ゴブリンマスクを被ってみれば、文明開化の音がする!   作:ゴブリンライター

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ゴブリン異世界へ

 若きゴブリン族の冒険者アルデニクスは、ガスマスクに防護服、背中には大きな荷物を背負った、一般的なゴブリン族の青年だ。

 

 今日も今日とて興味深いものや面白そうなものを求めて、北へ南へ東へ西へ……本日やって来ましたのは、ギラバニア辺境地帯にある「ヤーンの大穴」──巷で噂の冒険者が、世界の命運を懸けて戦った、大きな大きな大穴だそうな。

 

 今じゃなんの変哲もない大穴だけれど、ほんのちょっと前までは、奇妙に変色したエーテルに包まれていた。その不思議な不思議な大穴の奥底で、「光の戦士」と呼ばれる冒険者が、「オメガ」という名の古代兵器と、切った張ったの大激闘!

 

 見事勝利を収めたは、ココロを持った光の戦士。ココロを持たざるオメガの方は、小さく細かく成り果てて、“始まり”と共に旅立った。そんなこんなお話だ。

 

 アルデニクスはとてとて興味深げに、大穴のなか覗き込んだ。1マルムもありそうな大穴が、ゴォオオオという音を立てて口を開いている。あまりにもあまりにも深すぎて、底は真っ暗で見ることはできない。まるで「七獄」の底まで、続いているかのよう。

 

 それでも恐れ知らずのアルデニクスは、もっともーっと身を乗り出して、大穴の底覗こうとした。噂じゃ大穴の奥底は、「七獄」ではなく「次元の狭間」という、これまた摩訶不思議なところに続いているらしい。

 

 そこがどんなところか知らないけれど、ゴブリン一倍好奇心旺盛なアルデニクスは、そこがどんなところか知りたかった。

 

 だからもっともっともーっと身を乗り出して、大穴を覗こうとした。そしたらこしたら突然突風が吹き荒れて、アルデニクスの背中をブゥウウウっと押した。

 

 普段ならなんてことない突風だけれども、とてとて身を乗り出していたアルデニクスは、うっかりすっかりバランスを崩してしまった。

 

 ゴブゴブ踏ん張って我慢したけれど、トドメとばかりにフワッと吹いて、あ~れ~っとアルデニクスは大穴の中に落っこちた。

 

 それからこれから、アルデニクスをエオルゼアで見たものはいない。

 

 

 

 

*        *

 

 

 

 ヤーンの大穴に落っこちたアルデニクスは、気付けば見知らぬ森にいた。「黒衣森」でも「夜の森」でもない、不思議な不思議な大森林──まあ、長いゴブ生そんなこともあるさゴブ、とあんまり気にしないアルデニクス。いつでもどこでも楽観的なのは、どのゴブリンでも変わらない様子。

 

 そんなこんなで不思議な森を彷徨い歩いて幾星霜、運良く同族であるゴブリン族と出会ったとさ。どうにもこうにも話を聞けば、古ぼけたボロボロの遺跡なかで、身を寄せ合って暮らしているらしい。

 

 それならこれならよくある話だけれども、しかしてしかしておかしな様子。なんとビックリこのゴブリンたち、「ゴブリンマスク」を被ってない。一体全体どうしたことか? アルデニクスは尋ねました。

 

「シュコォ……シュコォ……

 どうした こうした オマエたち

 どうして こうして マスクを被らぬ?

 それじゃあ これじゃあ とてとて苦しい 息はゼイゼイ 汗はダラダラ これこれみっともないゴブ」

 

 ゴブリン族にとってマスクは、とてとて重要なものである。彼らは一生涯マスクですごし、無理に外そうとすれば、たちまちドカンと爆発する。

 

 どうしてこうして、そこまで頑ななのかは知らないけれど、ある学者の話によれば、ゴブリンたちには外の空気は猛毒だとか、なんだとか。嘘か真か色々あって、どれがホントかゴブリンにも分からない。

 

 兎にも角にも、ゴブリン族、とてとてマスクは欠かせない。それを外して暮らすなど、全く考えられないことである。

 

「ウッセー! 不気味なゴブリンめッ! マスクなんてモン、シラネーヨ」

 

 ところがどっこい、びっくらこいた。アルデニクスが出会ったゴブリンたち、とてとて汚いゴブリン語で、そう罵るように言ってきた。

 

 なんとも野蛮な言い草です。みれば彼らの服装も、とてとてみすぼらしく不衛生。まるで原始ゴブリンのよう。文化的で文明的な、栄えあるゴブリン族とは、とてとてとーっても思えない。

 

 それでもアルデニクスは落ち着き払って、なだめるように答えます。

 

「これはビックリ なんとビックリ

 こんなに そんなに イカしたマスク 被らなければ分からない 「美男美女」が分からない」

 

 ゴブリン族には独特な美的感覚があり、ヒトのそれとはそこそこ違う。生まれて死ぬまでマスクを被り、それでも彼らにゃ「ix」(美男)と「ox」(美女)の概念がある。もしかするとひょっとすると、彼らは「マスク」で「美男美女」を見分けてるのかもしれない。

 

「ヘェアッ!? 「美男美女」ってなんだゴブ?

 それはヒトのメスよりイイものかゴブ?」

 

 アルデニクスの言葉に興味を示したゴブリンたち。知性の欠片もなさそうな彼らだけれど、そこはここはゴブリン族。知的好奇心に忠実で──もしかすると「性欲」に忠実だったのかもしれないけど──アルデニクスの話に耳を傾けた。

 

「シュコォ……シュコォ……

 もちろん そちろん そうだゴブ

 ヒトの娘は プヨプヨ フヨフヨ 柔らかく うっかり押すと潰れそう

 ゴブリン族の女の子 カリカリ トロトロ イイ感じ!

 たとえて そらえて 言うなれば まるでプ~ンっと臭うチーズのよう!」

「ヘェェエエ、そうだったのか、そうなのか! どうでこうりで、ヒトのメスは壊れやすい。ちょっと乱暴に扱えば、すぐさま泣いておかしくなる。そうだったのか、そうだったのか!」

 

 アルデニクスは知らなかったが、このゴブリンたちは「ハイデリン」のゴブリンではなく、「四方世界」というまた別の世界のゴブリンだった。

 

 なのでアルデニクスの常識が通用するわけがないのだけれど、この世界のゴブリンは知能が低いわりに学習能力はやたらと高かったため、何やら常識外れなアルデニクスの言葉も、すんなりきっちり受け入れてしまったとさ。

 

 新たな「美男美女」という概念の伝来に、ゴブリン族は沸き立ちました。

 

「それならこれならオレたちも、今日から「マスク」を被るゴブ! 「美男美女」になるんだゴブ!

 だからだからお願いゴブ。どんなこんな「マスク」が良いか、教えて話して欲しいゴブ!」

「シュコォ……シュコォ……

 それなら これなら 教えよう

 我らが 彼らが ゴブリン族 マスクを被って幾星霜 色々色々試したけれど みんな違ってみんなイイ!

 思い思いのゴブリンマスク 作って集めて被るといいゴブ!」

 

 アルデニクスの言葉に、ゴブリンたちは「オォオオ」っと喝采をあげた。しかし、中には冷静なゴブリンもいるようで、オドオド、ワアワア不安そうに訊いてくる。

 

「だけどだけどオレたちは、マスクの作り方知りません

 思い思いと言うけれど、知らなければ作れない、作れないなら奪うしかない」

 

 あれまそれま由々しき事態! だけどもけれどもアルデニクス、すかさず素早く言いました。

 

「シュコォ……シュコォ……

 心配するな 心配ない オマエたち知らなくても アルデニクスが知っている 作り方を知っている いろんなことを知っている

 今日からこれからオマエたち 「奪う」じゃなくて「創る」ゴブ!

 奪うゴブリン 野蛮人 みんなに嫌われ 迫害者 みんなにみんなにイジメられる

 創るゴブリン 文明人 みんなに好かれて 歓迎者 みんなにみんなに喜ばれる!」

 

 ゴブリンたちはアルデニクスの言葉に、より一層「オォオオ!!」っと沸き立ちました。そうか、そうか、そうだったのか! オレたちみんなに嫌われていたのは、襲って奪って犯していたからなのか! そうかそうか知らなかった。ワイワイ、ガヤガヤ、ホグホグ、ゴブゴブ。

 

 ゴブリンたちはこれまで本能で生き、本能だけが全てでした。本能で犯し、本能で襲っていたのです。どうしてこうしてそうなったのかと言えば、そう産み落とされたからとしか言えませんが、兎にも角にもそういった生物だったのです。

 

 しかし、そんな本能に忠実なゴブリン族でしたが、どういう訳か学習能力も旺盛でした。それ故アルデニクスという異物の登場により、本来あるはずのない「知性」にも、うっかりすっかり目覚めてしまったのです。

 

「今日からこれから オマエたち マスクを被ったイカしたゴブリン!

 今日からこれから オイラたち マスクを被ったステキなゴブリン!

 ゴブリンマスクを被ってみれば 文明開化の音がするゴブ!」

 

 アルデニクスに合わせて、他のゴブリンたちも唱和する。

 

「ゴブリンマスクを被って見れば、文明開化の音がするゴブ!

 ゴブリンマスクを被ってみれば、文明開化の音がするゴブ!」

 

 文明開化の音がする、文明開化の音がする!

 

 割れんばかりの大合唱、森の中に響いていく。

 

 文明開化の音がする、文明開化の音がする!

 

「「「文明開化の音がするゴブ! 文明開化の音がするゴブ! 文明開化の音がするゴブゥゥゥーーーーッ!!」」」

 

 斯くして……「四方世界」のどこかの森で、ゴブリン族の文明開化が、人知れず始まったのでした。

 

 

 

 

*        *

 

 

 

 アルデニクスが異世界のゴブリンと出会って、それなりの季節が流れた。正確な日数は良く分からない。ゴブリン族はそういったことを気にしない。アルデニクスも気にしない。

 

「シュコォ……シュコォ……

 気付けば気付けば そこそこな時間 流れたゴブ

 ゴブたちみんな イカしたゴブリン なったゴブ

 これもそれも アルデニクスのおかげゴブ!」 

 

 さながら原始ゴブリンのようだったゴブリンたちは、今ではアルデニクスの指導の下、思い思いの「ゴブリンマスク」を作っていた。まだまだ拙く下手っぴなマスクだったけれども、自分たちの手で創り上げた、生まれて初めてのステキな「贈りもの」だった。

 

「シュコォ……シュコォ……

 そんなこと言われると とてとてとーっても照れるゴブ

 アルデニクス ちょちょいちょちょいと 手伝っただけ

 ロックニニクスたち とてとてとーっても頑張った!」 

 

 マスクを被ったゴブリンたちは、アルデニクスがもたらした風習に従い、これまたそれまた思い思いの「名」を名乗っていた。「固有名詞」という概念がなかったゴブリンに、初めて「名前」というものがもたらされた瞬間である。

 

 ゴブリン族の命名規則に則って、あるゴブリンは「-ix」(美男)を、あるゴブリンは「-ox」(美女)を名乗っていく。名付けはゴブリンたちにとって初めてのことであり、誰も彼もが夢中になった。

 

「昔々のそのまた昔 あるある賢人 こう言ったゴブ

『名は心を形作り 心は体を形付ける 命名は精神を作り上げることであり 命名は肉体を決定づけることである』

 ようするにこうするにこういうこと “名前はとてとて大事です” よくよく考えて決めるゴブ!」

 

 アルデニクスの言葉に、ゴブリン族に稲妻が走った。なにそれなにこれスゴくない? 「名前」ってちょースゴくない? なんかとってもスゴくない? それそれ名乗れワレの「名」を! やれやれ名乗れキミの「名」を!

 

 実際はそんなにスゴくもない話だったが、原始ゴブリンにとっては、天啓とも言える閃きだった。我先に我先にと名乗りをあげるゴブリンたち。

 

 食事が好きなゴブリン、木陰がお気に入りのゴブリン、岩のように固くなりたいゴブリン、俊敏なゴブリン、ノロマなゴブリン、女好きなゴブリン、男好きなゴブリンなどなど、みんなみんな思い思いの「名」を名乗っていく。

 

 そしたらこしたらどういうことか、まさかまさかの事態が起こる。ゴブリンたちが「名前」を名乗ると、なんとなんとゴブリンたちに、「個性」と「性別」が生まれたのである。

 

 イートミニクスは食事好き、ツリードナロクスは木陰で休む、ロックニニクスは岩よりも固いかもしれない、ソニックソックスはとっても素早い、ノローピニクスはのんびり屋、オクスニクスは女好き、ニクスオクスは男好き、みんな違ってみんなイイ!

 

「ix」を名乗ったゴブリンは、オスオス雄らしいオスゴブリン。「ox」を名乗ったゴブリンは、メスメス雌らしいメスゴブリン。二つの違いもそれまたイイ!

 

 オスとメスでキャッハウフフ、美男と美女でウッフキャハハ。くんずほぐれつ色々して、産めよ増やせよゴブリン族。ヒトのムスメを襲わずとも、増やせるもんだゴブリン族!

 

 そんなこんなで「個性」と「性別」を得たゴブリン族。あれこれそれこれ能力別に、「個性」にあった仕事を決めた、「性別」にあった役割を決めた。

 

「狩りが得意なゴブリンは みんなのために 狩りをする~

 料理が得意なゴブリンは みんなのために 料理する~

 採るのが得意なゴブリンは みんなのために モノを採る~

 作るの得意なゴブリンは みんなのために モノ作る~

 育てる得意なゴブリンは みんなのために 子育てする~

 みんなみんなやることあって みんなみんな意味がある~

 みんなで力合わせれば みんな幸せ ちょうハッピー!」

 

 そういったわけで色々あって、「四方世界」のどこかの森の、奇妙な奇妙なゴブリンたちは、見事な見事な発展を遂げていく。

 

「狩りとか採集する時は 槍とか弓とか便利ゴブ 斧とかハンマー便利ゴブ

 どんどんじゃんじゃん作るゴブ どんじゃんどんじゃん使うゴブ」

 

 まずはアルデニクスはそこら辺に転がっている木や石や蔓で、そこそこ立派な石器を作ってみせた。それはとっても原始的な道具だったけれども、そこは知識の民ゴブリン族のアルデニクス、デキはそれなりだったとさ。

 

 モノを作るの得意なゴブリンたち、それを見よう見まねで真似てみる。始めはお世辞にも上手くはなかったが、次第にそれなりのモノできた。

 

「最初は簡単単純でも そのうちこのうち 複雑にできる

 剣や銃も言わずもがな ドリルやノコギリ作れるようになる ビームやミサイル撃てるようになる!」

 

 アルデニクスの言ったことは、たいそう物騒な目標だったけれども、ゴブリンたちにはビームとかミサイルとか“なんじゃそりゃ”だったので、取り敢えず「オォオオ」とか言って盛り上がっておいた。

 

 そうやって作られた「道具」を使い、ゴブリンたちは原始的な狩猟生活を始めた。これまで略奪や強奪でしか食料を入手出来なかったゴブリンたちにとって、これは画期的な手法だった。

 

「手に入れたブツは 「火」で調理すると とてとて美味しいゴブ!

 煮ても焼いてもよろしいゴブ! 蒸しても炙っても美味しいゴブ!

 火はとてとてイイものだゴブ とてとてとーっても便利ゴブ!」

 

 そう言ってアルデニクスは、手に入れた肉を持って、「火の魔法」を使って見せた。メラメラボウボウ炎が燃える。それに肉を近づけて、ジュージュージュージュー焼いてみた。

 

 こんがり焼けたお肉の匂いが、たちまち辺りに広がっていく。ゴブリンたちは歓声をあげた。こんなにそんなに美味そうな匂い、嗅いだことはありゃしない!

 

「スゴいぞ スゴいぞ アルデニクス!

 しかして しかして どうしたらいい? 「火」を生み出すには どうしたらいい?」

「それは とてとて簡単だゴブ

 この「火の魔法」 ごくごく初歩的な魔法ゴブ

 囁き 唱えて 念じれば 誰でも彼でも 使えるゴブ」

 

 実際にはそう簡単にはいかなかったが、そこはベテラン冒険者のアルデニクス。どうにかこうにか指導をして、何人かのゴブリンが「魔法」を操れるようになった。

 

 彼らの使う魔法は、「原始魔法」という至極単純な魔法で、威力も範囲もそれなりでしかなかったが、生活を向上するには十分すぎるくらいに効果があった。

 

「火は とてとて素晴らしいモノだゴブ

 暖かくて 明るくて 優しくて 良いモノだゴブ

 ときたま アツアツ メラメラ だけど ちゃんときちんと扱えば こんなにステキなモノはない」

 

 アルデニクスの言うとおり、ゴブリンたちは時に失敗して火傷をしたり、火事を起こしたりしたが、その度に学習し、「火」を思うがまま扱えるようになった。「火」は色々なことに使えた。調理だけでなく、暗闇を照らしたり、寒さを和らげたり、モノを焼いたり加工したり、モンスターから身を守ることにうってつけだった。

 

 こうして「火」を手にしたゴブリンたちは ますます活動範囲を広げていくことになる。

 

 遠くの湖まで探検してみたり、切り立つ崖まで行ってみたり、ある洞窟の奥まで冒険してみたり、こっそり“ヒトの集落に忍び込んでモノを盗んで”みたり……それが見つかった若者ゴブリンは、後でこっぴどく怒られた。 

 

「ヒトのもの盗むと怒られる とてとてスゴく怒られる

 それこれ ヒトの「法律」で ゴブたちも破ると怒られる なんでか知らんが怒られる とてとてとーっても怒られる だからダメダメダメ絶対!」

 

 それは、アルデニクスがかつてもっと若かりし頃に経験した、重要な教訓の一つであった。

 

 つい出来心でちょいとやらかすと、あれよあれよと「モルディオン監獄」へ。そこでとてとて恐ろしい看守から、こってりごってり怒られた。今じゃそこそこ大人しくなったアルデニクスも、昔は結構やんちゃだったのだ。

 

「ゴブたちいっぱいいるけれど ヒトもいっぱいいるんだゴブ

 とてとてとーってもいるんだゴブ ゴブたちよりもいるんだゴブ

 だから仲良く暮らすには 「尊重」し合う大事ゴブ 「相互理解」が大事ゴブ」

 

 アルデニクスの説法は、まだまだゴブリンたちには難しすぎて、よくよく理解できなかったけれど、“取り敢えずヒトを襲うはダメなのか”と、なんとなくだが理解した。

 

「うんうん わかったゴブ わかったゴブ

 ヤングシュリクス もうしないゴブ

 だから あのオシオキだけは! あの恐ろしいオシオキだけは勘弁して!」

 

 アルデニクスの「オシオキ」は、小鬼も黙る恐ろしいモノ。曰く、“父親譲りのオシオキ”らしい。これによってゴブリンたちに「秩序」が生まれ、「罪」と「罰」という概念が生まれた。原始的な「法」の誕生である。

 

 こんなことがあった結果、「森外れの農村」では、ゴブリンの被害が格段に減ったけど、農村のヒトたちは“ラッキーなこともあるもんだ”と、あんまり疑問にも思わなかった。もちろん、アルデニクスもゴブリンたちも、元々能天気なこともあって、別にあんまり気にしなかった。

 

 狩猟生活を始めたゴブリン族の獲物は、森に住むシカやヤギ、リス、イノシシ、クマ、トリ、ムシ、サカナ、木の実などで、兎に角なんでもよく食べた。時には手痛い反撃を受けることもあったが、そこは「数」と「道具」、そしてなによりも「知恵」に勝るゴブリンたち、アルデニクスを中心として、幾度となく危機を乗り越える。

 

 アルデニクスを始めとするゴブリンたちは、もはや「森の王者」と言っても過言ではなかった。今日も我が物顔で、ゴブリンたちが森をゆく。

 

「とはいえそはいえ 取り過ぎは いくない良くない ご法度ゴブ」

「どうしてこうして ナゼなのゴブ? ゴブはお腹いっぱい食べたいゴブ! とてとていっぱい食べたいゴブ!」

 

 アルデニクスの言葉に、珍しくも食いしん坊の「イートミニクス」が猛反発した。

 

 彼は食べることが何よりも好きなゴブリンで、何でも食べちゃう悪食としても有名だったが、それ故に新たな「食材」を発見することもあり、ゴブリンたちの台所事情に、かなりの貢献をしていた。もちろん、その分食べてもいたが、そこはそれはご愛嬌である。

 

 そんなわけだからイートミニクスの発言は、ゴブリン族の中でも一定の支持を得ていた。あるものあるだけ取って食べて、何がいけないというの? ということだ。

 

「やれ取れ やれ食え 好き放題 いずれ取るもの尽きるゴブ いずれ食うもの尽きるゴブ

 ゴブの友達シルフ族 森の恵みで生きている おんなじおんなじモーグリ族 森の恵みで暮らしている

 シルフもモーグリも言っていた 森を大切にするんだゴブ そうすりゃ森は恵みをくれる でもでもしなきゃ いつか森から追い出される~」

 

 それは実に原始的な精霊信仰の類であったが、元々原始的なゴブリンたちにとって、そこそこ受け入れやすい話だった。「祈らぬ者」から祈る者へ……初歩的なゴブリン信仰の始まりである。

 

「なるほどなるへそ わかったゴブ

 でもでも それでもイートミニクスは お腹いっぱい食べたいゴブ 森も大切にしたいけれど お腹もいっぱいしたいゴブ」

 

 そうだーそうだーっとゴブリン族。それは困ったクマった大変だ。アルデニクスは考える。ナイスアイディア考える。

 

 ゴブリン族は流浪の民で、旅をしながら生きている。冒険者であるアルデニクスも、旅をしながら生きていた。その日暮らしのその又暮らし。中々良いアイディアは浮かばない。

 

 それでもこれでもアルデニクス。伊達に世界を渡る冒険者じゃない。ゴブリン族の知識になくても、旅した土地の知識から、なんとかかんとかアイディア絞り出した。

 

「食べたい取りたい素敵な獲物 殺さず死なさず 捕らえるゴブ 

 食べたい取りたい素敵な植物 殺さず枯らさず 植えるでゴブ 

 そうすりゃそのうち ドンドン増えて お腹もいっぱい食べれるゴブ

 そうすりゃそのうち いっぱい増えて 森の恵みもドンドン増えるゴブ」 

 

 こうしてアルデニクスの提案で、ゴブリンの間で原始的な農耕が始まり、野生動物の家畜化が始まった。産めよ増やせよ大地に満ちよ、我らに恵みを与え給え! 原始的な狩猟生活からの脱却である。

 

 

 

 

*        *

 

 

 

 静かな静かな森の中で、アルデニクスはひとり夜空を見上げていた。お空には大きな大きなお月様が“二つ”。赤と緑の丸いお月様。見たこともないお月様。

 

「シュコォ……シュコォ……

 どうやらこうやら ここ エオルゼアじゃないっぽいゴブ?」

 

 かつてエオルゼアでも「二つの月」があった時があったけど、それはとてとて恐ろしい「過去」のもので、今じゃ一つだけのはず。今更ながらにそのことに気づいたアルデニクス。けれども“まあいいか”と、そんなにあんまし気にしない。細かいことは気にしない。

 

「異世界 異次元 異なるところ 別世界 別次元 別なるところ 

 とてとて滅多に行けないけど 行けないこともないらしい」

 

 それなりに長いこと冒険者をしていれば、そんな話も聞くものさ。「闇の世界」に行ったとか、「異邦の誰かさん」がやって来たとか、無いこともない。

 

 あるゴブリン神学者が泥酔した末に言い放った言葉に拠れば、アルデニクスがいた世界は14番目に創造された世界らしい。それなら別世界の一つや二つ、珍しいことでもないだろう。

 

「それだけ「世界」があるのならば 他の世界に行くことあるさゴブ」

 

 二つのまんまるお月様を眺めながら、アルデニクスはそう思った。

 

 アルデニクス主導により始まった異世界ゴブリンの文明化は、驚くべき速度で急ピッチに進められている。

 

 原始ゴブリンさながらだったゴブリンたちは、今では道具を持ち、家畜を飼育し、作物を育て、料理を楽しんでいる。

 

 より暮らしやすくするために、住処の「修繕」も始まった。より効率よくモノを育てるために、「用水路」も引かれ始めた。より多くを恵みを得るために、「創意工夫」もし始めた。

 

 それでもまだまだ足りない。「理想郷」にはまだほど遠い。

 

 ゴブリン族は「放浪の民」だ。だが、理由もなしにただ放浪しているというわけではない。彼らは求めているのだ。彼らが望む、彼らの「理想郷」の在り処を。

 

「シュコォ……シュコォ……

 きっとここが ゴブの「理想郷」だゴブ

 ここを アルデニクスの「理想郷」にするんだゴブ

 クイックシンクスみたいに スローフィクスみたいに ここをオイラの「理想郷」にするんだゴブ!」

 

 そんな熱い想いを胸に秘め、アルデニクスはそう決意した。ゴブリン族の夜明けは近い!

 

 

 

 

 




 ゴブリン族の命名法則
・複数の語を組み合わせた奇妙なものが多い
・名前の末尾に、雄の場合は「ix」(イクス)、雌の場合は「ox」(オクス)を付随させる
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