「はっ!」
仮面の戦士になった渚はマグマ・ドーパントになった寺坂に接近し、蹴りを繰り出す。
相手の動きを翻弄し、攻撃を当て、自分に来る攻撃は全て躱す。
その動きに、先生だけでなく、他のE組の生徒も驚いていた。
お世辞にも、渚のE組内における暗殺の成績はそこまで高くはなく、クラス内でも平均と言った具合。
しかし、今の渚の身体能力は他の生徒と比べる事すら馬鹿に思える程高かった。
蹴りと拳を巧みに組み合わせ戦っている、二色の仮面の戦士が渚だとは到底思えなかった。
『ヴォオオオォォォ!!』
すると、突如マグマ・ドーパントは雄叫びを上げる。
そして、全身から真っ赤なオーラが現れ、そして背中から大量のマグマの塊が打ち出された。
「くっ!」
襲い来るマグマの塊を打ち消しながら防御する。
「熱い……!それに、数も増えてきた……!このままじゃ後ろの皆にも………!」
『こういう時は、このメモリだね』
すると、渚の意思に反して右腕が動き、右側のスロットから“サイクロンメモリ”を抜き、新たに黄色いガイアメモリを取り出した。
『LUNA!』
新たなメモリ、ルナメモリを右側のスロットに挿す。
『LUNA!』『JOKER!』
緑色だった部分が黄色に変わると、右腕は伸びてぐねぐねと曲がり、縦横無尽に動いてマグマの塊を打ち消した。
「な、渚の右腕が伸びたぞ!?」
「それだけじゃない!先生みたいにぐねぐねしてる!」
クラスの皆も驚きを隠せず叫ぶ。
「フィリップ……また勝手にメモリを変えて………」
『ダメだったかい?』
「……いや、助かったよ」
渚は仮面の下でふっと笑う。
全てのマグマの塊を打ち消すと、今度は右腕を伸ばしマグマ・ドーパントを絡める。
「『はっ!』」
そのまま右腕を引き、マグマ・ドーパントを回転させ地面に倒す。
「フィリップ!」
『ああ、メモリブレイクだ!』
『CYCLONE!』
『CYCLONE!』『JOKER!』
“ルナメモリ”を抜き、再び“サイクロンメモリ”を挿すと、更に左側のスロットから“ジョーカーメモリ”を抜く。
そして。今度は右側の腰にあるスロットに挿す。
『JOKER!マキシマムドライブ!』
竜巻が発生し、その力でWが宙に浮き上がる。
「『ジョーカーエクストリーム!』」
体が真ん中で分割され、そのまま時間差で左脚と右脚の蹴りが炸裂する。
『ぐああああああああああああ!!?』
マグマ・ドーパントは爆発と共に、断末魔を上げ倒れる。
そして、マグマ・ドーパントの中からマグマメモリが飛び出し、マグマ・ドーパントは寺坂の姿へと戻った。
マグマメモリはそのまま小さな火花を出して砕け散る。
それを確認し、渚も変身を解く。
「渚君、寺坂君は無事なんですか?」
先生は寺坂に駆け寄り、渚に尋ねる。
「一回の変身なんで体への影響もないはずです。メモリブレイクも派手に見えますけど、寺坂君の体へのダメージはそんなにありません。まぁ、暫くは体が痛むだろうけど」
「そうですか。それは良かった………ですが、渚君。先生は君に聞かなければならないことがあります。いいですか?」
「それは…………」
「こうなっては仕方ないだろう」
すると、渚の背後に立つように烏間先生が現れた。
「烏間さん………」
「君の正体が知られた以上コイツにも、そして彼らにも説明の必要がある」
そう言い、烏間先生が指さす方にはE組のメンバーが未だに信じられないと言った表情で居た。
「それに、俺と君たちが危惧する暗殺にガイアメモリをしようすると言う事態が起きてしまった。これ以上、このようなことが起きる前に彼らにも伝えるべきだ」
「……分かりました。先生、全てをお話しします。もちろん皆にも」
その後、寺坂は鳥間先生の部下が病院へと運び、渚は先生を含む3年E組全員をある場所へと案内した。
「さぁ、入って」
渚は建物の鍵を開け、皆を招き入れる。
「ようこそ、鳴海探偵事務所へ」
そう言って、渚は皆の方を向く。
「鳴海探偵って、まさか、ここって鳴海壮吉の事務所!?」
すると、不破が大声を上げた。
「鳴海壮吉ってあの名探偵の?」
「うん!どんな依頼も引き受け、全てを完璧に熟すハードボイルド探偵!」
「流石は不破さんだね。その通り、ここは探偵、鳴海壮吉の事務所だよ」
渚は鞄を置き、そう言う。
「鳴海壮吉は僕の伯父なんだ。そして、僕は一応伯父さんの一番弟子なんだ。まだ見習いだけどね」
渚は困ったような笑みを浮かべて言う。
「さて、それじゃあ説明をって言いたい所なんだけど、まず何処から説明すればいいやら………」
「とりあえず、まずは僕たちのことを説明するべきなんじゃないかな?」
すると、いつのまにか部屋の隅に居た少年がそう言った。
本を持ち、髪の毛をクリップで止めた変わった少年だった。
「そうだね。まずは、紹介するよ。彼はフィリップ。僕の相棒」
「やぁ、椚ヶ丘学園3年E組の諸君。君たちの事は既に検索済みだ、よろしく頼むよ」
挨拶するフィリップに、E組は各々挨拶をする。
「そして、貴方が月を破壊した超生物ですね。非常に興味深い」
フィリップは背後で、雑な変装をしていた先生に近寄り上から下まで嘗め回す様に見る。
「な、渚!?こいつに、先生の事話したのか!?」
すると、委員長である磯貝が渚に問い質した。
先生の存在は国家機密で、E組の表向きの担任は烏間先生で、E組で行われている暗殺も秘匿されてる。
無論、自分たちの家族にもそのことは話せない。
「違うよ。フィリップには隠し事が通用しないんだ。なんせ、“
「“
「地球の記憶の全てが存在するアカシックレコードのような精神世界。フィリップは、そこにアクセスが出来るんだ。だから、フィリップが気になったことは全て調べられるんだ」
「でもよぉ、そんなの信じられねぇよ」
岡島がそう言うと、フィリップは岡島の肩に触れる。
「岡島大河。6月9日生まれ。身長は168㎝、体重57㎏。得意科目は保健体育で、苦手科目は数学。趣味は情報収集。クラスでの座席は前から3列目、窓側から4番目。当たってるはずだよ?」
「ど、どうして………!」
「付け加えると、君のベッドの下には「うわああああああああ!!それ以上言わないてくれ!」
個人情報以外に、誰にも話したことのない秘密を暴露されそうになり、岡島は慌ててフィリップの口をふさぐ。
「そう言うことだよ。フィリップは僕がE組に落ちたことを知ると真っ先にE組のことを検索して、そこから芋づる式にクラスメイトの情報を検索したんだ。先生の暗殺の事も、真っ先に知られたよ」
「一応隠すつもりでは居たんだけどね」っと渚は困ったように笑う。
「あ、それじゃあさ。先生の正体とかも分かるの?」
「にゅや!?ふぃ、フィリップ君!どうか、先生の正体については内密に!?」
自分の正体をバラされる危機となり、先生は慌てる。
「残念だけど無理だよ」
「暗殺の事を知った直後、僕も真っ先に検索を掛けた。だが、彼に関する情報は何一つヒットしなかったんだ。どれだけ検索しても答えが見つからない超生物。………ゾクゾクずるねぇ」
フィリップは面白そうに笑う。
「そ、それで!ガイアメモリってなんだよ、渚?」
今度は杉野がそう聞いてくる。
「あらゆる「地球の記憶」を収めたUSB型の生体感応端末。スイッチを入れることでメモリに封じられた「地球の記憶」を起動し、人体に挿入することで使用者をドーパントへと変身させ、本体に収められた「地球の記憶」をその場で「再現」し、超常的な力を使用者に与える。それがガイアメモリ」
「だが、どんな力にもリスクは存在する」
今度は烏間先生が話し出した。
「超常的な力を得る代わりに、使用者はメモリの有害毒素に徐々に侵食され、感情・精神が次第に歪んでいってしまう。その為、使用者がメモリ自体に依存性を示すようになることもある」
「そ、それじゃあ寺坂は!?」
「見た限り一回の変身だから、毒素の影響は少ないはずだよ。一応の検査は受けてもらうけどね」
「だが、今回の一件は俺と渚君が危惧していたことでもある。暗殺にガイアメモリを使用する。確かに、あの力があればあの超生物とも渡り合うことが出来るだろう。だが、使用者に害を与える物を使用させる訳には行かない。君たちの戦闘訓練を担当する者としても、人としてもだ」
「だから、皆には分かって欲しいんだ。ガイアメモリの危険性を」
渚の言葉に加え、寺坂の暴走を目の当たりにしている皆は重々しく頷いた。
「あれ?そう言えば、渚が使ってたアレ。アレは何?見た感じガイアメモリっぽいけど」
「あれもガイアメモリだよ」
「そ、それって危ないんじゃ…………」
「大丈夫。よく見て」
そう言って、渚は“ジョーカーメモリ”を見せる。
「ん?寺坂が使ってたのと形が違う?」
「ああ、本当だ」
真っ先に、村松と吉田の二人が、メモリの違いに気づいた。
「うん。これは毒素という毒素を可能な限り排除して純化したメモリなんだ。それに、ドライバーと組み合わせることで身体への悪影響は発生しないんだ。…………今、この町ではガイアメモリによる犯罪が増えてるんだ」
粗方の説明をすると、渚はそう語りだした。
「一年以上前からニュースでも話題になってるよね。原因不明の殺人事件や傷害事件なんかが」
「そうか……それらの殆どがガイアメモリ関連なんだな」
「うん。伯父さんは、この町でガイアメモリが出回り始めてから、ずっとガイアメモリ絡みの事件を追って、メモリをバラまいてる存在を暴こうとしてたんだ。大好きなこの町を守る為に…………でも、伯父さんはもういない。僕は伯父さんみたいな探偵にはなれない。でも、この町が大好きな気持ちは伯父さんと同じ。だからこそ、この町を脅かす存在が許せない。だから、僕は戦うことを決めたんだ」
「僕はじゃなくて、僕たちは、だろ?」
すると、フィリップが横から口を挟んでそう言う。
「うん、そうだね。僕たちだった」
そう言って渚も笑う。
「………仮面ライダー」
「え?」
不破が漏らした言葉に、渚が反応する。
「仮面ライダー。都市伝説として囁かれてる噂だよ。何処からともなく現れて人々を救う仮面の戦士。なんかそれみたいだな~って」
「そんな噂が流れてたの?知らなかったな………でも、少し違うかな。あの変身は、僕の体にフィリップの精神を憑依させてるんだ。僕とフィリップ、二人で変身するから、僕だけが仮面ライダーってのは違うよ」
「二人で変身する仮面ライダー………あっ!仮面ライダー
突如、茅野が声を上げ、皆が茅野に注目する。
「仮面ライダーみたいなんでしょ?渚のは、フィリップ君と一緒の変身だから、二人の仮面ライダー。二人はダブル。だから、仮面ライダーW」
「Wか………いいね、僕は気に入ったよ」
フィリップは嬉しそうに手を叩き、そう言う。
「……うん、そうだね。それじゃあ、今日から僕たちは仮面ライダーWだね」
こうして、渚とフィリップ。
二人で一人の探偵である彼らは、この町の涙を拭う二色のハンカチ。
仮面ライダーWとなった。