ソードアート・オンライン~剣の世界の魔法使い~ 作:神話語り
どうでもいいんですが本日1月11日が僕の誕生日でした。
キリトの二刀と、ヒースクリフの魔剣が激突する。それは激しいエフェクトフラッシュと共に、弾かれあう。
はず、だった。
しかし、結果は大きく異なった。ヒースクリフの魔剣と激突したキリトの黒い剣――――《エリュシデータ》、その刀身の上半分が、まるで最初から何もなかったかのようにごっそりと消滅してしまったのだ。
「なっ!?」
「どうしたんだねキリト君。こんなものかい?」
ヒースクリフの追撃が続く。剣で防御することができないキリトは、後ろにバックステップで回避するしかない。しかし、ヒースクリフの剣は自由な剣閃でキリトを追う。キリトに剣がかする。傷を受けたところが、ごっそりと消滅し、キリトの体を構成しているポリゴンの内部構造が見え隠れする。
「ぐあっ……」
キリトの体を、本来なら感じないはずの痛覚が走る。どうやら心意の力には、あらゆる防御手段・システム制限が効かないらしい。
退くキリトに、ヒースクリフは薄く笑いかける。
「システムの加護を過信してはいけないよ、キリト君」
「ふ……それを言うならあんたも自分の力を過信しない方がいいぜ」
「……何?」
「せあっ!」
ヒースクリフの後ろから、コクライが切り込む。至近距離で抜刀。本来の斬撃の威力に加え、《
「ふむ。いいねらいだな……だが、惜しいな」
今のヒースクリフは普通ではない。ヒースクリフの体を真紅のエフェクトが蓋う。ぶれた様に高速で移動したヒースクリフの左手が、装備していた十字盾を構える。そして、その表面には闇色の
「《心意》か!?」
「正解だ――――返すぞ」
ヒースクリフの盾に阻まれた刀は、あっさりと弾かれてしまった。それだけではない。
「がはっ!?」
コクライの体に衝撃。HPが大きく削れる。コクライの刀の威力が、そのまま弾かれてきたのだ。
「くぅ……っ」
「大丈夫か、コクライ!」
「お前こそな」
口々に言い合うキリトとコクライ。ヒースクリフは自然体をとる。
「どうかね、その身で《心意技》を受けた感想は」
「どうしても聞きたいって言うなら答えてやるよ」
コクライの皮肉に、苦笑するヒースクリフ。再び険しい表情をとり、剣を構える。ヒースクリフの魔剣が、悲鳴を上げる闇のオーラを纏う。
「さぁ、もう一度行こうか」
***
「《マキシマイズマジック・ジャッジメントライツ》!!」
ドレイクの杖が、白い光を発する。限界まで強化された詠唱ショートカットにより、一瞬で
すでに《ホロウ・アバター》の内半分のHPをかなり削っている。が、勝負はなかなかつかない。両者ともに厄介なのが、お互いを守ろうとする行動、驚異的な自己再生、そして、《無属性》というモンスターカテゴリだった。
「黒龍王!!」
『任せろ!!』
黒い巨龍が、がらんどうの巨人を引き裂く。鮮血の様に赤いエフェクトをまき散らして、ホロウ・アバターが姿を薄れさせる。しかし、それは撃破ではない。鮮血をまき散らしながらも、別の場所に再び姿を現すローブ姿。HPは大きく減っているが、決して倒しきれてはいない。
『グルがぁッ!!』
黒龍王が吠え、咢を開く。あふれ出た真紅の炎ががらんどうのローブを焼いていく。しかし、ホロウ・アバターもその何もない右腕を振り上げ、そこから闇色の波動をとばす。
「――――《マキシマイズマジック・ダイヤモンドストライク》!!」
氷でできた槍が、数百を超える数ローブ姿に迫る。HPを大きく減らし、レッドゾーンまで陥れることに成功するが、傷ついた仲間をかばうかのようにもう一体のホロウが姿を現す。傷ついたホロウ・アバターはその姿を薄れさせ、消えた。再び奴が姿を現した時には、そのHPは全回復しているだろう。
すでにこのような循環を二回ほど繰り返している。これではじり貧だし、延々と戦っていればドレイクの《魔法》に限界が来てしまう。
ドレイクの放つ《
それは、《エネマリア》のモンスターたちの命。彼らにはHPとは似て非なる《ライフ・ポイント》というゲージが用意されている。ドレイクは彼らからこのRPを貰い受けることによって魔法を放っている。当然、マジックスキルの威力が高ければその分彼らの魂も早く擦り切れていく。しかし、RP消費の少ない威力の低いマジックスキルでは、ホロウ・アバターのHPを減らせない。それでは本末転倒である。
もちろん、RPを消費しないで起動できるマジックスキルは存在する。しかし、それらは《超位魔法》と呼ばれる最高位の魔法であり、打てる回数に制限がある。また、どれだけフルブーストしても、詠唱がかなり長く残ってしまう。
だから。ドレイクは、心の中で泣きながら、《エネマリア》の魂を借り受けていく。できるだけ、できるだけ、彼らの魂を減らさないように、自らの《心意》で願いながら。
「――――《マキシマイズブーステッドマジック・グリームホープ》」
黄金の光がドレイクの杖に宿る。次に放つマジックスキルの威力を最大まで引き上げる術式。これで、ホロウ・アバターの連携を引き裂く。
「黒龍王、今戦っているホロウを倒したら、次に出てくるホロウを五分間だけ押さえてください。《超位魔法》でカタを付けます」
『分かった。任せろ』
「お願いします」
黒き巨龍は一度頷くと、咢をいっぱいに開いてホロウ・アバターに向かい黒いブレスを吐き出した。《ダークネス・ブレス》と呼ばれる、種族カテゴリ《
ホロウ・アバターの体に焼け焦げた跡が生まれる。痛みに耐えるようにもだえるホロウに向けて、ドレイクは最強化されたマジックスキルをうつ。
「《マキシマイズマジック・サンシャインレイ》!!」
放たれた輝きが、ホロウの体を焼いていく。さらに追い打ちをかけるように、もう一発。
「《マキシマイズマジック・ジャッジメントライツ》!!」
エネマリアの勇士たちの魂の輝きが、邪悪なローブに裁きを下す。音無き悲鳴を立てて、ホロウ・アバターが一体、遂に消滅する。そして、仇を討つかのように出現したのは、もう一体のホロウ・アバター。レッドゾーンまで減らしたはずのHPは完全に回復し、グリーンゾーンまで戻っている。
『ゴォオオッッ!!』
黒龍王が双腕を振りかざし、ホロウ・アバターを組み敷く。しかし、ホロウ・アバターもその実態を薄れさせ、黒龍王の両腕の攻撃をかわしていく。それを見ながら、ドレイクは詠唱を開始する。状況を一気に変えられるだけの力を秘めた、最強の魔法たちの一つを。
ドレイクが現在使用できる《超位魔法》は全部で5つ。それらは一つに付き一日一回しか使えない。つまり、先ほど発動させた《
だが、先述の通り《超位魔法》は一つだけではない。残り四つのうち、最も威力の高い魔法を起動させる。
「That day, in order to make a judgment on people instead of their own, the great sun god that no longer believe the person has created the goddess of destruction and slaughter.She destroyed the world in a week, a person was about to be dark by her.The sun god feared she sealed her, that were divided into two of God.Medjed. Bastet. The true name, is in the mission here of true ye――――」
そして呼ぶ。その名を。かつて世界を滅ぼしかけた、殺戮の女神の名を。
「――――《
次の瞬間。
世界を壊すかと思えるほどの勢いの巨大な砂嵐が、ホロウ・アバターを襲った。砂は一粒一粒が非常に鋭くとがっており、内部に取り込まれたホロウのHPは恐ろしいスピードで減っていく。そして、それだけではない――――
『コォアアアアッッ!!』
黒龍王の口から、黄金のブレスが発射される。《ゴールド・ブレス》。ブレス系攻撃最強の威力をもつ、《全属性》攻撃。
『―――――――ォォォォ……』
滅びの嵐と黄金の輝きを受けたがらんどうローブの巨人は、爆散し、その姿を消滅させた。
『……やったな』
「はい。後はキリトさん達の救援にいかないと」
***
キリトの二刀が閃光を纏って走る。しかし、ソードスキルの起動は全てヒースクリフに読まれてしまう。コクライの《殺人刀》もそのスペックを最大限まで発揮しているが、ヒースクリフのHPを減らすには至らない。
すでにキリト、コクライ、ヒースクリフともにHPを大きく減らしていた。《結晶無効化空間》は解放されているため、キリトとコクライは交代でスイッチし、ヒースクリスタルでHPを回復させていく。
「コクライ、後どのくらい残ってる」
「ヒバナの分までつかっちまっうことになるが、あと三つだ」
「奇遇だな、こっちも一緒さ。アスナのまでつかっちまったよ」
無駄口をたたいていないと、圧倒的な恐怖と、絶望と、プレッシャーに叩き潰されてしまいそうだった。すでにヒースクリフの表情に余裕はなく、本気で自分たちを殺しに来ているのだということが分かる。ヒースクリフは暗黒のオーラを全身に纏い、心意の力を最大限に振るっている。
ヒースクリフのオーラが輝きをまし、彼のHPが回復していく。ヒースクリフは、心意の力でほぼ無制限にHPを回復させていってしまう。これでは、いくら減らしても倒せない。
すでにキリトとコクライの体には、どれだけ回復しても治らない傷が大量にできている。キリトの黒い剣《エリュシデータ》は刀身が半分になってしまい、耐久値が尽きかけている。
このままでは、負ける。
「どうする……」
「……いちかばちかだ。俺達も《心意技》を使うしかない」
「な……!?」
コクライの言葉に、キリトは驚きを隠せない。確かにヒースクリフとの戦いで、なんとなく《心意技》の出し方やコツなどは分かってきた。しかし、一度も使ったことの無い技を此処で使うというのか。SAOでは、『手に入れたばかりの力はすぐに使わない』ことが鉄則だ。付け焼刃の攻撃で、ヒースクリフを倒せるだろうか……。
「キリト」
「――――何だ」
「もし俺が死んだらさ、ヒバナに謝っといてくれ」
「そんなこと言うなよ。生きて、この戦いに勝つんだ。次は現実世界で会おうぜ」
「――――おう!」
コクライは、傷ついた刀を構えると、目を閉じ、意識を集中させる。
《心意》。インカーネイト。それは、『願う事』だとヒースクリフは言った。ならば、コクライの望みはただひとつ。
「勝利だ!!」
コクライの刀を、爆発的な光がつつむ。抜刀。時空を引き裂いて、輝きの衝撃波が飛ぶ。
「なに!?」
それは、ヒースクリフの暗黒の波動をも切り裂き、彼の盾を真っ二つにスライスした。真紅の鎧に、亀裂が走る。
「――――やってくれるな。だが、甘い」
「ぐ――――!?」
「コクライ!?」
コクライが、右手の刀を取り落す。
「あ、頭が……」
「おい、コクライ!?」
頭を押さえてうめくコクライ。ヒースクリフは、解説するように言葉を紡ぐ。
「《心意》はいわば魂の解放だ。強靭な心、強靭な魂がなければそれは不可能。君たちの心意気は素晴らしかった。しかし、まだ甘い。ただの一度も心意技を使ったことの無いものが、全力で魂を開放すれば、その者の脳、そして肉体に与えられるダメージは莫大なものになるだろうね」
ヒースクリフが剣を構え、ふり払う。
「さらばだ、コクライ君。君はこのSAOで最も強い刀使いだったよ」
闇の波動が、放たれる。それは、かわすことのできない致死の刃となって、コクライを切り裂く―――――
その寸前に、何者かによって阻まれた。インパクト。赤い髪が、細い四肢が宙を舞う。
「――――ヒバナ……!?」
ヒバナだった。ヒバナが、消えるはずのない麻痺を振り払って、コクライを守った。それは、強い願いの力。小さな小さな、心意の力。
「コク、ライ……よかった……」
「おい、何でだよ!!何で俺をかばった!!」
コクライが、ヒバナの手を取って叫ぶ。ヒバナの肩口から腰にかけて、真黒い傷が開いていた。ヒバナに与えられた痛覚は、今までキリト達が味わってきたもののどれよりも大きいだろう。
それでいて、ヒバナは気丈に微笑む。
「ばか……決まってるでしょ……!コクライが……光紀のことが、大好きだから、だよ……」
「なら……なら、逝くなよ!!俺を置いて逝くな!!ヒバナ……火花!!」
ヒバナのHPゲージは、ゆっくりと、0に向かっていく。後三十秒ほどでその肉体は消滅し、それから十秒後、彼女の意識はこの世から永遠に消滅する。
「……させない」
キリトが、絞り出すようにつぶやく。
「させない!!」
ヒースクリフの方を睨み付けたキリトが叫ぶ。
「させない!お前を倒して、この世界を終わらせる!!」
キリトの剣に、真黒いオーラが宿っていく。それは、
「なるほど……君も心意を使うか。よかろう。来るがいい」
ヒースクリフもまた、暗黒の過剰光を自らの剣にまとわせる。キリトが憎しみのこもった目でヒースクリフをにらみ、飛び掛かろうとしたその時――――
「だめです、キリトさん!!」
「――――!?」
突然後ろからかかってきた声に、キリトは止まった。
シェリーナが、キリトを呼び止め、叫ぶ。
「憎しみや怒りじゃ、ヒースクリフさんは倒せません!!」
「……シェリーナ……」
「キリトさん」
すぐ近くで聞こえた声に振り向くと、ドレイクが立っていた。ドレイクの
「私たちの希望を、かき集めてください。《希望》の心意なら、《絶望》の……破壊の心意を乗り越えられるはずです」
ドレイクの言葉を受けて、キリトは目を閉じる。意識を、自分の脳の奥深く……魂の領域へと向ける。
「キリトさん!!」
「キリト!!」
「負けるんじゃねぇぞ!」
「いけぇ《黒の剣士》!!」
「リア充爆発しろ!!」
「キリト君――――――!!」
「お、お、オオオオオオオ!!」
カッ、と目を見開く。キリトの右手、真っ二つに折れてしまった《エリュシデータ》を包み込むかのように、純白の光が集まっていく。それだけではない。左手の白い剣、《ダークリパルサー》が、とくん、とくん、とほのかな温かさと共に光を放っている。
「キリトさん。あなたが一人ではないことを、決して忘れないでください。《怒り》《絶望》はたった一人でも行える
ドレイクの声が、耳に入ってくる。キリトは、全身に集まってきた暖かい光をかき集めて、剣にのせる。
「うぉおおお!!」
地面を蹴る。激しい光と共に、キリトの姿が粒となって消える。そして、ヒースクリフの目の前で実体化した。
「――――来たか」
「おぁあああ!!」
キリトの二刀が、ヒースクリフに迫る。
「来るがいいキリト君!この世界の勇者よ!!」
ヒースクリフが、漆黒の魔剣を掲げ、攻撃を防御しようとする。しかし――――
「――――っ」
キリトの剣の軌道が、曲がった。そして、狙うのはコクライがつけた鎧の傷跡――――
「何!?」
「りゃぁぁっ!!」
キリトの左手の剣が、右手の剣が、それぞれつきこまれる。
「ぐはっ……」
上空に弾き飛ばされたヒースクリフ。そしてそれを追撃するように、ドレイクの掌から光の波動が放射される。キリトの四肢が、真紅の光に覆われる。そしてそれもまた、光の粒となってキリトの周りを覆っていく。
「システムのオーバーアシストが、キリト君の心意に共鳴しているのか……」
キリトの再びの踏込。光の粒となって、上空に飛び上がる。ヒースクリフの目の前に出現したキリトが、二刀を振るう。
「……」
ヒースクリフが、穏やかに目を閉じた。それは、全てをやり遂げた者の顔だった。
「ハァァァッッ!!」
二刀が、ヒースクリフの胴を切り裂く。光の斬撃は、ヒースクリフの胴体を切り裂いたのちも止まらず、真紅の城の天井を打ち抜き、どこまでも飛んで行った。
「空……」
シェリーナが、はっとしたように呟く。アインクラッドで初めて見る、空いっぱいの空。不思議な言い方になってしまうが、それ以外に表現を思いつかないほどひろい、広い空が、上空に広がっていた。
かつて、「空を飛んでみたら面白そう」とドレイクと話したことを思い出す。今、キリトとヒースクリフは、光の波動となってアインクラッドの空を高く、高く、飛翔していた。
ヒースクリフの身体が、数秒間止まった後、爆散する。彼の身体を構成していたポリゴン片と、粉々になった紅玉の破片が、ちりちりと雪のように待っていった。
同時に、ヒバナのHPゲージが、減少を止める。本来なら彼女が消滅すべき40秒は経過していたが、コクライの「ヒバナを死なせたくない」という願いが、彼女のHPの減少スピードを低下させていたのだ。
キリトの両手の剣から、光が消える。キリトの纏っていた過剰光も、その姿を薄れさせていった。
「キリト君!」
落下するキリトを、麻痺が解けたアスナが走り込み、受け止める。
「アスナ……」
「ばかっ!キリト君が死んじゃったらどうしようかと思ったじゃない!」
《攻略組》のプレイヤー達は、しばらくじっとしていた。静寂。不気味なほどの静寂が降りる。
「終わった、のか……?」
コクライが、ヒバナを抱きながら呟く。そして、それを裏付けるかのように、どこからともなく、その《音》が聞こえ始める。りんごーん、りんごーん……という鐘の音。何人かのプレイヤーが体を硬くする。それは、あの日……すべてが始まったあの日に、プレイヤー達を絶望に叩き落とした鐘の音と、同じ音。空が赤くなる。そこには注意を促すシステムメッセージ。すべてが、あの日と同じ。
しかし、
『……アインクラッド標準時、2024年11月7日、14時55分、ゲームはクリアされました。繰り返します。ゲームは、クリアされました。プレイヤーの皆さんは、順次ログアウトされます……』
一瞬の静寂の後、わぁっ!!!という歓声が上がった。キリト達の起こした奇跡によって、ソードアート・オンラインは二年の歳月を経て、遂にクリアされたのだ。
「大分ショートカットですけどね」
シェリーナは苦笑する。けれど、これがキリトだ。これがコクライだ。そして、ドレイクだ。無茶無謀、システムなんか気にしない、そんなバランスブレイカー達の起こした奇跡が、皆を救ったのだ――――
そんなことを考えていた時。
突然、シェリーナの視界が、ホワイトアウトした。
***
「……ここは?」
次に目を開けた時、そこは、ガラスのような透明な板の上だった。透明な板は左右後どこまでも広がり、前方向にだけ、少し歩いたことろで途切れていた。
「なんだ、ここ……」
聞こえてきた声に振り向くと、そこにはキリト、アスナ、コクライ、ヒバナ、そして、ドレイクの姿があった。
「あ、みて、アインクラッドだ」
ヒバナが指を刺した方向には、崩れていくアインクラッドが存在した。
「なかなかに絶景だろう」
突然の声にびっくりして全員一斉にそちらを向く。そこには、白衣姿の男が立っていた。茶色い短い髪に、線の細い学者然とした顔。真鍮色の瞳だけがアバターと変わらない。
「茅場晶彦……」
キリトが呟く。シェリーナでも知っている。SAOの開発者にして、先ほどキリト・コクライ・ドレイクと死闘を演じた、茅場晶彦だった。
「君たち英雄の心の力によって、魔王は敗れた。主を失った城は崩れ去る。先ほど、生き残った六千四百人余りのプレイヤーすべてがログアウトされた。君達6人だけとは、少し話がしたくてね。時間を取らせてもらった」
茅場晶彦は、穏やかな微笑を浮かべて言った。
「見給え、この空を。どこまでも広がる異世界の空を。私は、ほんの幼いころから、この異世界を……浮遊城に辿り着くことだけを夢見ていた。キリト君、コクライ君、ドレイク君――――」
キリト、コクライ、ドレイクに向き直った茅場は、続ける。
「君たちのおかげだ。私は、何か大事なことを忘れていた気がする。《雌雄剣》は、たった一人ではゲームをクリアできないことの象徴……私自身が、そう言ったばかりだったのにな……。私は、たった一人で生きていくことに慣れすぎていたのかもしれない」
「……けれど、あなたを一人にしないように、何人もの人が頑張りましたよ。あなたの恋人だった方も、現実世界であなたを支えていてくれたんでしょう?」
ドレイクの問いに、どうしてしっているのだ、と言わんばかりの苦笑を浮かべる茅場。
「そうだったな。君は……浅木先輩は、そんな人間だったな。ドレイク君、現実世界に戻ったら、浅木先輩に『ありがとう』と伝えてくれないか。彼女が君という『介入者』を連れてこなければ、私はこの先もずっと一人で生きていくことに固執していたかもしれない。それと……」
今度は、キリト、コクライに。
「私の現実世界の体を世話してくれていた人は、神代凜子という。キリト君、コクライ君。もし、彼女にあったら、私が『すまなかった』、と。そして『ありがとう、愛している』と言っていたと伝えてくれ。彼女が私を愛してくれたように、私も彼女を愛していた、そう気づいたのだよ――――」
「……自分で言えばいいのに、面倒くせぇ奴だな」
「どうも、この口からその言葉が出せなくてね」
「甲斐性無しだな。俺もだけど」
コクライ、キリトともに苦笑。アスナとヒバナも笑う。もちろん、シェリーナとドレイクも。
浮遊城の崩壊は、まだ見ぬ階層まで達していた。もうすぐ、完全に世界が消え去るだろう。
「さて、私はそろそろ行くよ。本物の異世界で、一足先に君たちを待っている――――さらばだ」
そうして、茅場の姿が金色の光と共に消えていく。
後には、キリト、アスナ、コクライ、ヒバナ、ドレイク、そしてシェリーナの六人だけが残った。
「……お別れだな」
「そんなことないよ。今度は、皆で現実世界で会おう」
キリトが言うと、アスナが言い返す。
「じゃぁ、ここでみんなの名前、教え会おうぜ」
「リアルネームわかんないと困るでしょう?」
コクライとヒバナの声に、全員で頷く。驚くべきことに、ドレイクも。
「じゃぁ、俺から。俺は……
「え!キリト君年下だったの?私は、
「次は俺だな。俺は
「あたしは
次は、シェリーナの番だった。この二年間、使うことの無かった現実世界の、自分の本当の名前を彼らに教える。
「私の名前は、
そして、最後――――ドレイクの番が来た。彼が、世界で彼と、彼の《母》の二人しか知らない、現実世界の名前を言う。
「本当の名前は、私も忘れてしまいました。けれど、今の私の、現実世界での名前は……
ぺこり、と頭を下げたドレイク―――
「シェリーナ……詩絵里さん」
「詩絵里でいいですよ……はい、何でしょう」
「ありがとうございました。私……俺は、あなたの言葉で救われて、《人》として生きていけるようになりました。このお礼は、いつか必ず、精神的に……っていうんでしょうか」
賢者が、覚えたてのネットスラングを使う。詩絵里も笑って、はい、と答える。
「次は、現実世界で会いましょうね」
「はい。必ず」
頷きあった直後。アインクラッド最後の階層、第百層が消滅した。そして、世界が光に包まれる。二年を過ごした、《ソードアート・オンライン》の仮想世界が、ゆっくりと、消滅していく―――――
最後にもう一度、
かくして、二年に及ぶデスゲーム、《ソードアート・オンライン》の攻略は終幕を迎える。だが、物語は終わらない。次なるステージへの扉が、開き始めていた……。
過去最大級に長かった……いつもこのくらい長く書ければいいのになぁ。善処しよう……。
これにて、SAO編が終幕となります。次回から『剣の世界の魔法使い』もALO編に入ります。wind000さん、いよいよ(次回は出てきませんが)オリキャラの出番が来ますよ!
これまでドレイク君やシェリーナを応援してくださった皆さん、ありがとうございました!今後も『剣の世界の魔法使い』をよろしくお願いします!!