冬木のクリア特典が星5だった件について   作:和尚我津

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連続更新第二話(三話更新予定)


その足を退()かしやがれ

 開戦冒頭。

 先陣を切るのはクルタであった。

 数に勝る敵の兵。その不利を打ち消すべく、初手から宝具を解放させる。

 オルレアンでの最終決戦。ワイバーンの群れを根こそぎ討ち取った死の一撃を、再び。

 

「やれやれ、私の喉は武器ではあるが、それは戦場ではなく弁舌の場においてこそ輝くものなのだ。本来の使い方とは違う。中身が違う。意味が違う。されどまあ、仕方があるまいか――■■■アアアァァァッッッ!!」

 

 ――それより先んじて、カエサルが吼えた(・・・)

 

 与えられた(・・・・・)【皇帝特権】より、ある一つのスキルを発動させた。

 

 それは本来なら、扱うことなど出来ぬスキル。

 カエサルを含め、この地に生きるローマの民に、その血は流れていない。

 

 だが、かの神祖は語った。認めた。認知した。

 

 我らは全て、神祖(ローマ)の子だと。

 

 すなわち、軍神マルスの子(・・・・・・・)ロムルスの子だと。

 かのアマゾネス(・・・・・)たちと同じく、軍神アレス(マルス)の血を引くものだと。

 

 曲解に曲解を重ね、極論すら超えた暴論。

 だが、神祖が認めたのなら、それはこのローマにおいて、全て真実となる。

 そしてこの程度の論法修めずして、何が皇帝であろうか。

 

 道理を超えたその理屈は、今ここに、真実となる。

 

「ううぅっ!」

「■■■ォォォッッッ!!」

 

 

 スキルの名は【軍神咆哮(・・・・)】。

 

 カエサルの咆哮は兵士たちの間を伝播し、共鳴するように始まった数多の叫びは、戦場の全てを揺るがした。

 

 疑似的に軍神の血を受け継いだ兵士たちが、その血の力を解放して、ネロが率いる軍隊へと雪崩込まんとしていた。

 

「――蹴り穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

 些末な強化など知らぬとばかりに、クルタの宝具が発動する。

 それは万軍へと降り注ぎ、立ち向かう者全てに死を与える、絶死の雨。

 無防備に受ければ、軍の壊滅は免れぬ。

 

 ――そう、敵の備えは、それだけにあらず。

 

 突如として、敵軍の中央に、巨石で出来た陣が現れた。

 石兵八陣。

 捉えた者を逃がさぬ、大軍師の叡智の結晶。

 

 しかし此度の役目は、卜占(ぼくせん)にあり。

 

 当たるも八卦、当たらぬも八卦。

 古代中国より伝わる(うらな)いの秘儀。

 この八陣《八門》により、軍は八つに分けられる。

 そのうちの一つは、死門へと繋がる。

 

 格別の神秘を持つものではない以上、魔槍によって決定づけられた死の運命を消すことは出来ない。

 

 であるならば、消すのではなく、操作する。

 一部の者たちが、死の呪いを全て引き受けるように。

 

「振り返るなローマの兵よ!我らの屍を超えて行けぇっ!」

「無論っ!」

 

 かくして、死の槍は、死門の者へと降り注ぐ。

 全軍に齎された呪いを、一身に受け、そこにいる者は無惨にも散っていった。

 漏れ出る今際の言葉は、しかして怨嗟に塗れず。

 残すは戦友たちへ送る激励のみ。

 

 軍の八分の一を消すことで、残りの七を生かす、非情の戦略。

 戦略的に必要な損害()だと、カエサルは割り切る。

 そして、その死は決して安くないのだと、光の御子とやらに教え込むのだと。

 

「ガァァァアアァッッ――!」

 クルタが叫ぶ。

 精霊すら恐れ戦く光の御子の咆哮に、軍神の力をその身に宿す敵軍すら僅かに怯み、その出足を鈍らせる。

 

「ローマの兵士たちよ!僕は君たちの王ではないが、だからこそ、その強さを、勇猛さを、僕に見せてくれ!」

「恐れるな!敵わぬ相手に、馬鹿正直に正面から突っ込む必要はない!我らは迂回して、側面から敵軍に突入するのだ」

 

 鼓舞され、勢いを取り戻す敵の兵たち。

 それを為したのは、赤い髪をしたあどけない顔立ちの美少年と、スーツが似合う腰まで届く黒髪を持った長身痩躯の男。

 ライダー・アレキサンダーと、キャスター・諸葛孔明である。

 大王に至る少年から放たれるカリスマと、智を持って支える軍師の指示により、クルタによって折れかけた精神は持ち直した。

 

 強大な二つの塊がぶつかった。

 

 遂に、両者の軍は激突し、拮抗し、一方の兵士たちが激しく天を舞い、物言わぬ肉体へと替えられていく。

 蹂躙されるは、ネロの軍。

 

 【軍神咆哮】での齎された強化は大きなものではない。シャドウサーヴァントと十回程度打ち合えるといった程度。

 サーヴァントにとっては、あってもなくても大したことにはならない、微々たる強化。

 しかし、並みの兵士たちにとっては、抗いがたい脅威となった。

 

 そこかしこから消える悲鳴の大半が、旗下のものであると気付いた指揮官たちは、迅速に判断を下す。

「近くの者と協力し守りを固めるのだ!複数で敵と当たれ!」

「今からアンタたちの仲間を助けに行くよ!アタシに続けぇ!」

 ネロは兵士たちに防戦を命じ、遊撃となったブーディカは兵士を連れて劣勢となっている部隊を助けに向かった。

 

「リツカよ!サーヴァント達の指示は任せる!」

「分かった!そっちは軍の方を!」

 立香は手の中にある石をぎゅっと握り込んで、力強く返答する。

 立香に役割の一部を任せると、ネロは軍の指示に専念しはじめた。

 

 ネロの号令で士気は持ち直したが、兵の力の差は如何ともしがたい。

 

 未だ戦線が崩壊していないのは、サーヴァントたちのおかげだ。

 特に、最前線で武を振るうクルタの活躍が大きい。

 誰よりも前に出て積極的に敵兵を狩り続ける。その武威に否応なく意識を向けざるを得ない。

 

 アレキサンダーと諸葛孔明は突撃することなく、遠方から強く敵意を飛ばしてくるのみであった。

 待ち構える姿勢、誘うような気配は、これ以上ないほど罠の存在を示唆している。

 

 それを察し、スパルタクスが狂気した。

「困難の打破こそ叛逆の証!いかなる罠が待ち受けようと、圧制者を排除するまで、我が歩みは止められぬと心得よ!」

 罠があることなど重々承知、いやあるからこそ、それを打ち破らんと嬉々として進軍を進める。

 道中苦戦している味方を助けつつ、彼は一心に二人へと駆け寄っていく。

 

「狙い通り、バーサーカーが釣れたかな?」

「そうだな。頃合いだろう」

「よし、それじゃあやろうか」

 

 アレキサンダーから、先とは比較にならないほどの気配が溢れだした。

 それは、大王とまで呼ばれる人物が放つ、膨大な王気(オーラ)

 歴代ローマ皇帝が放つものと劣らない気配が、戦場に満ちていく。

 

 途端、空間が歪んだ(・・・・・・)

 

『立香くん!膨大な魔力反応を検知!新たなサーヴァントが召喚されるぞ!』

 

「ォォ、ォォォオオオ!イスカンダルゥゥ!!」

 

 アレキサンダー大王(イスカンダル)という存在を触媒に、新たなサーヴァントが姿を現す。

 

 漆黒の肌に無数の刺青を刻み、黄金の戦装束で飾った、見上げるほどの大男。

 かの大王と幾度も矛を交えた、アケメネス朝最後の王、ダレイオス三世。

 

 バーサーカーとして召喚された彼は、この古代ローマの地にて、アレキサンダー大王と対峙する。

 

 ネロの軍勢を間に挟んで(・・・・・・・・・・・)

 

「ウオォォォォォッッッッ――!!!」

 

 咆哮と共に、彼の王の宝具が展開される。

 その名を、『不死の一万騎兵(アタナトイ・テン・サウザンド)』。

 不死とまで呼ばれた彼の配下たちを、不死者として呼び出す軍隊宝具。

 

 その数、一万。

 

 何もない空間から現れた敵の増援に、兵士たちは動揺を隠せない。

 不死者たちはローマの兵士(障害物)の事情など斟酌せず、ひたすらアレキサンダーに向けて突撃していく。

 

 一万にも及ぶ、死なぬ精兵を率いたサーヴァントの突撃の前では、ローマの兵士たちは塵芥のように蹴散らされていくことだろう。

 

「させるか!約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)っ!」

 

 それを阻止するため、ブーディカはその眼前へと飛び出し、宝具を発動させる。

 彼女が乗る戦車《チャリオット》が輝きを放ち、ローマの兵士たちを守る車輪()を生み出す。

 その壁は不死者の刃を通さず、ローマの反撃を許した。

 

「出てきたばっかりで悪いけど、すぐに退場してもらうよ!」

「ガアアァァァッァ!!」

 

 ブーディカはそのまま、ダレイオス三世の下へと駆け出す。

 女王の戦車を見て取ったダレイオスは、周囲の骸骨兵の体を集結・分解・再構築させ、巨大な骸骨の戦象を生み出し、迎え撃った。

 

 

「エミヤはスパルタクス、荊軻はブーディカさんのフォローにそれぞれ回って!マシュは暗殺や奇襲から、俺とネロを守ってくれ!」

「イエス、マスター!」

 開戦して僅か。絶叫が響き渡り、ぶつかった金属が鳴り、ついで悲鳴が(こだま)して。

 続々に変わる戦況に目を回しながら、立香はサーヴァント達に指示を出す。

 

 返答することもなく、二人の暗殺者は気配を掻き消し、それぞれが王の首を獲りに行く。

 未だ姿を現さないカリギュラ、そしているかもしれない暗殺者の存在への警戒を再度促し、立香は最前線にて槍を振るうクルタを見遣る。

 

 彼の眼には、クルタの姿はろくに見えていない。動きのあまりの早さに、只人(ただびと)の目には霞んだようにしか映らない。

 血と臓物が撒き散らし、吹き飛ぶ敵兵たち。

 赤き飛沫が道標(みちしるべ)となり、今の彼の所在を表す。

 

 敵のサーヴァントの動きはあらかた抑え、クルタが武勇を振るっているが、戦況の不利は明白。

 向こうとこちらでは、兵の強さが格段に違うためだ。

 複数集まればシャドウ・サーヴァントすら打倒できる兵士たちにとって、何の強化も施されていない兵士の相手など、役不足なのである。

 

 立香には、敵兵の強さの秘密が分かっている。

 ガイウス・ユリウス・カエサル。

 かのサーヴァントが吼えた途端、敵兵からの圧力が増したのは分かっているのだ。

 

 つまり、開戦直後から一歩も動いていない、あのカエサルを討ち取ることが、この不利な戦況を打破することに繋がるのである。

 

 戦場を見渡し、傷を追い、命を落としていく友軍の兵士たちを見て、立香は決断した。

 

「真っ先にカエサルを討ち取れ!クルタぁ!」

 

 戦禍の音が空間を埋め尽くす中、立香は叫んだ。

『了解した、マスター』

 届くかどうかすら怪しい命令は、しかしてクルタに届いた。

 念話を持って是を返すとたちまちにクルタは助走もなく跳びあがり、空で身体を引き絞る。

 右手に持つ赤き魔槍に、聖杯から溢れる魔力と漲る殺意が込められる。

 極限まで弦を引いたクルタという強弓。

 そこから放たれるは、邪竜すら仕留めた、必殺の一撃。

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

 空気の壁を突き破り猛進する、紅き魔槍。

「くははっ!これはこれは!長くは持ちそうにないぞ!」

 その飛来を、カエサルは笑みを持って迎え撃つ。

 

 突如として現れた黄金の闘技場の上、大理石で出来た腕足を纏ったカエサルは剣を抜き放ち、その真名を解放する。

「私は来た! 私は見た! ならば次は勝つだけのこと!『黄の死(クロケア・モース)』!」

 振るわれる剣は魔槍にぶつかり弾け、間髪おかず、再度剣が激突する。

 幾度も、幾度も、幾度も。

 宝具の効果で作られた斬撃の壁に、魔槍の直進は阻まれる。

 その壁は万物を通さぬと錯覚するほど。

 されど、秘めた威力が、込めた魔力が違う。【皇帝特権】により多重に発動したスキルの効果を以てしても、持ってあと、十秒程度。

 カエサルは悟る。当然のように、己が死ぬことを。

「全く!全くもって!狙い通りだ!」

 迫り来る確実な死に、しかしてカエサルは笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 感情を抜きにして、理屈のみで語るのならば、この立香の判断は間違っている。

 なぜなら、彼らカルデアの目的は特異点の修正。

 その最中、どれだけの人が死のうが、修復すればなかった(・・・・・・・・・)ことにされるのだ。

 極端な話、この場に居る全ての兵士とサーヴァントが斃れようと――立香とネロさえ生きていれば、歴史の修正は可能なのである。

 

 カリギュラという明確な脅威が未だ姿を見せぬこの場における最善とは、味方のの損害を無視し、クルタという最強のカードを使って一体ずつ確実に敵サーヴァントを排除し、しかる後に敵兵を殲滅するというもの。

 聖杯によるバックアップを得ている今のクルタならさしたる労ではない。残った仲間のサーヴァントと協力すればなおのこと。後々に補填が聞く損害が大きくなるだけで。

 

 しかし、立香にその損害を――人命を無視することは出来なかった。

 特異点だからと言って、人を助けない理由にはならないのだ。

 

 故に、立香はクルタに命じた。人命を救うために。

 故に、クルタは槍を投げた(宝具を解放した)。カリギュラが姿を見せぬ現状において、必要以上に立香たちから、離れることが出来なかったために。

 

 故に、カエサルはそこを狙った。クルタという大英雄から、魔槍(宝具)が離れた瞬間を。

 

 

 

 クルタの顔に、影が差す。

 

 

 

「カエサル候の狙い通り、だな」

「――テメェ!」

 宙に居るクルタの、さらに頭上。

 

 カリギュラが、そこに居た。

 

 宝具を解放直後の、拭いがたき隙を晒すクルタを狙って。

 

 そう、カエサルは読んでいたのだ。

 人理を救わんとするマスターが、人命を見捨てれないだろうことを。

 マスターに仕える大英雄が、主から離れられないだろうことを。

 それでも自身を討ち取るため、槍を擲つだろうことを。

 

 スキル【千里眼】で垣間見た立香から、甘さがあることを見抜いていたのだ。

 

 その甘さを責めることは出来ない。それもまた、数多のサーヴァントのマスターたる資質の一つであるのだから。

 ただ今回は、それが裏目に出た。そこを狙われた。それだけの話。

 

 カリギュラはその瞬間が来るまで、ひたすらに【気配遮断】で身を潜めていた。

 誰にも悟られぬように、一兵卒の群れの中に紛れて。

 クルタの手から槍が離れる時を、虎視眈々と。

 

 そうして、彼の望んだ瞬間が訪れた。

 

「久しいな、クルタよっ!」

 

 前回の戦いで吹き飛んだ左腕は元通りとなり、五体満足となった身体が躍りかかる。

 両手を組んで作られた鉄槌が、クルタへと振り落とされた。

 

 無防備なまま、その一撃を受けたクルタが、勢いよく大地へと墜落していく。

 落下したまま姿勢を整えるクルタの視界に飛び込んだのは、自ら以上の勢いをもって、迫り来るカリギュラの姿。

 【魔力放出】を使い、クルタを上回る速度で、大地へと落ちていったのだ。

 

 それでもなお、大地に辿り着いたのは、クルタが先であった。

 間一髪で躱した蹴りは、大地を砕き、その余波で周りにいる兵士を敵味方問わず吹き飛ばしていく。

 

 千載一遇の好機。そこを逃さず決めた奇襲でもって、なおクルタを仕留めることが出来なかったカリギュラは、されど笑った。

 

「やっと捕えたぞ、光の御子!」

「その足を退()かしやがれ!」

 

 超至近距離。

 二人は離れることなく、互いの手が届く距離で睨み合っていた。

 

 いや、違う。離れないのではなく、離れられず、離さないのだ。

 

 カリギュラの右足。地を割ったその足が、クルタの尾を大地に縫い付けていた。

 

 再び相見えるこの時まで、カリギュラは以前の戦いを振り返っていた。

 倒せなかった要因を考え、一つの答えに辿り着く。

 クルタを通常と同じ肉体(規格)を持つ人間だと考えていたこと。

 これが敗因であると。

 

 相手を五体持つ人間と考えて戦っていた前回、クルタは五体を超える肉体を有していた。

 三本目の腕であり脚でもある尾の存在を考慮していなかった。

 最初の一撃を貰ったのも、最後の詰めをしくじったのも、どちらもクルタの尻尾によるもの。

 

 人間の規格で戦っていて、規格の外(尻尾)にしてやられたのだ。

 

 再度ぶつかるとき、またそれに足元を掬われるだろう。

 経験値は得たが、クルタ程の手練れが相手となると、僅かな経験では心許ない。カリギュラはそう考えた。

 

 対処法は、極めて簡単なである。

 

 尾の動きを封じればよい。それだけだ。

 

 そして、先の奇襲で狙い通りに、尾を踏み抜くことが出来たのだった。

 

 尾を足で抑えている間は、敵もその場に縫い付けられ、必然、クルタの素早さも十全に発揮されない。

 敵も当然、至近距離に居る。

 すなわち、カリギュラの間合いに。

 

 尾を封じ、身動きを制限し、敵を自分の土俵に上げる。

 尾を踏みつける右足が封じられるデメリットがあれど、それを上回るメリットがある。

 踏みつけた右足から血に染まった棘が飛び出ているが、些細な話だ。むしろ固定できるだけ、ありがたいとすら思える。

 

 後はただ、クルタの宝具が手元に帰ってくるまでに、仕留めればいいだけの話。

 

 

 カリギュラは徒然にそんなことを考えながら、二度目の衝突の開始を告げる【軍神咆哮】(雄叫び)を上げて、拳を繰り出した。

 




次回投稿は11/15(金)0時ごろ更新予定
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