたローマへの憎悪は。
だがそれでも、彼らはそれを飲み込み、ローマへと肩入れしている。
ひとえに彼らが、人々を、人理を守るための、英霊だから。
「それにしても、いいタイミングで援軍が来てくれたよ。こっちも呂布がやられて、さてどうしようかと悩んでいたところだからね」
ブーディカは視線を立香の傍に居るサーヴァントたちに向け、うんうんと満足げに頷いた。
「皆、頼りになりそうだ。一人は飛び抜けて強そうだし。それに……そっか。うんうん。なるほどねぇ~」
「あ、あの?ブーディカさん?」
「うん?どうしたマシュ?うりうり~」
「わ、わっ。うぷっ」
「フォウっ!フォフォウフォウ!」
ブーディカはマシュをその胸に抱き寄せ、ネコ可愛がりしていく。
少女の顔がなすすべなく埋もれていく様を見て、一匹の獣が興奮したかのような鳴き声を上げまくっている。
「こら!ブーディカ!余の目前で何をしておる!?マシュは余の側室ぞ!それを掻っ攫うとは何事か!?」
「ぷはっ。ありがとうございます、ネロ陛下。そして私は側室となることが出来ませんので、悪しからず!」
「いや~、ごめんごめん。私の後に、キミみたいな英雄が生まれると知ってテンション上がっちゃったよ。あ、クルタもこっちに来なよ。抱いてあげるからさ」
「いらねぇ。俺より
「はは!それもそうだね。私も
「ではマシュよ!今度は余の胸に飛び込むがよい!なに、遠慮することないぞ!この玉体に触れる栄誉に浸るが良い!」
「え、あの、その……遠慮しときます」
「フォっ?!」
「あ、じゃあ俺が……」
『死ぬ気か立香くん!?女性関係を舐めてたらクルタみたいに死んじゃうぞ!』
「ほう?喧嘩売ってんのかテメェ?」
「はっはっは。叛逆をなすには、結束が不可欠。その力こそが、無碍に膨れ上がった支配者たちの堕落を咎めるのである」
纏う装束から存在感まで異色を放つ一行は、設営された幕営へと入っていくのだった。
「お、顔合わせしても間もないだろうに、随分打ち解けたみたいじゃないか」
「偵察任務を完了。帰還した」
ネロとブーディカという二人の女傑の明るさもあって、一同の会話は和やかなものであった。一部無口だだったり意志疎通が難しかったりしたが。
そんな最中、偵察に出ていた荊軻とエミヤが帰ってきた。
次の戦場に向けての軍議が始まる。
彼らが持ち帰った情報は多岐に渡る。敵の位置や総数、武装、士気、距離、地形、等々。
こと情報収集・隠密偵察という点では、アサシンのサーヴァントに敵うものはそういない。
さらには、エミヤは現代の軍隊における偵察のノウハウを、荊軻は古代の軍隊における戦争や進軍の知識を、それぞれ有していたというのも大きい。
結果、この時代の斥候が行うより詳細な情報を集めることを可能としていた。
その情報は、戦争で勝利を齎すには、十分な程である。
しかしそれは、あくまで通常の戦争での場合。
「面目ない。敵軍の指揮官クラスの情報は、ろくに入手することは出来なかった」
「む。指揮官とはすなわち――サーヴァントであるな」
こと、今回の戦争で最も重要となる情報が、敵に居るサーヴァントについてのものだ。
有象無象といえるほど、兵士たちが弱いわけではない。
むしろ、未だ神代の名残を残すこの時代において、兵士単体の身体能力は現代のそれより上だと言えるだろう。脅威的だ。
だが、やはりサーヴァントというのは、それ以上に厄介なのである。
十万二十万いようが、単体での殲滅を可能とする存在が珍しくないのだ。
例えば、クルタ。
例えば、カリギュラ。
例えば、対軍以上の宝具を持っている者。
いや、時間はかかるかもしれないが、デミ・サーヴァントで、シールダーであるマシュにすら、可能かもしれない。
それほどまでに、人間とサーヴァントの力は隔絶している。
「……ネロ、アンタ、サーヴァントについて」
「うむ、立香たちから聞いておる。曰く、死者の生前の姿を模して現れる、本物とも偽物とも呼べる存在だと。そしてブーディカよ」
ブーディカがネロの発言を耳聡く拾う。サーヴァントを知っているのか、と。
ネロはそれを聞き、確信に至る。今自分の目の前に居るブーディカもまた……。
「その反応からして、貴殿もやはり――」
「――あっちゃあ~。ここはさらっと聞き流すべきだったかな~」
ことここに至り、否定することはブーディカには出来なかった。
ネロは既に疑念を抱いていたのだ。それを肯定するような発言をしてしまった以上、いくら隠そうとしても無駄だろうというのが、分かったのだ。
だから、さっぱりと、悲壮感を感じさせないように答える。
「そ。私はローマとの戦争で、とっくのとうに死んじゃってるのさ。すまないね、騙すような真似をしちゃって」
「何を言う。最初に間違えたのは余の方だ。討ち取った側である余が、貴殿が実は生きていたと宣うなどと……こんな馬鹿げた話もなかろうよ」
「あーもう、こんな風になるから言いたくなかったってのに。ていうか、アンタの方こそなんかあったでしょ。落ち込んだとしても、そこまでにはならないでしょ」
カリギュラに続き、ブーディカもまたサーヴァントであった。
その事実に、ネロは未だかつてないほどの動揺を感じていた。
このままでは、母ですらサーヴァントとして蘇ってきそうだとすら感じている。
まるで笑えない。
「こら!ネロ!」
「むぎゅ!」
情緒不安定となっているネロの頬を、ブーディカは押しつぶす。
「私は確かに死んだ。だけど、まだやれることがあるから、やらなきゃいけないことがあるから、此処に居る。それはアンタもだ。ていうかアンタの方がやることは多い。アンタは死んでなくて、皇帝だからだ。私に何かしたいのなら、やること終えて死んでからにしろ。だから今は、前だけを向け!」
重ねて言うが、ブーディカの裡には、ローマへの憎しみがある。
そんな彼女がサーヴァントとして戦うのは、人理を守るため。
「落ち込むのはローマが勝ってからしなさい。謝罪はアンタが死んでから聞いてあげる。だから、今は戦いましょう」
そして、離れることなくローマに居るのは……ネロという個人が、なんだかんだ嫌いではないからだった。
「……
「あっはっは。いや流石ローマ皇帝。柔らかくていいほっぺただ。ほら、立香やマシュも触ってごらん」
「
ブーディカとネロ。二人の女傑は、何か少し、ボタンの掛け違いともいえるべきものがあれば、あるいは親友とも言える間柄になったのかもしれないと、思わせる様な光景であった。
次回投稿は、10/24の12時ごろです。