ソードアート・オンライン~剣の世界の魔法使い~   作:神話語り

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 お待たせしました、『剣の世界の魔法使い』最新話更新です。

 最後の方非常に甘いのでご注意を。


モンドとミディ

「……どうしてこんなことになってしまったんでしょうね」

 

 ドレイクは思わずつぶやいてしまった。それを、少し後ろを歩く少年が耳ざとく聞きつけ、聞いてくる。

 

「なんすか、どうかしたんすか先生」

「いえ、何でもありませんよ」

 

 そりゃよかった、と、少年――――《アルヴヘイム・オンライン》プレイヤー、《インプ》の《双剣士(スワッパー)》モントズィヘル…モンドは、笑顔で元の位置に戻って行った。

 

 ここはドレイクが出現した遺跡型ダンジョン、《せせらぎの洞窟》の通路である。このまま道に沿って歩いていけば、ウンディーネ領側にダンジョンを出ることができる――――と、ドレイクはモンドから教えられた。モンドと出会ったのはつい一時間ほど前のことだ。多勢に無勢のPKを受けていたところを、偶然助けてしまったのがことの始まりだ。ドレイクのアバターは《エクストラアバター》と呼ばれる特別なもので、簡易的なGM機能を有している、俗にいう《スーパーアカウント》という奴である。そのせいなのか、どのVRMMOでも共通の《魔法》スキル、《エネマリア》レギオン、そして超高ステータスなどのいくつかの得点に加えて、恐らく管理者権限を持つプレイヤーデータに与えられるのであろう、ALO第十の種族《アルフ》の称号、滞空時間制限の無効がドレイクには与えられていた。

 

 この中の一つ、《魔法》スキルが、てっきりこの世界の《魔法》スキルと同じものなのだと考えていたら、全然違ったらしい。「見たこともない」魔法を繰り出し、圧倒的な実力を持つ敵を瞬殺したドレイクを見たモンドが、その強さにほれ込んで「弟子にしてくださいっ!」とかいきなり言い出したのだ。

 

『……あの、私は武器スキルは使えませんが……?』

『それでもいいです!弟子にしてください!』

『……あの、私はこの世界の知識が皆無ですが……?』

『それでもいいです!弟子にしてください!』

 

 モンドにとって重要なのは、ドレイクが「強い」ことらしい。結局押し切られて、こんな状態になっている。

 

「(まぁ、彼がいることで様々な情報が入ってきたりもするんですが……)」

 

 このダンジョン、《せせらぎの洞窟》は、ドレイクが思っていたよりも大きく、難しく入り組んでいたらしい。何も知らないドレイクがたった一人で歩いていたら、いくらマップデータがあるからといっても迷っていたに違いない。ちなみにモンドにはそれらの特権を「ちょっとしたバグ」として説明している。もっとも、モンドにとってそれは大した問題ではなかったらしく、「先生は強いんだからそんな事どうでもいいじゃん」といっていた。全く持って気楽な少年だ。もう少し怪しんでもいいものを……。しかしドレイクは、こう見えてこの少年が意外と思慮深いことをすでに見抜いている。

 

「先生、もうすぐ出口ですぜっ!」

「分かりました。ありがとう、モンド」

 

 明るい無邪気な笑顔を浮かべるモンドの背には、一人のプレイヤーが背負われている。

 

 彼女の名はミッドナイト。通称ミディ。モンドのパートナーであり、このALOでは一流のプレイヤーとして名が通っているらしい。

 

 モンドとミディはALOにおいて、《脱領者(レネゲイド)》と呼ばれる、種族に縛られない自由な存在だそうだ。事実、モンドはインプ、ミディはスプリガンという、それぞれ異種族だ。二人ともいわゆる《盗賊(シーフ)》系……いわばトレジャーハンターのようなことをしているという。ミディの過去に恨みがある相手が、先ほどのPKだった。戦闘時のショックでミディは現在気を失っており、モンドは、圧倒的な実力差のある相手を、ミディを守るためにたった一人で相手していたのだ。

 

「ったく……ミディの奴、そろそろ起きてもいい頃だと思うんだけどなぁ。失神落ち(ログアウト)しちまうぜ」

 

 そう言いながら、モンドはリアルでは一歳年下だという相棒を背負いなおした。

 

 ドレイクの視界に、ダンジョンの出口の灯りが見え始めた。これから自分は、まだ見ぬ妖精郷(アルヴヘイム)の大地へと踏み出すのだ。かつて、一人ぼっちだった自分を、金色の髪の《顔無し姫》が助けてくれたように。

 

「今度は私が、シェリーナを救いましょう」

 

 ドレイクは、ダンジョンの外へと一歩踏み出した。

 

 

 ***

 

 

「えーっと、サンプル23番……おっ、いい調子で出てるねぇ」

 

 柳井は目の前にある、クリスタルでできた脳髄を、ナメクジのような外観のアバター、その触手で撫でまわした。しかし、触手は脳髄を透過してしまう。それもそうだ。ここは仮想空間ではあるが、脳髄は電子映像でしかない。自らの上司である、天才科学者須郷伸之のチームメンバーとして、この《脳の記憶容量改変》実験に加わったのが三か月前。須郷伸之の側近たる数少ないメンバーにのみ教えられたこの実験は、その名の通り、《ナーヴギア》の《感覚アクセス》領域を、五感だけでなく脳のもっと奥深く……記憶や感情を記録する部分まで伸ばし、記憶や感情の改変を狙うという、非人道的はなはだしい実験だった。最初は柳井も乗り気ではなかったが、アメリカの企業が、柳井のような凡人なら、二百年は遊んで暮らせるほどの金を用意して実験の完成を待っていると聞いた瞬間、考えが百八十度回転した。三十路も半ばへと差し掛かった柳井にとって、成功すれば莫大なカネになるこの実験はまさしく天啓であった。何とかして研究チームの中でも最高峰の、この『ログインできる資格』を手に入れた(と言ってもほかにも結構いるが)柳井だったが、与えられたのはナメクジ型アバター。もっとも、ビジュアル的には問題があるこのアバターを、柳井は地味に気に入っていたりする。触手プレイできるし、とは柳井の心の声である。惜しむらくは、対象となる女性がいないことだが。

 

「それじゃーサンプル23番にスピカちゃんのデータをインスト――――ル!!っと」

 

 柳井が自分で組んだ仮想アニメのデータを、サンプルに流し込む。たちまち、脳が反応し、様々な脳波がサンプリングされる。興奮、歓喜、性欲そのほかもろもろエトセトラ。

 

「う~ん、いいねぇ。それじゃぁ、次のサンプル行ってみよっか……ん?」

 

 いまだにビクンビクンと反応を続ける脳から離れて、隣のサンプルに移動した柳井は、ふと、何か引っかかるものを見た気がして、一瞬立ち止まった。しかし、この《実験体格納室》にいるのは、ピンク色のナメクジが二匹。柳井ともう一人の研究員だけだった。

 

「気のせいか……」

「どうした?何かあったのか?」

「なんでもねーよ」

 

 相棒に声を掛けて、首をかしげながらサンプルの方に向き直った柳井は……目の前にいつの間にか立っていた少年を見て驚愕した。

 

「んなぁ!?」

「……」

 

 ぎろりとしたゾンビのような目の、灰色の髪をした少年。

 

「ななな何だお前は!どうやってここに侵入した!」

 

 柳井の叫びを意に介すこともなく、少年は右手を振るう。そこには、血に塗れた一本の剣が握られていた。それは高速で閃くと、柳井のアバターの、リアルの体とは『首』の部分と感覚が結合されているあたりを真っ二つに切り裂いた。

 

「ぎゃぁぁぁあ――――っ!」

 

 柳井達のナメクジアバターには、仮想世界で痛覚を遮断する《ペイン・アブソーバー》が付いていない。純粋な痛みが柳井を襲う。

 

「おい、どうし……ぐはぁっ!」

 

 相棒も同じように切られる。

 

「痛い、いた、い……」

 

 消えゆく意識の中、柳井が見たのは、猿のような身軽な動きで跳躍し、去って行く、謎の少年の姿だった。

 

 

 ***

 

 

 ミッドナイト……白鳥黒夜が知っている世界は、本当に狭い。両親はともに大学の教授をしており、家にいることはほとんどなかった。幼いころから黒夜はたった一人で、家の中にある巨大な図書室で読書をしながら過ごした。学校では根暗でオカルトチックな人間として認識され、ほとんど誰も寄り付かない存在だった。黒夜にとっても、それは別段苦になることでもなかった。黒夜にとっては『孤独』とは至極普通なことであり、全く気にすることなくすぐそばにある、唯一の友だったからだ。

 

 そんな黒夜に、初めて話しかけたのは、一歳年上の男子だった。黒い髪に、無邪気な顔、幼い言動……俗にいう『バカ』でしかないそいつと出会ったのは、黒夜が小学二年生の時。『そいつ』は友達と遊んでいる最中に、黒夜の家の敷地内にボールが入り込み、それを取りに来た様子だった。自分で言うのも何だが、白鳥家はまるでお化け屋敷のような風貌をしていた。黒夜もそこに住むにふさわしい(?)、まるで黒魔術師か何かのような風貌をしていたので、家と合わせてよく黒夜への陰口のネタであった。

 

 黒夜は、そいつにほんのちょっぴりだけ興味が出て、部屋のベランダから外に出てみた。

 

 そんな『お化け屋敷』にのこのこと入り込んできた『そいつ』は、自分を眺めている黒夜に気付くと、一瞬ビクっ!とした後、なぜかフレンドリーな笑顔と共に挨拶してきた。

 

「よっ!」

 

 と。

 

『……は?』

『いや、は?じゃねぇよ。あいさつしただけだぜ』

『……そう。じゃ、早く帰って』

『えーなんかひどい気がする』

『気のせいでしょ。ウザいし』

『傷つくなぁ。……なぁ、あんたは来ないのか?』

『……は?』

『いやだから、は?じゃなくて。あんたは外に出て遊ばないのかって』

『……別に。遊ぶような友達もいないし』

『そうなのか?』

『そう。皆あたしのことが嫌いだもの』

『ふーん。何でだろうな』

 

 そして、『そいつ』はとことこ黒夜のところまで近づいてくると……突然、黒夜の長い前髪をかき上げたのだ。

 

『こんなに、美人なのにさ』

 

 反射的にぶん殴ってしまった。『そいつ』が、一メートルほど先まで吹っ飛んでいくのに目もくれず、黒夜は部屋の中にすっこんでしまった。

 

 美人だ、なんて言われたのは初めてだった。いつだって自分は、ただの『怪しいオカルトマニア』でしかなかったのに。

 

 それからも、不届きな『そいつ』は幾度となく現れた。何度も何度も『そいつ』と会話をしているうちに、黒夜は、『そいつ』と話をするのが楽しみになっていた。

 

 あれから、ずいぶん時間が経った。もう『そいつ』は、あの『お化け屋敷』の庭には来てくれないけど、この妖精郷で、自分の隣で戦ってくれている。

 

 『ある事件』で領地を追い出され、一人ぼっちで彷徨っていたこの世界で、初めて『そいつ』を見つけた時に、泣きそうになったのを覚えている。『そいつ』は最初、自分に気付いていなかった。だけど、もう『そいつ』は自分のことを知っている。そして、黒夜――――ミディも、『そいつ』――――モンドを知っている。

 

 

 ねぇ、モンド――――三日月。あなたは、知ってる?あなたが、あたしのたった一人の『友達』で、『好きな人』だってこと。

 

 そんなこと、口が裂けても言えないけれど。

 

 ミディは、自分を背負って歩いてくれる『そいつ(モンド)』を、ちいさく、ぎゅっと抱きしめた。モンドに、起きているのを気付かれないように、そっと。

 

 だって、この時間が終わってほしくないもの。




 いや~、ベタ甘テキスト書くのたのしいわ~。

 何でいまさらになって作者は本性を発揮したのか?理由:……書くことなくなってきたんですよ。結果、こんな甘い展開へと。良く考えると明確な恋愛描写がある話って今回が初めてだったりするんですよね。後悔はしていないキリッ

 さて、次回はいよいよドレイク君達とメディクさんが合流。世界樹イグドラシル向けて出発します。そして世界樹を抜けだした”もう1人”のドレイク君。彼の正体は?彼の行方は?

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