ソードアート・オンライン~剣の世界の魔法使い~ 作:神話語り
お待たせしました、『剣の世界の魔法使い』最新話の更新です。尚太郎さんのシスコンっぷりがなんかひどいような気がしてきた今日この頃。
雪のような白さを讃えた肌は、二年にわたる昏睡の影響でより白さをまし、美しさよりも病的さを感じさせる色となってしまっている。《あの世界》では肩ほどまでだった金色の髪は長く伸び、シーツ上にたれている。今は見ることはできないが、目をあけると宝石のように綺麗な青い瞳を見ることができるという。
その美しい顔を覆うように、無骨なヘッドギアがかぶさっている。フルダイブシステム対応ゲームハード、《ナーヴギア》。へりに掘り込まれた小さなライトの点滅が、この少女がいまだ生きていることを伝えている。この状況では、この隆線型のヘッドギアは、まるで茨の冠の様にも見えた。
「眠り姫、という言葉がこれほど似合う人は、いないのでしょうね……」
シェリーナ……
「……ドレイク君」
後ろから《あの世界》での名前を呼ばれ、振り返ると、そこに立っていたのは白い白衣をまとった、優しそうな顔の茶髪の男……高坂
「尚太郎さん、お久しぶりです」
「ああ、立ち上がらなくてもいいよ。詩絵里も誰かが隣に座ってくれていた方が安心するだろうから……」
尚太郎が『ドレイク』の名前を知っているのは、賢者自身がそう名乗ったからだ。
二カ月近く前、SAOはヒースクリフの敗北、キリトの勝利で二年間の幕を閉じた。最後に茅場晶彦と会話を交わし、その後、キリト、アスナ、コクライ、ヒバナ、そしてシェリーナと現実世界の名前を教え合って、あの《剣の世界》を後にした。
現実世界にもどったドレイク。一年以上久々に見た浅木家には、大型の実験機器と、そこに取り付けられた《ソウル・スキャナー》以外の姿はなかった。《母》たる浅木藍の姿はなく、人間はたった一人、賢者のみであった。
幸いなことに、《エネマリア》の住民34人のフラクトライトは消滅することなく残されていた。一つひとつをフラクトライトから従来のデータに移し替え、携帯端末にダウンロードすることに成功したのが、一か月前のことだった。
キリト――――
キリトが総務省の役員から入手した詩絵里の住所・連絡先をたどって、彼女の兄である尚太郎に連絡を取ることに成功したのは、《エネマリア》メンバー全員をダウンロードし終えたその直後あたりのことだった。
あれから一か月。もう1月も半ばを迎えている。賢者に肉体を《提供》した少年はSAO開始時は十六歳。現在の賢者は18歳という事になるが、一応頭脳だけならば最高峰の量子脳力学者である浅木藍の教育によって相当な水準を獲得している。春からは、SAOダイブ時に高校三年生以下だったSAO
とにかく、賢者は尚太郎と連絡を取り、こうして毎日のように詩絵里の病室に見舞いに来ている。尚太郎はSAO時代の詩絵里のことを知る賢者や、何度か見舞いに来ているキリトのことを歓迎し、いろいろ話を聞いたり、聞かせたりしてくれている。
尚太郎は詩絵里の点滴の交換などを一通り終えると、賢者の隣に座った。
「……初めて現実世界の詩絵里さんを見た時に、SAO時代の容姿がカスタマイズによるものでないと知って驚きました」
「ドレイク君は律儀だな。詩絵里って呼び捨てにしてやっていいんだよ。本人にもそう言われたんだろ?……まぁ、僕も詩絵里が生まれた時には驚いたよ。うちの家系、たまに出るらしいんだよね、金髪碧眼が。僕はその時もう12歳だったからね……」
尚太郎は詩絵里とかなり年が離れている。高坂兄妹の父母は高校卒業後すぐに結婚、その時点ですでに、妻は尚太郎を身ごもっていたとい。いわゆる『できちゃった婚』という奴だったらしい。三十を過ぎてから詩絵里が生まれ、直後に病気で母親は亡くなったという。
「正直、本人は結構気にしてたんだ。この容姿。かなり人目を引くからね……父が女子高に通わせたのも、無用なプレッシャーを掛けないようにするためだったのかもしれない」
「なるほど……でも、この姿を隠していても、結構人目は引いていたみたいですよ。SAO中盤は、《顔無し姫》と言う異名がついていたらしいです」
「へぇ、詩絵里に二つ名ねぇ。うわ、何か似合わない」
「そうですか?俺は綺麗な名前だと思いますけどね……」
賢者は、この世界に戻ってから時折《俺》という一人称を使うことにしている。自らの肉体である少年のことを知りたい、と言う感情があるからだろうか。
「尚太郎さんは、ALOプレイヤー、何ですよね?」
「一応ね。しがないただの雑魚プレイヤーさ……。スキル性MMOって言うんだっけ、ああ言うの。だからプレイ時間の差とかあんまり関係ないはずなんだけどねぇ……。現実世界の身体能力も低いからなかなか伸びなくてね。こんなことなら魔法職一本で行くんだったな……」
ALO。《アルヴヘイム・オンライン》。北欧神話の妖精郷の名を冠するそのVRMMOこそ、今大ヒットしているゲームタイトルだった。
SAO事件によって莫大な損害を被った《アーガス》は倒産し、消滅した。ナーヴギアは前期回収。VRゲームは廃れ、消滅すると予想されていた。しかし、アーガスの研究結果やVR部門を買い取った《レクト》という会社が、そのVR界に救いをもたらしたのだ。余談ではあるが、レクトのCEOはアスナ――――結城明日奈の父親である。
レクトがナーヴギアのデータを解析し、その子会社である大手電機メーカーが『今度こそ安全』と銘打って発売したのが《アミュスフィア》。ナーヴギアの何十倍もの安全装置機能を備え、当然どう改造してもナーヴギアのような高出力電気パルスは出てこない。
そのアミュスフィア用のゲームソフトとしてリリースされたのが《アルヴヘイム・オンライン》、通称ALOだというわけだ。
ALOはスキル性MMOと呼ばれるタイプのゲームだ。SAOなどはレベル性と呼ばれる、いわゆる『レベル』という奴でプレイヤーキャラクターの強さが決まる。賢者のアバターであった《ドレイク》が、終盤の攻略参加で絶対的な強さを誇ったのは、彼に搭載されたイレギュラースキル《魔法》と、最初からレベル200というほぼ最高位のレベルであった事によるものだった。
それに対しALOはスキル性。その名の通り、プレイヤースキル、即ち現実世界のプレイヤーの実力によって能力が左右される。プレイ時間を確保できない人々にもやりやすいように、という配慮なのだが、従来の画面の中でのやりとりとは違って、VRMMOは自分の肉体を使って実際に戦うのだ。現実の身体能力もそこそこなければ、スキル性はレベル性よりもハードだ。
そんなALOが大人気を博している理由は、その画期的な一つの機能によるものだった。
すなわち、《飛行》。
もともとは体に障害のある人を助けるためのVRソフトの研究過程で生まれた試作品だったらしいが、それをレクトが徹底的に研究し直し、アーガスの研究データにあった飛行シューティング系VRゲームのデータと合わせて開発した《フライトモジュール・エンジンユニット》なるモノによって、《飛行》を可能にしている。
本来VRMMOは『リアルすぎる』が故に、現実世界でできないことは大抵できない。そんな中で、現実では不可能な『自力での飛行』は瞬く間に多くのプレイヤーを魅了した。
「最初は詩絵里の近くにいる気分を味わえればそれでよかったんだけどね……いやぁ、どうしてなかなか。ドはまりしちゃってね。あはは……」
「そうやってVRMMOプレイヤーは増えていくんでしょうね。これからも」
その虚ろりゆく世界を、詩絵里に見せることはできるだろうか。彼女に早く目を覚ましてほしい。賢者は、今日もそれを強く願う。
この世界でも、心意の力が形にできれば――――。そう何度思った事か。
《母》である藍は、『心意の力は現実世界でも人間の行動力に力を与えている』と言った。確かに、人間の行動は全て『心の問題』、すなわち心意によってコントロールされる。
しかし、現実世界では仮想世界での心意技の様に、何でも自由に改変できてしまうものではない。それがうれしくもあり、悔しくもあり……。
「それじゃぁ、そろそろ俺は行きます」
「ああ、ありがとうドレイク君。また来てくれると詩絵里も喜ぶよ」
「はい」
ドレイクは尚太郎にぺこりと頭を下げると、静かな音を立てて開いた病室のドアから、ひんやりとした廊下に出た。
キリト経由で連絡先を交換しておいたエギルから、呼び出しがあったのはその次の日のことだった。
ALOの中で、アスナの姿をした人物が目撃された、という情報だった。
次回はいよいよALOの中の話になる予定です。更新はまた遅くなると予測されますが、気長にお待ちいただけると助かります。