冬木のクリア特典が星5だった件について   作:和尚我津

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見るからにヤバいもんね

 色々あったが、どうにか当初の目的である戦力の拡充を満たすことが出来たカルデアの面々。

 そしてついに、この長く険しい旅の始まりが告げられる。

 

 これから始まるのは人類の命運を掛けた一大プロジェクト。

 失敗はすなわち、人類の滅亡。

 そんな壮大な運命が立香の肩に圧し掛かっている。

 逃げだそうとしても、嘆きを口にしても、誰も責めることはないだろう。

 だが彼は前に進む。怯むことはあれど、その歩みを止めることはない。

 

 いよいよレイシフトが始まる。

 そんな中コフィンの中の立香は想いを巡らせていた。

 レイシフト先は問題ないのか、命は無事なのか、この旅は成功することが出来るのか。

 様々な考えが浮かんでは消えていく中、彼が一際強くに思っていたことは。

 

(いやドクター、絶対狂った戦士(バーサーカー)とクルタを掛けたでしょ)

 

 新たに仲間となった一人の戦士のことだった。

 

 

 

「無事にレイシフトできたようですね。先輩、クルタさん」

「みたいだね。火に囲まれてはなさそうだ」

「ああ」

「フォーウ」

 

 時代は1431年、百年戦争において休止状態にあるフランス。

 マスター藤丸立香とそのサーヴァントであるマシュ・キリエライト、新たに契約を結んだクルタ、そしておまけで付いてきたフォウの三人と一匹はその地に降り立った。

 

 ここから特異点の探索を行い、原因を突き止め、修正していくのだ。

 

 

「さてと、それじゃ出発しようか」

 早速分かりやすい異常として空に浮かぶ光帯についての報告を終え、立香は先陣を切って歩き出した。

 マシュは彼の傍らで寄り添うように歩き始め、フォウもマシュの肩に乗ってその身を任せている。

 クルタも付いていきながら、そんな彼らの背中を眺め、嘆息していた。

 

 ひどく無防備な背中であった。

 クルタがもし反逆を企てていたならば、容赦なくその背を抉っていたことだろう。

 彼は自らのマスターである藤丸立香の無警戒さと気安さに、内心辟易していた。

 通常の自分と違うことを把握している彼は、他者から警戒を抱かれる存在であることも理解している。

 実際、召喚直後マスターを除いた三名は自分に脅威を感じていたのだから。

 

 だというのに、このマスターは初対面の時から、何一つ臆さずに話しかけていた。

 あろうことか自分にクルタなどという名前を付けてきたのだ。

 剛胆なのか馬鹿なのか。勇者なのか愚者なのか。

 例えどれが正解であろうと、クルタはこう思わずにはいられない。

 面倒なマスターに召喚されたものだ、と。

 

 だが例え何があろうとクルタがやること、やろうとすることは変わらない。

 敵は鏖す。

 ただそれだけだ。

 

 

「待て、マスター、シールダー」

「はい? どうしましたかクルタさん?」

 歩き始めていしばらくしたところ、クルタから静止の声が上がった。

 何事かとクルタの方に振り返ると、彼はある一点を視線を向けている。

 釣られてそちらを見たマシュは小さく「あっ」という声を上げた。

 

「ドクター、現地人を発見しました。恰好からしてフランス軍の兵士だと思われます」

「え? どこに居るの?」

 立香も特別目が悪いわけではないが、所詮は人間。英霊の視力に適う物ではなかった。

 特異点Fからこちら、初めての現地の人である。

 かなり遠方に確認された兵士隊への接触に対してロマニも含めて是非を問い、会うことを決め、そして今、囲まれている。

 

「どうしてこうなった……?」

 立香の疑問の答えは周りから帰ってきた。

「何だあの男は……」

「全身棘だらけじゃないか」

「尻尾?尻尾だよなあれ」

「間違いない。魔女の仲間だ」

 

 つまり、兵士の皆様が近づくクルタにビビった結果、敵対行動を取ったということだ。

 立香は改めてクルタの姿を見る。

 血を沢山吸ってそうな赤黒い色をした朱槍を手に、全身から棘を生やして尻尾をぶらぶらさせている全身が黒い大男。

「確かに。見るからにヤバいもんね。これは仕方ない。イメチェンの弊害だな」

「うるせぇよ」

 立香のぼやきに律儀に返すクルタ。

 緊張感の欠片もない二人のやり取りに、周囲の兵士たちは尚更不審な視線を向けてくる。

 

 

「で、どうする?殺すか?」

 

 

 その一言で、空気が凍った。

 

 別段、クルタから強烈な殺意とか殺気とかが出たわけではない。

 唯本当に、何気なく、マスターである立香に問いかけただけなのだ。

 そこに特別な感情が含まれてはいない。

 

 だというのに、クルタが放った『殺す』という一言。たったこの一言だけで、空気は『殺された』。

 その場に居る誰もが確信した。殺すと決めたのなら、彼は一瞬の躊躇なく殺すということを。

 立香はこれが言霊というものなのかなどと、少し場違いなことを考えていた。

 

「ダメ。極力殺しはなしの方向で。わかった、クルタ?」

 誰もが動けなくなった空間の中、平然と立香は否定の言葉を口にする。

「敵を前にして何を悠長なことを言っている?敵であれば殺す。戦場の習いだ」

 クルタに視線を向けられた兵士が死ななかったことは偉業と言っていいだろう。

 思考を手放さず、クルタが槍を振るう姿を幻視していたのなら、彼の命はそこで潰えていたはずだ。

 

「あの人たちは敵じゃないよ。怯えて、警戒しているだけさ。敵対するつもりなんてないよ。そうでしょ?」

 立香の質問に、周りの兵士たちは間髪入れずに頷き続ける。

 ね?と呼びかける立香を見て、クルタはまた舌打ちを一つ打った。

 

「おいテメェら。敵になるつもりはねえんだな」

「ない! そんなつもりはこれっぽちもない!」

「ならば今回は槍を納めよう。だが次に刃を向けた時は命はないものと思え」

「わ、わかった、わかったよ」

 

 安堵と共に槍を下げる兵士たち。

 生き長らえた幸運を噛み締めている。

 

「そういえば、皆は何処に行こうとしていたの?」

「あ、ああ。俺たちは砦の戻る最中だったんだが……」

「それじゃ話も纏まったことだし、俺たちもそこに行こうか」

「え?」

「というわけで、案内お願いします」

 

 困惑するフランス兵士を促し、彼らの拠点へと案内させる藤丸立香。

『これは……見事な、砲艦外交です』

 マスターとしての最初の仕事は、それは見事な交渉術であった。

 

 

 

 マスター一行が案内された場所は、砦と呼ぶには余りにみすぼらしい所であった。

「これは……酷いですね」

「なんだこりゃ? 戦争やる気あんのか?」

「ま、前はこんなんじゃなかったんだ。あの竜の魔女さえ現れなければ」

「竜の魔女?」

 

 そこで彼らが聞き出したのは、処刑されているはずのジャンヌ・ダルクが蘇り、竜を率いてフランス国土で暴れているということ。

 明らかな異常。この特異点の調査における方針は決まった。

 

 そんな中、この砦に異常を告げる咆哮が響き渡った。

「き、来たぞ!迎え撃て!」

「あれは、ワイバーン?!」

「マスター、下がってください!」

 

 空を駆けるワイバーンの群れ。

 それを見てマシュはマスターを背中に庇い、その更に前に一人の男が進み出る。

 

「おいマスター、まさか止めやしないよな?」

 肩に赤黒い呪槍を預け、黒いフードを被った男がマスターに指示を仰ぐ。

 

 彼の初陣。その号令を立香は告げる。

「クルタ!あいつらを蹴散らせ!」

 

 その声にクルタは初めて薄らと笑みを浮かべた。

「終わらせよう、迅速にな」

 

 言葉と共に、黒い狂戦士は敵に躍りかかっていった。

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