ソードアート・オンライン~剣の世界の魔法使い~ 作:神話語り
走る。走る。走る。逃げる。逃げる。逃げる。
何から?――――分からない。どうして?――――分からない。それでも、走る。逃げる。
唯々、《彼女》の思いを届けるためだけに。
《彼女》と自分は、直接会った事はたった一度しかないと思う。しかし、《彼女》のことを、見たことがないはずの彼女の顔……笑顔、何気ないしぐさ、声、《彼女》の作った料理、共に戦った時の一体感……感じたことがないはずの全てが、なぜか自分の中にあった。そしてそれが、たまらなく愛おしい。『生きていた』ころも、こんなにも胸を焦がす感情に出会ったことはないと、自信をもって言える。
だから、今一度手に入れたこの命、《彼女》の為だけに使い尽くす。恐らく自分は、目的を達してしまえば再び消滅してしまうのだろう。それでもいい、と思う。《彼女》が望むままに。《彼女》を救える存在に、再びこの魂は受け継がれるのだから。
真っ白な空間。まるで現実世界だ、と思う。ここは仮想世界のはずなのに、こんな場所があるのは不自然ではないか。と。そこで気付く。自分が考えていることが、とても奇妙であることに。《仮想世界》も、《現実世界》も、自分には関係がない。そもそも覚えていること自体が奇跡だ。自分は一度死んだ。そして、別の人間になり替わった。
だが今、再び自分はこの地に舞い戻ってきた。《彼女》の願いを、新たな自分に届けるために。
そう、いま《俺》は、《私》に会うためだけに走っている。
ナメクジのような二匹の《観測者》を切り殺して、《彼女》の思いを届けるために走りはじめてから、もはやどれだけの時がたったのか。この真っ白な回廊は、時間の感覚が非常に狂う。右手には、かつて《剣の世界》で共にあった血塗れの片手剣。黒いフードの男の持つ、人斬りの魔剣に迫るほどの剣。あの人斬り包丁に敗北したのは、自らの力が足りなかったからだ。剣をうまく使えていなかったからだ。
だが――――今の自分は違う。
かつて使えなかった力、その全てが使える。今なら、どこへでも行けそうな気がしてならない。
さぁ、急げ。偽物の玉座が、追いついてきてしまう。
***
「ドレイク君!」
ウンディーネ領近くの中立域に入った瞬間、噴水広場に座っていた一人の男性プレイヤーが声を張り上げた。SAOと違って、
「こっちの世界でははじめまして。メディクだよ」
「ご丁寧にありがとうございます、メディクさん。ドレイクです」
尚太郎――――メディクと、ドレイクは右手でしっかりと握手をした。すると、後方からモンドが声を掛けてくる。
「先生、この人は?」
「私が《世界樹》をめざしている話はしましたね?この人は、アルンまでの案内役を引き受けてくださったんですよ。私の知人のお兄さんでして」
「へぇ……初めまして、モントズィヘルです。モンドって呼んでください」
モンドがメディクに右手を差し伸べる。すると、メディクは目を見開いて、
「驚いたな、《
しっかりとその手を握った。
「んで、今は寝てるこいつがミッドナイト。ミディって呼んでやってください」
「すごいな……ALO随一の有名人と、二人も同時に知り合いになっちゃったよ僕」
「ミディさんとはまだ知り合いとは言えない気がしますけどね」
実際の所、ミディはすでに起きていたのだが、この場にいる誰もがそれに気づかない。というか気付かせていないミディ。
「さて……モンド」
「はいっ!なんでしょうか先生!」
モンドが元気に敬礼的なことをする。非常に素直な少年だと思う。彼は領地を追放された《
「これから先、私たちは《世界樹》へと向かいます。道のりはどうやら厳しいようです。そのため、可能ならばモンド達にも付いて来てほしいのです。もっとも、いまだ目を覚ましていないミディさんのことが心配だと思うので、断っていただいても構わないのですが……」
「断るわけがないじゃないですか!」
モンドが叫ぶ。呆気にとられて口を閉じたドレイクが見たのは、きらきらと目を輝かせたモンドの姿だった。
「俺も《世界樹》に行ってみたいです。それに、俺達二人のもともとの稼業は傭兵ですし。お任せあれですよ」
「……そうですか。ありがとう。……それでは、よろしくお願いします、メディクさん」
「うん。わかった。それじゃぁ、まずはこの先の湿地帯ダンジョン、イシュ=チェル湿地を抜けなきゃなんだけど……」
そこでメディクは、一度言葉を切った。
「……どうかしたんですか?」
「いや、買い物とか先に済ませた方がいいかな、と思って」
「なんだ、そんなことですか!じゃぁ、俺らがさっき掘ってきたアイテムとか換金してきますんで、先生とメディクさんはちょっとその辺で待っててください」
モンドは背中のミディを下ろすと、全速力で走って行った。
五秒とたたずにミディが目を覚ましたのは、言うまでもない。
***
「なに!?侵入者だと?」
「へぃ、そうでして……」
「へ、ヘンな銀色の髪のガキでして!俺らの首はねてどっか行きやがりました!」
「馬鹿者!」
ぱしん!といういい音がする。仮想世界での痛覚を遮断する《ペイン・アブソーバー》のついていないナメクジアバターに、白い手がめり込んだ。柳井は激痛に仮想の顔をしかめて悲鳴を上げる。
「ぎゃぁぁっ!も、申し訳ありません須郷さん!」
「この世界で私を呼ぶときは《妖精王オベイロン陛下》呼べと言っているだろうが!!」
ばしん!と再びの張り手。柳井の頬はじんじんと痛み続ける。もしかしたら現実世界の顔も腫れているかもしれない。
上司であるこの男――――脳アクセス領域拡張研究の第一人者である
「で……?お前たちはそいつをみすみす取り逃がしたわけだ」
「ほ、本当に申し訳ありません、オベイロン陛下」
「ふん……まぁいいだろう」
オベイロン陛下と呼ばれたことが気に召したのか、須郷は先ほどよりは機嫌がよくなったようだ。
「研究サンプルに異常はないのだな?」
「ええ。全く。ただ……」
「ただ……?」
再びはたかれる、いや、もしかしたらもっと悪いことになるかもしれないが、この先を続けなければもっと厳しい罰が待っているはずだ。以前ミスを起こした同僚が研究対象にされて、痛覚だけを24時間脳に流し込まれたことがあるのを柳井はよく覚えている。
「ただ、サンプル№24、SAO時代のプレイヤーネーム《シェリーナ》に、何度感覚信号を流し込んでも、反応が返ってきません」
「ふむ……逃げ出した少年とは関係がないのだな?」
「ええ。サンプル№24の脳波は女性の物です」
「そうか……まぁいい」
須郷はにやり、と、
「処罰すればいいだけだ。……そいつの特徴を詳しく教えろ」
二時間後、ALOサーバーから新たなクエストが公表された。世界樹の上空都市から脱走した裏切り者のアルフを捕えれば、莫大な報酬を払う、という物だった。報酬は様々なアイテムに加えて、総額二百万ユルド、発見されておらず、情報は公式サイトにしかない《
クエストフラグとなった『裏切り者のアルフ』の似顔絵が掲示板に張り出された。そこに描かれていたのは、銀色がかった灰色の髪の少年だった。
ここ暫く話の内容が全く浮かばず……本当に申し訳ありませんでした。次回はwind000さんの送って下さったダンジョン、イシュ・チェル湿地への挑戦になります。名前が少し変わってしまったのですが、申し訳ありません……。
また遅い更新になると思いますが、気長に待っていただけると嬉しいです。それでは!