彼と彼女らの本物の形 作:朝灯
今回から俺ガイルのもしものシリーズを書いていきたいと思います。
基本的には思いついたら投稿するといったペースなので、亀投稿になると思いますが、よろしくお願いします。
ひょんなことから距離が近づくこともある①
それは海浜総合高校とのクリスマスイベントも一段落し、冬休みを目前に控えた日曜の朝のことだ。
修学旅行での一件から俺と雪ノ下、由比ヶ浜と冷戦状態にあった奉仕部は完全に以前までの俺が一方的にキモいだの容赦のない罵倒が飛んでくる日々に戻っていた......ってこれ冷戦から冷遇に変わっただけじゃねーか。
社畜にとっての安息の日、日曜日という学生にとっては友達と遊んだりする日、それはぼっちにとっては心苦しい日のことだ。
いつものように腐っている目を鏡で確認しつつ顔を洗った俺は、いつものように冷蔵庫から千葉のソウルドリンク、MAXコーヒーを手に取り、リビングに設置してあるこたつに素早く入り込んで、日曜朝の楽しみプリキュアが始まるのに備える。
テレビの電源を点け、今か今かとワクワクしながら待っていると冷気が入ってくると寒いから閉めておいた扉が小さく音を立てて開いた。
「おはよー、お兄ちゃ......うわぁ......」
妹の小町はリビングに入ってくるなり俺の顔を見てドン引いていた。
「ねぇちょっと? なんで俺の顔見るなりドン引いたの? 泣くよ? お兄ちゃん泣いちゃうよ?」
「いやいや、いつものこととはいえ......腐った目の高校生の兄が目をランランと輝かせてプリキュア見てたらそりゃ引くでしょーが」
小町は冷蔵庫から牛乳を取り出し、マグカップに注いでレンジに入れながらこれだからごみいちゃんは、などと呟いている。
寒い冬の日よりも、妹の心無い一言の方が寒いみたいだ。
「あ、ところでさお兄ちゃん」
「ん? どうした?」
小町は温めた牛乳にココアの粉末を入れかき混ぜながらこたつへと滑り込んでくる。
「これ応募したら当たっちゃったんだよねー」
そう言いつつ小町が渡してきたのは新しくオープンする猫カフェのチケットだった。
どうやらオープン前に限定で入ることが出来るプレオープンのチケットらしい。
「ほーん、でこれがどうかしたのか?」
「それペアチケットになってるんだけど、時期が時期じゃん? 小町行きたかったんだけど受験勉強があるからさー、お兄ちゃんにあげるよ」
「いやペアチケットの時点でぼっちお断りじゃねえか、行くのも寒いしめんどいしいらねえよ」
こたつの上にチケットを置いて、テレビに目線を戻す。
「だからさー雪乃さん誘って一緒に行ってきなよ! ペアチケットなんだし!」
「ばっかお前、雪ノ下が俺と一緒に行くわけねえだろ、俺だってごめんだし。あなたと行くぐらいなら部屋で本を読んでいた方が有意義だわとか言われちゃうのが目に見えるし」
この寒いのに雪ノ下の罵倒まで合わさったら身も心も凍らされてしまうに決まってる、氷の女王の名は伊達じゃない。
「いやいやいやー!猫好きな雪乃さんのことだからお兄ちゃんと行くこと差し引いてもきっとプラスになるかもよ? お兄ちゃんと行くこと差し引いてもね!」
「ねえ、なんで二回言ったの? 二回言う必要なかったよね?」
余計にこたつの暖かさが染み入るみたいに感じちゃう。
「そ・れ・にー、小町行きたくても行けないし―チラッ、感想とかーチラッ、聞きたいなーチラッ」
「うぜえ......」
口でチラチラ言いながら見てくる小町を適当にあしらいつつ、チケットを見る。
「ま、チケットを無駄にするのもあれだしな。雪ノ下が行くっつったら行くわ」
なんだかんだ言って妹には甘い、それこそMAXコーヒーのように。
......やっぱマッカンには勝てないだろうけどな。
「さっすがお兄ちゃん、愛してるー! あ、今の小町的にポイント高い!」
「おう、俺は超愛してるぞー。お、今の八幡的にポイント高い」
いつも通り適当に相槌を打ちながら、マッカンを口に運ぶ。
こたつ入ってたらたまにアイスとか食いたくなるよね、キンキンに冷えたマッカンを手に持ってどうでもいいことを考える。
ま、あれだな。チケットは由比ヶ浜にでも渡して、雪ノ下と二人で行かせた方がどっちの為にもなるだろ。
WINWINの関係ってやつだ。
一瞬頭の中に妖怪ろくろ回しが浮かび、小町に気づかれないように顔を顰める。
「あ、そのチケット結衣さんに譲るなんてことしたらお兄ちゃんの大事にしているプリキュアを録画しているDVDを目の前で一枚ずつへし折っていくからね?」
最近周りにエスパーが増えてきているような気がする......
そもそも由比ヶ浜って猫苦手じゃねえか。
逃げ場がなくなり、吐いたため息はマッカンの香りがした。
☆☆☆
翌日、二学期が終わるまで残り1週間を切った。
やはり、いつも通りの喧騒の中にはどこか浮ついた雰囲気が漂っている。
その証拠に教室の至る所から、っべー! まじ楽しみっしょ!! という雄たけびが聞こえ......戸部が無駄にでかい声で叫んでるだけですね、そうですね。
襲い来る眠気に抗うことなく意識を沈め、あっという間に放課後になった。
さて、恐らく由比ヶ浜が部室行こうと誘ってくるだろうことを見越して、俺はチラリと葉山グループの方を見る。
案の定、由比ヶ浜が三浦や海老名さんに別れを告げてこちらに小走りで駆け寄ってくるところだった。
冬の寒さを跳ね除けるような笑みを浮かべ、俺の元へとたどり着く。
「ヒッキー、お待たせ~!!」
「いや、別に待ってないけどな」
そんなやり取りも、もはやいつも通りの中に入り込んでいて、懐かしいと感じているのをみると、自分でしたこととはいえ、あの冷戦状態は俺の精神に少なからず影響していたことは確かみたいだな。
それは奉仕部という場所が自分にとって心安らぐ場所に変わりつつあるということだ。
今でも鼻歌を歌い出しそうな様子の由比ヶ浜と廊下を歩き、最初は隔離病棟と揶揄していた奉仕部の部室に到着。
「やっはろー! ゆきのん!」
由比ヶ浜は引き戸に手をかけると躊躇なく戸を開き、いつ聞いてもアホっぽい挨拶をしながら部室に先にいた雪ノ下の元へ駆け寄る。
「こんにちは、由比ヶ浜さん......と、どちら様かしら? ここは関係者以外立ち入り禁止なのだけれど、謎の人谷君」
「おいどちら様とか言いながら、その間違え方は名前を知っているやつにしか出来ないだろ......うす、雪ノ下」
どうせこれで挨拶をしなかったら目どころか脳まで腐ったのかしら比企谷君、ゾンビにはない習慣なのだろうけど挨拶をするのが正者の世界でのルールよ、とでも罵倒されるに決まっている。
無駄な罵倒を受ける趣味はない。
......これだと無駄じゃない罵倒は受けることになるじゃねえか。
「こんにちは、比企谷君」
雪ノ下の挨拶を左耳で受け止め、俺はいつもの定位置に着くと、鞄を机に置き、その上からコートとマフラーを重ねるようにして置く。
由比ヶ浜の賑やかな話声と雪ノ下の静かな相槌を聞きながら読みかけの文庫本を読み進めていると、ふと猫カフェのプレオープンチケットのことを思い出した。
「......あー、あのよ......雪ノ下」
突然話しかけたせいか雪ノ下と由比ヶ浜の話声がピタリと止み、二人して驚いたようにこちらを見てくる。
なんとなく続きを話し辛いので、口の中でもごもごと出てきた言葉を転がすようにする。
「何かしら比企谷君。......あの世、ついにホームシックにでもなったのかしら?」
痺れを切らせた雪ノ下はさらりと俺を死者扱いし、早く言えと言わんばかりに顎をしゃくり続きを促してくる。
こいつは俺をなんだと思っているんだ、そろそろはっきりさせておいた方がいいだろう。
「おい、雪ノ下「あー! あのさぁヒッキー!!」
空気の読める女由比ヶ浜が、俺から漂うただならぬ雰囲気を感じとったのか必死に話を変えようとしているのが見えるが、俺にだって言われて嫌なことの一つぐらいある。
「俺は生まれも育ちも生粋の千葉っ子だ、だからあの世に対してホームシックになることはない」
「って訂正するところそこなんだ!?」
「死者扱いは否定しないのね......それで、何かしら?」
由比ヶ浜は驚愕に目を見開き、雪ノ下はふう、やれやれといった感じでこめかみに指を当てるいつものポーズをとる。
「あー、その......小町からこんなもん貰ったんだが」
「あ、この猫カフェ知ってる!! 確かもう少しでオープンするんだよね?」
由比ヶ浜経由で雪ノ下へとたどり着くペアチケット。
「猫カフェ......」
「それでこれがどうかしたの、ヒッキー?」
いやちょっと? 雪ノ下めっちゃチケットガン見してるんだけど、目が開きすぎて怖えよ。あと怖い。
由比ヶ浜からチケットを受け取って机に置くまでの間、瞬きもしないし余所見もしない、どんだけ猫好きなんだよ、雪ノ下さんまじ猫大好きフリスキー。
「......あー、そのよ......ちょっと付き合ってくれねえか?」
さっきからあー、とかしか言えてないが、ぼっちにとっては誰かをどこかに誘うのがそもそもハードルが高すぎる。
え、何? 世の中のリア充って常にこんな重圧背負って生きてんの? だったら俺一生ぼっちでいいよ。
......でも専業主夫の道だけは断固として諦めない、絶対にな。
「えぇ!? つつつ、付き合ってって......ヒッキー!?」
「いや、普通に考えて一緒に猫カフェ行かねえかってことだろ。誰が好き好んで自分から振られにいくような真似すんだよ。お前そんなに俺の枕を涙で濡らしたいの?」
「なんか思ったよりも卑屈な返しされた!?」
誘った当の本人である雪ノ下は何を言うわけでもなく、しばらくぼうっと呆けていたが、我に返ったのかコホンと一つ咳払いをする。
「別にそのチケットを使用するのに私と比企谷君である必要はないと思うのだけれど、二人で行くなら由比ヶ浜さんでもいいわよね?」
「そ、そうだよ! あたしとゆきのんでって......あ、猫......」
「......ごめんなさい、由比ヶ浜さんは信じられないことに猫が苦手だったわね、信じられないことに」
「なんか二回言われた!? ゆきのんだって犬が苦手じゃん!!」
二人とも犬と猫の擬人化みたいな性格をしているので犬と猫が本当に喧嘩しているようにしか見えないが、正直不毛すぎる争いだ。
人は誰しも苦手なものがあるからな。俺の場合は人生上手くいってるやつとか、やだ、私のカースト低すぎ?
「......ま、行かねえならいいわ」
チケットを鞄に仕舞おうとすると、雪ノ下はもう一度咳払いをする。
なんなのお前、風邪なのん?
「あなたと二人で行くのは大変気に食わないのだけれど、小町さんの厚意とチケットを無駄にすることは出来ないわ。決して私が猫と触れ合いたいだけとかそんな私欲にまみれた考えなど微塵も持っていないけれど、せっかくの機会なのだからそれを無駄にすることなんて出来ないわ。比企谷君と二人で行くのは本当に気に食わないのだけれど、仕方がないから私が一緒に行ってあげるわ。ええ、誠に本当に遺憾なのだけれど」
「長えよ、あとさりげなく三回にもわたって俺と行きたくないことをアピールする必要あった?」
「う、うー......やっぱりあたしがゆきのんと一緒に行けばいいよね!?」
「おいよせやめろ。じゃないと俺のプリキュア録画してるDVD一枚ずつ割られていくことになるんだぞ? お前それでもいいのか?」
「なんか全くあたしに実害ない脅迫された!?」
俺だって出来ることなら由比ヶ浜にチケットを渡してしまいたいが、さすがにプリキュアを人質に取られてしまっては手も足も出ない。だから素直に従うしかない。
マッカン全部捨てるとか言われたらそれこそ土下座も厭わない。
「では、冬休みの初日はもちろん空いているわよね?」
「なんで俺が暇なこと前提で話進めんの? あなた私の予定を網羅しているなんてストーカー? そんなに警察のお世話になりたいのかしら?」
「今のゆきのんのモノマネ!? 気持ち悪いけど超似てるし!!」
「そんなに警察のお世話になりたいなら今すぐにでも叶えてあげてもいいのだけれど? それか一度きちんと頭の方を診てもらった方がいいのではないかしら」
本家の方が威力高めでした。正直あの眼光で貫かれると心が凍える。
「では、冬休み初日で決定ね。待ち合わせ場所は千葉駅で時間は......13時程度でどうかしら?」
「まあ、それでいいぞ」
なんかめちゃくちゃウキウキじゃねえか、やっぱり猫大好きなんですね、そうですね。
横で未だにうーうーと唸ってサブレのモノマネに勤しんでいる由比ヶ浜と文庫本に目を落とし始めた雪ノ下を横目で視認しつつ、俺も読書に戻る。
すぐに由比ヶ浜の話声が聞こえてくるが、俺はそのあと部活終了の時間まで読書に集中し、今日は解散となった。
ちゃんと原作を読み返せばよかったと思います。
多分結構うろ覚えなので、時系列とか割とバラバラだと思います、すいません。
続きは思いついたら更新です。