冬木のクリア特典が星5だった件について   作:和尚我津

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全ての道はローマに通ず

 轟音が戦場に響く。

 空を飛ぶ城。その余りの出来事に目を取られた連合ローマの兵士たちは、宮殿に城が突き刺さる瞬間を呆然と見つめていた。

 破片が散乱し、半ば倒壊しているが、城はなお健在。

 城を生やした宮殿。事情を知らぬものが見れば一種の前衛芸術とも思える光景だった。

 

「反転せよ!ネロの救援に向かえっ!」

 

 いち早く正気を取り戻したのはやはりこの男、カリギュラ。

 言い切らぬうちに、宮殿に向けて一歩踏み出す――。

 

「鉄火場で余所見するたぁ、随分余裕があるんだな、テメェら」

 

 ――しかして、事を起こした当人からすれば、欠伸が出るような鈍間さで。

 

 

 戦場に飲まれ消え入るような声が、広い戦場の末端に居た兵士の耳まで届いた。

 

 誰かが――もしかしたら全ての兵士が――思った。まるで死神が耳元で囁いたようだ、と。

 

 声から遠くあるものは鮮血を。近くに居たものは何も気付かぬうちに、この世から消えさった。

 

 

 血の風が巻き上げ進む気配に、カリギュラの二歩目は停止する。

 

「テメェの相手は俺だ。さっさと死ね」

「っ!やはり貴様を葬らねば、ネロの元には戻れんか!クルタよ!」

 

 路傍の石の如く道中の兵士たちを払い除け、カリギュラへと迫ったクルタ。

 この戦場最大の障害と認め、持てる全てを使いこれを打破せんとクルタへと立ち向かうカリギュラ。

 

 二人の英傑の、三度目にして最後の激闘がここに始まった。

 

 

※※※

 

「馬鹿か?馬鹿かっ!?ここまで馬鹿だったのか、ネロ・クラウディウス(生前の余)は!?」

 

 驚愕。呆然。憤怒。

 

 絢爛たる黄金宮殿はもはや見る影もない。壁の一面は巨大な質量の衝突で崩壊し、そこから端を発する罅割れは宮殿全周を覆っていた。

 天井からは断続的に瓦礫が降り、柱は末魔を断つような嫌な音を鳴らしている。

 その惨憺たる有様に、黒きネロの心中に様々な感情が生まれ、渦巻いていた。

 

 絶叫が止まらない。馬鹿げたことをやっていた自負はあるが、ここまでのことは仕出かした記憶は彼女にない。

 

「えぇーい!うるさい!バカバカ連呼するな!優雅さの欠片もない上に見苦しい!ここまで落ちぶれるのかネロ・クラウディウス(死後の余)は!?」

 

 粉塵に咽ながら、かろうじて原型を留めていた城から正統なるローマ帝国の皇帝、赤きネロが姿を現す。

 背後からは立香を始めとした面々が続々と現れる。

 

 赤きネロは体に付いた粉塵を払いながら滔々と言葉を紡ぐ。

 

「この万能の天才たる余。韜略(とうりゃく)においても、かのカエサル公にすら引けを取らぬと慈父はある。しかし敵は腐っても死んでも、この余自身である。如何に知恵を絞ろうとも、読みきられることは必至」

 

 彼女は敵が未来の己であると自覚している。ゆえに半端な策では、いや最上の策を練り上げても裏を掻くことは出来ぬと推測した。

 敵はまさしく自分自身。同等の打ち手であるならば、詰みの盤面を覆すことは叶わない。

 

「であるならば、余のような天才の意表を突くには、自身が想像すら出来ぬほどの、底抜けのバカになるしかあるまい!」

 

 したがって必要なのは、盤面そのものを覆す、ちゃぶ台返しの暴挙に他ならない。

 対局相手の鼻っ面を殴るように、彼らは城ごと飛んできたのだ。

 

「とはいえ、これは余自身の考えではなく、そこにいる立香のアイデアである。愚弄するならば余ではなく立香のみにしておくがいい」

「ネロも面白がってゴーサインを出したと思うんだけど」

「そう恥ずかしがらずともよい。余からの恩賜であるぞ」

「わぁい、皇帝陛下からのなすりつけ。ウレシイナァ」

 

 黒きネロは立香を睨み付ける。貴様が馬鹿な入れ知恵を馬鹿者かと。

 しかしそれは違うと頭を振るう。口にするのも憚れるような策を献上する者も、それを最上であると受け入れ実行を命じる者も、どちらも極めつけの馬鹿である。

 

 

「手詰まり故に空を、しかも城ごと飛んでくるとはな。貴様こそ優雅さの欠片もないではないか」

 怒りを込めた黒のネロの発言に、赤のネロは鼻を鳴らして答える。

「視野が狭いな。余はただ道を通ってきたに過ぎぬ」

「……道だと?」

「その通り。貴様は知らぬようだから教えてやろう――全ての道は、ローマに通ずるのだと」

 

 陸路も、海路も、その全ては繋がり、ローマへと続いてる。

 空の道も、また然り。

 たまたま今回は、その道を通ってきたに過ぎぬのだと、ネロは宣言したのだ。

 

 黒のネロは呆れ、怒り、そして沈着した。

 ローマ皇帝といえど度が過ぎた暴挙に目くじらを立てていたが、何の問題はないのだ。

 

 ただ処刑の場所が宮殿の中に移った、ただそれだけ。

 

 先ほどまでの態度は鳴りを潜め、後方から飛来するキャリコの弾丸を黒く染まった隕鉄の剣で焼き払った後、連合ローマが末帝――世界(ローマ)を滅ぼす者は姿勢を正す。

 

 

「招かれざる上に、無礼極める方法で来訪し、あろうことか刃を向ける来客たちではあるが――歓迎しよう。ようこそ我が黄金の宮殿へ」

 

 一言ごとに増していく圧力に、立香は気を張り、サーヴァントたちは得物を構え、正統ローマが皇帝――世界(ローマ)を守らんとする者は、隕鉄の剣を強く握った。

 

「そして、これで幕引きだ!世界(ローマ)が滅ぶという名の、喜劇の!」

 

 宣言と共に、黒きネロは一目散に赤きネロに向かって突撃した。

 金属(かね)が噛み合う耳障りな音が響く。

 唐竹一閃。人の身を両断する黒刃は、赤き刃に食い止められた。

 

「なんだと?」

 その事実に黒きネロは眉をひそめる。

 必殺だと確信した一撃であった。

 只人の身では目で捉えることも、反応すらも出来ぬ一撃であった。いわんや防ぐことなど。

 だのに、防がれた。

 

「ぐぅ!流石に重い!しかし見える、見えるぞ末帝よ!」

 

 顔をしかめ徐々に押し込まれながらも鍔迫り合いは続いていた。

 押し込む者と押される者。

 至近距離で見詰め合い、全く同じかんばせを持つ、赤と黒の薔薇。

 

 はたと気付く。赤き皇帝を包む神祖の力と、そこに流れこむ魔力のパスに。

 パスを辿るとそこには、カルデアのマスター、藤丸立香の姿があった。

 

「これが、サーヴァントの力か!なるほど、クセになる!」

 

 立香が纏う礼装に搭載された魔術が一つ、霊子譲渡。

 サーヴァントと同じように、人に魔力を譲渡できるようにパスを構築する魔術である。

 特異点の現地民を魔力により戦力化できるようにと組まれた魔術であるが、結果は期待とは裏腹であった。

 凡人ではそもそも魔力を使用できず、凡才では効果的な運用などできず、非凡な者でもサーヴァントを維持するほどの魔力量の大半を使いきれず無駄にする。

 第二特異点到着後、早々に結論が付けられ、この魔術は使いどころを失った。

 

 ――万能の天才ネロ・クラウディウスが、サーヴァントの力を身に纏うというイレギュラーが現れるまで。

 

 鎧のように纏ったロムルスの残滓が彼女を、サーヴァントと戦えるまでに引き上げた。

 

 

 立香が腕を空へと掲げる。

「ローマ皇帝ネロ・クラウディウスに、最後の令呪を献上する!」

 更なる膨大な魔力がネロへと流れ込む。

 

「うおぉぉっ!」

 

 注がれた全てを余すことなく使い、ネロは黒い刃を弾き飛ばす。

 黒のネロは力に逆らわず後退。続く追撃の剣戟と銃弾を踊るように回避した。

 

「……なるほど、余と戦うだけの牙は身に付けていた様だ」

 

 うむうむと、黒のネロは一人頷く。浮かべるのは納得の表情

 神祖が手を貸したのなら得心がいくと物語る笑みであった。

 

「どうやら神祖は淡白な幕切れがお嫌いらしいな」

「何を(のたま)うのやら。そんなもの余だって願い下げである。貴様がすぐに緞帳(どんちょう)を下ろそうとして驚いたぐらいだ。貴様はそうではないのか?」

「ふふっ。確かに、余が愛すべきローマの最期としては、些か味気ないと思っていた」

 

 互いが互いに、剣の切っ先を突き付けあう。

 

「さあ、始めようではないか!世界(ローマ)の終わりという喜劇を!」

「ああ、終わらせてやる!貴様(ローマ)が始めたこの悲劇をな!」

 

 赤と黒の薔薇、二人のための即興劇(エチュード)が、ここに幕を開けた。

 

 

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