落第騎士と鬼の英雄譚   作:難波01

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部屋割りの真実

東堂刀華。

 

破軍学園序列NO1.にして生徒会長。

 

茶髪で長い髪を三つ編みにして二つのお下げが印象的、言うに漏れず我が侭ボディ。

 

生徒会のごく一部は語る、凛としてNo1.に相応しい振る舞いを行う彼女が歳相応の少女になる瞬間があると。

 

(久しぶりですね、和真君が学園に戻るとは)

 

自然と表情が綻ぶ彼女、刀華は和真と同じくして破軍学園に入学して直ぐだったか、実戦の授業から彼を視線が追う様になった。

 

それから久しく彼は学園に戻らなかった。

 

暫くして、和真は消えた。

 

半年もいなくなった彼が何処で何をしていたか知る事になったのはテレビの報道。

 

確か、当時の見出しは「最強(さいじゃく)のFランク」だったか。

 

各国を転々とし、学生ながらも固有霊装(デバイス)一本で銃弾飛び交う戦場を駆け抜けてテロリストを鎮圧する様は鬼のようだとリポーターは語った。

 

「・・・・・何をしてるのですか?」

 

刀華は極めて冷静である。

 

ああ、そう冷静だ。明智和真が関わると()()()の対応へ戻ると言う一点を除いて。

 

「刀華さん?落ち着いてくださると非常に助かるのですか・・・」

 

何とか顔だけを動かして状況を理解した和真は、後の展開を知っている。

 

そうとも、経験則で予測できる。

 

「何故、女生徒に抱きつかれて鼻の下を伸ばし、腕に当たる感触を楽しんでいたように見えるのですけど?」

 

「刀華さんには其処までゲスに見えますか!?」

 

「・・・・・問答無用です!」

 

雷光一閃。

 

雷光と供に放たれた神速の剣戟をどうやって避けたか?ンナもん決まっている。

 

「貴女、明智様の何ですか!?」

 

エルフェルトが固有霊装(デバイス)血塗られた贈物(ブラッティギフト)を展開、銃型で、二丁の短銃を連結させる事で狙撃型になる連射性の高い自動小銃型で受け止めたからである。

 

「何って貴女こそ!」

 

「私は明智様の婚約者ですっ!!」

 

爆弾が爆発した。

 

「ふむ、明智も隅に置けんな。ヴァレンタインだけでなく生徒会長にもモテていたとは」

 

騒ぎを聞きつけてか、不敵な笑いを浮かべて現れた黒乃理事長が銜えタバコを吹かしていた。

 

 

 

 

 

 

さて、入学式まで数日ある。

 

ま、当日に越してきて直ぐに式典なんてハードスケジュール誰が考案しようか?

 

「相部屋ですか!?」

 

「そうだ。今年から男女同棲も辞さない体裁をとる事にした。明智は紙面上の数値はF、ヴァレンタインの数値は極めてAに近いB。黒鉄も同じ理由でヴァーミリオンと同室だ。」

 

理事長から聞かされた理由(わけ)に愕然とする和真。

 

「まぁ、ヴァレンタインの場合はPTSD治療の一環と言う事もある。お前ならトラウマの原因が何か、解るな?」

 

黒乃理事長の言うエルフェルトのトラウマ、ソレは間違いなく二年前のショッピングモール襲撃事件だ。

 

自分の身分を明かし、逃走時に人質を買って出た事で政府に、娘よりも世間への体裁をとった家への失望が根源のトラウマ。

 

「彼女にとってお前は英雄(ヒーロー)なのさ。映画のワンシーンのような状況で助け出してくれたお前は、エルフェルト・ヴァレンタインと言う少女のな・・・」

 

「成る程、それなら俺はこの決定を謹んで受けましょう。」

 

「そうそう、彼女が“婚約者”と断言したことについても教えておこう。両親はヴァレンタインの精神の安定のために一度はお前を迎えようとしたそうだ」

 

「・・・・はい?」

 

「事件終幕直後、ヴァレンタイン公爵にお前の名を教えた人物がいたのさ。それはそうと黒鉄の弁護をしてもらわないとな」

 

そんな理事長の振りから、直立不動で立つ一輝を見やると見事に紅葉をこさえていた。

 

アレは痛い、絶対痛い。

 

「部屋に戻ったら女の子がいて着替えを直視?」

 

「そうなんだよ」

 

「んで自らキャストオフ・・・・はいギルティ」

 

「僕見捨てられた!?」

 

「明智、お前も似たような物だろう」

 

いつものノリでボケをかますとしっかり乗る一輝。

 

そんな和真に黒乃理事長がツッコミを入れた。

 

「いや、跳び付かれるのと覗きは別物ですからね?」

 

「良いのか?このままでは東堂生徒会長はお前に説明を求めるぞ」

 

黒乃理事長の一言を聴いた瞬間、和真の顔は青白くなる。

 

それはもう死人の顔色そのものだが、刀華が暴れた場合和真の斬殺だけでは済まない。

 

寮備え付け家電が全部屋一式駄目になる。

 

「和真、東堂先輩と何かあったの?」

 

「よし、一輝。弁護はしてやるから後で助けろ、良いな?」

 

「この一件に黒鉄に非はないが責任は取ってもらうぞ?」

 

黒乃がそう告げると理事長室の扉が開く。

 

「失礼します・・・ッ!」

 

「・・・・ッ!」

 

入って来たのはステラ・ヴァーミリオンだった。ステラは一輝と視線が合うとキッと睨む。とっさに一輝は謝罪を始める。

 

「ごめん。あれは不幸な事故で覗こうとしたわけじゃないけど・・・・ごめんなさい」

 

「・・・・潔いのね。これがサムライの心意気なのかしら?」

 

「口下手なだけだよ」

 

一輝の言葉を聞きステラはある提案を思い付く。

 

「だったらハラキリでこの一件を無しにしてあげるわ。どうかしら?」

 

「うん!それなら・・・・・え?」

 

ハラキリ、それはつまり切腹だ。

 

「日本男子にとってハラキリは名誉なんでしょ?姫であるアタシにあんな事して・・・・」

 

「ちょっと待ってよ!そんな事までして命は払えないよ!?たかが下着姿を見ただけでそんな・・・・・」

 

「よし。明智、実演しろ」

 

「茶化さないでください理事長。後嫌です」

 

そんなやり取りで一輝の呟きは聞こえていないかに見えた。

 

「た、たかがですって・・・・」

 

そんな事は無い、そうは問屋がおろさない。

 

次第にステラの周りに炎が燃え上がる。

 

「じゃあな黒鉄、明智」

 

危険を察知してか黒乃理事長は去る。

 

いい去り際だ。と言うか巻き込まれたと内心吐き捨てる和真。

 

「ちょっと理事長!?」

 

「覚悟なさい・・・・・アンタみたいな変態痴漢無礼のスリーアウト平民は私が直々に消し炭にしてあげるわッ!」

 

瞳のハイライトが消え、明らかに殺す気満々のステラ。

 

一輝は今窮地にいる。和真は割とギリギリまで茶化すクセがあるし、黒乃は避難している。

 

「私の裸をジッと見てたクセに・・・・舐めるように!変態のような眼差しで私を見てたクセにッ!」

 

「何?そいつは許せん、やっぱギルティ!」

 

「和真はどっちの味方なの!?」

 

おどける和真に割と真面目に助けを求める一輝。

 

「てか、アンタ誰よ!?」

 

「俺か?通りすがり隣人だ。覚えんでいい」

 

「まぁ良いわ。二人仲良く消し炭になりなさい!!」

 

「何でさ!?一輝、どうするんだよ俺までノブと同じ末路をたどるのか!?」

 

「・・・だ、だって!ステラさんがあまりにも綺麗だったから・・・・・見とれちゃったんだッ!」

 

一輝の渾身の一言。

 

「ふぇ!?」

 

突然の発言にステラは顔を赤くして動きを止める。

 

「な、なにを言ってるのよバカ!み、未婚の女性に軽々しく綺麗って・・・・・」

 

あたふたするステラ。

 

助かったと胸を撫で下ろす和真。

 

あースプリンクラーで濡れた。

 

「ヴァーミリオンさんは落ち着いたか?一輝は部屋を間違えていないぞ、多分。」

 

「はぁ?どういうことよ!?」

 

「あ、言い忘れていたが・・・・・」

 

ここぞとばかりに黒乃が戻って来た。

 

「君達は同じ部屋だぞ?つまりルームメイトだ。今日からな」

 

「「え・・・・・ええええ!?」」

 

一輝とステラの叫びが木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

そして目下、和真の問題は一つも解決していない。

 

「お帰りなさい、明智様」

 

そう、エルフェルトの存在だ。

 

「とりあえず、様付けは止めようか?」

 

「え?あ、そうだよね。それじゃ何て呼べば」

 

「所で御主等、何か忘れてない?」

 

玄関にて、出迎えてくれたエルフェルトに呼び方の訂正を求めるとノブが現実に戻す。

 

見たくない、修羅を越える刀華さんとか。

 

「和真でいいよ、ルームメイトらしいから・・・・で、婚約者って何?」

 

「え?和真様は「様はなしね?」和君は天海様から聞いてないんですか?」

 

目下、刀華は帰っているようで助かったが・・・。

 

「ごめん、爺さんが何て?」

 

「二つ返事で書面返してくれたよ?二年前、あの事件の後直ぐに」

 

「すまん、確認するわ」

 

エルフェルトは様子からしててっきり聞いているが忘れていた、と思っているのだろう

が和真からすれば養父である天海が書面で返信したと言う事実の方が驚きである。

 

と言うか一度正月に帰っているのにその辺触れてなかった。

 

スマフォを取り出し、自宅にコール。

 

『もしもし?比叡青空の家です』

 

比叡青空の家、比叡山麓に天海が開業した孤児院で現在引き受けている孤児は五人。

 

そして、そこのお母さん的存在の鴉天狗・阿古が電話に出た。

 

「もしもし?和真です。『ああ、和坊。左馬介(さまのすけ)なら居ないよ?』よし、阿古もグルだな?何で俺が爺さん出してくれって言わないうちに用件がわかった!?」

 

左馬介、天海を名乗る前に養父が名乗っていた名前だ。

 

何で改名したかは知らないが、兎に角当時はそっちの方が都合のいい事が会ったのだろう。

 

『えー?だって逆玉じゃない!しかもお嬢さん、和坊にゾッコンなんでしょ?逃す手は無いって!!』

 

「いや、普通そう言うの本人に一言ない!?」

 

『左馬介もドッキリって言ってたし、本人に会えたんなら問題ないでしょ?』

 

「問題しかないわ!」

 

ああ、駄目だ。

 

どうやら知らぬ存ぜぬで押し通せない。

 

『いいじゃん、新婚生活の前倒しだと思って!「し、新婚!?」ありゃ、聞こえた?てか本人居るの?』

 

阿古の一言でエルフェルトはボンッ!と顔を赤くして頬を抑えながら「新婚、前倒し・・・」と呟いている。

 

「そうは言わなかったか?となると彼女の言う事、事実なんだな?」

 

『そうだよ、因みに二年前から』

 

「もういい。」

 

通話を終了し、途方にくれた。

 

うん、刀華にエルフェルトが許婚発言。コレだけでも十分爆弾なのだが事実と来た。

 

可笑しいよね?可笑しいよ、誰か可笑しいと同意してくれ!

 


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