落第騎士と鬼の英雄譚   作:難波01

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実家ですよ!

七星剣武祭選抜戦を一輝とステラ、和真は順調に勝ち進んでいた。

 

一輝の株は上がりファンも出来始めている中、一輝は剣術一本の戦い方を変えず、今日も選抜戦を制し、ステラは相手が上級生だろうが同級生だろうが持ち前のバ火力で蹴散らしている。

 

和真はというと、平常運転で、

 

『決まったァァァ!またもや一閃の下、相手を血の海に沈めたァァ!!』

 

と実況が言うように一太刀で相手を切り伏せたのである。

 

本戦と同様に実像形態を使用する選抜戦、飛び道具なら当然当たれば出血する。

 

そんな血生臭い光景を破軍学園関係者ではない、中年の男性が見ていた。

 

「おお、今年は出ると聞いていたが圧勝じゃないか」

 

彼の名はジャック・ファクター。

 

鬼武者の経験を持つ、現フランス軍伐刀者(ブレイザー)犯罪対策部隊総官が、双眼鏡を片手に観戦していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

選抜戦で三日にいっぺんのペースで試合が消化されている今、和真とエルフェルト、刀華と一輝、ステラは応接室でジャックと対面している。

 

「和真、知り合い?」

 

「ジャック・ファクター。現フランス軍の対伐抜者(ブレイザー)対策部隊のトップ、一昨年からガチの戦場に俺を引きずりまわした張本人だ。」

 

「ハハハッ!そう言うな、順調に勝っているみたいじゃないか。」

 

尋ねる一輝に不満全開で答えるとジャックは笑い飛ばした。

 

「ジャックさん、お久しぶりです。」

 

「おお、バレンタインご息女もお元気そうで何より。今は奔走していらっしゃるようですな?」

 

「ええ、その節はどうも協力していただいて感謝しています。」

 

「え?は?どう言うことよ、エル」

 

親しげに挨拶をするエルフェルトと何か含みのある発言をかますジャック、疑問を持ったステラがエルフェルトに尋ねると、

 

「二年前に和君の事を教えてくれたの」

 

思わず和真は頭を抱えた。

 

つまり、和真は供にテロリストと戦った歳の離れた友が良かれと教えたという事になる。事実、二年前の事件後直ぐに「出会いがあると良いな」などと言うメールを寄越したのはジャックだ。

 

「ジャック、確信犯だったな?確信犯だな!?」

 

「まったく、ご息女がココまで慕ってくれているんだぞ?答えて魅せるのが男「ん

んっ!」・・・そう言うことか。大変だな?」

 

ジャックが決まって「女に応えるのが男」と言おうとした所、無駄に大きな咳払いをし

て見せた刀華にジャックは何か察したらしい。

 

「世間話をしにきたわけではないと思うのですが、本題は?」

 

と刀華が切り出した。

 

ジャックも職務上、そんなに暇なわけでもない。尋ねてきたのにも理由がある筈だ。

 

「率直に言うぞ、和真。実家まで保護した要人を送り届けて欲しい」

 

「・・・・爺さんに話は?」

 

「通してある。それにお前が居れば警備に()()()る事もないだろう?」

 

「ちょっと待ってください。和真の実家の警備に襲われるとは一体どういう意味ですか?」

 

ジャックの言葉に異を唱えたのは一輝だ。

 

警備に襲われる、不審者なら兎も角訪ねてきた客人を襲う警備は警備とは言わないのではないだろうか?

 

「あ~、一輝は家に来たことなかったな・・・刀華はあったっけ?」

 

「ありますよ、忘れもしません・・・あんなお化けが居るなんて」

 

「和真の家はお化け屋敷なの!?」

 

「断然行きたい!和君、良いよね!?」

 

可笑しい、血の気が失せる刀華とは対照的に興味津々と言う感じのステラとエルフェルト。

 

「分かった、エルフェルトとの件も含めて爺さんには聞きたいこともあるからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比叡青空の家。

 

 

児童擁護施設と言うには些か特殊で、幻魔が夜な夜な警備を行っているからである。

 

人里離れていると言う事もあり、委託するにも金銭面で断念せざる終えず、近年の児童養護施設とは些か時代遅れと言うのが本音である。

 

「随分と山奥なのね・・・」

 

ステラの言う通り、三十分に一本と言う古びたバスを使って山道を揺られること一時

間。木造の廃校を買い取って開校した孤児院が比叡青空の家だ。

 

そして、何よりここに居る児童は些か特殊な経歴を持っている。

 

「へぇ、随分と自然豊かな・・・」

 

言いかけたところで、一輝は、沢の対面に居る落ち武者と目が合った。

 

うん、典型的な落ち武者。

 

笠を被り、笠から覗く顔は髑髏のソレ。身体は白骨で戦国時代でいう足軽スタイルの白骨お化け。

 

「・・・一輝、まだ日中よね?」

 

「そうだね、ステラ。まだ午前十時過ぎだよ」

 

気がついたステラが確認するように尋ねると一輝は時計を確認して答えた。

 

エルフェルトが和真にしがみ付いていた。

 

「鳶さん、アンタ人目につくなよ!」

 

「「は!?」」

 

和真の一声に、一輝とステラがハモった。

 

 

 

 

 

 

 

 

比叡青空の家、現在は鬼の縁者と幻魔が共同で切り盛りする訳あり孤児院である。

 

「爺さん、帰った。」

 

和真が出迎えた白髪の麗人に一輝は目を疑った。

 

天海はどう見ても爺さんと言うより青年なのだ。そして、武人としての気迫は凄まじい、今まで一輝が出会った騎士達でも常に気を張り詰めた者は居ない。

 

「ああ、和真。お帰り・・・そしていらっしゃい。エルフェルト様、ステラ様」

 

天海が深々と頭を下げ、一輝は改めてステラってお姫様だったと思い出す。

 

(そう言えば、国賓なんだよね。二人は)

 

最近はどうも、恋仲になれど気軽なルームメイトと言う感じがぬぐえていなかった。

 

「様は止めてください、天海様!未来の義父なわけんですから」

 

「エルフェルトさん!?」

 

エルフェルトのぶっ飛び発言に肝を冷やす和真、何せ鳶介に驚いている刀華も居るのだ。

 

感電死はしたくない。

 

「いらっしゃい、キミが黒鉄一輝君だね?」

 

と天海が言うと一輝は会釈した。

 

正直、一輝がくじけずに信念を貫ける切欠を作ってくれた祖父に天海の雰囲気は似ていた。そして、剣の腕は途方もない高みにいると言う事も感じられる。

 

何と言うか、達人と相対したときの圧倒される感覚だ。

 

「はい、お邪魔します」

 

「畏まることはない、成る程・・・和真は良い好敵手に恵まれたようだ」

 

「おい、爺さん。面倒かかっ込むのは良い・・・ああ、そう言う餓鬼を今までも迎えてきたからな。ソレよりもだ!」

 

「か、和君!うし、後ろ!!」

 

しがみ付き、揺すりながら訴えるエルフェルト。

 

「あり?こんな所で立ち話ですかな?」

 

さっきの足軽が居た。

 

「何じゃ、鳶の奴見つかったのか?」

 

けらけらと笑いながら、漆黒の鎧を纏う時代錯誤の武人が姿を現す。

 

比叡青空の家敷地内限定で、かつて魔王とまで恐れられた当主が肉体得て闊歩する。

 

「何してんだノブ!?」

 

「「は!?」」

 

エルフェルト、一輝が信長の登場にハモった。

 

 

 

 

 

所変わり、座敷に魔改造された元教室で和真は嘆息し、エルフェルトは茶を運んでくる鳶介に最初こそ驚いたが興味を引かれ、刀華は相変らず慣れないと出来るだけ鳶介を視界に入れないようにしている。

 

「信長、出て来るなといっただろう!?」

 

「良いじゃろ?和真の嫁さビギャ!?」

 

「黙れ、変態魔王崩れが」

 

例えば、織田信長本人が現れたとしよう。

 

戦国の世で言えば超有名人が固有霊装(デバイス)で小突れる光景についていける現代人が居るだろうか?

 

一輝は少なくとも居ないと思う。

 

ステラは、先ずコスプレだと疑ったし、居るはずがないと断言するだろう。

 

刀華は、言わずもがな幽霊を見たと青ざめる。現に今も青ざめている。

 

「成る程、戦国の世ではお盛んだったんですね!?」

 

ズレていた。

 

「・・・・本題だ。ジャックから新しく迎える(やつ)が居ると聞いた」

 

和真がそう言うと天海は一息挟んで言う。

 

「今世の幻魔がリベリオンを利用して、ある実験を試みた。」

 

「後は俺らと同じ境遇ってわけだ。」

 

引き戸が開き、短髪の紺色のジャケットとジーンズと言う格好の青年と胸元が大きく強調された(GE3と殆ど同じ格好)の格好のクレアが現れた。

 

「ユーゴ、クレア・・・・となると特殊案件か」

 

和真が一人戦場を駆けていた理由、ジャック経由で幻魔が現代に適応した結果、出来うる限り人体の中に潜み、発動条件が揃ったら幻魔化する。

 

新幻魔虫と仮呼称している寄生体が、リベリオンの間で横行している。

 

一部の狂騒的なリベリオンからすれば“新人類”等と称され、実像形態の固有霊装(デバイス)による攻撃もあまり効力を持たない兵士が出来上がる。

 

ユーゴとクレア、二人はそんな狂った政権転覆を目論んだ一部のリベリオンによって新幻魔虫を一時的に宿す事になった戦争孤児で、二人は鬼武者の本懐を成し遂げていた和真、元鬼武者として裏事情に精通して最前線に出ることの出来るジャックの二人に保護され、新幻魔虫を散らす薬を処方できる天海と阿古の元で暮らしている・・・この「比叡青空の家」と言う孤児院は、人に戻れる最後の場所である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一台のジープが、山道を走る。

 

ジャックの部下である青年・レオンが運転して助手席で十歳前後の少女が怯えていた。

 

「大丈夫だ、もう直ぐ新しい家に着く」

 

レオンが優しく声をかける。が、左前頭部に角のような突起を持つ少女は俯いたままボロボロのぬいぐるみを抱えた。

 

「やれやれだぜ・・・隊長もこんな辺鄙な所を指定しなくても」

 

レオンがぼやいた。

 

「お疲れ、レオン。長時間運転にこの山道は堪えるだろう?」

 

「は?」

 

振り向くと伐刀絶技(ノウブルアーツ):羅刹迅雷を発動し、平行して走る和真にレオンは言葉を失った。




和真の義兄弟に当たる孤児院在籍の少年少女、そのイメージはGE3の彼ら。

ジャックの部下は、ほらバイオの彼です。尚、イメージは2の物です。

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