「...名を聞いておこう!」
━━━━━━━━見えた!
トキワの森上空、ひたすら"テレポート"を繰り返し、マイはやっと麦わら帽子の少年を見つけた。少年は一人の男と共にドードーに跨り、ジュゴンに跨った女性に追い掛けられているようだった。
「...トキワグローブ。イエロー・デ・トキワグローブ!」
少年は名を名乗るが、それで攻撃の手は休まる訳では無い。女性のジュゴンは"れいとうビーム"を少年の行く手を防ぐように放つ。
「"どくガス"」
少年と男性の姿を消すために"どくガス"を頭上から放つが、"オーロラビーム"で簡単にかき消された。少年は誰だと空中を見上げるが、もう既にそこにはいなかった。
「初めまして、四天王の...」
空中にいたはずの人間は、いつの間にか自分の前へと現れたように少年は見えた。"テレポート"で移動したマイは息を整える時間を作る為の行動をとった。幸い、相手は乗ってくれたようで、マイは戦闘態勢に入れた。
「カンナ、よ。こちらこそ初めまして?前回のリーグ予選敗退者の...誰だったかしら。」
「マイ...!」
『予選敗退者』という言葉にマイの心はピシリとヒビが入ったような感触を覚えた。ヒビが割れ、そこから流れ落ちるように怒りが流れる、それも感じ取った。
「よ、よぉマイ。久し振りやな。」
そう言って麦わら帽子の少年、イエローの背後から声を掛けるのはマサキ。ポケモン評論家で、マイの知り合いだ。マイはマサキを確認すると、ボールを一つ取り出しキングラーを出した。
「カニミソ、"ふぶき"で舟作って。」
キングラーはマイの指示通りに簡単な舟を作り、"クラブハンマー"で傍の川へと押しやる。
マイはマサキに舟で逃げるように指示、しかしカンナはそれを見逃す訳もなく、"オーロラビーム"で壊しにかかった。
「ライ、"10万ボルト"。マサキ、とイエロー...?ここは任せて行きなよ。レッドを見つけて、さっさと、早く!」
「は...はい!」
マイの気迫に押されてか、イエローはドードーに乗ったまま舟へと乗り、釣竿をオール代わりにして急いで脱出する。
脱出の一部始終を見送ったマイは、改めてカンナと向き合う。カンナはイエローを追いかけようとするが、そうはさせない。
周囲はカンナによって氷のフィールドが完成されている。これは、キングラーの舞台だ。
「カニミソGO!」
キングラーは氷のフィールドへと乗り、滑るようにしてカンナへと近づく。キングラーだけではなく、ライチュウも負けじと"でんこうせっか"でカンナに接近する。2体の登場によりカンナはイエローを追えず、マイと戦闘を行うことになる。
「"クラブハンマー"、"10万ボルト"!ネギラフ飛翔"しびれこな"!」
次々にポケモンに指示を出すマイ、しかし相手は四天王。カンナは冷静に対処する。"れいとうビーム"で新たな壁を作り、キングラーとライチュウの攻撃を妨害、さらにダメージを与える。
「あなたの目的は何かしら?イエローとは初対面のようだったけれど」
「レッドの救出、アイツとは利害の一致の協力!!」
"オーロラビーム"で簡単に跳ね返される"しびれごな"に対してイライラを隠しきれないマイは、自分も戦闘に参加しようとスリーパーに"テレポート"を指示。しかしスリーパーはマイの安全を考慮してか、行動には移さなかった。マイはそんなスリーパーに怒りを覚えたのか、横に押し退けて戦おうとするがスリーパーに止められる。
「ポケモンに諭されるなんて未熟ね...」
マイの行動を揶揄するカンナに、またマイはヒートアップする。そんなマイを止めようとスリーパーは必死に彼女を抑えるが、カイリキーの元で修行したマイを止めるにはパワーが足りなかったようだった。
そんなことには全く気付かずにライチュウとキングラーは氷を崩しては進むという作業を繰り返していた。指示が無ければ本能のままに動くしかない獣、当然知恵ある獣に蹂躙される。
「哀れね、主がこれじゃポケモンの力量もたかが知れてるわ。リーグ優勝者はまだ冷静に戦えたわよ?」
「っ、カンナア゙ア゙ァ゙!」
荒れる、マイの心は荒れる。敵の言葉は全て煽りに聞こえる。存在が自分を嘲るように見下している。マイの心は、燃える。
「っ、」
そんなマイが吹き飛んだ。吹き飛ばされた。"かまいたち"を撃ち込まれたのだろうか。起き上がって見てみると、目の前にはクキを持って浮かんでいるカモネギ。見下すようなそして真っ直ぐな目でマイを見つめている。
そんなカモネギから目を逸らし、マイは不貞腐れるように呟いた。
「...ビー、おいで。」
マイは立ち上がってビードルをボールから出す。ビードルはボールから放たれると、独自のリズムを刻みながらマイの頭の上に乗っかった。
マイは一呼吸置いてカモネギの足に掴まった。カモネギは特に抵抗する素振りも見せずに飛び上がる。
「カニミソ"なみのり"!"ライも乗っかって突っ込んで!」
空中から指示を繰り出すマイ。2体の戦闘バカはマイの指示に従って動く、その姿はまるで傭兵のようだった。
「リッパーおいで!"テレポート"、カニミソのとこ!ラフは上から"どくどく"!」
カモネギから離れ、スリーパーに抱き着く形で着地するとキングラーの元へ"テレポート"した。さらにそこからまた"テレポート"、その先は
「っ、"れいとうビーム"!」
カンナの目の前。カンナは反撃するには遅かったようで、ジュゴン諸共波に飲み込まれてしまった。さらに波の上から"どくどく"を撃ち込まれる。"どくどく"は水にジュースを零したように拡がり、カンナもジュゴンも'どく'状態に侵されたはずだ。
マイは"テレポート"で一旦距離を離し、相手の出方を伺うことにする。疲れたのか、傍の木に身を預けた。
「なっ、これは...!」
その時、マイの右腕に異変が起こった。氷で出来た枷が、気づいた時にはマイの右腕に取り付けられていた。傍の木に縛り付けられる形で付けられており、どう引っ張っても外れない。いつの間に、とマイは波に飲まれたカンナの方を見るが、波は凍らされ、ずぶ濡れのカンナとジュゴン、そしてルージュラが波の上にいた。カンナは'どく'に侵されている影響か、ジュゴンに体を預け、なんとか立っている状態だった。
「はァ...毒に"しびれごな"も...混ぜていたのかしら...?指先がもう動かないわ...」
「"10万ボルト"、"はかいこうせん"、"かまいたち"、"サイコキネシス"!」
「"ちょうおんぱ"!」
倒すなら今しかない、とマイは主力ポケモン達に攻撃を命令する。しかし、なんとか腕を動かしパルシェンをボールから放つと"ちょうおんぱ"による妨害で攻撃を逸らすことに成功。さらにマイ達の隙を作ることにも成功した。
しかし、毒の影響かカンナは嘔吐物を吐き出し、その場に倒れてしまった。ポケモン達は主の隙を突かせまいと攻撃をするが、数の有利でマイ達の方が優勢だった。
トレーナー双方なんとか立ち上がろうと踏ん張る。先に立ち直ったのはマイだった。
「リッパー"テレポート"ビー連れて。ビー、"いとをはく"をトレーナーに。ネギラフ飛翔から"ねむりごな"、ライとカニミソは2体の援護!」
マイの指示により、ポケモン達は一斉に動き出した。上空から、側面から、近距離から攻撃する3方向に分かれ一斉攻撃だ。
だが、カンナはこれを待っていたとボールを投げる。中から放たれたのはラプラスだった。
「"ハイドロポンプ"よ」
ラプラスの射線上には、拘束されたマイがいるだけだった。つまり、壁になるものは何も無い。鋭い水圧の砲撃がマイ目掛け放たれる。当然マイは避けきれる訳はなく、マイと共に繋がれていた木は貫かれ、メキメキと嫌な音を立てて倒れてしまった。
「ゔ...ゔがぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!」
しかし、マイは貫かれてはいなかった。マイに砲撃が迫り来る直前で、スリーパーが"テレポート"を使用してなんとか救出した。マイの体だけ、だが。
無理矢理引きちぎる形になり、無くなってしまった右腕の切り口を抑えながら、マイはなんとか立ち上がろうとする。しかし、足に力が入らず倒れてしまった。
「ふっ...いい気味、ね...」
カンナの負け惜しみも含めた煽り言葉が、マイの手持ちを刺激させた。怒りがきっかけか、ビードル、そしてナゾノクサの体が震え始める。
「進...化...?」
マイの予想通り、2体のポケモンは進化するのだ。進化の前兆、カンナは目に見える強化を見過ごす訳がなかったが、また嘔吐してしまい、正確な指示が出せなかった。しかしポケモン達は理解しているようで、"れいとうビーム"や"ちょうおんぱ"で妨害しようとする。だが、キングラーの"クラブハンマー"やライチュウの"メガトンパンチ"、カモネギの"きりさく"がラプラスとジュゴン、ルージュラを襲う。パルシェンに対しては、スリーパーが"テレポート"を使って遠くに追いやった。進化に気を取られた三体のポケモンは、意識から消えていたポケモンの攻撃を喰らってしまい、妨害に失敗してしまう。
「っ、ラフ!」
ナゾノクサが進化し、クサイハナになった。マイはこの時の為に買っておいた『リーフの石』をクサイハナ目掛けて投げる。利き腕ではない左腕で投げたが、"はなびらのまい"を上手く使ってクサイハナは自分の元へと運び、石に触れた。石に触れた途端、また体が震え、一回り大きいサイズへとなり、頭の蕾は一気に開いた。
「ラフ、"はなびらのまい"!」
ラフレシアになった事により、"はなびらのまい"で発生させることのできる花弁の枚数が幾倍も増えた。それは姿を隠すことが出来るほどに。"はなびらのまい"の花弁が消え失せると、マイはそこにはもういなかった。
「フェフェフェ、逃げられたねぇカンナ。」
毒に侵され倒れたカンナの元へ、一人の老婆が歩み寄る。彼女はキクコ、カンナと同じ四天王の一人で司る力は
カンナの体内を蝕んでいた毒はみるみるうちに消え去ったが、疲労からかカンナは未だ目が覚めない。
「さて、どこに行ったのかねぇ...」
ゴーストポケモン達に辺りを捜索さているが、見つかったという報告はない。"テレポート"で移動できる範囲などたかが知れてるはずだが、とキクコは頭を悩ませていた。
「ん...ここは、知らない天井だ...」
カンナとの戦闘からどのくらい経っただろうか、目が覚めたマイは体を起こそうとする。しかし、体が動かない。というより、フラフラとして力が入らなかった。
「あら、やっと起きたの?」
聞き覚えのある声が耳に入り、マイはそちらの方へと顔を向けた。茶髪のロングに黒のワンピース、年齢はマイと同じ程度。2年前、シルフカンパニーでR団と戦闘をした際にマイと共に侵入した人間が、そこにいた。
「ブルー...?」
ブルーはそうよと頷き、隣の椅子に腰掛けた。ここでマイは辺りの様子を確認する事にした。部屋は広く、研究室のような雰囲気が感じ取れる。マイは部屋の端のベッドで寝かされているようだった。
「...ブルーの、家?」
口がはっきりと動かなかったが、なんとかマイは言葉に出来た。ブルーはそれに対して顔を横に振って否定した。
「アタシじゃなくて、あの人よ。」
そう言ってブルーが指差した先にいたのは、せっせと何かを作っている老人。一瞬見えたその横顔は、マイの消え掛けていた記憶を呼び戻した。
「カツ...ラ?」
名前を知っていたのか、と名を呼ばれた老人、カツラはマイの方を振り向いた。
「よく知っていたね。グレンタウンジムリーダーのカツラだ。」
「初め、まして。マイです...」
カツラはブルーにマイのことを任せ、また作業へと戻った。何かを作っているようだが、マイの位置からは何も見えない。
「ね、なんでここに...?」
「なんでって、アンタがアタシのとこに"テレポート"してきたから急いで運んできたのよ。義手を作ってくれそうな技術者の元へ。」
━━━━━━━━リッパーか...
「あなたのベトベトンほんと凄いわね。隠密行動が上手くいって、なんとか包囲網を抜けられたわ。」
義手、というワードを聞いて、マイは自分の右腕のことを思い出した。右腕を上げてみると、傷口は炙られており、傷口は塞がっていた。腕は肘から手にかけての部分が無くなっており、マイは変な感覚に陥っていた。
「さて、恐らくこれで大丈夫だろう。」
そう言ってカツラは、マイの腕に合わせるように義手の確認をする。義手は鉄製で銀色に輝いていたが、スプレーで塗れば隠し通せそうだった。
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