ソードアート・オンライン~剣の世界の魔法使い~   作:神話語り

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 お待たせしました。『剣の世界の魔法使い』最新話です。今回は説明会的な物になるので短いです。原作と違うところと言えば、ドレイク君が挟まってるあたりくらいですかね。次回からきちんと妖精郷にダイブする予定です。


妖精郷へ

 エギルこと本名アンドリュー・ギルバート・ミルズは、台東区御徒町の裏通りで、小規模な喫茶店兼バーを営んでいる。アインクラッド第五十層主街区《アルゲード》の裏路地にあった雑貨屋を彷彿とさせるたたずまいのその店の名前は《Dicey Cafe(ダイシー・カフェ)》。

 

 決して広いとは言えず、昼間は来客も少ないが、全ての調度品が見事な艶を放つまでに綺麗に整えられているし、また、夜には固定客もたくさんやって来るようだ。

 

 賢者(つかさ)が店に入ると、既に先客がいた。黒い髪、黒い眼、黒一色のコーディネートに、やや透明感のある、少女めいた線の細い少年――――キリトこと桐ケ谷(きりがや)和人(かずと)だ。

 

「ドレイク」

「お久しぶりです、キリトさん」

 

 和人は時折詩絵里(しえり)の病室に見舞いに来る。賢者はやることが特にないため、基本一日中詩絵里の病室にいることが多い。キリトとコンビを組んでいたころのシェリーナの話を聞かせてもらったこともあった。

 

 和人が住んでいるのは埼玉県川越市。ここからは少し遠い。全速力で走ってきたのだろう。微弱ながら疲労の色が見える。

 

「エギルさんも」

「ああ。まぁ、とりあえず座れや」

 

 エギルに促され、カウンター席のキリトの隣に腰かける。キリトはさっそく話を切り出した。

 

「で、あれは何だ」

 

 エギルはすぐには答えなかった。彼はカウンター席の下から長方形のゲームパッケージを取り出すと、キリトの方に滑らせた。それは、見覚えのある代物だった。

 

「《アルヴヘイム・オンライン》、ですか?」

「ほう、知ってたか、ドレイク」

「ええ。知り合い……ぶっちゃけていってしまうと、シェリーナのお兄さんがプレイヤーの方です」

 

 詩絵里の兄・高坂尚太郎はALOプレイヤーだ。賢者は彼からALO、加えて、そのハードである《アミュスフィア》について大まかなことを聞いていた。

 

「《アミュスフィア》はナーヴギアの後継機です。基本的には高出力マイクロウェーブ放射機能、即ち電子レンジ機能の撤去、及び過剰気味ともいえるセキュリティ機能の追加を施しています」

「へぇ……ってことは、これもVRMMOなのか……」

 

 表紙には、オーソドックスなファンタジー風の衣装を着た男女が、満月に向かって剣を掲げているイラストが描かれていた。大きく目を引くのは、二人の背中から生える一対の透明な”翅”だった。

 

「アルヴヘイム……」

「北欧神話に登場する妖精郷の名前ですね」

 

 北欧神話……ゲルマン神話の中でも、特に北欧地方で語られた物語のことである。九つの世界が舞台であり、神々の住む《アースガルズ》、旧神の住む《ヴァナヘイム》、妖精の国《アルヴヘイム》、人間の国《ミッドガルズ》、小人族の国《ニダヴェリル》、黒妖精の国《スヴァルトアルヴヘイム》、氷と水の国《ヨツンヘイム》、巨人族の国《ニヴルヘイム》、そして炎の国《ムスペルヘイム》。それらを貫いてそびえるのが、《世界樹》ユグドラシル。ALO内にも当然、ユグドラシル…ゲーム内では『イグドラシル』という発音の方を採用しているらしい…が存在する。

 

「妖精の国か……ほのぼの系のRPGか?」

「いいや。ある意味えらいハードだ」

 

 エギルは言いながら、コーヒーの入ったカップを和人の前に、紅茶の入ったカップを賢者の前に置いた。

 

「いただきます」

 

 賢者は紅茶をすする。喫茶店のオーナーたるエギルの腕前はかなり良く、深い味わいが舌に広がった。

 

「ハードって、どんなふうに」

 

 和人が隣で、エギルに尋ねる。エギルは、にやりと笑うと告げた。

 

「どスキル性。プレイヤースキル重視。PK推奨」

「ど……」

 

 和人が絶句する。

 

「いわゆる《レベル》という物は存在しないようです。各種スキルは反復練習によって熟練度が上がっていき、上がるごとに装備できるアイテムが追加されていくようです。どうやらアイテムには『適正スキル熟練度』という物があるようで。それと、スキルの数もSAOよりは統一されている感じがありますね」

「グラフィックもSAOに迫るレベルだそうだ」

「そりゃすごいな」

 

 それには賢者も共感する。SAOは、かの狂気の天才茅場晶彦が、その一生を費やして完成させた存在だ。あれに迫るだけのグラフィック性能をたたき出せるシステムを自力で作ろうとするのは相当困難なはずだ。浅木藍は加速世界のグラフィックデータをかなり前から作成していたらしい。ALOがリリースされたのは一年ちょっと前の話だ。茅場や藍以外のデザイナーが、短時間でそこまでの性能のゲームを作れるとは正直信じがたい所がある。

 

「PK推奨っていうのは?」

「プレイヤーは九種類の妖精種族の中から一つ、自分の種族として選択するそうです。ゲームの目的は世界の中心にある《世界樹》の頂上まで行くこと。そこに最初に辿り着いた種族が、実質ゲームをクリアした、と言ううことになるそうです。世界樹の頂上に辿り着けるのはたった一種族だけ。つまり、他種族間では戦闘が起こるのは当たり前、という事なのでしょう」

「なるほどな……けど、それほどマニア向け仕様なら、あんまり人気は出ないんじゃないのか?」

 

 和人が眉を寄せながら言う。しかし、エギルは笑みを消さないままに言った。

 

「それが、今大人気なんだとさ」

「そりゃまたどうして」

「《飛べる》からです」

「《飛べる》?」

 

 和人は賢者の方を向くと、聞いた。

 

「フライト・エンジンと言うシステムを搭載しているらしく、慣れると補助コントローラーなしで自由に飛行ができるようです」

「へぇ……」

 

 和人が驚いたように声を漏らした。VRゲームが開発された当初から、飛行型ゲームと言うのは多数存在した。しかしその中には、一つとして自力で空を飛ぶものは存在しない。理由は一つ。リアルの人間は飛べないからだ。VRゲームは、『リアルすぎる』がゆえに、リアルの人間にできないことは基本的に不可能になっている。

 

 SAOの高レベルプレイヤー達は、圧倒的な跳躍力で飛行に等しい距離上空にとどまれたが、あくまでそれはジャンプの延長でしかない。ドレイクの《魔法》に、一種類だけ飛行を可能にするものがあったが、それも《飛行》と言うよりは《浮遊》という表現が正しい。

 

「――――まぁ、このゲームのことは大体分かった。本題に戻るが……あれは何だ」

 

 和人がエギルに低い声で問う。アスナに似た少女が目撃された、と言う話についてだろう。和人はエギルからその画面が写された写真を送られていたらしい。エギルが、その実物を取り出す。

 

 そこに写っていたのは、黄金の鳥かご。それも、かなり巨大だ。これでは、猛禽一羽すら閉じ込められないだろう。そして鳥の代わりにそこに閉じ込められていたのは、栗色の長い髪の毛の少女だった。

 

「似ている……アスナに……」

「そっくりですね」

「やはりそうか……ゲーム内のスクショだから解像度が足りないけどな」

 

 和人がせかすように言う。

 

「早く教えてくれ。ここはどこなんだ」

「その中だよ。ALOの」

 

 エギルはとんとん、とALOパッケージをたたいた。

 

「さっきドレイクが言ったように、全プレイヤーの当面の目的は、世界の中心にある《世界樹》の頂上に辿り着くことだそうだ。何でも、滞空時間制限っていうのがあるらしくて、地上から普通に飛び立ったんじゃぁ一番下の枝にすらたどり着けないらしい。しかし、馬鹿な事を考える奴はどこにでもいるらしくてな。多段ロケット方式で世界樹に肉薄した奴らがいるらしい」

「ははは、そいつら馬鹿だけど頭いいな」

「キリトさんもやりそうですね」

「シェリーナみたいなこと言うなよ。しかもなんかバカにしてないか?」

「気のせいですよ。言い方はシェリーナを真似しました」

 

 あくまで朗らかな賢者の言葉に、キリトがむっとしたような表情でうめく。

 

「とにかく、目論見は成功して、かなり世界樹まで近づいたらしい。結局枝に到達することはできなかったが、多段ロケット最後の一人が証拠に、と写真を何枚も撮ったそうだ。その中に写りこんでたのが……」

「黄金の鳥かごってわけか……」

 

 和人は顔をしかめて言う。そして、ゲームのメーカーの名前を見た和人の顔が、さらに顰められた。

 

「……《レクト・プログレス》……」

「おい、どうしたキリト」

「SAOのサーバーを管理している会社ですね」

「いや、なんでもない……」

 

 しかし和人の表情は、顰められたままだった。

 

「なぁエギル、他の話はないのか。旧SAOプレイヤーが、アスナの他にも目撃されたって話は……」

「いや、無いな……と言うか、それがあったら確定だろうが。お前らじゃなくて警察か何かに電話してる」

「そう、ですか……」

 

 意気消沈したような声を出したのは、賢者だった。アスナがいるのであれば、詩絵里……シェリーナがいる可能性も捨てきれない、と考えていたのだが……。

 

「エギル、このソフト、貰って行っていいか」

「ああ、構わないが……行くのか」

「ああ。この目で確かめないと。ハードを買わなくちゃな」

「ナーヴギアで動きますよ。規格は同じですから」

 

 賢者の言葉に、そりゃたすかる、と和人は言った。

 

「死んでもいいゲームなんてぬるすぎるぜ」

「情報代はツケておいてやる。その代り、必ずアスナを取り戻せよ」

「ああ。いつかここで、皆でオフをやろう」

 

 言うが否や、和人は店を出ていった。

 

「……さて、ドレイク」

「はい」

「お前は、どうするんだ」

「……アスナさんがいるのであれば、シェリーナがいる可能性も高いでしょう。ただ、《ドレイク》の力は、この世界……《魔法》が存在する世界では、半減してしまう」

『否、違うな』

 

 その時、賢者の携帯端末から声がした。端末の画面には、黒い髪、黒い眼の男の顔が映し出されていた。

 

「黒龍王……」

『お前は1人だけではないのだろう?安心しろ。我々も付いている』

「……はい」

 

 賢者は微笑むと、エギルにごちそうさまでした、と言い、店を出た。

 

「ALO、ですか……尚太郎さんからソフトを借りて、アドレスを解析しますかね……」

 

 賢者の心は既に決まっていた。

 

 ナーヴギアをかぶる和人……キリトより、自分の方が何倍も危険だ。なぜなら、既に役目をすべて終えた存在を動かすのだから。

 

「お願いしますよ、《ソウル・スキャナー》」




 時系列的には前回より少し前になります。

 さて、いよいよ次回から『剣の世界の魔法使い』ALO編も本題に入ってまいります。ドレイクはシェリーナを取り戻せるのか?

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