Xeno // SSSS.GRIDMAN   作:アチスキー

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#6

──それが正しいとか正しくないとか、そういったことはさておいて。

 

 どんな人間にも『一家言』というものが、一つはあったりするものである。

 言い方を変えれば『思い入れの形』とでも言えるだろうか。

 それは人によって、お洒落に対してだったり、ラーメンに対してだったり、アニメのヒロインに対してだったり……例を連ねていくには枚挙にいとまもない程である。

 

 つまり、なにが言いたいのかというと。

 新条 アカネもまた、そんな『一家言』の持ち主だった──ということである。

 

 

 放課後のツツジ台高校。

 校舎の一角にあるテラス──先刻、裕太達が昼食をとっていたテラスである。──に、アカネと小さな女の子の姿があった。

 快晴の青空の下。

 アカネはベンチに座ってドローンのカメラを弄りながら、その手元を興味津々と言った顔で覗き込んでいる女の子へと向けて、先程から上機嫌に喋り続けている。

 

「──確かに、夕暮れとか夜とかも捨てがたいよ? 下からサーチライトで照らされる姿はすごくカッコいいし、深い陰影のコントラストには味があっていいしさ。だけど、私は断然お昼派。やっぱり、細かい造形まで見たいし。なにより──」

 

「んな、春は曙みたいな言い方されてもなぁ。……ホント、怪獣について話し出したら止まんねーな、アカネは」

 

……アカネの『一家言』とは『怪獣』について、であった。

 もうかれこれ十数分、そのことについて彼女は熱弁を奮っている。

 そのせいもあって。

 延々とアカネの怪獣講義を聞かされ続けていた女の子は、いよいよガマンできなくなったのか、その可憐な顔立ちを辟易とした表情で彩って口を挟む。

 

「いろいろ言ってるけど、結局のところ怪獣が出るなら何でもいいんじゃねーか?」

 

 嘆息しながら傾げてみせる女の子の首の動きに合わせて、緩やかに縦に巻かれた彼女の黒髪ツインテールがほわほわと揺れる。

 その言葉を受けて、アカネはちょっぴりムッと頬を膨らました。

 

「もー、理解のないシロートはすぐそうやって言うんだから。……否定はしないけど」

 

「しねーのかよ!」

 

「あははー」

 

 ぽかぽか!

 そんな軽い擬音の付きそうなグーパンチをアカネの肩に何回も繰り出す女の子と、しばし笑顔でじゃれ合いながら。

 それが一区切りついたところで、アカネはドローンを手にベンチから立ち上がる。

 

「ま、それでさっきの話の続きなんだけど。お昼の何がいいってさぁ──」

 

 まだ続けんのかよ。

 そう言いたげな表情を浮かべる女の子。

 そんな彼女へと、アカネは振り返りながらにっこりと笑って見せる。

 

「──怪獣から逃げ惑う一般市民ってシチュエーションが見れるから」

 

 天使の様な笑顔から吐き出される、えげつのない言葉。

 

「おー、それな!」

 

 しかし、それを聞いた黒髪の女の子も、一転して嬉々とした表情でそれに同調してみせる。悪意の欠片も無さそうな無垢な笑顔である。

 

「この間は燃え盛る夜の街と怪獣の画を撮ったし、今度はそれでいこ♪ ──それじゃ、スティレット。アレクシスに準備するように伝えてー」

 

「合点承知!」

 

 タブレットを操作しながら、ドローンを飛ばそうとしているアカネに代わって。

 スティレットと呼ばれた女の子が、いきいきとした様子で自身のスカートを少しだけ捲し上げる。

 フリルのたっぷり付いた、黒いゴシックドレスである。そのスカートの下──脚へと巻かれたホルダーに手を伸ばす。

 

「ジュワッ!」

 

 そして、そこに差し込まれていたスマホを手に取ると、勢いよく天に突き上げてから。何事もなかったかの様に胸元に引き寄せると、ぷちりと通話のボタンを押した。

 

「──もしもし? アタシだよ、アタシ。……はぁ? オレオレ詐欺じゃねーよ! ったく……アカネがそろそろアレの準備しとけってさ。はいはい、それじゃよろしくどうぞ!」

 

 電話先の相手にからかわれたのか、ブツブツと口を尖らせつつ。

 

「アカネー! いつでもいけるってさー!」

 

 スティレットは手にしたスマホをぶんかぶんかと振り回しながら、ドローンを飛ばそうとテラスの柵に寄りかかっているアカネの背に声を投げる。

 

「うん、おっけー」

 

 アカネの手を離れ、青空へと舞い上がっていく黒いドローン。

 それを見送りながら、アカネは一際大きな笑みで唇を彩った。

 

 

「良く撮れたら、ユータ君にも見せてあげよ」

 

 

 

 ツツジ台の日常が今──崩れ始めようとしていた。

 

 

◇◆◇◆

「どうか……したの? なんか頭、抱えてたけど」

 

 ほんのりと心配そうな表情で、裕太へと軽く首を傾げて見せる六花。

 それがあんまりよろしくない理由から来る心配の表情だという事くらいは、鈍感な裕太にも痛いほど分かる。

 六花の表情は「色々と大丈夫?」って思っている顔だ。『色々と』って部分には、オブラートを剥ぎ取ると主に『頭』って単語が含まれているだろうか。

 

「え、えーっと」

 

 説明に言い淀みながら。

 あの黒いドレスの女性を横目で確認してみるが、もうすでにその姿はない。

 そんな無責任な! ……なんて思いもしたが。

 まだそこにいたとして、六花に「あそこに黒いドレスの女が!」と訴えても、他の人々と同じ反応を彼女が示してしまえば意味がない。むしろ、さらに六花をドン引かせる可能性すらあった。

 

「いや、その……そう! あのパソコンの事でちょっと色々考えてて」

 

「あー、アレのこと。あの変なウイルスは確かに心配事か……でも、そこまで深刻な表情しなくたって」

 

 微苦笑する六花。

 変なウイルス扱いされているグリッドマンに多少の同情を感じつつも、どうやら六花を得心させる事が出来たようで、裕太はホッと胸を撫で下ろす。

 

「それでさ、響君。……昨日はごめんなさい」 

 

 そんな裕太へと向かって。

 六花がばつの悪そうな表情で小さく頭を下げる。

 

「え?」

 

 何に対しての謝罪なのか分からずに、きょとんとした表情を浮かべる裕太。

 下げていた頭を少しだけ上げると。

 六花は上目遣いする様に相手の表情を窺いながら、ぽつりと言葉を紡ぐ。

 

「昨日、最後はお店から追い出しちゃったじゃん」

 

「あ。あーあー、そういう事か」

 

 六花に店から放り出された事などすっかり頭から抜け落ちていた裕太は、彼女の言葉にぽんと手を打ち合わせた。ちょっとした事なら一晩眠れば忘れてしまうような、良くも悪くもそう言った事にはあまり頓着しない男の子なのである。

 

「そんなの全然気にしてないよ。──いや、て言うか。よくよく思い返せば、悪いこと言ったのはこっちの方だし……」

 

「ううん……ありがと」

 

 あっけらかんと、そんな事をのたまいながら頭をかく。

 そんな裕太の姿に、六花はほんのりと笑みを見せた。

 

 もしかすると、昨日の事を謝る為にわざわざ自分に話しかけてきたのだろうか?

 緊張でも解けた様に和らいだ六花の表情に、裕太はそんな感想を抱いた。

 だとしたら、真面目というか律儀と言うか。若いのに良く出来た娘さんだ、と──自分も彼女と同学年の同い歳である事を忘れて、心中で素直に感心してしまう。

 

「帰り道で見かけたから話しかけたけどさ……そう言えば、珍しいよね。響君がこっちの道を通って帰るなんて」

 

 やわらかい笑みのまま、六花の瞳が裕太を見つめる。

 自然と。

 裕太の視線も彼女の瞳へと吸い込まれる様に移っていく。

 彼女の瞳は、何色とも形容し難い不思議な色をしていた。

 幼馴染みのアカネ以外の異性から、まじまじと顔を見つめられた経験のない裕太はそれだけでドキドキと鼓動が高鳴る。他の女の子の瞳も、こういう不思議な色に見えるのだろうか? ──そんな取り留めのない事を考えながら、裕太は気恥ずかしさに耐えかねて視線を青空へと泳がせた。

 

「いや、実は──」

 

「やー、おまっとさんでした。……お、宝多じゃん。良いところで」

 

 事情を説明しようと口を開く裕太。

 しかし、丁度コンビニから出て来たスッキリした表情の内海が見事にそれをぶった切る。 

 六花の姿に気が付くと、内海は口の端を二ッと笑みに曲げた。

 

「内海君? ……良いところでって、どういうこと?」

 

「これから宝多ん家に見に行こうとしてたんだよ、グリッドマン」

 

「……グリッドマン? えっと……あのパソコンの?」

 

 臆する事無く堂々と宣言する内海に、ちょっぴり気圧された様子で。

 六花は怪訝な表情で答えを求める様に裕太へと視線を移す。

 

「あはは……」

 

 視線の先では、裕太が申し訳なさそうに笑いながらコクコクと小さな頷きを何度も繰り返していた。

 なんだか急に頭が重くなった気がして、大きな嘆息と共に六花は額に手を当てる。

 

「見に行くって……ペットの子犬か子猫を見に来るみたいな言い方しないでくれる?」

 

「まぁ、そう言うなって。裕太を助ける為だと思ってさ」

 

「響君を……?」

 

 どんな事情かは知らないけれど、この男はただ状況を楽しんでるだけではなかろうか? ──そんな事を考えながら、六花は目の前でニヤニヤしている内海の顔を半眼で眺める。

 しかし、裕太の方はと言えば。

 そんなワルい友人の言葉に至って真面目な様子でコクコクと、やはり何度も小さな頷きを繰り返していた。

 確かに、あのパソコンを見てからの裕太の様子は少し普通ではなかった……様な気がする。

 そして、何よりも。

 裕太が真剣な表情でこちらをじっと見つめてくる事に、六花はちょっとだけ視線を逸らした。

 小柄で童顔なせいだろうか。彼のそういった表情にはどうにも小動物の必死さめいたものがあって、なんだか自分がイジめている様な心苦しさまで感じてしまうのだ。

 

「……はぁ。ま、いっか」

 

「「いえーい!」」

 

 嘆息と共に、ぽつりと呟く六花。

 彼女の言葉を聞くなり、男子二人は勝ち誇った様にハイタッチを行っていた。

 そもそも、六花からすれば。

 実家が商店である以上、二人は一応はお客であり、商品を見に来るという事であれば自分に許可を取る必要は無いし、自由にすればいいのだ。それを止める権利も理由も特に自分にはないだろう。

 しかし、ハイタッチを行っている二人を見ていると、六花は無性に悔しくなった。

 特に謂れもないが、裕太のほっぺを左右に引っ張ってやりたくなった。

 

「それじゃ、あらためて出発──」

 

 知らぬ内に少女の心に小さな禍根を残しつつ。

 内海の音頭で歩き出そうとする三人。

 

 

 その、瞬間。

 

 

────大地が激しく鳴動した。

 

 

 

◇◆◇◆

 真下から間断なく突き上げられる様な激しい震動。

 

 足元が波打つ様な感覚に襲われた裕太は、一瞬、自分がおかしくなったのかと周囲に視線を巡らした。

 しかし、視界に入る誰もが一様に驚いた表情で、その場にしゃがみ込んだり、何かにすがりついたり、何とか倒れない様にバランスを取ろうとしたりしている。

 

 どうやら、皆が皆、同じ様な異変に曝されているらしい。

 

「きゃっ──」

 

「宝多さん!」

 

 一際大きな揺れに地面へと投げ出される六花の華奢な体。

 裕太はそれを反射的に抱き留める。

 

「ご、ごめん……」

 

「大丈夫だよ、宝多さん。……大丈夫」

 

 自身の腕の中で、ひどく不安気な表情で声を震わせる六花へと向け。

 裕太はいつも通りの調子で、笑みを浮かべて見せる。

 

 そうしている内に。

 裕太は不思議と、自身の心の奥底が静かな事に気が付く。

……まるでこんな事が、過去に何度もあったかの様に。

 

「じ、地震……? にしても、この揺れ長すぎだろ!!」

 

 こちらもこらえきれず。

 片膝を地面に着いた内海が、動転した様子で周囲を見回しながら叫んでいる。

 

──……きっと、違う。

 

 その声を聞きながら裕太は、自身も気づかぬ内に奥歯を強く噛みしめていた。

 予感だった。

 何か恐ろしいものが近づいてきている……そんな言い知れぬ予感。

 そして、裕太の心の中で激しく渦巻いていた『それ』は──彼の「くだらない妄想であればいいのに」と願う心を内側から食い破り──遂に現実の世界へと躍り出た。

 

 

 

 数百、数千の落雷を束ねた様な轟音。

 

 それを伴い。

 

 裕太達のいる場所から幾つか大きな通りを挟んだ向こうで、まるで巨大な山が隆起したかの様に土砂が噴き上がる。

 

 目の前の光景に、呆気に取られる人々。

 

 しかし、その中から現れたモノは、更に人々の度肝を抜いた。

 

 

 

「──お……おいおい。なんだよ……アレ……」

 

 その現実離れした光景に、内海の表情が引き攣った様に歪む。

 その顔はまるで、笑っている様にも見えた。

 実際、笑いたくもなる光景だと──同じものを見ながら裕太も目を丸くする。

 

 

 もうもうと立ち込める土煙の中に浮かび上がる、巨大な黒いシルエット。周囲に屹立するビルと比較しても、その大きさはそれら建造物の高さを優に超えている。全高数十メートルはあると見て、まず間違いはないだろうか。

 

 いつの間にか、あれほど続いていた下から突き上げてくる様な震動は鎮まっていたが、今度は地面に巨大な杭を打ち込んでいるかの様な断続的な揺れが地表を揺らす。

 

 その揺れに合わせて。

 

 ヴェールの奥にある黒いシルエットが、大きく揺らぎ移動していく。

 

──歩いているんだ。

 

 裕太は直感した。

 そう、あの巨大な影は歩いているのだ。

 おそらく、自分達と同じく二本の足を利用して。

 

 次第に薄くなっていくヴェール。

 残滓の様な白煙を全身に棚引かせながら、それは天へと向けて咆哮を轟かせた。

 

 竜を思わせる様な頭部に、分厚い筋肉で構成されたずんぐりとした胴体。そして、その二つを繋ぐ、地面に対して水平方向へと長く伸びる太い首。──それらが合わさったフォルムはいかにもアンバランスで、自然の生き物と比べるといかにも奇妙である。

 事実、その巨大な生物を見た誰一人として、自然界に存在するどの動物にも近似したものを見いだせた者はいない。

 

「あれって……」

 

 巨大生物の姿を見上げながら、内海が何事か呟こうとする。

 しかし、すぐに。

 言い淀んだ様子で、その口をつぐんでしまった。

 

……口に出すにはあまりにも、馬鹿馬鹿しく聞こえる言葉だったからだ。

 

 そんな彼に代わって。

 抱き留めていた六花の体をそっと離すと、裕太がその言葉を繋げる。

 

「怪獣……?」

 

 そう、それは正に。

 虚構の中にだけ存在を許される、傍若無人にして無慈悲な破壊の顕現。

 人々はその驚異に対して、いつも同じ名を付けて畏れるのだ。

──『怪獣』と。

 

「って、そんなことよりも。と……とにかく、この辺りから離れた方がいいって二人とも!」

 

 悠長に考え事して落ち着いている場合ではない、と。

 裕太は焦りながら、内海と六花の二人を見回した。二人とも怪獣の姿に圧倒されていたのか呆けた様な表情を見せていたが、その言葉にハッとした様で。お互いに顔を見合わせた後、裕太にコクコクと小刻みに頭を振って返す。

 さらに、裕太は周囲へと目を移した。

……しかし。

 他の人々は怪獣を見上げながらも、何か危機感を見せるでもなく。野次馬の様に集まっては、スマホのカメラを目の前で起こっている異変に向けている。

 その巨大さに最初は驚いた人々も、特に暴れるわけでも何でもない生き物に、警戒心よりも好奇心の方が勝っているのだろうか。

 それでも──

 

 こんな時に何やってんだよ……怪獣なんだぞ?!

 

──それでも。

 自身にとっては異常とも感じられるそんな人々の姿に、裕太はゾクリとした寒気を覚えた。一様に怪獣へとスマホを掲げる人々が、自分とは全く別の生き物の様にさえ見えた。

 

「だ、だけど。離れるって言ったってどこに行く?」

 

「えっと、学校……とか?」

 

 そんな裕太の思考を、今度は内海と六花の声が現実に引き戻す。

 ともかく、二人と一緒にどこかに離れなければ。──そう思うことで、散漫になりそうな意識を集中させる。

 

 その時。

 

「──……裕太」

 

「え……?」

 

 不意に、誰かに名を呼ばれた様な気がして。

 裕太は声の聞こえた方へと振り返る。

 

「どうしたの……響君?」

 

「いや、誰かに呼ばれた様な……気がして」

 

「誰かって……誰かいるのか?」

 

 不思議そうに、裕太を見つめる内海と六花。

 裕太の振り向いた先──そこには誰もいはしなかった。

 真っ直ぐに、道が続いているだけである。

 本来であれば、この道を通ってジャンクショップへと向かう筈だった。

 

「──裕太!」

 

「──あ……っ!」

 

 左腕に迸る、激しい疼き。

 

 今度はハッキリと。

 

 聞こえた自身の名を呼ぶ声が、雷鳴の様に心を震わせる。

 

 その瞬間。

 柔和な造りをした裕太の顔に、鋭い色が浮んだ。

 

「ごめん、二人とも……俺、行かなきゃ」

 

「はぁ? 行くって、どこへ?」

 

「呼んでるんだ……グリッドマンが!」

 

 急に様子の変わった裕太に、不可解そうに声を上げる内海。

 しかし、その時には。

 すでに裕太の姿は、解き放たれた矢の様に走り出していた。

 

「ちょ、おま、おい!? おいって、コラぁ!」

 

 その背に内海は言葉を投げつけるも、裕太は振り向きすらしない。

 こちらも驚いた様に、そんな裕太の姿を見つめていた六花だったが……彼の言葉に何かふと思い当たった様子で、少し目を見開いた。

 

「そっか……ウチに向かってるんだ」

 

 裕太の走り出した方向は正に、自身の家がある方角。

 おそらく……いや、きっと裕太はあのパソコンのもとに向かったのに違いない──そう考えが至った時には、六花も裕太の後を追って走り出していた。

 

「なっ、お前もかよ!? 宝多の家がどうだって言うんだよ! オレにも説明しろよ、お前らぁぁぁ!!」

 

 結局、一人だけ置いてきぼりをくらったのは内海だった。

 悲痛な叫び声も空しく響く。

 

 おそるおそる、怪獣を見上げた。

 怪獣は今は歩くことも止めて、眼下に拡がる街並みを静かに見下ろしている様であった。

 視線を下に降ろし、周囲見回せば。

 まだ野次馬達がスマホ片手に写真や動画を撮り、興奮した様子で知り合いに電話をかけたりしている様であった。

 

──オレだって動画くらい撮っても、バチは……当たらねぇよな?

 

 そう思い付くと内海は自身のスマホを取り出して、動画モードにすると怪獣へと向けた。

 元来が特撮オタク。

 こう言った怪獣だって大好きだ。

 しかも、この怪獣のなかなかに『分かっている』感じのする見た目が、実は結構好みだった。

 

 怪獣を下からパーンアップしていく構図で動画を撮りながら、ついに最後は頭部へと辿り着く。

 

「……ん?」

 

 その頃にはもうウキウキで動画を撮っていた内海だったが、スマホの画面内で怪獣がいつの間にか大きく口を開けているのに気が付くと、怪訝そうな表情を見せた。

 

……口の奥が、赤く光っている。

 

 その映像から、嫌な想像に思い当たった内海の頬を、一筋の冷や汗が伝う。

 

──刹那。

 

 怪獣の口腔から吐き出される、大きな火球。

 冷や汗すらも蒸発しそうな熱波が、内海の露出した肌を襲う。

 

「あっちぃ!!」

 

 吐き出された高熱の火球が、周囲の空気を灼いたのだ。

 火傷こそしてはいないだろうが。

 怪獣からそれなりに離れたこの位置にいて感じる、この熱量……火球がどれほどの威力を備えているかは既に内海の想像の域を超えている。

 

──実際。

 

 遠く離れた場所に落ちた火球の巻き起こす火柱と爆発は、今まで見てきたどんな特撮作品よりも凄まじい勢いがあった。

 

 青空を呑み込もうとするかの様に沸き起こる、炎の色に光る黒煙。

 スマホ越しに唖然とそれを眺めながら、ようやく内海は心底から恐怖を覚えた。

 

 目の前にそびえるコレは、作り物でも何でもない。

 自分の現実を破壊する力を持った、本当に本物の『怪獣』なのだ。

 

 怪獣の腕が、無造作に振るわれる。

 コンクリートで出来ている筈の建物が、まるで発泡スチロールの様に砕けていく。その散らばった破片はさながら散弾の様に、他の建物や道路に突き刺さり爆砕する。

 

──その光景を、もう内海は見ていなかった。

 裕太や六花の後を追って、必死に走り出していたのだ。

 

 背後に聞こえる怪獣の咆哮、人々の悲鳴。

 それらが走る内海の足を急かす。

 

 

 まるで何かの軛から解き放たれたかの様に。

 もはや怪獣は、その暴威を顕にしていた。

 

 

 




お読みいただきありがとうございます!

活動報告の方で「この回で第一回が終了する」などとのたまっておりましたが、楽しくていっぱい書き過ぎちゃったので分割いたしました( 

次回こそ第一回が終了する予定……と言いつつ分割しそうな自分がコワいので、明言せずにおこうと思います_:(´ཀ`」 ∠):_


次回もお付き合いいただければ幸いですー。
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