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警備ロボット達が一斉に撃ってきた真紅の光弾を、サフィーアは前に出て肩マントで防いだ。このメンツの中で最も防御に優れているのは彼女である。気付けば、サフィーアはパーティーの壁役としての地位を確立しつつあった。
いつも通り、手を抜くことなくマントにもしっかりとマギ・コートを用いて確実に防御するサフィーア。だが警備ロボットが撃ってくる光弾は見た目以上に威力があり、防いでいるにもかかわらず彼女の体力をじりじりと削っていった。
「グッ?! つつつ、何、これ? 結構威力あるじゃないッ!?」
「ブラッドスパークよ! そりゃ痛いに決まってるわ!」
「ぶらっどすぱーく?」
「退いてっ!!」
耳慣れない単語に首を傾げるサフィーアを押し退けるようにして前面に出たクレアは、飛んでくる真紅の光弾を拳で弾き返した。時に裏拳で、時に掌底で、両手を裏表満遍なく使い目にも止まらぬ動きで巧みに光弾を弾きロボットからの攻撃を防いでいた。
その鮮やかな動きに一瞬圧倒されたサフィーアだが、いつの間にか近くに来ていたカインの銃声に我に返るとクレアに倣ってマギ・バーストを発動させたサニーブレイズで弾き始める。
だがやはり威力の高さに体力が削られることに変わりはなく、マギ・コートを展開しているにもかかわらず両手が痺れを訴え始めた。
「くぅ、何なのよこれ? 機械の癖に、一丁前に高威力の魔法攻撃してくれちゃって――――!?」
「言っただろ? ありゃただの魔力じゃなくてブラッドスパークだって」
「だから何よそれッ!?」
初めて聞く言葉に苦しい状況が合わさり半ば苛立ちながらサフィーアはカインに訊ねた。
苛立ちを隠さない彼女の怒鳴り声にカインは正確にロボットを撃ち抜きながら彼女の疑問に対する答えを口にした。
「普通の魔力はただ操作しただけじゃ青白い燐光しか放たない。だがより高い純度を持たせると真紅の輝きを放ち、より高い効果を発揮する事が出来るようになるんだ」
「それが、あれ?」
光弾を弾きながらサフィーアが指差すと、カインはその通りと頷いてみせた。
「まるで血の様に赤いから、ブラッドスパーク。高出力魔力とも呼ばれるけどね。例の、レッド・サードが放つ閃光も同じ奴だよ」
言われてサフィーアは、レッド・サードが眼球から放つ閃光も同じ赤だったことを思い出した。そう言えば、ブレイブが赤い方の剣を扱う際にも赤い燐光が放たれていたが、あれももしかしなくてもブラッドスパークなのかもしれない。
だが今はそんなことを悠長に考えている暇は無かった。警備ロボットはカメラアイから光弾を放つ以外の攻撃をしてこないが、数で単純さをカバーしているのか攻撃が激しいのだ。カインやクレアは弾幕の中の僅かな間隙を縫って反撃しているが、サフィーアは防御するだけで精一杯だった。
尤もカインはともかく、クレアの方は彼女なりに苦労を強いられているようだったが。
「えぇぃ、ちっこくて厄介な奴らねッ!?」
そう、最大の問題は警備ロボットの大きさだった。こいつらは大きさが精々中型犬程度の大きさしかないのだ。剣士であれば得物の長さにもよるだろうが、闘士はどう頑張っても膝を曲げるなどして体勢を崩さなければならない。一度や二度ならそうでもなかろうが、全ての敵に対してこれをやらねばならないとなると足腰に掛かる負担が地味に厳しいものとなる。激しい戦闘の中でスクワットをしているも同然なのだ。
故に、クレアは基本的に魔法で攻撃をメインに戦っていたが、基本魔法は拳での戦闘の補助で使うことが専らだったこともありその戦い方はいつもに比べてキレがなかった。
それでもクレアは警備ロボット相手に、カインに引けを取る戦いはしていなかった。彼女はロボットが撃ってくる光弾を弾き返してそのまま攻撃に転用しているのだ。これなら体勢は大して崩さずに反撃できる。
今、クレアは新たに自分に向けて飛んできた光弾をサッカーのオーバーヘッドキックの要領でロボットに向けて蹴り返した。蹴り返された光弾は狙い違わず撃った本人のロボットに直撃し、ロボットはバラバラに吹き飛んだ。
そんな攻防の最中、クレアはある事に考えを巡らせていた。
――ちょいと厳しい戦いだけど、これはある意味で良い機会かしら?――
クレアが考えているのは、サフィーアへの新たな技術の伝授だ。彼女の見立てでは、サフィーアには素晴らしい才能がある。正しく宝石の原石だ。
だがその原石も、磨かなければただの石ころに終わる。そして彼女を磨くには、ただの布やブラシでは力不足だった。彼女は苦境に立たされた時にこそ、最大限の輝きを放ち次のステップに上る。
その事を踏まえれば、今のこの状況は絶好の機会とも言えた。
「よし…………サフィ、よく聞きなさい!」
「はい?」
「相手の攻撃を弾く時はね、ただ力任せに弾くだけじゃダメよ。それだと向こうの力の加減によっては狙ったところに弾けない事もあるから」
突然攻撃の弾き方に関する講義を始めたクレアに、サフィーアは困惑して一瞬動きを鈍らせる。それを見逃さず攻撃してきたロボットがいたが、その攻撃は全てクレアによって弾き返された。
「いい事? 相手の攻撃を弾き返す時はね、まず相手の攻撃を受け止める事から始めるのよ」
「攻撃を、受け止める?」
「そうよ。それも力任せに受け止めるんじゃないの。魔力をクッションにして、相手の攻撃の勢いを分散させて受け止めるのよ。それを意識して極めれば――――」
話ている最中も関係なく警備ロボットは攻撃してくる。あるロボットの放った光弾が、真っ直ぐクレアに向かって飛んできた。それを見てクレアは、小さく笑みを浮かべながら手を伸ばす。
次の瞬間、クレアの行動にサフィーアは完全に目が点になった。
「――――こんな事も、出来るのよ」
「うっそぉ…………」
サフィーアが絶句したのも無理はない。何しろクレアは自分に向けて高速で飛んできた光弾を、まるでキャッチボールをしているかのように手で受け止めてしまったのだから。
クレアは受け止めた光弾を片手の上で転がし、ポンポンと軽く浮かせてはキャッチしてを繰り返す。チラリとサフィーアに目を向ければ、彼女は信じられないと言うように目と口を丸くしている。これで今クレアが手にしているのが生卵だったら、その口の中に放り込んでいたかもしれない。
「お嬢さん方ッ!?」
と、途中から一人でロボット達を相手取っていたカインからいい加減にしろと苦情が飛んできた。珍しいカインからの余裕のない苦情の声にクレアはおっと、と意識をロボットの方に向けると野球の投手にも負けない見事なフォームで手にした光球をロボットの集団に向けて投げ返した。クレアが投げ返した光弾は、警備ロボットの一体に命中すると反射して近くの2~3体も纏めて粉砕する。
一連のクレアの行動にサフィーアはただただ圧倒されていた。たった今、カインの口からロボットが撃ってくる光弾は通常の魔法攻撃よりも高威力のものであると言う説明を受けたばかりなのだ。それをクレアは難なく受け止めた挙句、投げ返して見せた。それはつまり、クレアの言う『受け止める』技術が高い水準で練り上げられていると言う事に他ならなかった。
そしてクレアは言外にその技術を習得しろと言っているのを感じ取り、サフィーアは生唾を飲み込んだ。
「それ、そんな簡単に?」
「それはサフィ次第よ。でも少なくともサフィは私よりはやり易いんじゃないかしら? 何しろ良い物を持ってる訳だし」
良い物とは、間違いなくサニーブレイズの事だろう。確かに手でやるよりはリスクが少ない。仮に失敗しても痛い目を見る率は低いだろう。だが、それでもやれと言われてできるかと言われると、正直自信は持てなかった。
だが自信が持てないからと言って引き下がるほどサフィーアは腰抜けではない。元来彼女は負けん気が強いのだ。それに加えて彼女は、クレアが心のどこかで彼女ならできると確信している事を感じ取っていた。
そのクレアの期待が、サフィーアの闘争心に火を点けた。
「…………よしッ!」
気合を入れ直し、サフィーアはクレアの隣に並び立った。サニーブレイズの引き金を引き、刀身が青白い燐光に包まれる。
それを合図にしたかのように、警備ロボットは一斉に彼女に向けて砲撃してきた。思念を感じない、熱のない攻撃。普段相手からの攻撃に明確に冷たい殺意を感じ取っていたサフィーアにはやり辛い攻撃を前に、サフィーアは若干反応が遅れてしまい受け止めようとした光弾に逆に弾かれ体勢を崩される。
これは不味いとすかさずマントを翳して防御態勢を取るが、その瞬間襟首をクレアに引っ張られ強制的に後ろに引かされた。
「ぐえっ?!」
突然の事にカエルが潰されたような声を上げてしまったサフィーア。いきなり何をするのかとクレアに抗議しようとしたがそれよりも早くにクレアからの叱責が飛んできた。
「それじゃ何も意味ないでしょうが!? 今回の戦闘でマントを防御に使うのは禁止よ!? もし使ったら今みたいに後ろに引っ張るからそのつもりでいなさい!!」
この状況であまりにも厳しすぎる言葉。一瞬文句が喉元まで出掛かったサフィーアだが、クレアから感じる思念に少なからず申し訳なさや後悔が混じっていることに文句を飲み込んだ。
クレアは本気なのだ。本気でサフィーアの事を鍛えようとしてくれているのだ。本気だからこそ、自分の中にあるサフィーアをどんな時でも気遣おうとする甘さに蓋をして厳しい課題を課す。例えその事に、自分の心が悲鳴を上げようともである。
顔には出ていないが、クレアが内心では苦しそうな顔をしていることにサフィーアは気付いていた。
――上等ッ!!――
ここまで来たら、サフィーアの中でも覚悟は決まろうと言うもの。ここからはマントに頼らずサニーブレイズを使っての防御の会得に専念すべくサフィーアは肩当の留め具を外して肩当ごとマントを外して近くに放り捨てた。
「な、何を考えてるんだッ!?」
その様子を後ろの方から見ていたアレックスは信じられないと言った様子で見ていた。あの弾幕を相手に、防具を捨てるなど無謀すぎる。特にサフィーアの動きはカインやクレア程キレがあると言う訳ではないのだ。自殺志願者ないしは自惚れの激しい愚か者と捉えられても仕方ないだろう。
今からでも遅くはない、肩当を拾いマントを装着し直せとアレックスは声を投げ掛けようとした。だが障壁を張ってアレックスとトーマスを守っているウォールはそれを許さなかった。ウォールは口を開けて声を発しようとしたアレックスの顔に向けて、飛び掛かるとその顔に蹴りを一発お見舞いした。
「あだっ?!」
「先生ッ!? お前、何をッ!?」
まさかただの壁役と思っていた相手からこんな事をされるとは思ってもみなかったアレックスは、ウォールの突然の行動に目を白黒させた。
トーマスはアレックスの顔を蹴りつけたウォールに対し非難の声を上げたが、対するウォールは二人の顔を一瞥すると声も上げずにフンと鼻を鳴らした。アレックスにはそれが、ウォールが二人に『黙って見ていろ』とでも言っているように見えた。
実際、ウォールの行動は二人に余計な事をさせない為にあった。
ウォールは、主人の事を信じているのだ。きっと彼女ならあの苦境も乗り越えられる。そう信じているからこそ、余計な茶々を外野に入れさせることを防いだのだ。
そんな背後からの信頼も感じつつ、サフィーアは警備ロボット相手に苦しい戦いを続けていた。
普段サフィーアは相手からの攻撃への対処を、その前段階として敵意や殺意などの攻撃的思念を感知することから始めている。これによって彼女は、普通の人間に比べれば圧倒的に素早く相手の攻撃に反応し反撃や回避、防御を選択する事が出来る。
だがこれには一つ欠点と言うか問題点があった。ずばり、音や気配などの普通の人間が感じ取れる感覚が鈍りやすいのだ。そちらの感覚に頼らずとも反応できる事の弊害と言ってもいいだろう。
今正に、サフィーアは苦境に立たされていた。今まで活用することのなかった、必要のなかった感覚に頼り戦う事は、これまでの戦いで身に付いた動きと異なるものを要すのでどうしてもぎこちなさが目立つ。
結果、何度も危うい場面に遭遇しその度にクレアやカインからのフォローを受ける羽目になっていた。
「くぅっ!? くそ、次はッ!?」
「サフィ、落ち着きなさい」
「でもッ!?」
思わずクレアの言葉に噛み付くサフィーア。その隙を狙ったのか、一発の光弾がサフィーアに向け放たれる。発射音に反応しそちらを見た時には、もう光弾は目と鼻の先だった。
「あっ…………」
光弾は頭部への直撃コースを取っている。あの威力だ、直撃すれば最悪一撃であの世行きだろう。それが理解できるだけの経験は積んでいた。
それはある意味で不幸だったかもしれない。知らなければ、或いは死の恐怖に飲まれることも無かったろう。理解できてしまうから、恐怖が生まれるのだ。そして恐怖を理解した瞬間、彼女の脳裏にこれまでの決して長いとは言えない人生が走馬燈の様に過った。目前に迫る死を、彼女はまるで他人事のように眺めていた。
だが、死と言うものは本当に気まぐれであり、必ずしも確信したタイミングで訪れるとは限らないものでもあった。
光弾がサフィーアに命中する直前、クレアが彼女の前に立ち塞がり裏拳で光弾を打ち返したのだ。打ち返された光弾は撃った警備ロボットとその背後のロボットを纏めて吹き飛ばした。
「あ、ぁ……」
「サフィ、落ち着いて。焦ったら駄目よ。自分の心に打ち勝つの」
クレアは尚も飛んでくる光弾を打ち返しながら、戦闘中とは思えない穏やかな声色でサフィーアを諭した。
「私も昔はそうだった。上手くいかない事、逆に上手くいき過ぎる事に冷静さを失って自分の本来の動きを、出来る筈の動きを見失って失敗した事が何度もあったわ」
昔を懐かしむように、しかしロボットの攻撃は正確に弾き時には直接殴り蹴飛ばしてロボットの数を減らしていく。
一見すると余裕に見えるが、ふとサフィーアは気付いてしまった。クレアの両手から血が滲みだしている事に。彼女も限界が近づいているのだ。
それでもクレアは弱音も、辛さも見せない。毅然と、穏やかな雰囲気を崩さずただ只管にサフィーアを教え導く事に全力を尽くしていた。
「経験者だから、はっきり言える。落ち着くのよ、サフィ。そうすればあなたなら出来る」
ロボットは減るどころか、壁や天井などあちこちから補充されてくる。クレアもいい加減魔力が心もとなくなり、折れそうになる膝を屈しないようにするだけで精一杯だった。
そして遂に、限界が来た。ある一発の光弾をクレアが左手で弾いた瞬間、左のグローブが弾け皮膚が裂かれ鮮血が飛び散った。これには流石に平常を保っていられなくなったのか、クレアの額に脂汗が浮かび表情が苦悶に歪む。
「ぐ、くっ?!」
「クレアッ!? くそッ!?」
クレアはこれ以上無茶できない。カインが前に出て次々とロボットを銃弾と魔法で撃ち抜くが、彼も彼でそろそろ限界だろう。
そんな絶望が首を擡(もた)げつつある状況であるにも拘らず、クレアは微塵の不安も感じさせぬ目でサフィーアの事を見据えた。
「だから、自分に負けるな。あなたはまだまだ伸びる。がんばれ、サフィッ!!」
「ッ!!」
あまりにもシンプルで、曖昧に過ぎる激励の言葉。だがその言葉が、サフィーアの心の炎を大きく燃え上がらせた。
サニーブレイズの引き金を引き、一気に前に出るサフィーア。背後からカインの援護を受けつつ進み出た彼女に、警備ロボット達は一斉に砲撃を行った。
まず最初に彼女に襲い掛かった光弾は三発。正面と左、後方右斜め上だ。射線が被らず、しかも一発は完全に死角からの攻撃である。このどこから攻撃が飛んでくるか分からない状況においては、たった三発であっても彼女の命を刈り取る一手となり得る。
だが彼女はその全てに対して反応してみせた。流石に全てを綺麗に打ち返す事は叶わず、後方右斜め上からの光弾は明後日の方向へ向け飛んで行ったが残り二発は見事に砲撃したロボット自身に打ち返す事に成功する。
その事に喜ぶ間もなく、サフィーアは次々と飛んでくる光弾を打ち返し、剣が届く範囲の奴はそのまま切って破壊した。サフィーアの前進の間隙を縫う様にして、カインが警備ロボットを撃ち抜いていく。
しかし次第にカインの発砲する回数は減っていった。理由は簡単だ、サフィーアが次々とロボットを破壊していくのである。
サフィーアの前進速度はみるみる上がっていった。最初は二~三発に一発は弾き返すのに失敗していたのが次第に五発に一発に減り、いつの間にか光弾弾きは十発に一発失敗するかどうかと言うほどにまでなっていた。それに加えて彼女は風属性の魔法も用いて、一度の斬撃で複数のロボットを同時に薙ぎ払うようになったのだからロボットの減少速度は正に破竹の勢いであった。
サフィーアの予想以上の活躍に、カインは暢気にも口笛を吹いて称賛した。
「ヒュウッ! やるねサフィは。君の見立て通りだ」
「私もこれはちょっと予想外よ。磨けば光ると思ってはいたけど、よもやこれほどとはね」
サフィーアの活躍に仕事が減ったと見たカインは、一度負傷したクレアの手を簡単にでも治療すべく彼女に回復魔法を掛けた。攻撃的魔法とは異なる温かな魔力にクレアの手の出血が治まった時、クレアの腰の通信機からラウルの声が響いた。
『こちらラウルだ。そっちはまだ生きてるなッ!?』
「当然でしょ! それよりそっちはどうなの? 今は朗報以外聞きたくないんだけど?」
『お待ちかねの朗報だ、待たせたな!』
その言葉が通信機から聞こえた瞬間、突如として警備ロボットのカメラアイから光が消え、ロボット達は力を失ったかのようにその場に崩れ落ちた。壁や天井に張り付いていた奴も、それまでの重力に逆らっていた動きが嘘の様に真っ逆さまに床に落下し中にはそれで破損した奴もいる。
どうやらやっとこさ上の連中が警備システムを止める事に成功したらしい。とりあえずの危機が去ったことに、クレアは安堵の息を吐きカインもライフルを肩に担いで首をコキコキと鳴らした。
サフィーアに至ってはロボットの残骸の中で大の字で横になっていた。それまで緊張して張り詰めていたものから一気に解放されたのだ。そりゃ横になりたくもなるだろう。
「だぁ~…………や、やっと、終わったぁ」
「お疲れ、サフィ。凄かったじゃない」
「クレアさんが励ましてくれたおかげですよ」
今回一番健闘したのは間違いなくサフィーアだろう。彼女の最後のお仕返しがなければ、最悪誰かが命を落としていた可能性もあった。
その意味も込めての称賛に対し、サフィーアは謙遜してみせるがクレアはそれに否と答える。
「そんな事ないわ。今回、間違いなく一番頑張ったのはサフィ、あなたよ。誇っていいわ」
「その通り。今回は正直僕もやばいと思った。意味がいてくれて感謝だよ」
「そ、そう、かな? えへへっ!」
クレアとカインからの称賛に、サフィーアはだらしなく頬を緩ませ笑みを浮かべる。
そんな彼女に対し、クレアは意味深な笑みを浮かべると一瞬の隙を突いて無防備な彼女の額にデコピンをかました。
「あいたっ?!」
「た・だ・し! 調子にだけは乗らない事よ。今回の事で分かったと思うけどあなたにはまだまだ課題が多いんだからね。その事を絶対に忘れる事がないように」
「は、はい…………」
散々褒めちぎっておいて最後の最後でダメ出しをしたクレアに、サフィーアは思わず恨めしそうな目で見る。
その仕草がどこか子供っぽくて、クレアは思わず笑い声をあげてしまうのだった。
ご覧いただきありがとうございました。
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