ソードアート・オンライン~剣の世界の魔法使い~   作:神話語り

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 『剣の世界の魔法使い』、第Ⅱ章『妖精郷の魔法使い』開始です。よろしくお願いします。


第Ⅱ章:妖精郷の魔法使い
レイト・プロローグ


『この放送を見て、聞いている諸君らに告ぐ。私の名は茅場晶彦。VRMMO《ソードアート・オンライン》を管理できる唯一の人間だ。諸君らに重要な知らせがある――――』

 

 それは、二年前のあの日、テレビから、ラジオから、携帯から流れ出た言葉―――――

 

 それが伝えたのは、SAOのデスゲーム化。仮想世界での死が、本物の死になる。天才科学者の、倖世紀最大級と言われるサイバー犯罪であった。

 

 

 ***

 

 

 高坂尚太郎(こうさかなおたろう)。27歳。12歳年の離れた妹と暮らす、医者だ。彼の父親は入院施設を備えた中型総合病院の院長をしており、三年前から尚太郎も父の病院で働いていた。しかし、二年前の五月、交通事故でその父も亡くなってしまった。母親を幼いころに亡くしている高坂兄妹は、二人ぼっちになってしまった。

 

 尚太郎は父の病院を継ぎ、昨年から院長をやっている。親の七光りだけではなく、研修医時代から『天才』と言われながらも秀才並みの努力をして手にした、医者としての実力が、重鎮たちをして『院長にふさわしい』と言わせしめたのだ。

 

 尚太郎の妹は優秀な女子学院に通っていた。成績もよく、いつかは一流業界へと出ていけるだろうと期待されていた。尚太郎も彼女がそれを望んでいると思っていたし、全力でそれを支援するつもりでいた。

 

 だが。

 

 父の死去から数か月、11月のことだった。妹は、世間を騒がせたあの『《ソードアート・オンライン》事件』の被害者となってしまった。父が死んでから、妹はどこか現実から逃げるような表情をすることが多くなっていた。《仮想世界》という場所に入って、現実から逃げたかったのだろうか。

 

 そんなことを考えて、もしかしたら彼女は、実は自分たちが思っていたような未来は望んでいなかったのかもしれない、と初めて感じた。

 

 幼少のころから、いわばキャリア組への階段だけを上らせ続けられてきた妹は、実はそんな未来ではなく、普通の女の子としての未来を望んでいたのかもしれないと。実際、尚太郎は妹がSAOのハードである《ナーヴギア》や、SAOソフトを購入していたことすら知らなかったのだ。今まで何をするにも親や自分の許可を得てからだった彼女の、初めての自分だけで起こした行動だった。それは、戒めを解こうとする感情の表れだったのかもしれない。

 

 尚太郎は強く後悔した。なぜそれにもっと早く気付いてやれなかったのだろうか。もし、あの仮想世界から彼女が帰ってこなかったら、自分は父や母に顔向けできないと、自分を責めた。

 

 2022年の出来事だった。尚太郎、25歳の時だった。

 

 それから一年が経過して、《ソードアート・オンライン》及び《ナーヴギア》の発売元である《アーガス》から賠償金が支払われた。莫大な金額を損失し、アーガスは倒産した。アーガスの全研究は、大手電機会社《レクト》に引き継がれた。

 

 2023年、レクトからナーヴギアの後継機たるVR機器、《アミュスフィア》が発売された。殺人機械たるナーヴギアの《殺人》をつかさどる高出力電波発生機能は排除され、極限まで安全性を追求したアミュスフィア。同時に、VRMMOの新たなパッケージが発売される。

 

 《アルヴヘイム・オンライン》。妖精の国、という意味の、恐らく北欧神話からとったのであろうその題名を冠するゲームは、《フライト・エンジン》によって《飛行》が可能であった。それによって消滅すると思われていたVRMMOは再び勢いを取り戻したのであった。

 

 最初、尚太郎はそれらに一切の興味を向けなかった。興味を向けてしまえば、強い憎悪の感情がにじみ出て、呼吸が苦しくなってしまうのだ。しかし、何カ月もたつに至って、ふと、『妹が感じようとした世界はどんなものだったのだろうか』と思うようになった。妹のいる仮想世界と同じ、仮想世界の中でなら、彼女に寄り添っていられるように感じた。

 

 妹のいる世界を、彼女の感じている世界を見てみたい。

 

 ただの自己満足であると分かってはいても、尚太郎は「思ったらすぐに行動に移したい」タイプの人間であった。それは、妹にも言えることだった。そっくりだな、と陰で苦笑しながら、尚太郎は電子の世界に足を踏み入れるようになった。

 

 仮想世界の妖精郷は、尚太郎に当初の目的を忘れさせてしまいかけるほど刺激的だった。妹は、二年間もこんな世界で暮らしていたのか、と。そして、初めて妹に、「ずるい」と思ってしまった。妹が置かれている状況は、笑い話ではないのにもかかわらず。

 

 あれから1年。2024年の11月7日のことだった。

 

 病院に収容していたSAO事件の被害者が、目を覚ましたというのだ。それだけではない。全国でSAOプレイヤーが目を覚ましていた。それは、SAOが、始まりの日に開発者たる茅場晶彦がテレビやラジオ放送で全国に伝えた、SAO事件の解決条件、即ち、『デスゲームのクリア』がなされたという結果であった。

 

 だが。

 

 目覚めるはずの妹は目を覚まさなかった。最初は、ログアウトのタイムラグによるものなのかと思っていた。だが、いつまでたっても妹の意識は戻らなかった。彼女だけではない。病院に収容していたSAOプレイヤー数人が、目を覚まさなかった。

 

 政府の役人の話によると、300人余りのプレイヤー達が、SAOから帰還していないという。

 

 妹……高坂詩絵里(こうさかしえり)の意識は、どこへ行ってしまったのか――――

 

 

 ドレイク、と名乗る青年が訪ねてきたのは、それから一か月後、今から一週間前の出来事だった。




 今回はプロローグなので少し短めでした。次回から本格的にALO編に入っていくつもりです。

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