二年前のあの時、エルフェルトは
悪を挫き、弱きを助ける。
自分可愛さに保身に走る見掛け倒しじゃない自分の身を差し出してまで他人を助ける為に動ける強さにエルフェルトは憧れたのだ。
「アレほどうろたえていたのが嘘の様に穏やかな寝顔・・・・」
漸くスタートラインだと内心呟きながらエルフェルトもまどろみに身を任せた。
新学期、当日。
一輝はステラとルームメイトとして和解し、教室に向かう為に供に部屋を後にする。
「そう言えば、友達も部屋近いのよ」
「そうなんだ。声をかけるの?」
てててっと駆けて行くステラに返答しながら一輝は扉の鍵を閉める。
「所謂オサナナジミでね、昔から世話の焼ける子なのよ・・・・・」
ふっと一輝はステラの姿を追って視線を投げると和真の部屋の前で震えるステラが目に入った。そして中から、
「何で俺の布団に潜り込んでんだキミは!?」
「親公認よ?まだ時間あるから」
「無いからね!?もう七時半過ぎるからね?あ・・・・・」
和真がルームメイトであろう女子と口論し、声音から見られてはいけない場面を見られたような呟き。
一輝は悟る。
つまり、ステラの幼馴染は和真の同居人だと。
「あ、ステラ。おはよう、同じクラスだといいねぇ♪」
そして恐らくド天然だ。
「な、ななななにしてんのよっこの変態!!」
「ストライクっ!?」
そして、和真は新学期早々にリタイアしたと。
入学初日に遅刻・・・語弊があった。
一輝は二回目、和真は三回目の入学式の遅刻は免れた。
「つまり、アンタがエルフェルトの言っていた婚約者・・・」
ステラの言う事はスキャンダルも良いところだ。
こと貴族の婚約ともなれば、ニュースで取り上げられる。それは他国であろうと同義で、ヴァレンタイン家はヴァーミリオン王側近貴族。
公表されていない許婚の存在が明るみになれば、最高の特ダネである。
「アレが?」
思わずステラは一瞥する。
奇跡的に同じクラスであった四人は、割と窓際の席で屍のように蹲る和真を見た。
「そう、ステラにとってはアレでも私にとっては王子様。分かった?」
「分かりたくないけど、近所だったで言うのは分かったわ」
「もー!ステラも恋しなよ、そうすれば理解できるって」
ステラとエルフェルトが恋愛トークに花を咲かせる一方で(この場合はエルフェルトののろけ)一輝はホームルーム前に和真の蘇生を果した。
「はい、虹○ス。」
そう、缶コーヒーの差し入れだ。
「お、サンキュー一輝。流石に二年目になると俺の蘇生方法を心得ているな」
「朝から災難だったね?」
そして、入学式当日のホームルームが始まった。
「新入生のみなさーん!入学おめでとーっ!一年一組担任の折木有里です!よろしくね~!私の事はユリちゃんって呼んでね!」
一人だけテンションの高い有里に和真達を含む生徒達は呆然とする。
「なんか疲れる先生ね」
当然ステラも例外ではない。
去年からいる一輝や和真は相変わらずといった表情で苦笑いを浮かべていた。
「僕や和真は去年からお世話になってるけどいい人だよ有里先生は」
「まあ、一人だけテンションが高いのは多めに見てやってくれ。だけど大丈夫かな?有里先生・・・・」
「?・・・・なにが大丈夫なのよ?」
「ああ、血の雨が降るのさ。比喩とかじゃなくて」
「今日はまず、最初に七星剣武祭について連絡しまーす!本校では今年から能力値による選手選抜は廃止して全校生徒参加の実戦選抜を行って成績上位六名を選手として―――」
有里はテキパキと説明して、生徒達に電子端末の生徒手帳の使い方などを説明する。これに始まり次に試合について有里は話し続ける。
「これからは大変だと思うけど、みんな!これから1年全力でがんばろー!!えいえいお・・・ブフファァァァ!!」
『ユリちゃァァァァァァん!?』
突然の吐血。生徒達は驚き声を上げた。
「ちょ!吐血したわよ!?」
「病弱なんだよ・・・・一輝、先生を保健室に。俺は血だまりを拭く」
「分かった」
「アタシも手伝うわ」
「あ、私も!」
一輝とステラは席から立ち上がり保健室へと連れてゆき、和真とエルフェルトは血だまりを拭くのであった。
「そして、避けては通れぬ雷様に赴くのであった」
「ノブ、纏めるな!」
「何やってんの?一人漫才??」
「ああ、ステラ。気にしたら負けだよ、和真の持病みたいな物だから」
ノブは和真以外に見えないし、認知されない。それ故にやりたい放題のノブ。
当然、ステラと一輝の夫婦漫才も鑑賞済み。
「生徒会長から呼び出しって何したの?和君」
「いや、九割がたキミが原因だよ?ルームメイト君」
呼びにきたのは、
恋々だって好き好んでハイライトの消えた会長の頼みを聞こうか?
「恋々、刀華は・・・・つまり?」
「うん。エルフェルトちゃん?の婚約者発言にショックを受けて今自棄食い中。会長を止めてあげないと体重増加がマッハだよ!」
「・・・エル、どういう事!?」
泣き付いた恋々、生徒会室は生徒会連中にとって憩いの場だ。
恋々だけでなく、漫画だったりお菓子だったりお茶だったりとあらゆる物がそろっている。
そして、恋々の一言に反応したのがステラだ。
「てへっ!つい負けたくなくて」
「・・・アンタはそういう奴だものね・・・和真?」
ステラが振り向くとバイブレーション機能でも搭載しているのかと思うほど和真は震えていた。
それはもうガラスコップ程度粉砕するレベルで。
生徒会室、生徒会長席にはスナック菓子が山積みになっていた。
生徒会のお母さんポジである刀華も人間。極度のストレスから開放されるためにやけ食いする事もしばしば。
そして、経験則で分かる。
和真は死ぬかもしれないと。
「さぁ!和真君、死ぬ気で会長をとめてよ!」
恋々が背を押すと和真は踏鞴を踏んで入っていく。
「何しにきたんですか?」
「刀華、自棄食いは止めよう。生徒会室の茶菓子は・・・」
「聞きよったくなか!」
応接用の長机を越えての一閃。
その軌跡を追うことが出来なかったステラは唖然とし、一瞬で想い人の意識を刈り取られたエルフェルトはキッ!と刀華を睨んだ。
「安心召されよ、幻想形態の一太刀だ。」
割って入ってきた坊主頭の巨漢・破城雷
幻想形態と言うのは主に疲労という形ダメージを蓄積し、魔術を行使して何らかの特殊ダメージ・・・例えば炎を食らわせても丸焼けにはならずに意識を刈り取られ、気絶するだけだ。
対して肉体的損傷を与えるのが実像形態。こちらは通常の剣と同じく斬れば切傷、炎を浴びせれば焼死体が出来上がる。
七星剣武祭はこの《実像形態》を用いる実戦形式である。と言うのは余談だ。
「ああ!やっちゃったぁ・・・大丈夫ですか!?和真君!!」
ドーナッツを片手に切伏せた刀華は我に帰って大の字になっている和真に駆け寄った。
「大分動揺していらっしゃるようですね?」
「うむ、黒鉄も用心した方がよいぞ」
砕城はステラの存在から一輝もこうなるのでは?と忠告すると一輝はその意味を理解せず、刀華の行動に苦笑した。
「センセー、急患だよー!」
生徒会室の左隅、畳一条ほどのスペースをダンダンと叩く恋々。
「今度は何ですか?裂傷?刺殺?殴殺?ま、私に掛ればどんな患者も蘇生してみせまっショウ!」
突然、扉のように床が剥がれたと思うと長身の紙袋を被った大男が現れた。その手には身丈ほどのメスを担ぎ、和真を見つけるや否や「またですかぁ~」と呆れた。
幻魔界きっての名医、そして最も破軍学園に馴染んだ幻魔・ファウストが和真にメスをブッ刺した。
「ちょっと!?」
「人殺し!?」
その光景にステラとエルフェルトが叫んだが、ぐいっとメスを捻ってファウストがメスを引き抜く。
「相変らずセンセーの治療は刺激が強いなぁ。新入生がビックリしちゃってるよ」
独特の負陰気を醸し出す
「そんな事はアリマセン!これはキミ達で言う所、
と言って紙袋医師は床を開けて去っていく。
「・・・・ちょっと一輝達は今のが異常だと思わないわけ?」
未だに伸びる和真から一輝視線を移して尋ねるステラ。
「何ていうか慣れちゃったから」
と一輝。
「馴れって怖いよね~」
と恋々。
「ファウスト先生がいるから安心してますよ?」
と刀華。
「会長、それはいかがな物かと」
と砕城が刀華にツッコミ。
「ま、新入生君も直ぐになれるよ」
と泡沫。
「何ていうか刺激的な人だね~」
とエルフェルト。
ステラは思う。
絶対に慣れたくない!!と。
あ、黒鉄妹の存在を忘れていた。