ソードアート・オンライン~剣の世界の魔法使い~ 作:神話語り
妖精の国の夜は短い。一日が16時間しかないためだ。プレイ時間が稼げない若者にも時間によって変化するマップやモンスターを楽しんでもらおうという配慮だが、ファンタジー的な意味合いがなくもない。古代ケルトの神話によれば、妖精の国たる『常若の国』では時の流れが遅い、という。もっとも、このALOの元ネタはケルト神話ではなく北欧神話、それに時の流れは遅いのではなく速いのだが――――。
そんな話を、モントズィヘル……通称モンドは、少し後ろを歩く相棒から聞いた。外面だけ見ればいかにも図書館のヌシ、と言った感じのその少女は、地味な外見に似合わず戦闘力はかなり高い。もっとも、外見はこの世界での戦闘力に一切関与しないのだが。
彼女の名前はミッドナイト。スプリガンの剣士だ。
スプリガン、と言う種族は、もともと傭兵稼業を全体で営む種族である。特にこれと言った特徴がないのが特徴の、いわば『器用貧乏』で、加えて魔法の使用も苦手と言う、言ってみれば『ハズレ仕様』であるスプリガンは、ALOの九つの種族…
ミッドナイト……通称ミディも、そんなプレイヤー達の一人だ。モンドの種族はインプだが、彼は種族とは関係なしに行動するはぐれ者、《レネゲイド》と呼ばれる存在だった。とある事件がきっかけで、同じく《レネゲイド》…もっとも、スプリガンは種族全体がレネゲイドのようなものなのだが…であるミディを『雇う』形で、彼女とパーティーを組んでいる。
モンドもミディも、自らの種族とは縁を切っている。この小さなパーティーが活動する目的は、単なる暇つぶし・金稼ぎである。インプ・スプリガンの両種族は、どちらも暗視能力に優れている。インプは本来ならば飛行が不可能な洞窟系ダンジョンの中で、ほんの短時間だけだが飛行することができるし、スプリガンは隠しアイテムやトラップなどの介助を得意とする、旧世代のRPGなら『
モンドとミディは、日々攻略済みダンジョンなどに潜って、隠しアイテムや宝箱を漁り、暇なら隠しボスでもぶったおす、と言った生活を送っている。あと、たまにPK。
ALOは、『PK推奨』というオンラインゲーム、それもVRMMOならさらに珍しい形態をとっている。VRMMOでPKが少ない理由は、ひとえに二年前の『あの事件』のせいである。モンドにとっては長年のファンであった茅場晶彦の起こした驚愕すべき事件であると同時に、朝寝坊して最寄りのゲーム店でソフトが売り切れていなければ、巻き込まれていた可能性の高い事件でもある。
かの『悪夢のゲーム』と呼ばれる《ソードアート・オンライン》では、《ゲームオーバー》が現実での死に直接つながる。つまり、
ALOのグランドクエスト、『世界樹攻略』は、九つあるうちのたった一種族しか達成することができない。並み居るライバルたちを倒し、世界樹の頂上までたどり着くには、PKを行わなければ進めない場面もある。特にスキル性MMOたるALOでは、
本来ならばインプ領やスプリガン領、中立域に多い遺跡系ダンジョンのモンスターとしか戦わないモンド達であるが、たまに、実を言うと結構頻繁に、レアアイテムを取りに来た相手とかち合うことがあるのだ。
大抵の場合はどちらかが譲って解決する。しかし、それは相棒の機嫌がいい時だけだ。
地味な外見からは想像ができないが、ミディはかなりの
大ぶりの剣と、呪、爆発系などの闇属性・火属性魔法を使って狂ったように戦うミディは、一部では結構名が通ったプレイヤーである。ちなみにモンドもそれなりに名は通っており、《
そんなモンドとミディであるが、現在はインプ領、スプリガン領、ウンディーネ領を挟んだところにある遺跡ダンジョン、《せせらぎの遺跡》にやってきている。つい最近クリアされたばかりのこの広大なダンジョンは、いまだ多数の未開拓エリアを残しており、レアアイテムや宝箱もどんどん出現する。
すでに一時間近くこのダンジョンに籠ってアイテムを採掘しているが、そろそろころあいかと思っている。近頃張り合っているシーフギルドが、そろそろ活動時間となるのだ。
「……ミディ、そろそろ帰ろうぜ。奴らに見つかっちまう」
「同意。だけどハリウッド風コメントうざい」
「がはっ!これでも精一杯空気を和ませようという魂胆だというのに……」
「言い訳もウザい」
モンドは反論するのをあきらめ、アイテムストレージを一瞥すると、立ち上がった。同時にミディも立ち上がる。
「よし、行くか!」
「待って」
ミディが鋭く言い放つ。
「プレイヤー反応。人数は7。識別結果、ギルド《ゴールデンスコップ》と断定。不覚……活動時間がいつもより早い。距離演算結果より、戦闘は不可避と判断」
「マジかよ!」
ギルド《ゴールデンスコップ》は、近頃対立しているシーフギルドだ。人数は少なく、種族はまばらな《無法者》としての側面の方が強いギルドである。『欲しいアイテムは力づくで奪い取る』を信条としており、モンド達ともレアアイテムを巡って何度か争ったことがある。ミディの暴走によって全戦闘を勝利で乗り切っているが、今回もそうだとは限らない。6人しかいないはずの彼らが七人目のメンバーをそろえてきている、という事は、もしかしたらミディ対策を施してきている可能性も高い。
「ミディ、気を付けろよ。いつも通りにいくとは限らない」
「いつもの軽口はどうした?」
「……そうだな。よっしゃ、俺様の華麗な剣技、見せてやるとしますかね!!」
腰に差した二本の得物を抜き放つ。刀と短剣の融合したような剣は、くせ者の隠しボスからドロップした一級品だ。ALOでは双剣使い・二刀流使いが少なく、モンドに《双剣士》などと言う異名がつけられているのも、扱いが難しいと言われる双剣を使いこなしているからだ。
もっとも、モンドと言えどもさすがに《二刀流》の再現は不可能である。二刀流と双剣の大きな違いは、武器のサイズにある。双剣は基本、短剣や小刀を使うが、二刀流は片手剣、それもかなりの長さの物を使う。相当な反射神経がなければ、重量のある二刀を同時に扱うのは難しいのだ。
さて、対するミディは背中につるしていた大剣を抜き放っていた。大剣は本来、ノームなどの種族に多い巨人型プレイヤーに使いやすいように作られた武器だ。ミディはスプリガンとしては小柄な方で、ALOプレイヤー全体からしても身長の高さは中堅ほどであろう。
そんな彼女が、身の丈に迫ろうかと言うほどの大剣を操れる理由は、彼女の非常に高いステータスのせいである。彼女の鍛え上げられた《両手剣》スキルが、かなり大型の大剣すら悠々と装備できるほどの補正を掛けている。
しかしいかな彼女でも、あれほど巨大な大剣を自由に振り回すのは不可能だ。だが、バーサクモードとでもいうべき状態に入った彼女は、自らの限界を超えた戦闘力で敵を薙ぎ払っていく。今回もあっさりと敵を蹴散らしてくれるだろう。
「来る。後三秒で視界に入る」
「了解」
それだけの短いやりとりを交わし終えたころに、暗視能力にたけたインプの眼が、暗がりから近づいてくるプレイヤーの集団を見つけた。
リーダーはサラマンダーの男である。その横に、インプやスプリガン、ウンディーネ、シルフなどのメンバーが並ぶ。今日はいつもの六人に加えて、見慣れない灰フードのプレイヤーが一人いた。
《ゴールデンスコップ》リーダーのサラマンダーの大剣使いは、イラつきを隠そうともしない表情で、モンドを見た。
「また貴様たちか、《双剣士》に《狂剣》」
「そりゃぁこっちのセリフだ。あんたら、今日は狙ってきただろ」
リーダーが非常に分かりやすい表情を浮かべる。
「……いつまでもやられっぱなしと言うわけにはいかんぞ。……やれ!」
「「応ッ!」」
《ゴールデンスコップ》のプレイヤー達が各々の剣をとって向かってくる。その瞬間。
隣で、殺意、とでもいうべきものが爆発した。ミディの体から、魔法の光とは違う影のような揺らめきが立ち上る。
「……ふざけてんじゃねぇぞ屑どもが」
ひび割れた怪物のような声が彼女の口から漏れ出る。彼女の口は狂喜の笑みで歪められ、目にはらんらんと破壊願望が宿っている。
「その程度の屑装備であたしに勝とうなんざぁ――――」
大剣を地面から抜き放ち、振り回す。瞬間、《ゴールデンスコップ》のプレイヤー達は弾き飛ばされ、防御力に乏しいものはHPを散らして消滅する。《エンドフレイム》と呼ばれる炎が去った後に残ったのは、《リメインライト》と言う小さな残り火だけだ。
「二百万年と九十日早いわぁッ!!」
返しの刃でもう一撃。踏込を加えた一撃は、先の攻撃を耐えきったプレイヤー達を持残り火へと吹き飛ばした。
「ちぃ……っ」
残されたリーダーがしかめっ面で剣を抜こうとする。その時、今まで喋っていなかった最後の一人が口を開く。
「リーダーさん、退いてくださいませんかね」
「なんだと……!?貴様、俺に向かってなんて口を……」
「この程度の相手に負けるような奴、ちょっと失望ですね。あんたは黙ってその辺で見ていてください。僕があの《狂剣士》を倒すところをね」
何、と心の中で驚愕する。ミディの強さはかなり知られたものだ。彼女は名実ともにALOトッププレイヤーであり、名前だけなら聞いたことがある、というプレイヤーも多い。そんなミディを前に、あの灰色フードのプレイヤーは自信満々に『勝てる』と言い切ったのだ。
「言ってくれるじゃねぇか……どれほどのモノなのか」
ミディが大剣を構え、疾風の速さで突進する。
「見せてもらおうじゃないのさぁああああ!!」
普通なら、反応できない速度である。モンドは灰フードのプレイヤーが吹き飛ばされる姿を想起した。
しかし。
「がはっ――――!?」
吹き飛ばされたのは、ミディの方だった。
「ミディ!!」
「ぐぅ……」
ミディのHPが大きく減っている。曲がりなりにもミディはトッププレイヤーだ。それを、あっさりと吹き飛ばすなど……。
モンドは灰色フードのプレイヤーを驚愕と共に見つめ、そして二度目の驚愕に襲われた。
「その剣は……!!」
灰色フードのプレイヤーの手に握られていたのは、まばゆい光を放つ剣だった。
あの剣を持っているプレイヤーは、ALO広しといえども一人しかいない。そして、モンドはその名前に聞き覚えがあった。
「《
「おや、ご存じだったとは恐悦至極」
ベルゲルミル。現在最高難易度と言われる地下ダンジョン、《ヨツンヘイム》をたった一人で横断し、帰還したただ一人のプレイヤー。種族はケットシーだが、本来彼の種族が得意とするテイミングは行わず、使い魔もいない。
彼もレネゲイドであり、雇われ稼業をしていると聞いていた。つまり、彼は《ゴールデンスコップ》の護衛として雇われ、ここにやってきていた、という事だ。
「い、いいぞベルゲルミル……やってしまえ!!」
リーダーが押さえきれない歓喜の色をにじませた声で叫ぶ。しかし。
「うるさい、ウザい、邪魔の三拍子ですね。死んでください」
ベルゲルミルは、躊躇なく、雇い主である《ゴールデンスコップ》リーダーを斬った。伝説級武器の一撃が直撃し、リーダーのHPはあっけなく吹き飛ぶ。後には赤いリメインライトが残るのみであった。
「……質問してもいいか」
「はい。何でしょう《双剣士》さん」
人のよさそうな、しかし狂気的な感情をにじませた声でベルゲルミルが言う。
「どうして、ミディを狩ろうとするんだ。あんたの実力なら別に……」
「こんなことしなくても、ですか?」
くすっ、とベルゲルミルは言う。顔を上げたベルゲルミルのフードの下からは、歪められた口が見えた。
「《狂剣》はね。たった一人、僕の経歴に泥を塗った相手なんですよ。僕が対人戦で負けたのは、後にも先にも一年前の戦いのみ……」
一年前、と言うと、モンドがレネゲイドとなり中立域をさまよっていたころだ。同じく中立域で彷徨っていたミディを『雇って』コンビを組み始めたのも、あのころだ。
「さて、《双剣士》。そこを退いてくださいませんか?僕の目的は《狂剣》だけ。彼女を明け渡せば、あなたに危害は加えませんよ」
「……いやだね」
モンドは二本の短剣を逆手に構える。モンドの戦闘スタイルだ。
「ほう、なぜです?」
「俺の目の前で仲間を殺させるわけがねぇだろ?」
本当はそれだけではないが、大本の理由はそれだ。モンドがレネゲイドになった理由にも直結する。
ベルゲルミルは残念そうな気配をにじませると、
「そうですか。では……死んでください」
恐ろしいスピードで飛び掛かってきた。ミディよりも速い。もはや化け物の域に足を踏み入れているのではないか。だとしたら、モンドに勝ち目はない――――
それでも。
それでもやるしかないのだ。
「俺様の華麗な剣技、見せてやるぜっ!」
モンドは自分を奮い立たせるようにお決まりの文句を言う。ミディは気を失っており、いつもの突込みは来ないが、それが逆にミディを守る、という目的を明確にモンドに叩き込む。
クラウ・ソラスの光り輝く刀身が、モンドの短剣の刀身よりもはるかに速いスピードで迫る。モンドの首が飛ぶ、その直前。
「ごはっ!?」
突然、ベルゲルミルの背中に、爆発が起こった。
「何だ!?」
戦闘中という事も忘れて、二人そろって攻撃の方向を見る。
そして見た。
赤銅色のローブに身を包んだ、見慣れない男性プレイヤーの姿を。彼は右手に握った、これも見たことの無い
再びの閃光。ベルゲルミルに爆発攻撃。
「ぐっ……!!」
ベルゲルミルのHPバーがかなり大きく減っている。それよりもモンドを驚愕させたのは、男の放った魔法だった。
本来、ALOで魔法を放つときに出現するスペルワードでできた魔方陣が、展開しない。ALOではそれはほぼ有り得ない事である。
「ちぃ……」
ベルゲルミルも何ワードか呟く。すると、彼の周りにスペルワードの魔法陣が展開され、同時に彼の姿が光に包まれ消える。聖属性魔法による
後に残ったのは、赤銅色の魔法使いと、モンド、そして気を失ったミディだけである。
「……」
魔法使いは何秒かモンド達を凝視すると、くるりと背を向けて歩き出した。
「あ、あのっ!」
モンドは反射的に叫んでいた。魔法使いの足が止まる。
「あなたは……何者だ?あんな魔法の出し方、見たことがない……」
魔法使いは、数瞬迷ったそぶりを見せてから、ギリギリ聞き取れる音量の声で、小さくつぶやいた。
「そうですね……《
そろそろここに書くことがなくなってきました……。今後のALOでのドレイク君や尚太郎さんの道のりに出現するプレイヤーやモンスター、ダンジョンなどの設定も募集しております。ダンジョンやフィールドはアルンからウンディーネ領寄り、遺跡遅滞・山脈地帯・湿地帯・氷雪地帯などのものを募集しています。
感想・ご指摘・ご意見等ありましたらよろしくお願いします。