「どうマシュ? 似合ってる?」
「はい!とっても素敵ですマスター」
明くる日、森の中で立香がポージングを決めていた。
その出で立ちは昨夜とは異なっていた。
白を基調としているのは変わりないが、今までのが制服だとしたら、こちらはロボットアニメでも出てきそうなピッチリとしたタイトスーツ。
カルデア戦闘服と呼ばれる魔術礼装を兼ねたバトルスーツである。
この礼装を介することによって、魔術師としては素人である立香であっても魔術が使えるようになるのだ。
朝一、他の補給物資と共に送られてきたのがこの服であった。
これから戦闘の激化が予想される以上、今までの制服より戦闘向けの装備が必要とされるのは明白である。というよりカルデアスタッフおよびダ・ヴィンチが、うっかり準備を忘れてただけなのだが。
というわけで急遽、ダ・ヴィンチが作業の合間を縫って一着調整されたものが送られたわけだ。
「本当にテメェが最後のマスターだって認識してんのかアイツらは?」
クルタの疑問は最もである。マスターの生存こそが最重要であるというのにこの片手落ちなのだから。
『いやホントごめん。こちらの準備不足としかいいようがない』
「まあマシュやクルタも居るし、最悪なくても何とかなるとは思ってるけどね!」
ロマニの謝罪に、立香はあっけらかんと答えるが、少し軽すぎる。
『いやぁ、にしても礼装搭載の魔術は、結構練習してからじゃないと使えないと思ってたんだけど、あっさり使いこなしちゃったね』
立香は礼装を装備した後、通信越しの僅かな指導のみで礼装を使いこなしていた。
「まあ結局感覚的なものですから。ほら俺現代っ子ですから。いやここは過去のフランスだから、未来っ子ですから」
『そういう問題じゃないと思うんだけどなぁ?』
そのやり取りを見てジャンヌは笑みを浮かべる。
「朝から元気いっぱいですね皆さん」
「はい。即起床即行動ですジャンヌさん」
「その通りだよマシュ。よし、それじゃ早速行動だ!」
「はい!」
情報収集のため、オルレアンを目指す一行。
その道中、彼らはこの特異点に起こっている悲劇を目撃することとなる。
「こ、これは……」
「ひどい……っ!」
六騎のサーヴァントの気配を探知し、立ち寄ったラ・シャリテの街。
そこは、まさしく地獄であった。
建物はあちらこちらで倒壊し、住人に至っては生き残っている者は居なかった。
動いているのは、リビング・デッドとなった住人たちと、その死肉を啄むワイバーンのみ。
「……もっと俺たちが早く着いていればっ!」
今度こそ、街から動く者が居なくなったとき、立香は自らの行動の遅さを悔やんでいた。
朝、礼装操作の練習をせずに出発していれば。
もっと早く起きてから行動に移していれば。
いやそれよりも以前、夜の内から街に向かっていれば。
防げていた可能性がある。いや防げていた。その確信が立香にあった。
だというのに結果はこれだ。
立香は守れなかった住人たちに、心中で再び謝罪を重ねていた。
「ここで立ち止まるか、マスター?」
自責を続けていたマスターに、クルタは声を掛ける。
普通ならここで歩みを止めてもおかしくはない光景だ。
街は灰燼に帰し、生けとし生ける者は全て死に絶え、死した者たちが立ち上がり闊歩するというこの惨状。
恐れ、怯え、怯み、脚を止めてしまっても仕方がないだろう。
そんなクルタの質問に、立香は毅然と首を振る。
「……いや、俺はこの人たちを守れなかった。けど、だからこそ、これ以上の犠牲者を出さないようにしなくちゃいけないんだ」
「そうか」
クルタはさも当然のように相槌を打った。
彼には分かっていたのだ。立香が救えなかったことに後悔はしていても、この景色に
頭のネジが吹き飛んでいるのか、それともそれ以外の何かがあるのかは分からない。
分からないが、分かることもある。
それは、この惨劇を作り出したものたちに怒りを覚えているということだ。
ロマニの通信が響く。
去ったはずのサーヴァントたちがこちらに向かってきていると。
その速度は早く、もはや逃げることは叶わない。
ならばどうするのか?
「迎撃だ!マシュ!ジャンヌ!クルタ!」
その答えを立香は知っていた。
「了解だ、マスター」
マスターは道を、意思を示した。
ならばそれに迷うことなく従うのが、クルタというサーヴァントである。
現れたのは、ジャンヌ・ダルクと同じ姿を持った、黒いジャンヌ・ダルク。
しかし似ているのはその見た目だけ。話せば話すほど、言葉を交わせば交わすほど、両者の乖離は酷くなっていく。
「まあ、これ以上の問答は無意味ね。どうせ死ぬもの。さあ貴方たち、彼らを殺しなさい」
黒いジャンヌの言葉に反応するように前に出てくる、五人のサーヴァント。
サーヴァントの数で言えば立香たちの倍、ジャンヌが弱体化していることを考えれば、実質それ以上の差があるだろう。
黒いジャンヌが静観の構えだとしても、劣勢であることに変わりはないだろう。
あくまで表面上では、だが。
「ふむ、聖女の血か。それはさぞ珍しい。私が頂こう」
「いけませんわ。彼女の血と肉、そして
「まったく欲張りなことだ。それでは私は魂でも頂こうか」
戦利品と呼ぶにはあまりに血生臭い代物の分け前を相談する、黒いジャンヌに従う男女のサーヴァント。
人に近い故にはっきりとわかる人ならざる者の気配を、彼らは隠すことなく撒き散らす
そんなおどろおどろしいやり取りを、しかしクルタは鼻で笑う。
「ケッ! なるほど、どうやらそちらの人蛭ババアはよほど醜悪な顔をしているらしい」
「……なんですって?」
余程聞き捨てならない台詞だったのか、呼ばれた本人は、見た目にそぐわぬドスの利いた声で問い質す。
クルタは肩に槍を担ぎながら、何でもないように言葉を重ねていく。
「そりゃそうだろうが。そんな吸血鬼みてえなことをやらねぇと、テメェの言う美とやらは保てねぇんだろ? つまりテメェの素顔は、そんなクソッタレなことをやらなきゃいけねぇ程ヒデェ面だって公言してるようなもんだ。ああ、だから仮面をつけてんのか。そんな顔なら人に見せるわけにはいかねぇしな。だがそこまで隠されると、逆に興味が湧いてきた」
クルタがときおり見せる、人を皮肉ったような笑みと、誰が聞いても分かる、焚き付ける様な言葉の数々。
確かにこの言葉で女吸血鬼――バーサーク・アサシンのカーミラは怒りを覚えた。
しかしだからと言って、怒りのまま敵に飛び掛かるような愚挙は起こさなかった。
例え残虐非道を成していたとしても、彼女は伯爵夫人。感情のコントロールは出来て当然。
たとえバーサーク状態になろうとも、こんな見え見えの挑発に乗ることなどありえない。
「……決めたわ。私の拷問道具を特別に男性であるアナタにも使ってあげる。生きていることを悔やみなさい」
怒りによって、せいぜいが一歩前に踏み出す程度。
そして、クルタが欲していたのはその一歩だった。。
「……っ…カハっ!」
この場に集う英雄豪傑、反応できたのは果たして何人か。
起こったことは単純明快。
クルタが間合いを詰め、カーミラの胸を貫いた。ただそれだけ。
『最速』の男が、その自慢の脚力と、完璧に隠された殺意によって成した、たったそれだけの異常事態。
送れて響くのは、地面が砕かれた音と、切り裂かれた空気の悲鳴。
「っ、今すぐそいつを殺せっ!」
黒いジャンヌの殺意と警戒に満ちた絶叫。
そして――
「さて……殺すか」
――秘めて濃縮された殺意を載せた、クルタの宣言だった。
とりあえず戦闘の導入部まで。
時間が出来た時投稿します。
それが何時かわからんが。