拳を極めしメイドさん   作:塞翁が馬

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腹の探り合い

 豪鬼が目を覚ましたという報を受けた指揮官。意識ははっきりしており、受け答えも問題なく出来るという事で、指揮官は早速豪鬼との対談を希望する。

 

 そして、豪鬼側もこれを承諾した。多くは語らない豪鬼ではあったが、その少ない言葉の端々から察するに、どうやら現在自分が置かれている状況を確認したいようだ。

 

 お互いに相手側の情報が欲しいという指揮官からしたらうってつけの状態…ではあるのだが、やはり未知の相手という事もあり、指揮官の護衛は必要だ。

 

 しかし、ここでとある問題が起きる。謎の強大なパワーを持ち、尚且つ強烈な威圧感のある相手との対談となると、それを抑える実力の無い者、あっても気の弱い者では向かないのだが、ベルファストは配下…と言う名目の僚艦を引き連れて遠征に出ていたクイーン・エリザベスの帰還の出迎えにメイド隊と共に赴いてしまい、不知火と夕張は長々と続けていた議論による疲労でダウンしてしまっている。勿論、既に恐怖にのまれている上に、そもそも戦闘艦ではない明石は論外だ。

 

 そして、他の候補に挙がりそうな艦も大体出撃していたり(新たに現れた鏡面海域が未だに規模を保ったまま存在している為、これの調査に多数の艦が取られている)遠征に出ていたりしていた。

 

 そんな中、上記の条件を満たしており、尚且つすぐさま動けそうな艦は、赤城、加賀、ローンの三隻なのだが…。この三隻…特に赤城とローンは、実力的には全く問題ないのだが、性格面に問題がある事で有名だ。とはいえ、他にいないのだからこの三隻を起用するしかない。

 

 かくして、指揮官は問題児達と共に謎の相手との対談に臨むのであった。

 

 

 

 

 

 執務室は今、筆舌に尽くしがたい程に重苦しい重圧感に包まれていた。

 

 豪鬼が執務室に入室したと同時に、豪鬼が普段から放っている殺気に赤城、加賀、ローンの三人が瞬時に反応し、瞬く間に室内は気の弱い者ならこれだけで殺せそうなほどの強烈な殺気の応酬合戦となってしまったのだ。

 

「……こいつ……っ!」

 

「………ふ……ふふ……」

 

「この、私が…。―――許せない……っ!」

 

 三人がかりでやっと互角という事態に、加賀は冷や汗を垂らし、赤城は暗い笑みを漏らし、ローンに至っては早くも爆発寸前の様だ。

 

 そんな敵愾心剥き出しの三人に、しかし豪鬼は平然とそれらを受け流し、椅子に座る指揮官を値踏みするように見下ろしている。

 

「ははっ、凄いな君は。この三人に睨まれて平然としているなんて、並の人間には不可能な事だよ」

 

「うぬこそ、この雰囲気の中でそんな軽口が叩けるとは、軽薄が極まっている様だな」

 

 そんな豪鬼に賞賛の言葉を贈る指揮官だったが、返ってきたのは痛烈な皮肉。瞬時に赤城がいきりたつが、一歩乗り出したところで指揮官に手で制せられていた。

 

「この喋り方が気に入らないというのなら悪かった。なにせ、周りは女の子ばかりなんでね。ただ、今更治そうなどとはサラサラ思わないから、申し訳ないけど少しだけ我慢してもらうよ」

 

「ふん…」

 

 そして、あくまでも冷静に…しかし強い口調で自分の意志を押し通す指揮官。それを受け、豪鬼は鼻を鳴らしはしたがそれ以上の行動はとらなかった。

 

「さてと…。こちらからも聞きたい事はあるけど、多分君の方が聞きたい事は多いんじゃないかな? まずは君から質問をどうぞ。答えられる事なら、何でも答えるよ」

 

 そう言って、手のひらを豪鬼に向けてくる指揮官。その何らかの意図があるのは見え見えの行為に、豪鬼の顔色には警戒の色がありありと浮かぶ。

 

「おや、どうしたんだい? 黙りこくってちゃ、こちらからは何も話せないよ。それとも、さっきの勢いは虚仮(こけ)で、実は臆病な性格だったとか?」

 

 黙り込んでしまった豪鬼に対し、指揮官はあくまで物腰の柔らかい笑みを崩さずに、先ほどの仕返しとばかりに分かりやすい挑発を投げかけてくる。線が細く、人当たりの良さそうな雰囲気を発している割には、なかなかどうして食えない人物の様だ。

 

「―――ここは何処だ?」

 

 挑発なのは分かっているが、何も聞かなければ埒があかない。そう判断した豪鬼は、おもむろに口を開いた。

 

「ここは対セイレーン用の前線基地だ。名前通りに、セイレーンの行動を監視、牽制し、必要とあらばセイレーンを撃沈するのがこの基地の役目だ」

 

 すると、指揮官は事細かに豪鬼の問いに答えた。答えられる事には答えるという指揮官の言葉には偽りは無いらしい。

 

「セイレーン…? なんだそれは?」

 

「寝ぼけているのか貴様。セイレーンを知らぬなどそんな訳が…」

 

 続く豪鬼の質問に、加賀が若干声を荒げて割り込んでくるが、これも指揮官が手で制止て強引に止める。

 

「少し昔に、突如として海の向こうからやってきた謎の軍団だ。通常の兵器では傷一つ付けられない難敵で、奴らと戦えるのは、艦船少女と呼ばれている者達だけだ。因みに、今俺の両隣にいるこの子達も、その艦船少女だ」

 

 そして、丁寧に答えていく指揮官。その中で、ほんの微かにではあるが、赤城、加賀、ローンを解説している時に、誇らしげな表情になったのを豪鬼は見逃さなかった。

 

 視線を上げ、指揮官の左右を固めている三人を一瞥する豪鬼。入室した時から只者ではないのは豪鬼も気付いてはいたが、何やら特殊な事情がある様だ。

 

 しかし、今はそれは置いておく。それよりももっと大事な用件が豪鬼にはあるのだ。

 

「何故、我はこの様な姿をしているのだ?」

 

 再び視線を指揮官の方へ向け、改めて問い質す豪鬼。己の道を極めるのに性別などは関係ないが、体格が以前と全然違うというのはやはり問題だ。最悪、戦い方を根本から見直す必要すらあるのだから。

 

「うん…? 質問の意味が分からないな。それが君の姿じゃないのか?」

 

 だが、豪鬼の質問に指揮官は渋い顔をする。どうやら、豪鬼の身体が女性化している件についてはこの基地は無関係の様だ。

 

「ただ、君は突如現れた鏡面海域から救出されている。そして、その海域を作ったのは先ほど言っていたセイレーン達だ。もし今のその姿に違和感があるのなら、セイレーン達を問い質せば何かわかるかもしれない。まあ、素直に教えてくれるとは思えないけどね」

 

「ならば、そ奴らから強引に聞くまでだ」

 

 そう言って、指揮官に背を向ける豪鬼。

 

「次にそのセイレーンとやらが見つかった時は我にも知らせろ。この拳で、洗いざらい吐かせてやる」

 

 それだけを言い残すと、豪鬼はさっさと執務室を出て行ってしまう。その後姿を、指揮官は興味深そうに、赤城と加賀は訝し気に、ローンは憎々し気に見つめ続けるのだった。




アズレンにドルフロ、花騎士にスマブラSP。そして小説執筆。やりたい事は一杯あるけど仕事の疲れもあって、その全てに手が付かない…。

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