前世は真田幸村で御座る   作:賀楽多屋

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真田幸村の章 異国の地に思いを馳せる

 

 

 

 

 全ての授業が終わると、最後のホームルームが行われる。担任がその日の締めを行うために、教室へとやって来て、あれこれ話し、それも終えるとやっと放課後が始まる。

 

 

 

 私のクラスの担任は一週間のうち、きちんと教室に入ってきたことは一度もない。廊下側の窓から顔を覗かせて、出欠を取ると職員室へと直ぐに帰ってしまうのだ。彼は国語の教師であるからして、国語の授業の際にはきちんと教室に入ってくるのだが。

 

 

「諸君、出欠確認を取る。早退した者が居れば名を挙げるように。ーーーふむ、居ないのだな。皆、健康で結構。では、ホームルームを始める」

 

 珍しく教室に入ってきた担任は、はきはきと言葉を区切ると何故か手にしていた三味線を掻き鳴らして「うむ」と頷く。

 

 

 

「今日、俺が来たのは十月の遠征についてだ。諸君、何処か行きたい場所があるのならば早急に述べるといい」

 

 

 そして、担任はまた三味線を掻き鳴らした。担任は、叱られないのか教師にあるまじき格好でよく勤務している。今日もダメージジーンズに髑髏のTシャツを装着し、髪は女子よりも凝ってそうな髪型だ。沖野雪也はこの担任をロックな人だと評価していたようだ。私も彼を型にはまらない人物だと思う。

 

 

「参考までに言っておこう。前年度は、近くの遊園地に赴いたらしい。俺は、四国の魚が食いたかったのだがな。そう言うと田中にそんな予算はないと怒られた、凄絶にな!」

 

 

 私達の通う学校があるのは武蔵にある。家康殿が幕府を開いた場所でもあり、今は東京と呼ばれ、賑やかな場所になったこの世の光景とは思えない程の高い建物と人で溢れ返っている。日本の首都でもあるらしく、私の家や三国高校がある地区はまだ閑静な場所であるのであまり首都たる片鱗は見いだせないが。

 

 

 そんな場所から西国である四国に行こうと思えば、かなりの銭が必要だろう。兵糧と馬、用意する物資だけでもかなりの額になる。時間もかなり掛かるであろう。

 

 

 

「では、三河・・・静岡県は如何ですか? 静かな場所ですし、学ぶことも多くある地です」

 

 

 真っ直ぐに天井へと伸びた挙手と共に、遠征先の候補を出したのは佐奈殿だ。担任は「ほほう」と声を上げて、黒板に静岡県と書く。そして、他には?と問うように皆の顔を見渡した。

 

 

「はいはーい! アタシは小田原城址公園に行きたいわ! そう遠くないし良くない?」

 

 

 次に溌剌と声を上げたのは天野殿であった。担任が「これは田中が凄絶に喜びそうだな」と静岡県の隣に小田原城址公園と書く。

 

「あ、あの! 俺は九州に行きたい! 九州の海が見たい!!」

 

 

 小田原城址公園の次に出てきたのは四国よりも遠い九州であった。これには、担任も呵々と笑って「無理だろうがな」と意地悪そうに言いながら黒板に九州と書く。九州に赴くならば、四国以上の銭が必要になる。現実味のない話であったが、この行く先を提案した男子は真剣な面持ちであった。

 

 

「九州に行くんなら、熊本城に寄りたい。今はどうなってるのだろうな、あの城は」

 

 

 真剣な男子を援護するように別の男子が九州に行った際の行く先を挙げた。その男子は、三成殿を平成の世にいながらよく理解している男子であった。九州行きを提案した男子はその援護に励まされでもしたのか、目を煌めかせて首を勢い良く縦に振った。

 

 

「熊本城は良いな! 俺、一回だけでいいからあの城を攻め落としてみたかったんだ!!」

 

 

「・・・ん? どうにも聞き捨てならねぇことを口走らなかったか、このチビ」

 

 

 

 担任は新たに追加された九州の行く先に「九州は戦人ばかりであまり興味がないのだがな」と少々、面倒くさそうな顔をしている。担任は出揃った遠征先を一つ一つ確認して、「ふむ」と顎を撫でた。

 

 

「諸君、恐らくこの中で決めるのであれば、遠征先は小田原城址公園になってしまうが良いのだな。諸君らが行くにしては、どうも慰安旅行先感が凄絶にあるが、私はこれの持ち込みが可能であれば何処でも良い」

 

 

 担任が言うこれとは今も弾き鳴らされている三味線だ。すると、これでは不味いと思ったらしい他の生徒達がおずおずと手を挙げて、行き先を告げ始めた。

 

 

「前年度と同じ遊園地に行きたいです、先生」

 

「俺は、秋葉原」

 

「スカイツリーに登りたいなぁ」

 

 

「地下アイドル劇場!!」

 

 

 

 次々と挙げられる行き先は、私の知らぬ場所が多いが、何処も都内にあるようで担任は黙々と黒板にその行き先を記しておく。一通り出揃い、誰の声も上がらなくなった頃、担任は漸くチョークを黒板に置き、三味線を掻き鳴らした。

 

 

「これはこれで面白みがないな。なんとも陳腐だ。これならばいっそ、岐阜の関ヶ原に行ったほうが余程愉快だろう。彼処は今、関ヶ原の戦いが体験できるらしいぞ。どうだ、諸君?」

 

 

 担任は片頬を上げて、また呵々と笑った。私はついぞ、最期まであの地に行くことは無かったので、興味深くもある。しかし、担任のその提案を佐奈殿と天野殿、三成殿に詳しい男子が「結構です!!」と揃って否と答えたのだ。幾分か顔色が悪い彼女達を担任は可笑しそうにせせら笑っていた。

 

 

 

 結局、私のクラスで決まった遠征先は、前年度と同じ遊園地になったのである。担任はそれに「やはりな」とつまらなさそうな顔で呟いていた。

 

 

 

 *

 

 

「ほう。雪也のクラスは遊園地に行くのか! 私のクラスは激論の末、スカイツリーになったぞ!!」

 

「俺のクラスは浅草になった。これに落ち着くまでかなり労を要したぞ」

 

 

 放課後は、三輝殿や兼人殿と帰途を共にすることが日課になっていた。私のクラス以外でも遠征先について議論があったらしく、三輝殿は疲れたような様子で、兼人殿は朗らかな笑顔で私にそのことについて話して聞かせた。

 

 

「最初はアメリカに行こうと話していたのだが、そんな予算はないと北野先生に言われてな。では、ドイツ村にでも行こうかという流れになったが、アメリカには筏でも行けると井上が言いおって。そうこう話しているといつの間にやらスカイツリーに行くということで蹴りがついたのだ」

 

 

「俺のクラスは、伊勢谷が歌舞伎を見に行こうと言ってな。他にも、渋谷や原宿と遠足には不似合いな場所が多く議題に上がった。しかも、担任に至ってはサッカーを見に行こうと言い出す始末だぞ」

 

 

 お二方のクラスも遠征先を決めるのには手間取ったようだ。私は、草臥れたように嘆息を吐く三輝殿に苦笑を見せて、一人足早に校門へと歩を進める兼人殿に追いつこうと三輝殿に目配せをした。三輝殿も私の提案に異論はないようで、駆けるように地を蹴って兼人殿に追いつく。

 

 

 

「そうだ、雪也! もし、外国に行けるとすれば、そなたは何処へ行ってみたい?」

 

 

 すると、兼人殿に追いついて直ぐに兼人殿にそんな質問をされた。私が暫し、話の流れが読めず戸惑っていると三輝殿が「いろいろあるだろう」と咳払いして言う。

 

 

「アメリカ、イギリス、アフリカ、オーストラリア、ブラジル・・・。日本を出るならば、雪也は何処へ行きたいのだ?」

 

 

 三輝殿のお陰で漸く話の流れが掴めた私は、沖野雪也の記憶を手繰って日本以外の国について考え始める。

 

 

 私は幼い頃、小県を出、尾張や京、大阪といった国を見て回ってみたいと思ったことがあった。信長様に真田の名代として仕った時は京を訪れたが、あの風靡な都の景観を私は今でも覚えている。京の町並みは昔、今で言う中国の長安を真似て作ったのだと兄上に教わったことがあった。洛陽の町並みが今日びまで現存してあるのかは分からぬが、私はもう一度あの景観を拝見してみたい。

 

 

 

「中国に行きとう御座いまする。京が真似て作ったと言う長安をこの目で拝見してみたい」

 

 

 

 三輝殿と兼人殿は顔を見合わせて、私にもう一度顔を向けた。

 

 

「そうか。雪也は中国に行ってみたいのか。俺も中国の漢書は好きだった。もし、行くのであればそれらをもう一度収集してみたいのだよ」

 

 

「良い考えだな!それは。私も漢書には興味がある。向こうの国には愛と義を説く教えが沢山あるからな!!」

 

 

「でしたら、三人でいつか行きませぬか!? それこそ筏を組んでも良いです。海の向こうにあるあの大きな大陸に三人で渡ってみとう御座います」

 

 

 お二人方もかの大国には興味があるようなので、つい私は食い気味にお二人方を中国の旅路に誘ってしまっていた。私の剣幕に三輝殿と兼人殿は驚いたようで、目を丸くしている。私は己の所業に二人の丸くなった目を見てから気付いた。恥ずかしくなって、つい顔を俯けてしまう。全く持って武士として情けないことをした。

 

 

 しかし、御心の広い御仁である三輝殿と兼人殿は私の所業を何とも思っていないと言うふうに笑ってくださった。兼人殿の快活な笑い声が茜空に響き渡る中、三輝殿が「雪也」と私を呼ぶ。

 

 

「そうだな。俺と雪也と兼人の三人で海を渡ろう。大陸に着いたら、長安を目指して電車の旅をしても良い。飛行機に乗って空から大陸に渡っても良いな」

 

 

「兼人殿、三輝殿・・・」

 

 

「ハッハッハ!! そうだな、雪也! 三人で何処までも行こうじゃないか!! 愛と義に溢れた良い旅になることは間違いないな!!」

 

 

 三輝殿と兼人殿は私と一緒に来てくれると言う。日本を出て、海を超え、別の大陸へと渡ってくれるとお二人方は微笑んで私に告げる。

 

 

 小県を初めて出た時のような、心躍る気持ちをまた体験出来るとは思わなかった。まだ見ぬ未知に体の芯が震えるのは、平成の世に目覚めて初めての事だった。

 

 

「有難うございまする! いつか、参りましょう! かの地へ!!」

 

 

 私は勝鬨を上げる癖がついているせいか、つい紅牙飛燕を持っている訳でもないのに片手を高らかに振り上げてしまった。しかし、それには兼人殿も私に倣って振り上げてくださったので、今度は恥ずかしい思いをしなくて済んだのだった。

 

 

 






四国県民からいろいろ話を聞くと、高知県だけやっぱり突出して特色を放っているみたいですね

彼処はよく分からない、方言も凄い、山を隔てるからやっぱり違うなどなどありまして、もう一回行ってみたいなと思う県です

鰹とゆず、いいですよねー

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