「...寝てた。」
マイが目を覚ました時には、外はもう青々としており、新鮮な果実のような雰囲気があった。
まだ朝は早いが、山を越える頃には昼を過ぎているだろう。
そう思ったマイは、預けていたポケモンを受け取り、センター内の小さな売店で食料を幾つか買って外へ出た。
朝日は眩しく、暖かみを感じられた。ネギとラフをボールから出して、軽く運動させた後、ラフだけボールに戻した。
「飛ぼうか。」
ネギの首根っこを掴んだ状態で、冷たく、どこかサディスティックに言った。昨日の続きをしようか、ということを理解したネギは逃げも隠れもせずに、マイを連れて飛び立った。
「あっち」
マイが指差した先は東。すなわちハナダシティだ。
「次の町もジムに行くよ。準備よろしく。」
その言葉に短く鳴いて反応するネギ、揺れて反応するラフ。
━━━━━━━━慣れたな。
と、思うマイ。もとい男。
忘れかけていた、自分は異世界の人間だということを。身体は適応しているが、心までも適応しそうになっている。怖い。
...なんてことをぐるぐるとぐるぐると頭の中で回していると、ネギが鳴いた。我に返ってみると、すぐ目の前には水のように透き通る様な町があった。
「ハナダシティ、着いた。」
ハナダシティへと降り立ったマイは、早速ジムがある場所を探し始めた。しかし、どこを探してもジムらしき場所は見当たらない。仕方ない、と街の住民に場所を聞いた。
「あの、ジムの場所...」
「ん?あぁトレーナーかい?ジムは町の外れにあるけど、今ジムリーダーは出掛けているらしいんだよ。」
「え...」
「あ、ポケモントレーナーならちょっと手伝ってくれないかな。」
━━━━━━━━強引だなコイツ
場所を聞いてしまった手前、引くに引けないマイはその町民に連れられるまま、町北部に流れている川まで連れてこられてきた。
「...デカ」
連れてこられたマイが見たものは、巨大な鯉。もといアズマオウだった。アズマオウの周りには幾人ものポケモントレーナーが各々のポケモンを出して一斉攻撃を仕掛けているが、すぐに"ねむる"で回復されているようだ。
「あのアズマオウは懸賞首でね。20万円だって、やる?って、あれ 」
彼が気づいた時には、既にマイはソコにはいなかった。町民の話の中に出てきた[20万円]という単語に反応して、その川の付近へと降りてきた。
「ネギ、"つるぎのまい"を最大まで積んで上空から"かまいたち"。ラフは"すいとる"で牽制!」
ネギは指示通りに"つるぎのまい"をして、ラフはマイに抱きかかえられて土手の下まで下って攻撃を開始した。
しかし、野生のアズマオウは水中に潜って敵の攻撃を避け、確実に1匹ずつ"つのでつく"や"みずでっぽう"を当てていく。そのトレーナーのポケモン達はほぼ1発でダウンしているため、束になって攻撃しているトレーナー達の中には離脱するものがチラホラ見られた。
「使えない。」
マイがボソッと呟くと、そんなことは言ってはいけない。とでも言いたげに、ネギが空からマイに向かって叫んだ。はいはい、と理解した旨を手で伝えてマイは土手の上へと戻ろうとする。このまま下にいれば角の餌食になると考えたからだ。しかし、ラフは残ろうとマイの腕で暴れる。その目はいつものキラキラとしたものではなく、真っ直ぐとした目だった。
「作戦、ある?」
その問いにラフは体を縦に振って答え、マイの腕から飛び出たラフは草むらをいじり始める。と、ここでアズマオウが次の標的としてラフを見定めて"つのでつく"の構えを取る。しかし、ラフは草むらの辺りを彷徨いて全く気づいてないようだった。
「ッ━━━━━━━」
声をかけても間に合うか怪しい。それを一瞬で理解したマイはラフのボールを取り出して戻そうとする。が、
マイの足元に風の刃が打ち付けられた。攻撃を仕掛けたのは、ネギ。攻撃を受けてマイが尻もちを着いたところで、アズマオウのその角がラフを捉えようとすぐ側まで来ていた。
ぶつかる━━━━━━━━と、目を瞑ってしまうマイ。しかし、薄らと目を開けると、アズマオウは止まっていた。否、拘束されていた。
拘束していたのは蔓や草。ラフが弄っていたのは水辺の植物だった。
一瞬何が起こったか理解できなかったマイだったが、我に返ってネギに"みだれづき"を指示する。ネギは上空から真っ直ぐ下へ、アズマオウを貫かんとする勢いで激突。それを数回繰り返したところでマイがモンスターボールを投げる。
1、2、3と揺れて、ボールの閉まる音が聞こえた。アズマオウを捕獲したのだ。
「捕獲、完了」
野次馬達から歓声が上がる。またか、という表情で土手を上がるマイだったが、そんな顔を気にせずに周囲の人間から声をかけられた。スゴいだの、どこから来たのだの...
マイはそんな会話とキャッチボールをするわけでもなく、口を開け
「懸賞金」
とだけ呟いた。その言葉はまるで豪速球のようで、周囲を黙り散らかすのだった。
「財布重...」
賞金を貰ったマイはゴールデンブリッチを渡って24番道路へとやって来た。彼女の財布はパンパンに膨れ上がっていたが、これからまた膨れ上がるようだった。
先程、アズマオウの懸賞金を受け取った後、町民の代表からこう言った話を聞かされたのだ━━━━━━━━
「この町の北にある24番道路、その先のハナダ岬に最近凶暴なポケモンが現れるようになったのじゃ。君に任せる。のじゃ。」
「あの、拒否権は」
「よろしく頼むのじゃ、礼はたんまりするのじゃ。」
━━━━━━━━礼とやらに釣られたのだが、いくらかを聞くのを忘れてたな。
頭をポリポリと搔きながら、川を横目に溜め息をするにマイ。ふと、川を下流の方へと目をやっていくと、目的地、ハナダ岬が目に入った。
そろそろか、とボールに手をやるマイ。しかし、そんな時に地響きがなり始める。ドドドドと。
もうトラブルには慣れたのか、すかさずネギをボールから出して空中へと逃れようとする。咄嗟の判断が出来るようになったのかもしれない、と本人は感じた
。だが━━━━━━━━
「へ?」
地面が削れ、崩れ落ちる。川の方へと流れ落ちるように...