「うーん、綺麗な花がいっぱいだぜぃ」
《フローリア》へとやって来た俺は目の前に広がる花畑を見て呟く
キリトにはあんなこと言っちまったが、もうちょい言い方ってのがあったかもしれないな。いや、言い方も何もあいつの御目当ての物を俺が貰うってんだからあんまり関係無いか
花の絨毯の上に腰を下ろして、更に寝転がって空を見上げる。本日は晴れなり、しかし何時もより今日は冷え込む
「ホント、よく出来てるよな」
アインクラッド自体は城だから、上に見える空は本当は上の層の壁なんだろうけど、雨が降るときは雨が降るし、雪が降ることも去年はあった。キリトに聞いたことがあるが、アインクラッドの四季は向こう………つまり、外側と同期してるらしい。風やら雨やらという気候パラメータが山程あるんだと。すっげぇな
「待たせたナ、ター坊」
「おーう、俺も5分くらい前に来たところだぜ」
考えに耽っていると頭上から声が掛けられた。俺がここで待っていた人物であるアルゴだ
「そう言う時は『俺も今来たところだ』って言わなきゃ女の子にモテないゾ?ター坊」
余計なお世話過ぎるアルゴの忠告、それに俺はこう返すのだ
「残念ながら俺には好きな人がいるのでモテなくてもOKですぅ」
「…………それ本当カ?」
あれ、意外な反応。口元がちょっとニヤけてるから情報として売り出すつもりか?金にはならんだろうに
「嘘に決まってんじゃん?」
ま、嘘だから良いんだけどな
「なんダ、つまらないナ」
「そう言うなよ。てかさ、ター坊って言うのやめない?なんか違和感あるんだけど」
「じゃあタカちゃんにしようカ?」
「ター坊でいいや」
タカちゃんは………ちょっとねぇ?
俺は起き上がってポケットを探り予め用意しておいたコル金貨二枚を一気に弾いた。それぞれ別方向に飛んだが流石敏捷極振りのアルゴ、素早い身のこなしできちんと回収していく
「キリトが狙ってるクリスマス限定Mobについて、それで教えれるだけ教えてくれ。出現場所とか、NPCから得られる情報全てだ。重要な部分をしっかり要点纏めて言えよ」
「この金額じゃあ大した情報は教えられないナァ」
む………人の足元見やがって
「もう一枚追加」
ピン、とポケットから取り出した金貨を弾く
「もう一声」
「しゃあねぇなぁ」
俺は態々メニューを開き、金貨数十枚の入った袋をアルゴに投げつける。暫く飯は味気ねぇパンオンリーだチクショー
「こんなにはいらないんだガ……」
「そんだけお前を信用してんだよ。…………んで?」
俺はアルゴに情報を催促する。それを見るとアルゴは肩を竦めて口を開いた
「背教者《ニコラス》はモミの巨樹のある場所に現れル。情報屋の間では色んな座標が出回ってるかラ、どのモミの木かはわからないゾ。なんせ階層が指定されていなイ」
「あぁん?アインクラッドってそんなにモミの木があったのか?」
「沢山、って程でもないゾ。これが座標ダ」
「サンキュ」
アルゴが手早にツリーの座標が書かれた紙を手渡してくる。それを広げて見てみるに、確かにそこまで多くはなさそうだ
これ以外にもあるとして、未だ解放されていない層はないだろうからな…………《年一》と言うこともあってそこまで下だとも俺は思わない。去年のクリスマスは四層まで解放されていたから、今年から情報が出回ってる以上四層から下もない
だとすると実質四十五層のうちのどれか
情報屋が調べたってことはこれら以外にある可能性は捨てるか………
「この座標、キリトは?…………って、聞くまでもねぇか」
あいつが三日前にもなってこんなこと調べてないはずがねぇ
「弱点とかは?」
「NPCからの情報でハ、武器は斧ダ。弱点は斬属性、戦闘パターンの情報は全くなイ」
「じゃあどっかのモンスターと戦闘パターンは似てるってわけか………」
ふむ………キリトは片手用直剣だからそこら辺は有利だな
「成る程、じゃあ最後の質問だ
…………噂の蘇生アイテムってのは、ペットも生き返んの?」
俺は今回、一番聞きたかったことをアルゴにぶつけた
「ペット………?さぁナ、そう言う情報は出回ってなゾ。でモ、またなんで急ニ…………ハッハァーン」
質問に答えた後、アルゴは何やら考えた後にニヤリと笑った
「シーちゃんのためだナ?全ク、お嬢様を守る騎士サマは大変だナ」
ニヤニヤと口の端を吊り上げながら肩をポンポンと叩いてくる。勘違いも甚だしいぞこいつ
「…………別にそんなんじゃねえよ」
「マーマー、そう照れるなヨ」
否定してもアルゴはニヤニヤをやめない
アルゴは知らない。ブルーのことを
ブルーと言う、たった一匹の青い龍が俺のパートナーとして、数時間を共に過ごしたと言うことを、アルゴには話さなかった
話したくなかった、ってのが一番の理由だ。流石にダイチとシリカには話したけど、未だにケイタには打ち明けていない
「ま、出来たら調べといてくれ」
俺はそう言ってアルゴに別れを告げ、歩き出した
「…………どうしタ?ター坊。いつもより暗い顔をしてるゾ」
アルゴの呟きは俺の耳に届くことはなく、ただ俺にはアルゴがボソボソ言ってるようにしか聞こえなかった
「ふっ………はぁ!」
俺以外誰もいない森の中、俺はまず一つ目のツリーの座標へ向かっていた
迫り来るモンスターを切り捨てる。安全マージンも十分に取れているし、座標までそんなに遠くはない
「……………」
俺は考えに耽りながら森の中を進む
約二週間前、蘇生アイテムの噂が出回った時だ
その蘇生アイテムでもしかしたらブルーが生き返るかもしれないと、そう思った
だけど俺は、今日まで実行に移さなかった
心の中でもう諦めちまってるんだ。どうせ無駄だと思ってんだ。もしかしたら生き返るかもしれないと………そう思ってるのと同時に、もう生き返るはずないとも思ってる
蘇生アイテムなんて、名前だけだ。きっと死んだ奴の蘇生なんかしてくれない。この世界はそんなに優しくない
俺が手に入れても、キリトが手に入れても、誰が手に入れても結果は同じ。ただ突き付けられる無情な現実に、怒り、吼え、悔しくて涙を流す
だいたい、何日も前に死んだ奴らをどうやって生き返らせるんだよ?ホントは死んでませんでしたー、良かったね。どこかに意識だけ保存されてますってか?もしくは全部攻略した後に、茅場が『ごめんね、死ぬなんて全部嘘なんだ。テヘペロ♪』とでも言ってくれんのかよ?
「そんな展開あるわけねぇだろ」
目の前の植物型モンスターに剣を突き刺してHPバーを刈り取った
さっき俺のいた《フローリア》のダンジョンでは、ペットを蘇生させるアイテムを入手することが出来る。名前は《プネウマの花》。それを使えばブルーは生き返る、そう思っていた
だが違った。《プネウマの花》はペットが死んで3日経つまでに蘇生させなければならない、という制約があったからだ
3日………あいつが死んで何日だ?数えるのも馬鹿らしい。俺は耐久度が無くなるまでそれを踏み続けた
「しっ!らぁ!」
恐らく今回の蘇生アイテムも何らかの制約が付いていると考えることが出来る。もしかしたら、ホントのホントに茅場のクリスマスプレゼントと言うことで、そんなものなんて無いのかもしれない
…………例え、結果がわかっていても………何かに、縋る事が許されるのなら!
俺は、ずっと縋り続けたい…………!!いつまでも、足掻き続けていたい………!!
「ここか」
気付けば座標の位置へ来ていた。ツリーを見上げる。とても大きいこの木に装飾を施したら、きっと見たこともない程綺麗になるんだろうな
「……………くっそ。我ながら、女々しいよなぁ……」
俺は、ツリーへ頭を預けた
今の俺を見たら正美さんはなんて言うだろうか。チビ達はなんて言うんだろう
十六夜さんは………喝を入れるんだろうなぁ
「弥生兄ちゃんは…………」
今度は背を預け、ツリーの下から空を見上げる。きっと、毎日俺達の心配をしてくれているであろう皆に想いを馳せた
俺の視界はモミの枝や葉が大体の面積を占める。その間から俺へと降り注ぐ日の光
「……………これ、モミの木……か?」
そのまま空を見上げていると、俺は違和感に気付いた
俺が背中を預けているツリー。とても大きく、樹齢何年か調べるのも面倒くさくなりそうな木であるが、恐らくもう老木だ
「なのに、なんで葉が鋭く尖ってるんだ………?」
モミという木は針葉樹だ。だから葉が尖っているのは頷ける
だがしかし、老木の場合は別だ。モミ属の葉は老木になると先が丸い葉をつけると十六夜さんが話していたのを覚えている。毎年のように俺達含め、チビ達に話すものだから自然と覚えてしまっていた
この大きさでまだ若木だというのは考えにくい
だとするとこの木はモミじゃなくてただの針葉樹………スギとか、そこら辺の
「ってことは………!」
急いでメニューを出しアルゴにメッセージを打ち始めた
そして待つこと十数分。周りにリポップした雑魚を丁度片付け終えた時だった
メッセージを開き内容を読む
「やっぱりそうか!」
確認した瞬間、俺は走り出す。転移結晶は勿体無いから使わない
俺の予想通りの内容がそこには書かれていた。ダイチ達の元へ急がないと!
「大分絞れたぞ、クリスマスボスの居場所………!」
俺はこのことを伝える為、全速力で走った
めっちゃ久しぶりですね。遅くなりすぎてごめんなさい