お豆腐メンタルのアイドルマスターシンデレラガールズ   作:冬月雪乃

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四話目 挨拶と太陽とホラー

 さて、こうしてアイドルと学生の二足の草鞋を履くことになったわけだが、初日はとりあえず各方面への挨拶回り。

 頂いた名刺を渡すと皆驚いた顔で見られたが、何か不備があっただろうか。例えば、名刺を相手より下にしてなかったとか。

 帰りに武内プロデューサーに問いかければ、逆に熟練のサラリーマン並な渡し方をされた方向で驚かれていたという話だ。

 少なくともマイナス印象にはなっていないようで安心した。

 

「ところで夢見さん。寮生活の方ですが……」

「はい。問題はありません。気付いたら誰かしら近くに居て、凄く助かっています」

「皆さん良い方ばかりですからね」

「えぇ」

 

 ただちょっと離れた場所から小梅さんや芳乃さん、茄子さんの誰かが居るのが凄く不思議だが。

 ちなみに今日もうっかり寝たがいつもの夢を見なかった。

 

「隈も少し薄くなっていますし、眠れたようですね」

「疲れていたのかもしれません」

 

 ただ寝る寸前、ちょっと良い香りがいきなり漂ってきた気もするが。

 

「うまくやれそうで安心しました」

 

 いやいやメンヘラが問題児みたいな扱いをされるのは不服である。

 いや問題児ではあるが、人を無闇矢鱈に傷付けたりはしない。

 

「大丈夫ですよ」

 

 とはいえ、そんなことを言ってもなにも変わらない。

 実際に今うまくいっているわけだし。

 そう考えて短く答えたが、どうやら少し不服だったらしい。 

 少し難しい顔をされた。

 

「眉間にしわが寄ってますよ」

「あぁ、はい……」

 

 ハッとした顔になって眉間をもみほぐしている。

 

「さて、次はメンタルケアの部門です。夢見さんのカルテも先立って頂いた承諾書の中に入っていますので、主治医との連携は取れていますよ」

「メンタルケア……ですか」

 

 まぁ、ある程度の規模や、精神を患いやすい職場には大抵いる。

 なので不自然ではないが、少し苦手意識があった。

 

「今日は面通しだけです。別に通う義務もありませんので、そう難しい顔はしないでください」

「……そんな顔してましたか私」

 

 えぇ、と間髪を入れない答え。

 どうやら相当だったようだ。

 深呼吸を一回。一気に肩から力を抜いてリラックス。

 

「相当に苦手なようですね」

「以前相談させられた学校のメンタルケアの方がいわゆるハズレでして。肥大した思春期特有の自我の暴走--と断じられてしまってから、です」

「なるほど」

 

 まぁ、理由が悪夢なので言われても仕方ないとは思うが、それでも当時の私には大きなショックだった。

 少し小馬鹿にされた様に感じたのも苦手意識を増長させる事に繋がったのかもしれない。

 

「とりあえず挨拶はします」

「はい」

 

 腹は決めた。

 多分利用には二の足は踏むだろうが、それでも同じ会社に所属するのだから知っていた方が良い。

 案内された一室に入室。

 お互いに名前を言って、それで終わり。

 思ったよりあっさりだ。

 人柄はいい人そうだったのですこし安心した。

 

 #

 

 さて、各方面への挨拶は恙なく終わり、自室に。

 荷解きと片付けをしていると、ノックが。

 

「はーい?」

 

 ここでノックが出来るのはアイドルだけだ。

 だから安心して扉を開くが、

 

「こんにちはッ! 日野茜です! よろしくお願いします!」

 

 灼熱の太陽がそこにいた。

 

「こ、こんにちは」

「はい! 先日は撮影のため、いませんでしたが!」

「あ、こちらこそ。篠原夢見です。よろしくお願いします」

 

 太陽のような笑み。

 元気を擬人化したようなオーラ。

 そこにいるのは小柄で明るい少女な筈なのに、その圧倒的な存在感と輝きに目を焼かれるかと思うほどの衝撃を感じる。

 幸運の女神が二人に霊媒、天才とまぁよくもこんなに恐ろしい程集めたなど言いたい位だったが、認識が甘かった。

 集めたんじゃなくてこれびっくり人間ホイホイなんだ。 

 人のことは言えないが。

 逆にメンヘラ転生者とか個性薄い気しかしない。

 

「こちらお近付きにどうぞ!」

「わ、ご丁寧に……あぁ、すみません玄関先で。お茶でも飲みませんか?」

「良いのですか!? 是非!」

 

 何この子話してるだけでめちゃくちゃ元気出る……。

 茜さん--日野さんと呼んだら是非名前で! とぐいぐい来られた--はまさにパッションが服を着て歩いている存在だ。つよい。

 そこにあるだけであらゆる不浄を焼くが如く存在感。なるほど--これが、アイドル……!

 何か盛大に勘違いしたような気がしてならないが、人を自らの輝きで照らし、人々に希望を与えるのが仕事なのだから間違っていないはずだ。

 

「えぇっと……夢見さん?」

 

 戸惑い顔の茜さんがこちらを見ている。

 はて、何かしただろうか。

 

「、あぁ、すみません。今何か持ってきます」

「え、あ、はい」

「?」

 

 どうもさっきと様子が違うような?

 いや今はとにかくお茶を出さねば。

 

 お茶を出して少し。

 いつの間にか自分を取り戻した茜さんと楽しく談笑し、部屋まで送る。

 良い邂逅だった。

 目指すべきアイドルの姿を少しつかめたのではないだろうか。

 すこしワクワクしながら部屋に戻る。

 木製の扉を開き、蝶番を軋ませながら内外の境界を繋いだ。

 

「いや、中々の出会いでした。あの明るくパワフルな存在感。正しく太陽の具現ですね」

 

 例えば自分にイマイチ自信が持てない。そんな話になったとき、茜さんは暖かで圧倒するような存在感を放ち、大丈夫です! 夢見さんはやれる人です! と断言した。

 それは良くある慰めのそれではなく、本心からなのだと目が物語っていて、根拠を遠回しに聞けば、彼女はこう言い切ったのだ。

 

「--苦労を知っている人は輝く、ですか」

 

 茜さん自身、何かあったのだろう。

 それはきっと深く、柔らかい部分の話になるのだろうから今は聞かないが、いつか話して貰えるような間柄になれたら、と思う。

 というか、茜さんのおかげで把握したが、私の自傷癖、既に周知だった。

 そりゃ誰かしらの視線感じるわ。納得。

 ほ、と胸にわだかまる暖かいものを吐き出して暗くした部屋のベッドに腰掛ける。

 そのまま身を預けるように横になれば、あぁ、意識は遠くなっていく。

 

 --あ、扉開けっ放しだ。鍵してないや。

 

 そんな事を思いつつ、気付けば意識は闇に落ちていった。

 

 #

 

 暗闇の廊下。

 一般的な企業ビルのそこを、歩く。いや、歩かされている。

 自意識とは別。私ではない誰かが身体を操っている不快な感覚。

 

 私は久しぶりに、悪夢を見ている。

 

 ここまで明確に自我を持った明晰夢は久しぶりだ。

 しかし《私》は冷静なのに、《彼》の胸中は憤りで破裂しそうだ。

 その不思議で不愉快な感覚は忘れられないだろう。

 

「くそ、俺はこんな*****だろ。*****め、*****!」

 

 ところどころ聞き取れない苛立ちと怒りの声が私の口から溢れ出す。

 声色は若い男のものだ。

 

「************----っ!」

 

 叫びだ。怒りの、自己嫌悪の。

 心を蝕む悪夢の叫びだ。

 それは彼の口から出ていて、

 

「、ここ。は、コホッ……」

 

 現実の私からも出ていた。

 喉が痛いが、それよりも。

 この、私と彼との境界が曖昧なままにすることは出来ない。

 まるで手慣れた--いや、正しく手慣れた動きで袖から腕を出した。

 

 --ぎちぎちぎちぎち!!

 

 机のペン立てに立てられたカッターナイフを一息で最大まで引き伸ばした独特な音が響く。

 そしてそのまま、

 

「ま、待って」

 

 自傷する(境界を引く)寸前にナイフを持つ腕を摑まれた。

 何事かと見やれば、

 

「白坂、さん……?」

「う、うん。ごめんね。すごい声がしたから……」

「そういえば、鍵をかけずに寝てしまいましたね……」

「間に合って、良かった」

 

 心底からの言葉だ。

 しかし、待って欲しい。

 

「白坂さんの部屋は反対側の奥では……?」

「そ、そうだよ。あの子が教えてくれた、から……」

 

 そういう白坂さんは誰も居ないはずの私の隣を見て笑みを浮かべた。

 思わず見るが、何も居ない。

 すごい勢いで鳥肌が立った。

 

「あ、あの、今、いるんです、か?」

「え? う、うん」

 

 何を当然な、とでも言いたげな表情だ。

 再び意識が遠のくのを感じた。

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