──遠くからけたたましいサイレンの音が聞こえ始めた。
パトカーだろうか、救急車だろうか。
もしかしたら……いや、もしかしなくても。
あの怪獣が暴れているのに違いない。
内海や六花は無事でいてくれるだろうか?
とにかく速く、そして早く。
最悪の想像を振り切ろうとするかのように、裕太は全力で街を駆け抜ける。
これほど一生懸命に走ったのは、生まれて初めてだった。
もともと運動の出来る方ではあったが、裕太が自分からその素養を伸ばしたいと思った事は一度だって無い。
余計な素質だと思っていた。
「宝の持ち腐れ」だとか「もったいない」だとか「人生を無駄にしている」だとか。
そんなことばっかり言われ続けてきて、正直鬱陶しかった。
どう考えても神様は、間違った素質を自分に与えてしまったに違いない。──ずっとそう考えて生きてきた。
しかし、生まれて初めて。
裕太は神様に、心の底から願った。
──もっと速く走りたい!
あのジャンクめいたパソコンの前に辿り着ければ、全てが解決するかどうかなど裕太にも分かりはしない。
しかし、彼が──グリッドマンが自分を呼んでいるのだ。
その呼び声に応えなければならないという、自身でも不思議に思えるほどの強い衝動が、裕太を突き動かしている。
心臓が破裂しそうに思える程、鼓動に脈打っていた。
あまりの苦しさに足が止まりそうになる。
……そんな裕太の脳裏に、最後の最後に浮かんできたのはアカネの笑顔だった。
彼女がもし、あの怪獣に襲われたら──そんな想像が過った瞬間、裕太は力を振り絞る為に歯を食いしばった。
「──……グリッドマン!!」
ほとんど、倒れ込む勢いで。
裕太は『ジャンクショップ絢』の店内へと転がり込んだ。
肩を大きく上下させ、荒く呼吸を行いながら。
床を這う様にしてパソコンの前まで移動すると、六花の外していた電源プラグをコンセントへと叩き込む。
パソコンのデスクに手をかける様にして立ち上がる裕太。
そんな彼の前に。
初めてこのパソコンの前へと立った時と同じく、ブラウン管のディスプレイに光が奔り──……グリッドマンが姿を現した。
「俺を……呼んだよな、グリッドマン!!」
「そうだ……!」
グリッドマンから向けられる力強い眼差し。
夢だ幻だと理由をつけて。
裕太は心のどこかでその眼差しから目を逸らしてきていたのかもしれない。
しかし、今度こそは彼から目を逸らさずに、真っ向から受け止める。
「裕太、私と君は今こそ覚醒しなければならない!」
「覚醒? ……それって──」
「説明は後だ!!」
有無を言わさぬグリッドマンの語気に、気圧される様にたじろぐ裕太。
その瞬間、裕太の体がまるで熱された飴細工の様に変形しながら、パソコンの画面へと吸い込まれていく。
「おわっ!? な、なんだこr──」
奇怪極まりない事になっている自身の体に驚きの声を上げるが、かと言ってそれで吸い込まれるのが止まるわけでもなく。
裕太とほぼ同時に走り出したものの、かなり遅れて店内へと駆け込んだ六花が目の当たりにしたのは、そんなある意味で怪獣騒ぎよりも異様な光景だった。彼女が声を上げる間も無く、裕太は発した言葉すら吸い込まれる様に、パソコンの画面の中へと消えてしまう。
「……ひ、響君!?」
慌ててパソコンへと駆け寄る六花。
「た、宝多ぁ……! 裕太ぁ……!」
丁度そこへ。
バテバテになって酷い表情へと変わり果てた内海も、店内へと飛び込んでくる。
「内海君……響君が……パソコンに食べられちゃった……!」
「……………はい?」
必死に呼吸を整えている内海へと向けて、六花は見たままの状況を口にする。
「なにを仰ってらっしゃいますかコイツ」的な表情を内海が浮かべてみせるが、現状に驚き過ぎて腹も立たないし、嘘を言っているわけでもない。
「本当に食べられちゃったんだってば! ほら……!」
ド真面目な顔で手招きする六花に誘われるまま、ディスプレイの前へと立つ内海。
「……なんじゃこりゃ」
画面の中を見ると。
そこには確かに、特撮ヒーローめいた何かと向き合って立つ、真剣な表情をした裕太の姿があった。
「なんか……オレ、見えちゃってるんですけど。もしかしてこれが……グリッドマン?」
「うん、多分。……響君がそう、言ってたから」
怪獣を見た今となってすら、内海は眼前の光景に驚きを隠せない様子だった。
引き攣った笑みを浮かべながら六花の方へと顔を向けると、彼女も戸惑った様にこっくりと小さく頷いて見せる。
パソコンを見つめる内海と六花。
そんな二人の前で──グリッドマンと裕太の姿が緑色の光に包まれた。
── 一切の容赦もなく。
火を吐き、腕を振り回し、尻尾を叩きつけ。
ただただ力任せに街を蹂躙する怪獣。
そんな破壊の限りを尽くす怪獣の眼前──虚空に、緑に輝く光球が現れる。
まるで光がほどける様に。
消えていく光球の中から現れたのは、閃光を纏いながら大地へと降り立つ巨人の姿。
その超重量に、降り立った地面が捲れ、土砂が舞い上がる。
巨人は雄々しく顔を上げると怪獣を睨み据え、全身に力を漲らせながら戦いの構えを取っていた。
空の色を映したかのような青を基調としたカラーリングに、陽光に煌めく白銀の装甲。──それらに全身を覆われたその威容は見紛う事無く、グリッドマンであった。
◇◆◇◆
学校のテラス──その柵の上へと器用に立ち、遥か遠くで暴れる怪獣のショーを見つめていたスティレットは、突如として現れた光球に怪訝そうに目を細める。
そんな少女の前で。
光の中から現れた巨人が、大地へと降り立った。
「おいおいおい、アカネ。なんか変なの出て来たぞ、変なのが」
柵の上から、隣にいるアカネへと目を移すスティレット。
しかし、アカネですらその巨人の出現はイレギュラーだったのか。
割れた眼鏡の奥の表情はどこか呆けた様に、ドローンが送ってくるタブレットの映像を見つめていた。
「なにこれ……ウルトラマン?」
ぽつりと零れたアカネの疑問に、答えられる者はいなかった。
◇◆◇◆
「──すげぇ……グリッドマンだ。グリッドマンがパソコンの中から現実に……!」
裕太達の姿が画面から消えた後。
再び大地を揺るがす衝撃に外へと飛び出した内海達は、ずっと遠くで怪獣と対峙するグリッドマンの姿を見た。
いつの間に手にしたのか。
内海は双眼鏡まで持ち出して、その姿を見つめている。
「でも、ここからじゃ……ちっとも見えない。て言うか……その双眼鏡、商品なんですけど」
勝手に商品を拝借しているクラスメイトに、呆れ半眼を向ける六花。
双眼鏡を使っている内海とは違って。
彼女の視点からするとグリッドマンらしきものが怪獣と向かい合っているのが見えるだけで、その言葉通りに細かいところまでは良く見えなかった。
そんな二人の背後……パソコンのスピーカーから、ノイズ混じりにではあるが裕太の声が響く。
「怪獣……俺が止めないと……!」
「パソコンから響君の声が!?」
今度はパソコンの方へと慌てて駆け寄る二人。
パソコンの画面の中では──どういう原理か定かではないが──今まさに、グリッドマンが怪獣と向かい合っている映像が映しだされていた。
こうして見ると、もはや丸っきり特撮ヒーロー番組のワンシーンである。……それが撮影スタジオではなく、自分達の街を舞台にしているという点を除けばだが。
「これってグリッドマンと……裕太が戦おうとしてんのか! 確かにウルトラシリーズでも、そういうのって王道展開だしな……!」
「は? ……王道?」
パソコンの画面にかじりつく様にしている内海の姿を、六花は半眼で見下ろす。以前からこの男の子の言っている事はよくわからない時があったな……と、今さらになって思い返していた。
「はあぁぁ……──たあっ!!」
そんな六花の意識を画面へと引き戻したのは、グリッドマンの声であった。
宣戦を布告する様に、怪獣へと向けて拳を突き出す様な構えを取ると。力の充足した脚力で大地を踏み割り、相手の巨体へと走り出していくグリッドマン。
その巨大さからは想像だにもしない、俊敏な身のこなしである。
怪獣も負けじとばかりに。
激しい咆哮を上げながら、突如として現れたこの巨人へと向けて猛進を始める。
圧倒的な質量を持つ者同士。
そのお互いが、速度と慣性質量の合成エネルギーと化して街中で真っ向からぶつかり合う。
その余波だけで、周囲の窓硝子が一斉に砕け散る。
まるで何かの雫の様に、光を反射しながら地面へと降り注ぐ無数の破片。
──その向こうで。
グリッドマンが怪獣の頭を掴み上げて、渾身のパンチをその横面へと叩き込んだ。その威力に、鱗が剥げる様にして、毒々しい色をした怪獣の表皮が破れ散る。
揺らぐ怪獣の巨体。
間髪入れず。
相手の揺らぎに応じて間合いを詰めていたグリッドマンの膝が怪獣の顎を下から鋭く蹴り上げ、跳ね上がったその頭を重たいエルボーが迎え撃つ。
その威力に翻弄され、怪獣の長大な首が大きく振れた。
「──ぃよっしゃ! 良いぞグリッドマン! 裕太!」
流れる様なグリッドマンの連続攻撃に歓声を上げる内海。
傍らで戦いを見つめる六花には闘いの趨勢はよく分からなかった。しかし、内海が喜んでいる様なので「勝っているのだろう」と少しだけホッと胸を撫で下ろす。
怪獣を倒してもらいたいのはもちろんなのだが……裕太には無事に帰ってきてもらいたかった。
「大丈夫だよ、宝多さん。……大丈夫」
ふっ、と。
先程かけてもらった裕太の声と笑顔が、六花の中によみがえる。
何かを知らせる様に……彼女の胸が小さく高鳴った。
──しかし、その一方。
開戦から終始優勢に戦いを進めている様に見えたグリッドマンであったが、戦いはなかなか決着へと至らない。
決め手に欠けるのか、勝負を決する為の致命傷を怪獣へと与えられずにいたのだ。
次第に。
グリッドマンの動きにも鈍さが見え始める。
「体が……重い……!?」
グリッドマンへと同化した裕太にもその影響は顕著に表れてきていた。
最初からグリッドマンの体に対しては、動かすのにかなり重たいものがあると感じていたのだ。それでも戦い初めはエネルギーに満ちていたせいか、さほど苦には感じなかった。
それが今はまるで枷をかけられたかの様に、動きを阻害し始めている。
……それだけではない。
先ほどから、息苦しさの様なものが裕太の胸を蝕みはじめていた。
そして、怪獣は。
そんな敵の鈍化を見過ごす程、悠長な相手ではなかった。
「ぐッ──あああああっ!!」
体ごと回転させるようにして放つ、怪獣の鞭のようにしなる尻尾の一撃。
鈍くなった動きではガードが間に合わず、尻尾はグリッドマンの体を容赦なく叩く。
叩きつけられ、それでも勢いを殺せずに地面を抉りつつ後方へと吹っ飛ばされながら──そのグリッドマンへと向けて、怪獣が追い撃ちとばかりに火球を立て続けに撃ち込む。
凄まじい爆発と沸き起こる炎の海──その中に、グリッドマンの姿が消える。
──僅かな間に一転して窮地へと追い込まれていくグリッドマンの姿を、今度は固唾を飲んで見守る内海と六花。
しかし、そのグリッドマンの姿が炎の中に消えた瞬間、二人の目の前でパソコンが盛大に火花を散らし煙を吹き出す。
それだけではない。
何か危急を告げるかの様なアラートと共に、パトランプまでもが赤々とした光を発しながら回転しはじめたのだ。
「きゃっ!?」
「おわっ!! な、なんだ……すげぇな昔のパソコンって」
内海は火花の治まったパソコンの前へと戻りながら、どこか呑気な感想を零す。
しかし、画面に映る映像を見るとすぐに表情を歪ませた。
炎の海の中で、グリッドマンの巨体が大地に横たわっている。
その額にあるクリスタルの様な物が激しい明滅を繰り返していた。
「カラータイマー、いやビームランプか……! このパソコン、もしかして……グリッドマンの状態と連動してんのか?!」
「え? なに、それ……響君がヤバいってこと?」
「有り体に言えばな!」
「……そんな」
一人で状況を把握している風情の内海に、六花は不安とちょっとの苛立ちが混じった声を上げる。
自分だけがこの戦いについていけず、置いてきぼりにされている様な気がしていた。無力感が悔しさへと転化して、六花の表情に滲む。
「くっそ、ウルトラシリーズの怪獣なら弱点とかあったりするのがお約束なんだけど……!」
内海は内海で、自身の髪をかきまわしながら、持てる知識を総動員して打開策を探っていた。
完全無欠の生命体など存在しない……筈である。
何より当初、あれだけグリッドマンの猛攻を受けていたのだから、どこかにダメージが蓄積していておかしくない。
食い入る様にパソコンの映像を見つめる内海。
画面の中では、怪獣が勝ち誇った様な足取りで、倒れたグリッドマンへと歩を進めている。
──そこで、内海の表情が変わった。
その視線は怪獣の『ある一点』を見つめている。
「く、首だ!」
「首……?」
怪訝そうな表情を浮かべながらも。内海の言葉を聞いて、六花もじいっと怪獣の首を注視する。
怪獣が歩く度に……何かがバラバラと首から落ちている様に見えた。その出所を目で辿ると、怪獣の首と胴体の付け根の部分が大きく損傷している事に気付く。どうやらその損傷部から、肉片の様なものが次々に剥がれているらしかった。
「これって、首が綻んでる?」
「ああ、間違いない。グリッドマンに頭をあれだけやられて、振り回された首への負荷があそこに集中したんだ……と思う! あそこを狙えば、きっと──」
「でも、どうやってその事を響君に伝えるの?」
自身の仮説に対する希望に、明るい表情を見せる内海。しかし、現実的な心配に表情を曇らせる六花がそれに水を差す。
六花の言葉に沈黙した後、内海はガックリと肩を落とした。
「そこなんだよなぁ……裕太にはこっちの声、聞こえてないみたいだし」
「──ぐああああっ!!」
パソコンから響く裕太の叫び声に、二人の体がぎくりと強張った。
画面の中では怪獣が、グリッドマンの胸をその太い足で踏みつけている場面であった。足が振り下ろされる度に、グリッドマンの体が地面にめり込んでいく。
「っ……!」
その凄惨さに。
思わず六花はパソコンの画面から顔を逸らすと、きゅっと固く目を瞑った。
──しかし。
「俺が街を……皆を…………守るんだ……絶対に!」
一番、怖い思いをしている筈。
一番、痛い思いをしている筈。
それなのに皆の為……まだ諦めずに戦おうとしている裕太の声が、六花の目をハッと開かせた。
「響君……」
パソコンの画面へと向き直る六花。
目を逸らしちゃ駄目なんだ。私も一緒に戦わなきゃダメなんだ──そんな思いが、六花の中で燻っていた無力感を追い払う。
パソコンのキーボードが、六花の目に留まった。
「グリッドマン! 裕太! 頑張ってくれ!!」
画面の中で戦っている二人に、聞こえないと分かっていても必死に激励を飛ばす内海。
──彼も、今の六花と同じ思いで『戦っている』のに違いない。
不思議な連帯感と、クラスメイトに対する誇らしさに六花の口元が少しだけ綻ぶ。
しかし、すぐにそれを引き締めると。
六花はパソコンの前へと立った。
「……宝多?」
「内海君の言葉……私が伝えてみる。これで──!」
六花のしなやかな指が、パソコンのキーボードへと触れた──その瞬間。
まるで何かの生命体が宿ったかの様に、その白い指がキーボードを這い回り、驚くべき速度でタイピングを開始する。
「………早っ」
六花の意外なスキルと、なによりそのタイプ速度に、内海は呆気にとられた様な表情を見せる。
「ウチ、こういう古いパソコンも扱うから。ママから少しは使い方は習ってるし、慣れてるし」
パソコンの画面を見つめたまま、グリッドマンへと通じる『道』を繋げる為に操作を続ける六花。
それは、スマホの様なタッチパネルに慣れてしまった内海には一朝一夕には真似の出来ない難しい芸当だった。
「これで……! ──届いて!」
内海の発見と自身の激励をメッセージに起こし。
祈りを込めて、六花はエンターキーを叩いた。
◇◆◇◆
──裕太の意識は、暗闇の中にあった。
先程までは怪獣の姿も見えていたのだが今はそれも消えてなくなり、あれほど自身を苛んでいた衝撃と痛みも感じなくなっていた。
いよいよもって自身の最期が来たのかもしれない、と。
その事実の重大さに比べて、あっさりとそれを受け入れようとしている裕太。
自分なりに全力で戦った……つもりだった。
やるだけの事はやった……つもりだった。
「それは言い訳だ」
どこかから聞こえる自身の声が、裕太を責める。
「でも、どうにもならなかったのは事実だっただろ。一人きりで、あんな怪獣を倒す事なんて……最初からできるはずなかったんだ」
暗闇を漂う裕太の声は、消え入りそうにか細かった。
……そうではないのだ、と。
自身でも気づいているが故だった。
「そう、一人では駄目なんだ──」
自身の声だと思っていたものが、次第に別の誰かの声へと変わっていく。
それは聞き覚えのある、正しい力を宿した優しい声。
「一人では戦えない。皆の力を託され、束ねて、初めて戦う事ができるんだ……私達は!」
暖かな光が頭上から舞い降りてくるのを感じて、裕太はうっすらと目を開けた。
冷たい暗闇の中ではあまりにも儚く、しかし確かに此処に存在する優しい温かみを帯びた光。
腕を伸ばして、それを受け止める。
光の中から溢れてくる、内海と六花の声。
……二人も一緒に戦ってくれているのだ、と。
その事実が、ただ嬉しくて、そして頼もしかった。
「行こう、裕太。私達は──」
「──ああ! 絶対にあの怪獣を倒さないといけないんだ……グリッドマン!」
力を取り戻した表情で、目を見開く裕太。
その瞬間、腕の中の光が拡がって行き──周囲の暗闇を追い払った。
◇◆◇◆
「──ありがとう、内海、宝多さん! 二人の声、ちゃんと聴こえたよ!」
「……響君!」
パソコンから聞こえた明るい裕太の声に、六花は顔を綻ばせた。ちゃんと役に立てたという安堵感と充足感に、ほっと肩の力が抜けた様にも見える。
一方、内海は。
裕太の声にぐすりと鼻を啜った後、天井を仰ぎ。
拳を握り締めると、勢い良くパソコンの画面へと向き直る。
「オ、オレは心配なんてしてなかったぜ! 何たって、ヒーローはピンチからの復活大逆転が王道なんだからな!」
ニヤリと笑みを浮かべると、内海は握り締めていた拳を前へと突きだした。
「そいつを証明して見せてくれよ! 二人とも!!」
──沈黙したグリッドマンへの踏みつけ攻撃を続けていた怪獣。
突如として。
その腹部に、グリッドマンの突きだした鋭い蹴り足が槍の様にめり込み、怪獣の巨体を後方へと吹っ飛ばす。
その隙に。
グリッドマンは軽やかに、その場にて飛び起きる。
先程までの鈍化が嘘の様に、動きに最初の鋭さが──いや、それ以上のものが今は感じられた。
「グリッドマン! 狙うのは、内海が見つけて宝多さんの教えてくれた弱点──首の根元だ!」
「一気に決着を着けよう……裕太!」
「「行くぞ!!」」
怪獣との距離を疾風の様に詰め。
拳の嵐を敵の首元へと向けて叩き込むグリッドマン。
一切の反撃を許さない怒濤の攻めに、怪獣の巨体が、まるで濁流に浮かぶ木の葉の様に振り回される。
「──はあっ!!」
繰り出されるグリッドマンの回し蹴りが、刃の鋭さを帯びて、遂に敵の首に深い断裂を生じさせた。
いよいよ最期の時と、怪獣が覚悟したかの様に。
断裂創から炎が漏れでる事も構わず火球を吐き出すと、間髪入れずに怪獣がグリッドマンへと飛びかかる。
しかし、──
「うぅおおおおおお──!!」
──しかし、今のグリッドマンはその最期の攻撃も真っ向から叩き伏せる。
飛来する火球を手刀で切り裂き。のし掛かってくる怪獣の長い首を掴むと、その勢いを利用して背負い投げの要領で敵を宙へと投げ飛ばす。
その投げの激しさに、怪獣の首が根元から引き千切れ──首と胴体が同時に地面へと落着した。
その一部始終をパソコンで見つめていた六花は、思わず感嘆の声をこぼす。
「──すごっ……!」
最初の頃も充分に凄かったのだろうが、今のグリッドマンは明らかにそれ以上の力で怪獣を圧倒していた。
「いけぇぇぇ!!」
内海の熱い叫びがパソコンを通じてグリッドマンへと届いたかの様に──
「グリッドォォォ──」
──大きく腕を回す様にして、エネルギーを左腕へと収束させるグリッドマン。
そして。
首を失っても、なお立ち上がろうともがく怪獣へと狙いを定めると──それを一気に解き放つ。
「ビィィィィィィム!!」
怪獣の吐き出す火球など比較にならない、凄まじいエネルギーの奔流が怪獣を呑み込む。
そして、光の中でその姿が崩れるのが見え──次の瞬間、怪獣の体は大爆発を起こして吹き飛んだ。
「……た、倒せたのか?」
猛火へと姿を変えた怪獣を見つめながら、半信半疑と言った風情の裕太。
同化している為に、その姿は見えないのだが──その言葉に、グリッドマンが力強く頷いたのを感じた。
「ああ。裕太達のお陰だ……!」
「良かった……これで俺は使命を果たせたんだよな」
「……残念だがそれは違う。──裕太、これは始まりの戦いだ……脅威はまだこの街を包んでいる。我々はそれを食い止めなければならない」
「始まりの……戦い」
炎を見つめながら、裕太はグリッドマンの言葉を反芻した。
戦いに勝利し、雄々しく炎の中に立つグリッドマン。
しかし、その姿はどこか──前途の苦難を思い、立ち尽くしているかの様でもあった。
◇◆◇◆
──巨人の放つエネルギーの奔流に呑み込まれ、大爆発を起こす怪獣。
その余波は強い風となって、スティレットとアカネの立つ場所にまで届いた。
風に乗って届く……焦げた様な臭いが鼻につく。
「あーあー、負けちゃったな。アカネの怪獣──」
小さく鼻を鳴らし、つまらなさそうに感想を述べるスティレット。
その瞬間、彼女の傍らで何かを地面へと叩きつける様な不穏な音が響く。
目を向けると。
つい先ほどまでアカネの立っていた場所に、大きく画面のひび割れたタブレットが転がっていた。
「うわ、勿体な! ……ったく、すぐモノに当たるんだもんなー」
柵から飛び降りると。
スティレットは半眼で、そのタブレットを拾い上げる。
アカネはと言えば、もはやテラスの向こうを振り返ろうともせずに歩き出しているところであった。
「おい、アカネ。どこに行くんだよ?」
「……帰って次の怪獣を造る」
押し隠そうとしても隠しきれない強い怒気を孕みながらも、冷たく淡々とした声。
そこにはあの楽し気だったアカネの面影は一切存在していない。
「そりゃあ……アレクシスが喜ぶだろうな」
そんな事を呟き、テラスを出ていったアカネを見送ると。
スティレットは再び街の方へと目を向ける。
そこにはまだ、あの巨人が炎の中に立っていた。
炎よりも紅い、自身の瞳に巨人の姿を映しながら。
スティレットは手にしていたタブレットを素手で真っ二つにすると、楽し気に指先で自身の唇へと触れる。
「まぁ……なんか面白そうな事になりそうじゃねーか」
歪んだ笑みから覗く、白く鋭い犬歯。
──グリッドマンの言葉の通り。
裕太達の戦いは、まだ始まったばかりだった。
お読みいただきありがとうございました!
このお話で第一回が終了となります。
やっとグリッドマンの戦闘シーンが書けて、個人的に大満足でした……!
私の中では文字数も多い回で、しかも途中から深夜特有の謎テンションで書いてるので文章がおかしくなってないか不安ですが……特に推敲もせず投稿しちゃう_(´ཀ`」 ∠)_ ←
次回も、トンカワさんが活躍(したりする予定)の魔改造っぷりで進行するかと思いますが、お付き合いいただければ嬉しい限りでございます!
──追伸。
お気に入り登録がガン!と伸びてて、びっくらしました。
やっぱり皆、グリッドマン大好きなんですねぇ……!(´∀`)