冬木のクリア特典が星5だった件について   作:和尚我津

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短いですが、イベント前なので投稿します。


ローマ式である

 変化は徐々に現れた。

 外骨格の一部が消えていき、地肌が広がっていく。

 それはすなわち、クルタの宝具、そのタイムリミットが刻一刻と近づいてることを示していた。

 だというのに、未だクルタは動きを見せず。

 

 ――何だ?何を考えている?

 

 このままでは何もせず終わるというのに、不気味なまでに動かないクルタに、疑問を抱くカリギュラ。

 

 カリギュラは少なくない傷を負っているが、致命傷には程遠い。

 一方、強固な骨鎧で身を包んだクルタに目立った傷などはないが、消耗の度合いは比較にならない。

 このまま何事もなければ勝利はカリギュラに確定する。

 なのに、未だクルタは動きを見せない。

 

 何かを狙っているのかと思案するも、余分なことを考えながら捌ける攻撃でもなし。

 攻撃の苛烈さ自体は増しており、全神経を研ぎ澄ませねば呆気なく地に伏すことは想像に難くない。

 

 攻防は常に動き続け、遂に戦いの場は一周し、元の場所へと戻ってきた。

 打ち棄てられた数多の遺体は、戦闘の余波で既に原型を留めていない。

 血と臓物、死臭漂う平地にて、両者は鎬を削りあう。

 

 打って変わって、障害物のない見通しのよい広場。

 何かを細工をする余地すらなく、正面から戦うことしかできないその場所。死角からの奇襲を常に警戒せねばならなかった先の森に比べ、カリギュラは余裕すら感じている。

 そんな場所でクルタは、正面から勝負に出た。

 

 胴体と頭部を覆っていた海獣の鎧を解除。

 片腕両脚。その中でも更に先端。必要最低限の箇所だけ宝具を纏い、他を切り捨てて生じた余剰魔力を使用した行うは高速のチャージ。

 

 今までのどの攻撃より速い一撃。 

 カリギュラは反応するも、内心困惑していた。

 正面突破を図るなど、思いもよらなかったからだ。

 

 先ほどまで居た森林では障害物が多いうえ視界が制限される。奇襲を仕掛けるに適した場所であった。

 勝負を仕掛けるなら、策があるならばあそこだろうと、漠然と考えていた。

 だのに勝負手は、まさかまさかの、平地での正面突破。

 時機を狙いすぎて勝負どころを間違えたのではないか、など誰に言っているのか分からない言い訳すら頭に浮かぶ。

 しかし、これさえ凌げば、勝利は己のものである。その確信を持ってカリギュラは回避に徹する。

 

「イサ」

 

 宝具を発動して以来、一度も開かなかったクルタの口が、言葉を紡いだ。

 地面に――クルタが宝具を発動させた際に立っていた大地に刻まれたルーンが、輝きを放つ。

 (アイス)の語源とも呼ばれるルーン。

 意味は停止・停滞。

 

 そのルーンがカリギュラの脚を止めた。

 

 ここに至り、誘導されたのだとカリギュラは気付く。

 彼は常に、罠の存在を警戒していた。

 ルーンという設置できる魔術の存在を知っていれば当然だ。

 それゆえに、敵を見失った場所、敵が現れた場所には決して踏み込まないようにしていた。

 

 カリギュラは視認できなかった場所には近寄らず、視認できた場所では一挙一動に至るまで観察していた……宝具を発動した際の一瞬、黒い靄に包まれたあの瞬間以外は。

 

 罠は既に、あの時張られていたのだ。そしてそれに向かって誘導された。まるで追い込み漁の如く。

 森に比べて余裕もまた、森林という場から平野に移ったことで生じた、演出された油断(・・・・・・・)である。

 

 動きが止まったのは僅か。その僅かな間で、クルタは目前まで迫っていた。

 

 今からでは【魔力放出】でも【忍術】でも避けることはできない。

 回避は不可。防御も無駄。後手に回ったカリギュラに、現状を打破する手段はもはや残されていない。

 

 ……否。カリギュラにはまだ希望が残っていた。

 

 後退(回避)は不可。停滞(防御)も無駄。勝機はただ前進(迎撃)にある。

 

 後の先を以って、先の先を打ち砕く。五体無事のまま終わるなど、そもそも虫が良すぎる話。

 全ての配下の命を喰らった以上、敗北で終わるなど、許されない。

 カリギュラは使えば最後、霊基崩壊に至るやもしれない禁じ手(ジョーカー)をここに開示した。

 

 生前には到底成しえなかった至高の一手。サーヴァントの身だからこそ成立する究極の一手。

 

 貧弱な肉体、未熟な技量を、膨大な魔力で無理矢理補う。

 己が身に過ぎた偉業を命を以って成し遂げる。

 

 それは、彼の大英雄が編み出した、必殺の闘法。

 軍神マルス(アレス)がロムルスに授けし、伝説の武。

 身命擲つことで、それが今、此処に再現される。

 違うこと、ただ一点。

 

「ローマ式であるっ!」

 

 ――射殺す百頭・羅馬式(ナインライブス・ローマ)

 

 咆哮と共に奔る閃光の雨。

 その正体は時を圧縮したかのように速さで放たれた、まさに神速の九連正拳突き。

 

 射殺す百頭(ナインライブス)

 十二の偉業を成し遂げた、ギリシャ神話最大の英雄、ヘラクレス。

 一つ、ヒュドラ殺しの折に生み出された、必殺の武技。

 肉体が軋み、霊基が末魔を断たれ悲鳴上げるも、悉くを鋼の意思で押し殺す。

 

 ギリシャで生じ、神アレス(マルス)を通じ、ローマにまで伝わった大英雄の神業が、ケルトの大英雄に突き刺さった。

 

 

 

 誤算があった。

 クルタが見積もっていた反撃は、高速の拳打がせいぜい数発。それは彼にとって対処可能な範囲であり、同時に対処できる上限でもあった。

 しかして結果は予想の遥か上を行く、全てが同時に起こったと錯覚させるほどの超高速九連撃。

 驚くべき点は、これは技量に根付いた、真名解放によらない宝具であること。

 故に一手、反応が遅れた。

 即座に防御を固めるも無論、防ぎきることなど到底できず、あえなく直撃を喰らい、肉が弾けとんだ。

 

 

 誤算があった。

 カリギュラは霊基の崩壊と引き換えにしてでも勝利を掴み取るために、射殺す百頭・羅馬式(ナインライブス・ローマ)を放った。

 完璧な一撃だという自負があった。クルタを挽肉に変える確信が彼にはあった

 事実、直撃を受けた肉は見るも無残に弾けとぶ。

 そう、生身の肉は。

 

 戦場に生きたものの勘か、それともまさか見えた(・・・)のか。

 クルタは片手に集中させた外骨格を解除。間髪居れず両腕で頭部を守る。

 二発着弾。

 ガードに使った腕は共に子供が遊んだ人形のように、半ばで千切れかけていた。

 残る七発は心臓目掛けて進み、大気を引き裂き、胴体に命中する。

 攻撃の重さに、肋骨はひしゃげ、臓腑は潰れ、その悲惨な有様を外気に晒していた。

 ……心臓を除いて。

 

 胸部。心臓が位置するところが、魔獣の外皮で覆われていた。

 

 着弾の寸前。片腕、そして両足に残っていた外骨格を全て心臓部に集中。

 無防備であった胴体は惨憺たる具合でありながら、堅牢なるはクリードの甲冑は見事、カリギュラの猛攻から、心臓を守りきった。

 

 完璧な一撃であった。文字通り挽肉に変えた。ただ必殺には、至らなかった。

 霊核を狙って放たれた九つの拳。一撃でも直撃すれば目標を破壊する猛攻は、ただの一つも目標を打ち抜けず。

 

 常人なら、いやサーヴァントでも死に至ってもおかしくない傷。

 されど英雄は死なず。両の足でしかと大地に立ち、まだ戦えることを、クルタの目が語っていた。

 その目を見て、カリギュラは己が負けた理由を悟った。

 

 カリギュラは目線を落とし、もう一つの誤算を見る。

 

「っふ。あれほど警戒していたというのに、見落とすとはなんと無様なことよ」

 

 ――己が胸に突き刺さった、魔獣の尾を。

 対照的な尾の一刺しは、確実に心臓を貫いていた。

 

 九連撃の終わり。全身全霊を賭した技の後、必然として生じる一瞬の硬直。

 それを大英雄は見逃していなかった。

 地を這う蛇のように、クリードの骨を持つ尾はするりと滑り、カリギュラの心臓を穿っていた。

 

 カリギュラは悟る。

 最初から見ていたものが違ったのだ。

 追い込まれ、やっと偽りの命を擲った己。

 対して、クルタはもとより自らの命など見ていなかった。

 彼が見ていたのは己の勝利……いや違う。敵の死。それだけである。

 

 我が身を捨てた死兵の強さ。時と場合にもよるのだろうが、この時この場においては、それがカリギュラの敗因となったのだ。

 

 自らの死を受け入れ、両腕を静かに下ろす……ことはなく、そのままクルタに向けて拳を振るう。

 負けを認めよう。死は受け入れよう。それでも最後まで抗い続ける。それだけが、散っていった連合ローマの兵士(ローマの子ら)の唯一の餞だと信じて。

 何よりも、愛する妹の子(ネロ)のために。

 

 

 

 

 ――心臓から芽吹いた棘が、連合ローマ皇帝の血肉を余す所なく、引き裂いた。

 




続きは水着イベの後になる可能性が高しです。
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