落第騎士と鬼の英雄譚   作:難波01

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鎧と武者

『さぁ、本日の第二試合!鬼武者正規試合に初登場です。会場内は既に満席ッやはり注目度は高いかぁ!!』

 

実況のナレーションが会場に谺する。

 

その言葉の通り、会場は見渡す限りの群衆によって隙間を塗り潰されていた。その大半は制服に身を包んだ生徒であるものの、その中には時折学園の教員と思われる者が混ざり込んでいる。どうやら次の試合の対戦カードを気にしているのは生徒ばかりでなく、彼らもこの試合に興味津々なようだ。

 

ソレもそのはず、入学して二年間正規(オフィシャル)試合には一切顔を見せない兵が白昼堂々、剣を交える。

 

公式試合には顔を出していない、非正規戦で名を馳せ、彼の通り名となった“鬼武者”が来た。

 

『この試合から会場にいらっしゃった方々のために改めて紹介を! 実況は放送部の磯貝、解説は西京寧音先生が担当しております! 西京先生、いよいよこの日が来てしまいました。現在KOKで三位という実績を持ち、東洋太平洋圏最強の騎士として名高い先生はこの試合の行く末をどう睨んでいらっしゃるのでしょうか?』

 

実況の言葉に応えるのは、少女と見紛うばかりに小柄な女性だった。

 

派手な和装を緩く着込んだ西京と呼ばれるこの女性。普段から教員の一人として試合の解説を任されることはあるが、その仕事ぶりは決して真面目とは言い難いものだった。気紛れに解説に遅刻し、途中で抜け出し、時には実況に任せて姿を現さない。良く言えば豪放磊落、悪く言えば適当な性格をしている人物だ。

 

先ほどの一輝の試合も真面目に解説することはない。

 

一輝が完全掌握(パーフェクトビジョン)を開眼して初めて解説らしい事をして見せた。

 

『明智坊の戦い方は黒坊と同じさ。剣術オンリー・・・違いは因果干渉系スキルを持ち合わせるってことさね・・・・後はFランクとは思えない伐刀絶技(ノーブルアーツ)の多様性。ふざけているにも程がある。殺し殺されの世界にいた奴がなんで出てくるかなぁ?』

 

酷い言われようだが、実際的を射ている。

 

学生騎士は所詮アマチュア。アマチュアの試合にプロを投げ込んでみよう、結果は見えている。そんな出来レースを見て何が面白いのだろうか・・・と言う所だ。

 

それに和真から言わせれば因果干渉系スキルではないと断言しよう。

 

戦国に生きた名高き武将達は皆持ち合わせた力なのだ。

 

伐刀絶技に関しては殆どが鬼の宝刀が宿す業、つまる所は自分の力じゃないんだよなコレ。

 

戦術殻と言う鬼の秘術、固有霊装(デバイス)を介して出す魔術と言う点では伐刀絶技と同じ。伐刀者(ブレイザー)達にはそう認識されても不思議じゃない。

 

「んなもん七星剣王に興味あるからに決まってるでしょうが」

 

西京の台詞に反発するように、和真は一人口走ってゲートを潜った。

 

『おおっと!青コーナーから堂々の登場っ!遅れてきたオールドルーキー!二年の留年は伊達じゃない!裏も知り尽くした鬼武者!一年!明智和真登場です!!』

 

「悪意あるだろ!実況!!」

 

思わず実況席に向けて叫んでしまう。誰も好き好んで二度の留年するか。

 

観客席からは興味心身と全員が視線を注ぐ。

 

茶髪をポニーテールと言うには短い、古く言えば丁髷のように後頭部に結わいたヘアースタイル。整った顔立ちに無駄のないがっしりとした筋肉質の体、一見すればソレは十八歳男子なら運動するタイプに居そうな印象である。

 

学生騎士なら、否。学生騎士でなくとも知らないわけがない、この二年間“鬼武者”の異名が何処で轟いていたか。

 

「この時が来ましたね」

 

観客席で、刀華達生徒会メインバーは固唾を飲んで見守る。

 

「うむ、岡倉先輩の無事を祈ろう」

 

砕城が呟く。

 

「やり過ぎないと良いけどねぇ。明智くん」

 

心配する恋々。和真が本気になったら最後、百の足軽程度なら一瞬で斬り伏せるという

光景を生徒会の攻撃型とも言える面子は見ている。

 

幻魔の皆さん、トレーニングの協力ありがとうございます。

 

「大丈夫でしょ?岡倉くんなら防御だけなら刀華以上だし」

 

泡沫が苦笑する。

 

泡沫の見立てはこと防御面において和真は岡倉辰巳に劣る、それは刀華も砕城も恋々も

周知している。一刀の元に斬り伏せられない以上は辰巳にも勝機があるというものだった。

 

「実際、ショッピングモールの一件じゃ彼、固有霊装(デバイス)をまともに使わなかったわ」

 

「ええ、だからこそ見ておく必用がある。お兄様が慕う明智和真と言う伐刀者(ブレ

イザー)の実力を」

 

そんな生徒会メンバーの横で観察眼を光らせるアリスと珠雫。

 

『対するは赤コーナーから登場!男といえば熱血漢!あらゆる攻撃を受けて返すっ!鋼鉄男児、三年!岡倉辰巳選手!!』

 

「っしゃぁ!!」

 

拳を突き上げファンサービスを行う辰巳。ファンが居るかは別として、確かにこの瞬間は和真と辰巳の二人が主役だ。

 

「あ~、二年も待ったぜ・・・この時をよぉ!」

 

凄まじい気迫を纏う辰巳。彼もまた、強者を下したい・・・そんな野心に燃える一人の騎士である。

 

否、こういった説明は選抜戦にエントリーした全ての生徒が該当するだろう。その中で目的の相手と相対するのは軌跡に等しい。

 

「お前は覚えてねぇかも知れねぇが・・・実戦授業で模擬戦をすると言うのにお前は招集を受けてマジの戦場に出て行きやがった」

 

「・・・・」

 

辰巳の言葉に和真は静かに耳を傾ける。辰巳の言う通り、二年前は確かにタイミングが、模擬戦の前だった。

 

「俺は戦いたかったんだぜ!」

 

「そうか、ならば死合おう。お互いに交わす言葉はないだろう」

 

和真も友人としてではなく、一剣士として目の前の戦士と剣を交えたいと思う。

 

だから、言の葉ではない。

 

「来いッ!インクルシオォォォ!!」

 

「起きろ、雷電!」

 

『両選手一触即発! それではこれより試合を開始したいと思います! 皆さんご唱和くださいッ。

 

 

 ――Let's Go Aheadッッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に動いたのは和真である。

 

紫電を走らせ、辰巳をすれ違い様に斬り捨てる。しかし、辰巳は倒れる事無く手にした槍『スラッシュハイド』を横薙ぎに振り抜いて和真をなぎ払う。

 

それを振り向く事無く、異形の日本刀『雷電』で受け止める和真。間髪居れずに槍の穂を掴むと切り返しに柄頭を辰巳の喉仏を突く。

 

ガキィン!

 

そして、両者の間合いは再び開く。

 

「硬ッ・・・」

 

「ああん?俺の防御舐めんじゃねぇ!今年の俺は文字通り鋼鉄並みの強度を誇るアイ○ンマンよ!!」

 

軽口を叩きつつも辰巳の鋭い突きが迫る。穂先を見切ることは難しいと殆どの生徒は思い、教職員もあの連続突き(ラッシュ)を剣術だけで破るのは至難の業と考える。

 

「・・・惜しいですね」

 

刀華が呟いた。刹那、穂先を斬りおとした和真が切上げから勢いを殺す事無く斬り下ろ

しに転じ、槍の穂先を失って一瞬呆けた辰巳を蹴り飛ばした。

 

『おおっと!何と言うハイレベルな攻防でしょうか!?まさに一瞬!槍と刀が交わった瞬間に岡倉選手の固有霊装(デバイス)が破壊されました!!』

 

固有霊装(デバイス)の破損、それは一度霧散さて再構築すれば意味はない。

 

実物の武器のように一度破壊すれば二度と使用不能、機能の一部を制限させるなんてことは無いのだ。

 

再構築の隙を与えまいと和真は何度も太刀を浴びせるが、辰巳の鎧の前に火花を散らすだけで決定打にはならない。

 

(使うか、『羅刹迅雷』・・・・)

 

一輝が『一刀修羅』と言う全てを賭けて生み出した伐刀絶技(ノーブルアーツ)があるように、和真も多数戦・圧倒的な実力差を覆すブースト系伐刀絶技(ノーブルアーツ)を会得している。

 

簡単に言えば『一刀修羅』が人体限界を無視した時間制限付きのドーピングとすれば『羅刹迅雷』は、術者が()()するまで解除されることは無い。

 

「ウラァ!」

 

決定打にならない太刀を浴びながら辰巳は槍を再構築、再び槍と刀の攻防が始まる。間合いは槍にとって不利だが、辰巳は槍を巧みに使って和真を翻弄した。

 

槍との戦闘なんて幻魔界と言う常時戦場の世界を経験した和真が戦闘経験が無いとは言わない。こと魔力開放によるブーストなんて幻魔界には存在しないのだ。

 

岡倉辰巳は、戦国の世に名をとどろかせた槍使いと同レベル・・・魔術によるブーストがある分優位かもしれない。

 

槍の扱いは達人レベルであるという事、そんな達人の槍術を持ってしてもカズマを捕らえることは出来ていない。

 

「まるで見えているように避けているけれど、明智さんの能力は因果干渉系なの?」

 

珠雫が推測を口に出した。

 

和真の動きは必要最小限で槍を避け、刃で反らし、反撃の隙を作り出して剣を振るっている。それはまるで“ココを攻撃する”或いは“この軌道を槍が通る”様に知っている動きだ。

 

「でも、そんな能力聞いたことない。仮に攻撃が何処を通るか知ることが出来る能力だとしてもあんな正確に対処できる物かしら?」

 

アリスが異論を唱えた。

 

因果干渉系能力と言う事事態がレアだが、毎回のように能力が発動して攻撃を避けているというならソレだけもかなり負担を強いているのではないか?

 

「“導殺眼”・・・・また磨きが掛りましたね」

 

その二人の疑問を直ぐ近くで観戦していた刀華の呟きによって解決することになった。

 

「生徒会長さん、“導殺眼”って?」

 

アリスが尋ねると刀華は解説を始めた。

 

「一言で言うなら、和真くんには視えているんですよ。詳しくは和真くんから聞いてもらったほうが良いと思います。私も彼から聞いたのですが今一原理は分かっていませんから。」

 

そう含みのある言い方で刀華が話す。珠雫とアリス、二人から見ても和真は予め攻撃が通る場所を予測していたかのように動いている。

 

達人ともなれば、攻撃の予測は容易い物だ。が、槍がどの位の速度でこの場所を通るな

んて予測は出来ない、出来るはずが無い。

 

あくまでも大雑把に脚を狙ってくるとか、腕狙い、視界を奪うつもりか?なんて位だろう。

 

「大体分かった・・・」

 

連続突き(ラッシュ)連続突き(ラッシュ)によって返される。

 

寸分の狂いもなく、刃の先と鏃の先がぶつかり合い、激鉄音を奏でた。

 

『おおっと!明智選手、“突きを突きで迎撃”していく!?そこに一切の狂いもありません!!西京先生、アレは一体!?』

 

実況も、いや、会場全体が絶技に言葉を失った。ある者は解説を求め、ある者は達人の呆れて笑うしかなかった。

 

『単純な話さ、槍の軌道と速度を見切った。本気になれば明智坊なら捌ききれると言ってんだ』

 

西京も関心こそするが、真っ向から相手の技を潰しに掛る和真に呆れ半分と言った様子。

 

『解せないのがその観察眼さね。試合開始以来、アイツに攻撃は掠ってもいない上に短時間で辰坊の動きを読みきった上で動きをかぶせる(・・・・)なんて私でも無理な話さ。どんな修羅場を潜ったのかねぇ』

 

明智坊の動きに興味こそあれど、その結果は呆れるほかないと西京は締めくくる。

 

防御力で優勢を維持していた辰巳が徐々に推され始めていた。

 

刀対槍、そのリーチの違いに苦しめられるかもと聞いていたエルフェルトからすると改めて和真の力量を思い知らされる。

 

「苦戦なんてしてないじゃん・・・・」

 

呆れるほどに、遠くにいる。改めて実感したエルフェルト。

 

近くに居たいから、そう思って伐刀者になった。が、それだけでは足りない気がしていた。

 

「大した物よ。魔術面で劣るとは言え、鉄の如き南蛮鎧纏い立ち回るとは・・・」

 

誰に聞かれるでもなく、ただ感心してノブが呟いた。

 

こと剣術・槍術で優劣をつけるのは難しいとノブも感じている。戦国乱世を生きた名高い魔王も辰巳の力量を高く評価し、和真が攻めあぐねたという一点だけでも現状の幻魔勢に勧誘したいほどである。

 

だって、鬼武者を打倒できるかもしれないし。

 

「それでもあの若造は終いよ。」

 

決着は近い、何かそう感じるノブは腕を組んで和真の攻勢を眺める。

 

『おおっと!紫電一閃!!岡倉選手、電気を浴びたように硬直している!!コレは一体どうしたと言うのか!?』

 

実況が、太刀を受けるたびにビクッ!と電気を浴びたように硬直を繰り返す辰巳の状況

を代弁した。

 

「決まりですね。」

 

観客席でも刀華が呟く。

 

固有霊装(デバイス)を打ち込む度に高圧電流を流す・・・明智さんの能力は電流操作系なのかしら?」

 

「それだけではないわね、あの見切りといい・・・一輝が慕うだけあるわ」

 

珠雫の見解を聞きながら含みのある言い方で纏めるアリス。ほぼ同時に、舞台で岡倉辰

巳は大の字に倒れ、固有霊装(デバイス)が霧散した。

 

『けっ、決着ー!?どうしたと言うのか岡倉選手気を失っております!!』

 

その一言が、この選抜戦の終わりを知らせた。

 




オリキャラ、岡倉辰巳。

元ネタは「アカメが斬る」のブラートです。

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