ソードアート・オンライン~剣の世界の魔法使い~   作:神話語り

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 お待たせしました。『剣の世界の魔法使い』、最新話更新です。


妖精郷の魔法使い

 1月20日月曜日、午前11時30分。東京都と埼玉県の境界線近くにある小さな家。そこが、賢者(つかさ)の住む、浅木藍の研究所だ。もっとも、現在は彼女の姿はなく、住んでいるのは賢者だけだが。

 

 賢者の右手には、レッドメタリックの塗装を所々に施された、銀色の無骨なヘッドギアが握られていた。《ソウル・スキャナー》……そのヘッドギアパーツである。

 

 《ソウル・スキャナー》は、人間の魂を解析し、仮想世界に送り込む、ナーヴギアの上位機器だ。世界には恐らくたった一つしか存在しない。浅木藍が、その総力を結成して作り上げた機械だ。

 

 ソウル・スキャナーは、本来ならSAO消滅時に、全ての役割を終えるはずだった。それを無理やり起動させたことで、性能はナーヴギアより少し高いあたりまで落ち込んでしまっている。《心意技》を使用するにあたって一切デメリットがないことが利点であったこの機械の性能は、ほぼすべて押さえられてしまったと言っても過言ではない。

 

 それでも、全てのゲームに置いて共通する圧倒的なキャラクターデータ作成能力は失われてはない。事情を説明してある尚太郎のALOディスクを借りて解析したアドレスから、妖精郷へのゲートを開く。

 

「《アドバンスド・リンク》」

 

 ナーヴギアのそれとは異なる、機動コマンドを唱える。すると、賢者の五体感覚は遠ざかり、代わりに、新たな肉体が与えられる感覚。

 

 それは、かつて金色の髪の少女から、《剣の世界の魔法使い》と呼ばれた、《ドレイク》の名を持つ青年のものに酷似していた。いや、八割型同じであろう。大きく異なるのは耳だ。妖精であることを表す尖り耳に変わっていた。

 

 服装もALO世界であまり気にされない程度のものに変わっている。ALO世界では基本的に『翅』があるため、背中のパーツには大きく穴が開いているのが特徴だ。ドレイクのローブも例外ではなく、背中に切れ込みが走っている。

 

「これが、新しい《ドレイク》ですか……」

 

 ドレイクの右手、左手、そして首には、それぞれ十個ずつの小さなクリスタルをつないだアクセサリが装備されていた。ネックレスのそれは二つが大きい。これらは、《エネマリア》のモンスター達の《フラクトライト》を一時的に召喚するための無制限使用可能アイテム。特に大きいふたつは黒龍王とディスティのものだ。この世界ではSAOの様に拠点を持つこともできないし、かといって三十体余りのモンスターを連れ歩くわけにはいかない。特に、黒龍王とディスティはSAO世界のボスモンスターなのだ。

 

 ディスティは本来ならばただのAIに過ぎないが、ソウル・スキャナーのローカルスペースにあった、余分なフラクトライトに彼のデータを転写することで、他の《エネマリア》メンバーとそん色ない存在となっていた。

 

 そして、これらのデータが、かつてのSAO時代の物から一切変更されていないことから、この世界が妙に高性能である理由をうかがい知れる。

 

 恐らく、ALOはSAOサーバーのコピーなのだ。今頃キリトのステータスデータはSAO時代のモノと統合され、彼は自分の《娘》たるユイと再会していることだろう。

 

「さて、どうしますかね……」

 

 尚太郎には、ALOの案内を頼んでいた。幸いにも本日、1月20日は、彼の営む病院の診察定休日だった。あまり大きな病院ではないため、入院施設も小さい。長い時間は不可能であるが、キリトと待ち合わせることにしている《世界樹》があるという町、《央都アルン》までの道案内をして貰えるくらいには時間があるらしい。

 

 彼が選んでいる種族は水妖精(ウンディーネ)。ウンディーネ領にほど近い中立域で落ち合おうという事なのだが、人目を避けるべく最寄りのダンジョンに出現した所、遺跡型のダンジョンに出現してしまったらしい。遺跡型ダンジョンは一般的に非常に入り組んでおり、どこにどう進めばいいのかさっぱりわからない。

 

 と、そこで、ドレイクはマップデータにアクセスすることができることに気が付いた。SAOと同規格のこのゲームは、どうやら一般のプレイヤーだけでなく、ドレイクの性能も上書きしたらしい。

 

 これで、SAO時代の《剣の世界の魔法使い》と同程度の性能を確保することができた。とりあえず、ALOでは普通に《魔法》があるため、特異性がないことを除けば、ドレイクはこの世界でもトップクラスの性能を保持できているはずだ。

 

 それに、もしもの時には《エネマリア》の仲間たちがいてくれる。可能な限り彼らに頼るようなことはしたくないが、彼らの存在があるだけ、『一人ではない』と安心することができた。

 

「そういえば、私の種族は何なのでしょう」

 

 ALOでは、プレイヤーは九つの種族を選んでゲームをプレイする。ドレイクはダイブ時に種族選択のタイミングがなかったために、自動的に種族が選択されたものと思われる。ドレイクはステータス・ウィンドウを開くと、その上部に表示された種族名を見て……凍りついた。

 

 【種族:アルフ】

 

 そこには、はっきりとそう書いてあった。

 

 アルフ。それは、この世界の全プレイヤーの目標となる、第十の種族だ。世界樹の上に存在する神都に住まうという、光の妖精たち。《妖精王オベイロン》《妖精王妃ティターニア》らもこの種族を持つと言われている。アルフは滞空時間制限なしに自由に空を飛びまわることが可能であり、世界樹の頂上に最初に到達した種族は、アルフに生まれ変わらせてもらえるという。

 

 ドレイクは背中に力を入れてみる。すると、しゃらん、という涼やかな音と共に、洞窟内のためか光を放たない、白みがかった半透明の翅が出現した。翅の色は、シルフは緑、サラマンダーは赤、ケットシーは黄色、ウンディーネは青、ノームは茶色、インプは紫、スプリガンは黒、プーカはオレンジ、レプラコーンは銀色となる。ドレイクの翅はそのどれとも色・形共に異なっている。

 

「これは……飛行とかはしない方がよさそうですね」

 

 苦笑するドレイク。この翅を見せてしまったら、何をされるか分かったものではない。プレイ開始から五分とたたずに、ドレイクは翅を封印することを決定した。

 

「顔無しならぬ翅無しですね」

 

 かつて剣の世界で、シェリーナにつけられていた異名と響きの似た称号に、すこし心躍るドレイク。同時に、どうして自分はこんなにうれしいのだろうか、と疑問にも思う。

 

 とにかく、今はこの遺跡ダンジョンを出なくてはならない。マップデータによると、北東の方向にある通路が、外への脱出経路に最も近い。

 

「それでは行きましょう」

 

 ドレイクは通路に向かって歩き出した。

 

 

 通路の外に出ると、発光する水晶の淡い光が、ダンジョン内を照らしていた。通路には誰もいない。平日の真昼間であるこの時間、ダイブしているプレイヤーは少ないだろう。ひっそりしているのも当たり前と思われた。

 

 古代遺跡めいた…実際にはそれそのものの設定なのだが…ダンジョンを歩いていく。時折小さな横穴があったりして、入ってみたくなるのだが、今はダンジョンの外に出ることが再先決だ。もし、ALOの中にシェリーナが居り、彼女と、アスナを無事救出することができたあかつきには、尚太郎にこのダンジョンを案内してもらおうかな、と思う。

 

 しばらく進んでいくと、この世界に来て初めてのプレイヤー反応があった。マップに表示された位置は、ドレイクの現在位置より少し先、四つほど後の脇道の奥だった。そこに、プレイヤー反応が二つ。恐らく、ダンジョンのアイテムなどを採集しに来たプレイヤーだろう。ドレイクのマップデータアクセス範囲は通常のプレイヤーの索敵スキル範囲よりはるかに広大だ。向こうからはこちらはまだ見えないだろう。

 

「ふむ……」

 

 可能なら彼らとは遭遇したくなかった。ドレイクの特殊性を知らしめることになってしまうためだ。SAO時代、茅場晶彦=ヒースクリフに発見されずに暮らしてくることができたのは、《エネマリア》をはじめとする背景でしかないはずの《不可侵領域》のみで活動してきたからだ。しかし今は違う。ALOの規格からは逸脱した《介入者》、ドレイクの存在が公になってしまえば、GMからアカウントの停止処分などを食らう可能性もある。もっとも、ドレイクの場合はアカウント停止と言うよりは《アクセスアドレスの停止》とでも言ったことになるのだろうが……。

 

 少し遠回りになってしまうが、別の通路から出口を目指すことに決め、ドレイクがそちらに向けて歩き出そうとしたとき。

 

「っ!」

 

 マップデータに、新たなプレイヤーの反応。人数は先ほどの二人よりも多い、7人。表示されているアイコンは戦闘準備を行っていることを示している。周囲にモンスターの反応はない――――つまり、《PK》。

 

 この世界(ALO)では『PK推奨』のタグが示す通り、PKは常識、むしろ歓迎される行動だ。しかし、SAOで、本物の命を賭けたデスゲームで暮らした、それも一度『死んだ』ドレイクには、PK、特に多数で小数を追い詰めるようなPKは歓迎されざる行動だ。

 

 しかし、二人しかいない方、そのうちの片方が驚異的な強さのようだった。7人もいたプレイヤーはたったの二人に変わる。しかし、そのプレイヤーが生き残った二人の内片方に攻撃した瞬間、戦況が変わった。恐らく、生き残ったプレイヤーの内片方は、この世界のトッププレイヤーなのだろう。表示されたステータス値が恐ろしい高さである。

 

 このままでは、恐らく二人とも死ぬ。現実世界では死ぬことはない、と分かってはいるものの、ドレイクにはそれを眺めていることはできなかった。

 

「止めますか」

 

 アイテムウィンドウを開く。そこには、SAO時代となんら変わることの無い、長い《魔法の杖(ウィザード・ロッド)》の名が、しっかりと記されていた。ただのIDの羅列でしかなく、正式な名称がないこの杖だが、ドレイクは《魔法の杖》というシェリーナの呼び方が気に入っていた。

 

「よろしく頼みますよ」

 

 杖を握る。

 

「――――《テレポーテーション》」

 

 転移の魔法を使用する。瞬時に、遠く離れた戦闘の現場に辿り着く。今まさに獲物を刈り取らんとしていた、光る剣を持ったプレイヤーに、魔法――――《フレイム・エクスプロージョン》を放つ。もう一度。

 

「ちっ」

 

 光る剣を持ったプレイヤーは、恐らくこの世界の《魔法》を使用して、その場から逃げていった。

 

「……」

 

 襲撃されたプレイヤー、黒い髪を持った少年は、驚きに彩られた表情でドレイクを眺めた。

 

 ここに長くとどまるわけにはいかない。ドレイクは、先を急ぐべく彼に背を向けた。と、その時

 

「あ、あのっ!」

 

 少年が叫んだ。思わず立ち止まってしまった。

 

「あなたは……何者だ?あんな魔法の出し方、見たことがない……」

 

 どうやら、ドレイクの使う《魔法》と、この世界の《魔法》はかなり異なるもののようだった。やはり見せるべきではなかったか、と思う。しかし、かつて似たようなことをして、似たようなことを考えたことを思い出す。

 

 シェリーナを、あのアインクラッド第七十四層のダンジョンで助けた時。あの時と同じように、ドレイクはこの少年を助けたのだ。

 

 シェリーナと同じように、この少年とももう一度会う時が来るかもしれない……ドレイクは、無意識のうちに、こう口に出していた。

 

「そうですね……《翅無し賢者(ウイングレス・ワイズマン)》とでも名乗っておきましょうか」

 

 くしくもその名前は、シェリーナの《顔無し姫(フェイスレス・プリンセス)》に、よく似ていた。




 次回は尚太郎さんのアバターが登場する予定です。更新はまた日があくと予想されますが、気長にお待ちくださるとうれしいです。

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