〜タマムシシティ〜
トリに乗ってきたマイはタマムシシティへと降り立った。人がわんさか溢れている光景に、とり は目を見開いていた。
タマムシシティは、隣のヤマブキシティと並んでカントー地方の2大都市と言われるほど栄えている。そんなタマムシシティの有名所といえばタマムシデパート。
「さ、行こうか」
トリをボールに戻し、足を弾ませデパートへと入っていくマイ。今の彼女は、これまでの旅で見せたクール染みた彼女ではなく、歳頃の少女が見せる"女の子らしさ"を見せていた。はたから見たらショッピングをしに来たように見えるだろう。実際、彼女はショッピングをしに来たのだ。
「お、あった。あった。」
探し物を棚から取り出し、数種類を幾つか手に取りレジへと持っていく。店員はその数と金額、そしてソレを持ってきた人間に目を丸くしたが、丁寧に受け答えをして彼女を見送った。
その階を後にしたマイは更に上の階へと行き、最後の探し物を買った。その探し物は未だ使う予定は無いのだが、これからのために買っておきたかったのだ。
「さて、と。」
町外れにある開けた場所へとやって来たマイは腰に巻いてあるベルトのボールを全て取り出し宙へと投げる。投げられたボールからはマイが今までに捕まえた5匹のポケモンが出てきた。
初めて出会ったポケモン、カモネギことネギ。
初めて一人で戦闘し、捕まえたポケモン、ナゾノクサことラフ。
懸賞首として攻撃されていた、通常より大きいアズマオウことアズマさん。
同じく懸賞首の問題児、キングラーことカニミソ。
マサキを襲ったために、レッドと共に捕獲したオニドリルことトリ。
「ここら辺で一応の顔合わせ、しとこうと思って。自由に遊んでいいよ。」
という、マイの計らいだった。
ポケモン同士での会話などあまりしていない、というよりそんな時間すらなくせっせと旅をしてきたため、ここで休憩をしたかった。というのもあった。
マイは地面に腰を下ろし、ポケモン達の様子を観察することにした。
まだ幼さを残すラフはトリの背中に飛び乗り、自身の頭でトリの顔を上へ上へと向ける。「飛べ」ということだろうか、トリは言われるがままに空を飛ぶ。それを追いかけるようにネギも空へと飛び立ち、2匹は空で追いかけっこを開始し、遠くへと飛んで行った。
「楽しそうだな」
ジュースを片手に呑気に呟くマイは、残り2匹に目をやる。アズマさんは地面に慣れていないようで、マイの元へと跳んで寄ったきた。ボールに戻りたいようだ。
「その前に、ちょっと待って。」
そう言いながらマイは先刻買ったばかりの物に手を伸ばした。取り出したのはCD状のアイテム、わざマシンだ。
「"ふぶき"と"つのドリル"...」
その2つのわざマシンを順にアズマさんの額に当てるマイ。数秒すると、わざマシンにヒビが入った。
「これで技を覚えた...と。」
図鑑を取り出して技を確認するマイ。アズマさんの技は
ふぶき
つのドリル
ちょうおんぱ
みずでっぽう
の4つとなった。
「よし、じゃあボールに戻って━━━━━━」
アズマさんのボールを腰から取り出したところでもう一匹のポケモンがその巨大なハサミを此方へ向け、"はかいこうせん"を撃とうと力を溜める。
「ちょ、待って!?」
アズマさんを盾に、すかさず攻撃を躱すマイ。しかし、彼の攻撃の狙いはマイでもアズマさんでも無かった。彼の狙いは━━━━━━━━
「ベトベトン...!」
いつの間にかマイの後方にいたベトベトンだった。しかし、ベトベトンに攻撃が効いている様子は見られない。ベトベトンは、攻撃されたことに気づいていないのか、ただただ真っ直ぐ進行し続ける。
カニミソはソレが気に入らないのか、続けざまに"あわ"攻撃を仕掛ける。しかしそれも効かない。
「っ、どうするべき...?」
パワーファイターであるカニミソの攻撃が効かない相手...そして相手はこちらを敵として見定めていない様子だ。早くこの場から立ち去るのが得策だろう。しかし、カニミソの戦闘意欲は高まるばかり、このまま逃げてはカニミソのヘイトを高めるだけなのだ。
━━━━━━━━それは、嫌だ。
「折角の機会、ここで共に戦って距離を縮める。」
しかし、戦うにしてもカニミソの中距離攻撃は効いていない。距離を詰めるにしても開きすぎている。寧ろこちらから距離を詰めた方が早い。
━━━━━━━━なら
「アズマさん、"つのドリル"!」
近距離攻撃を指示すれば流れが変わるかもしれない。しかも、一撃必殺なら当たれば確実に仕留められる。命中率の低い一撃必殺だが、動きの遅いあのベトベトンなら当たるはずだ、という考えから出た指示だった。
アズマさんの攻撃は反れることなく真っ直ぐ━━━━━━━━進まなかった。
「一撃必殺の命中率ってそーゆーこと...」
強大な威力故に力を制御しきれない。だから攻撃のルートが反れるのだ。これをマイは実感した。攻撃は届かなかった、だが近くまで寄ることは出来た。
「もっかい"つのドリル"!」
その距離僅か1m足らず。
━━━━━━━━この距離じゃ外しようがない
アズマさんはその自慢のツノを掲げ、ベトベトン目掛けて進んでいく。その攻撃は
「命中っ」
命中した。確実にベトベトンの体にツノは突き刺さっているのだ。しかし、ベトベトンは倒れていない。
ここで、マイは一撃必殺技の効果を思い出した。
一つは当たれば確実に倒せる。
そしてもう一つ、相手のレベルが自分のレベルより高ければ効かない。
━━━━━━━━やってしまった
自身の知識の欠落に頭を抱えるマイ。しかし、そんな暇は与えられないようで、マイに新たな試練が与えられるのだった。
ベトベトンがこちらを見たのだ。
「ッ━━━━━━━━」
━━━━━━━━マズイ、これ程までの力量差。まともにやり合って勝てる相手ではない。
逃げるようポケモン達に指示を出そうとした所で、マイはカニミソの行動に、ベトベトンとの距離に目を見開く。
マイがアズマさんに指示を出している最中、カニミソはカニミソで個人的な作戦を実行しているのだった。
"かたくなる"で異常に硬化したそのハサミを至近距離まで近づき、"クラブハンマー"を喰らわせんとしていた。
そしてその"クラブハンマー"はベトベトンに命中、しかしその攻撃でさえも効かない様だった。
「マジか...」
ベトベトンはカニミソの存在にも気づいたようで、カニミソの方に目をやる。そして口を開き力を溜める。
「"はかいこうせん"!?戻━━━━━━」
カニミソをボールに戻す間もなくベトベトンの"はかいこうせん"がカニミソに命中。そのまま10m程吹っ飛ばされ、ダウンしてしまった。
「カニミソッッ!!?」
━━━━━━━━今の手持ちで一番強いはずのポケモンがいとも容易く...
逃げるしかない、逃げるしかない、逃げろ、逃げろ、逃げろ逃げろ逃げろ......いや、待て。
マイの脳内に埋め尽くされた恐怖の逃走、しかしその中にある考えが浮かんだ。
「コイツを捕まえたら...」
意図せずまだ空のモンスターボールに手を伸ばすマイ。モンスターボールに手が触れ、意識を戻す彼女だったが、
硬直状態のベトベトンはボールを弾けず、そのまま抗うことも出来ずにボールに収まる。
1、2、3と揺れ、ボールの開閉スイッチがカチッと音を出して揺れを抑える。
「捕獲、完了...え?」
━━━━━━━━全く体力を減らさずに捕まってしまうとは...
予想外の出来事に、暫く動けなかったマイだが、アズマさんに諌められ気を戻す。
倒れたカニミソ、健闘したアズマさんをボールに戻し、帰ってきた3匹と共にポケモンセンターへと向かうのだった。