落第騎士に転生した話 【完結】   作:VISP

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落第騎士に転生した話

 皆さんは「落第騎士の英雄譚」をご存知でしょうか?

 

 まぁラノベの一種なんですが、要は才能の無い主人公が周囲の妨害と偏見に負けず努力・友情・勝利!するお話です。

 主人公の黒鉄一輝君はそりゃもう善人で、努力家で、ちょいとドM過ぎない?って思う位には不屈でトラウマとかも持ってるという「あー確かに主人公だなー」と思う程度には得意分野では高スペックな少年だ。

 所でさ、よく転生憑依ものとかあるじゃん?

 その中で主人公始めその登場人物になってしまうとか。

 それで転生特典とかオレTueeeeeeee!とかやりたがるけどさ、ちょっと待ってほしい。

 

 誰が好き好んで艱難辛苦を味わいたがるのだろうか?

 

 「一輝、お前に才能は無い。黒鉄家のために何かをする必要はない。」

 「じゃぁ、それ以外は好きに生きて良いの?」

 「あぁ。伐刀者以外の道ならな。」

 「ん。じゃぁそれ以外で生活するね。」

 

 こうして、原作主人公(中身別人)が不在のまま、物語が進むのであった。

 

 

 ……………

 

 

 妹を含む誰にも特に挨拶も何もする事もなく、手提げ鞄一つだけと身軽すぎる荷物を持って、父との会話の翌日には一輝(偽)は出て行った。

 黒鉄家から出た一輝(偽)はそのまま引っ越し、一人暮らしをしながら中高と国内の伐刀者とは特に関係の無い学校へと進学したのだった。

 とは言え、全てを止めた訳ではない。

 只でさえきな臭い国際情勢で第三次世界大戦が起こる確率が高いこの世界、戦う力が無いのは不利にしかならない。

 となれば、あれこれと逃げ回るためにも鍛えておいて損は無い。

 まぁ魔力ランクFなので、早々簡単に何かが出来る訳ではないのだが。

 

 (こんな事なら桐原一矢の方が良かったかなぁ。)

 

 原作での噛ませ犬役を思い出す。

 彼の伐刀絶技はステルスだった。

 完全展開に時間はかかるし、対象の五感からは感知されなくても第三者やカメラ等からは見えてしまうものの、その能力はこと生存性に関しては素晴らしいものがある。

 どうせならそっちの方が良かった、と一輝(偽)は思う。

 しかしまぁ、この状況も考えてみれば悪くない。

 

 (何せFランクとは言え、「連盟の課す義務に縛られない」んだし。)

 

 無論、無許可の霊装の展開及び伐刀絶技の発動は禁止されている。

 しかし、「ばれなければ犯罪じゃない」のだ。

 

 (と言う訳で、気配遮断及び基礎体力、後は魔力制御による魔力の迷彩かなー。)

 

 そんな事を考えながら、一輝(偽)は平和な学校生活を楽しむのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「やはり、回避は不可能か…。」

 

 現日本国総理大臣である月影 獏牙は苦悩を顔中で表わしながら、苦み走った呟きを漏らした。

 彼もまた伐刀者であり、嘗ては教鞭を取る立場だった。

 しかし、彼の持つ「月天宝珠」による過去視、そして時折垣間見る未来視によって見てしまった東京壊滅を防ぐために教師から総理大臣となった異色の人物だった。

 そんな彼が今悩んでいるのが、おそらく東京壊滅の直接的原因となるであろう第三次世界大戦に関してだった。

 

 (分かってはいたが、第三次大戦そのものを回避する事は出来ない。)

 

 10年前から始まった彼の足掻きは、しかし行き詰っていた。

 

 (このままでは日本が滅ぶ…!)

 

 状況は劇的に悪化する事は無いが、しかし確実に負の方向へと向かっていた。

 獏牙の政策で経済等は上向きだし、何とか即座に破綻する事態は回避しているが、一向に好転する事が出来ない。

 

 (なんだ、何が足りていない。)

 

 まるでパズルにおいて、重要なピースを忘れたまま完成を目指している様な、そんな暗中模索の状況に、獏牙は頭を悩ませ続けるのだった。

 

 

 彼は知らない。

 この世界の主役となる者が欠けてしまっている事を。

 その人物が今後も表舞台に出るつもりが無い事も。

 彼は知らない。

 この世界には既に、ハッピーエンドになるための道筋が無い事を。

 彼はまだ、知らなかった。

 

 

 ……………

 

 

 4年後、日本国内某山中

 

 「んー、今日も良い天気だなー。」

 

 のんびりとした様子で、山中にある目立たない様に迷彩塗装された小屋の前で、一輝(偽)が太陽の光を目一杯浴びながら伸びをしていた。

 一応電波も通っているし、ネットも完備、電力は川からの水力と風力に日光で、緊急用の発電機や蓄電器等その辺りも抜かりはない。

 高校時代からのバイト代と例年の副業で稼いだ金で、一輝(偽)はこうして俗世から離れて(=孤立して)心穏やかに過ごす事が出来ていた。

 世間では第三次世界大戦の勃発やら、解放軍の首領の復活やら、魔人の存在がどーたらと言っているが、アニメさえ放送してくれていたら一輝(偽)としては文句は無い。

 

 「さってと、畑仕事に行くかなー。」

 

 鍬とバケツに如雨露と、いつもの農作業具一式を担いだ一輝(偽)はのんびりとした足取りで畑へと向かうのだった。

 

 

 ……………

 

 

 一年前、日本国内大阪某所

 昼間は七星剣武祭に沸くこの街だが、夜には各国各勢力の工作員がそれぞれの思惑のために跋扈する無法地帯となる。

 そんな魔都と化した夜の大阪のとある路地裏は今、凄惨な有様になっていた。

 

 「…………。」

 

 そこは10人以上の死体が転がっていた。

 その全てが鋭利な刃物で首を一撃で綺麗に落とされ、絶命していた。

 今この事態を作り出した者、量販店で買えそうな安物の黒い雨合羽とマスク、それにサングラスを付けた下手人はごそごそと死体の懐を漁り、財布を取り出していた。

 

 「お、ひのふのみの……10万円とは幸先が良いな。」

 

 ほっこりしながら使い古しのそれらを懐へと収め、もう満足したのかそれとも漁り終わったのか、気配を殺して周辺の空気と同化して姿を隠す。

 彼は夜の七星剣武祭が始まる頃、毎年会場となる街に訪れ、夜に各工作員らが集まり出すと、こうして狩りをして荒稼ぎしていた。

 血濡れ仕事(ウェットワーカー)をする者達にとって、ここ数年の七星剣武祭は死と=であり、誰もがこの街に来る事を嫌がった。

 日本の警察にしても、開催期間中は入国記録のない外国人工作員不特定多数の死体を一々見分しなければならないので、イベント中の治安維持もあって仕事に忙殺されていた。

 無論、連盟から多数のプロの伐刀者達が派遣されているのだが、彼らの努力を嘲笑うかの様に深夜の殺戮劇は例年の様に続いていた。

 

 「くそ、ここもか!」

 

 そこに一人の警察官がやってきた。

 

 「こちら加藤!○丁目の路地裏でも確認!見える範囲でも10人はやられている!至急人を寄越してくれ!」

 (お仕事ご苦労様です。)

 

 内心でそう呟きながら、雨合羽の下手人=一輝(偽)はその場を去っていった。

 ここ数年、彼にとって七星剣武祭の夜はこうして副業に勤しむ日となっていた。

 何せ相手は非合法工作員であり、幾ら血祭りに上げた所でばれなければ狙われる事も無いし、何より何をした所で良心が咎める事も無い。

 また、一般人では有り得ない程の金を持っているので、実力とか背後関係を除けば物取りの対象としては実に美味しいのだ。

 

 (ま、それもこれも圏境を習得できたからなんだけど。)

 

 日々の気配遮断を常態とした上での修行、そして目立たぬからと続けていた瞑想。

 そして何よりこの世界の理の外にある魂を持っていたが故に、一輝(偽)は剣術に加え、並のアサシンを遥か彼方に置き去りにする程の気配遮断技能、即ち「圏境」の習得を可能としたのだ。

 

 (さーて今夜はこんな所でおさらばおさらば。)

 

 この頃は相手も警戒して集団でいる事も多く、一瞬で気付かれずに音もなく全員の首を落とすのが難しくなっている。

 その上、今夜は既に30人程ヤッたので、これ以上の収穫は無理だろう。

 

 (じゃ、また明日ー。)

 

 こうしてまた一歩、一輝(偽)は楽隠居生活へと近づくのであった。

 

 

 彼は知らない。

 自分の不在がどんな状況を招くのかを。

 彼は知らない。

 自分の能力が既に限界を突破して魔人の領域にある事を。

 彼は知らない。

 魔人であるのにその気配遮断によって、他のどの魔人にも知られていない事を。

 習得した燕返し、三段突き、抜刀術、遠当て、戻し切り、空間切断に概念切断等。

 習得した己の数多の技が、人知を超えた魔技である事を。

 

 彼は何も知らない。

 知らないまま、この世界の片隅でひっそりと生きている。

 

 

 

 

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