冬木のクリア特典が星5だった件について   作:和尚我津

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皇帝に非ず

 最前線。名も分からぬ、城の塁壁。

 世界(ローマ)を見下ろす黒のネロ。それを見上げるクルタは槍の切っ先を彼女に向ける。

 

「不死身と宣うか。ならば我が槍に貫かれてなお同じセリフを吐けるかどうか、試してやるよ」

「面白い。やれるものならやってみせるがいい。光の御子とやら」

 

 言うが早いか、乱立した樹々を足場に跳ねるように進んでいく。

 

「させんと言ったはずだ! クルタよ!」 

 その行く手をカリギュラが遮る。

「邪魔だ! っ!」

 迎撃しようとしたクルタであったが、足場としていた大樹から、杭の如き枝がいくつも飛び出した。

 持ち前の敏捷性で躱したクルタであったが、突然の攻撃に体勢が俄かに崩れる。

 鋭く突き出された貫手を避けきれず、クルタの頬肉は僅か削り取られる。

 

 無理な回避をしたことで、更なる隙を晒すこととなったクルタに追撃の一手を出さんとする。

「LAAIっ!」

 そこに再びアレキサンダーが飛びかかった。

 

 ブケファラスが体重を感じさせぬほど軽やかに木々を駆けカリギュラの頭上を逆上がり、落ちるように跳躍。

 ブケファラスの脚力によって打ち出された人馬の重量に、アレキサンダーの膂力に加えた渾身の一撃がカリギュラを襲う。

「かっ!」

 金色の籠手とキュクリプトの剣が激突する。

 爆発したような轟音が樹海に響く。

「うわっと!」

「ぬっ!」

 カリギュラの剛力は人馬一体となったアレキサンダーを馬ごと天へと跳ね返す。

 しかしてカリギュラが足場にしていた太枝もまた衝撃に耐えられず粉砕し、大地へと墜落する。

 

「これで終わりだ」

 

 カリギュラの視線の先には、大樹から飛び出し彗星のごとく迫るクルタの姿が。

 

 着地と同時に終わる。両者が抱いたその確信は、目前に現れた金色の壁によって阻まれた。

 ドーム状のそれは、槍の穂先を滑らせる。必殺を期した槍は黄金の表面を僅かに削るに留まり、致死を逃れた男は素早く距離を取って笑みを浮かべる。

 

「やれやれ、正直な所助かった。まったく重ね重ね妹の子の手を借りねばならぬとは。不甲斐ない余を許してくれ。ネロよ」

「それは言わぬが花ですぞ、叔父上よ」

 

 礼を言うカリギュラと、それに応える黒のネロ。

 追撃を仕掛けずにクルタは間合いを維持し両者をねめつけながら、冷静に現状を分析していた。

 

 こちらが今一歩が仕留めきれないのは、カリギュラがあと一歩で難を逃れているのは、黒のネロのサポートによるもの。

 神速にて行われる接近戦においても、的確かつ正確に援護が差し込まれる。

 彼女が補助に回っているのは力不足によるものではない。助力・妨害に留まらず、その威力は彼を害するに十分な力を持っていた。ただその役回りが最も適切であると判断しているからに過ぎない。

 遠方からでも感じる魔力や存在感から見ても間違いなくカリギュラと同程度、もしくはそれ以上の戦力を秘めていることが読み取れる。

 先の激突で己もカリギュラと同程度に消耗している以上、有利とは言い切れない。

 一人であっても難敵と呼べるものが二人。そしてそれが完璧なコンビネーションを形成している。

 両者を同時に相手取り、早期に撃破するのは至難。

 クルタはそう結論付けた。

 

 そのうえで、最速で打倒すると決意する。

 

 背後から聞こえる阿鼻叫喚。粉砕音。衝突音。 

 黒のネロが猛威を振るっているのは明白。兵士の命が塵芥の様に散っていることだろう。

(そんなことはどうでもいい)

 アサシンのサーヴァントや、特異点で出会ったサーヴァントが消滅しているかもしれない。

(元より興味はない)

 特異点の要であるネロが、今にも死にかけているやも。

(そう。それゆえに、奴らを倒す。一刻でも早く)

 

 クルタは魔力を漲らせ、構えを取る。

 

(マスターの命はシールダーが守っている。未だ弱いが、背後につっかえ棒(守るべき存在)さえあれば、そう簡単に盾が斃れることもあるまい)

 

 だがそれも永遠ではないとも理解している。永劫守り切れるほど容易な攻撃ではないのだ。

 であるならば、速やかに奴らを排除する必要がある。幸いにして黒のネロが本調子でないのだから、それが最善。そのようにクルタは思考する。

 

 ――優しいなぁ、クルタは

 

 過日の立香の会話が脳裏を過ぎったことを、意図的に無視して。

 

 己が身を引き換えにしても二人の首を取ることを決め、脚に力を籠める。

 

 魔槍の脅威を十分に理解している以上、それを黙ってみているカリギュラではない。そう易々と宝具を打たせてはくれないだろう。

 白兵戦で速やかにカリギュラを打倒し、その後黒のネロの首を取る。身の保証は考えてすらいない。捨て身の猛攻で、クルタは勝負を決める肚だ。

 

「喰らいな!約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディカ)っ!

 

 限界を超えた力で一歩踏み出さんとしたその時、横槍が入った。

 樹々の合間をすり抜けた戦車(チャリオット)から光の弾が雨あられとカリギュラへと降り注ぎ、車体はクルタの行く手を遮るようにして歩みを止めた。

 

「クルタ!下がるんだ!アンタはマスターたちと一緒に撤退して!」

 宝具の発動を止めないまま、ブーディカはクルタに向かって指示を出した。

「言っとくけど、これはマスターからの指示だからね!従いなさい!」

 

 クルタからするとこれは好機だ。カリギュラさえ足止めされていれば、己は黒のネロを仕留めることができるのだから。

 そう判断し視線を頭上に居る黒のネロへと向ける彼に、ブーディカは言葉を重ねる。

 

「さっきの戦いでボロボロのアンタが、ネロを確実に倒せるの?!アンタの槍なら、アイツを絶対に殺せるのか?!その保証は?」

 

 ない。戦闘で負けることはないが、勝てるとも言い切れない。万全ではないようだが、それはこちらも同じである。不死を殺せる自信も生前の話。サーヴァントとしての自分に不死を殺せる絶対性があるとは言い難い。

 

「なら今は引くんだ!マスターたちと一緒に、アイツを倒す方法を考えるんだ!ここは私たちが止める――」

「――話が長いぞ、女王よ!」

 

 光弾の雨を払いのけながらカリギュラが接近する。元より威力に乏しい光弾だ。カリギュラの行動を長時間拘束できる代物ではない。

 

「受けよ!我が真なる叛逆!」

 

 その側面からスパルタクスがタックルを仕掛けた。

 はちきれんばかりに筋肉を膨張させ、カリギュラを吹き飛ばした。

 

「ALalalai!」

 

 空を舞うカリギュラに向けて追撃するのはアレキサンダー。

 全力の体当たりは、今度こそカリギュラを遠方まで吹き飛ばした。

 

「言ったろ。私たちが、ってね」

 

 ブーディカ、スパルタクス、アレキサンダーの合力。

 後方では決死の覚悟を持って、大樹や敵へと食らいつく兵士たちの姿もあった。

 

「ふむ、聞き逃していたようだ。耳には自信があったのだがな」

 

 それでもなお、カリギュラを斃すには至らない。それどころか、負傷がどんどんと癒えてすらある。クルタとの戦闘で負った傷すらも。

 

「すまないなネロ。傷すら治してもらうとは」

「この程度今の余には児戯に等しく。礼を言われる方が擽ったいというもの」

 

 余裕そうにネロとの会話すら行っている。いや事実余裕なのだろう。

 サーヴァントの数すらもアドバンテージになりえず、与えたビハインドも今消滅しつつある。

 

 視線を切らさぬまま、ブーディカはクルタへ話を続ける。

 

「クルタ、アンタがマスターの責任感を減らそうとしているのはわかるよ」

「あぁ?なに言ってやがる?」

 

 的外れな意見を聞いたと言わんばかりのクルタの言葉に、ブーディカに思わず笑みが浮かぶ。

 

「いや、なんとなーくそうじゃないかなって思って。違ってたらごめんね」

「全然ちげぇよ」

 

 その返答をきき、彼女からまたもや笑みがこぼれる。クルタが思わず顔を顰めるが、見向きもしない彼女は気づかない。

 

「大丈夫だよ。あの子は、マスターは強い。それはアンタもわかってることだろ。アンタが無理や無茶をするのは、今じゃないよ」

「知るかよ。そもそもテメェの命令を聞く義理はねぇ」

「じゃあ、お願いだ――あの子たちを、守ってやっておくれよ」

 

 その言葉に、クルタは踏み出そうとした足を止め、僅かに逡巡。

 

「撤退は、マスター命令なんだろ」

「そう、あの子が判断したことだ」

「ならそれに従うだけだ――じゃあな」

 

 その言葉を最後に、クルタは戦場に背を向けて後退していった。

 

「止めよ叔父上、まずはそこの三人を確実に仕留めるのだ」

 

 無防備なその背中に一撃を加えんとしたカリギュラを押し留めたのは、黒のネロであった。

 その一瞬の間に、クルタの姿は遠い彼方にあった。追撃するには距離が開き過ぎた。

 追いついた時、そこがネロがサポートができないほどの遠方となる可能性があるため引き留めたのだ。

 

「へえ、見逃してくれるなんて、随分と余裕なんだね」

「うむ。最期くらい奴等にローマを味わわせてやるのも慈悲というものよ」

 

 真意を隠し、余裕からくる行動だと黒のネロは語る。

 

 その言葉にアレキサンダーが思わず笑みを浮かべる。

 

「なるほど、よっぽど怖いんだね。君は彼女たちが」

「……何を言っている?」

 

 笑みを絶やさぬまま、彼は言葉を重ねる。

 

「万全を期す。必勝を期す。聞こえはいいけども、相手を最大限警戒していないとできない行動でもある。国力の消耗や兵の疲労を抑えるためって考えもあるけど、君は相手を自国ごと滅ぼすつもりなんだから、そういった要素を考える必要はない。なのにそれほど慎重に動こうとする理由なんて、相手を怖がっているからとしか考えられない」

 

 違うかい?

 そう目で告げるアレキサンダーを、問われた本人は冷たく見つめ返すのみ。

 

「如何にも。その眼差しは圧制者を見る少女の眼差しなりや」

 

 その言葉に同意したのは、まさかのスパルタクス。

 

「なんだと?」

「己が持たざる全てを持ちし圧制者を羨み、疎む目線。彼我の違いを認められず圧制者を認められず、それゆえ周囲の弱者に圧制を強いる――即ち汝、圧制者にあらずして、圧制を敷くものなり」

「……貴様、何を言っている?」

 

 完治した両目でスパルタクスを睨むカリギュラ。彼が言っていることがわからないわけではない。理解できる故、理解できない。

 なぜなら彼の言い分は――

 

「――は、ははは、はっはっはっは!なんだ貴様、つまりはこう言いたいのか?余は皇帝に非ず、と?」

「左様。奪われたもの、失ったものに想いを馳せ、それを有する者に恐れと怒りを抱く、ただの少女なり(・・・・・・・)

 

 

 ネロの乾いた笑い声が、止む。

 

 

「遺言はそれで終いか?ならば、死ね」

 

 

 その表情を言い表すなら、どんな言葉が相応しいのか。

 憤怒、悲哀、虚無。

 ブーディカには分からない。彼女を抱きしめてあげたい。そう思う。

 

「悪いけど、そう易々とはこの首は取らせないよ」

 

 どれだけ願ってもそれは叶わない。ゆえに彼女は託す。

(ネロ、アンタには立ち直ってもらって、そしてこの子をどうか、救ってあげてほしい)

 この少女を救えるだろう、同じ顔をした皇帝に。

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