落第騎士に転生した話 【完結】   作:VISP

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落第騎士になった話リトライ その2

 「貴様、よくもオレの前に顔を出せたな…ッ!!」

 「あれ、誰だっけ?」

 

 解放軍からの雇われ&月影首相が招いたメンバーとの顔合わせの場は、一輝(偽)の一言により凍り付いた。

 

 「あー一輝君、王馬君は出奔したとは言え君の実兄だよ?」

 「………………………………………………あぁ!」

 

 ポンと拳を手に当てて思い出す一輝(偽)。

 どうやら素で忘れていたらしい。

 和装の王馬、作務衣の一輝(偽)。

 激怒する兄とのほほんとした弟は実に対照的だった。

 

 「貴っ様…!!」

 

 対して、ぎりぎりと歯ぎしりしながら今にも抜刀しそうな王馬の周囲からは被害を警戒した他の人員が速攻で距離を取る。

 誰だって台風には近づきたがらないのだから当然だ。

 

 「貴様がオレにした事、忘れたとは言わさんぞ!!」

 「そーいえば前会った時も喧嘩売られたから斬ったけど、その時も途中で兄だって思い出してダルマにするだけで終わらせたんだっけ。」

 

 あーそんな事もあったなー、と一輝(偽)は完全に昔の話、過去の事として語っている。

 が、対面している王馬の顔色は怒りの余り真っ赤を通り越して青黒くなっている。

 

 「そー言えばワタクシともお会いしておりますよね?」

 「あ、100km先から人形操ってた人。駄目だよ、あんないたずらしちゃ。」

 

 オルゴール内蔵の道化師の人形、今は平賀 玲泉と名乗っているその操り手は嘗て一輝(偽)にちょっかいをかけてえらい目にあった一人だった。

 

 「ははは、まさか100km先まで追ってくるとは思っておりませんでしたよ、えぇ。」

 

 偶々滞在先でアニメ映画を鑑賞していた一輝(偽)の妨害をしたがために一撃で人形を破壊され、しかも糸の先にいる本体目掛け追跡され、3日間延々と追い回され、追い詰められた果てに下半身と上半身が泣き別れさせられた事があった。

 普通なら実力者であっても100km先と言う凄まじい遠距離からならば大抵は諦めるのだが、この一輝(偽)は基本自分の趣味を邪魔する者は容赦しない。

 身内を除けば一回殺さない限りは絶対に許す事はない。

 故に100km先で悠々としている馬鹿の位置を圏境の応用である世界への溶け込みによる気配探知で探り当て、目的地まで縮地&圏境で駆け抜けたのだ。

 無論、霊装である糸によって一輝(偽)が追跡に移った事を辛うじて悟った平賀は驚きつつも何とか逃げ出そうとしたのだが、移動手段(電車・車・飛行機その他)の悉くを両断され、這う這うの体で逃げ回るも三日間無休憩無補給では如何に伐刀者であっても限界がある。

 結果、彼は体力・魔力が限界になった所でさっくりと輪切りにされたのだった。

 まぁ自身の糸で縫合して何とか一命を取り止めたのだが。

 

 「流石に懲りましたので、私から貴方の方に手を出す事はありませんよ。」

 「ん、了解。取り敢えずよろしくね。」

 「では挨拶も終わった所で横をご覧下さい。」

 「んー?」

 

 そこには無視されて怒りのボルテージが上昇してすっかり顔色が黒くなった王馬君の姿が!

 

 「表に、出ろ。」

 「あいよ。」

 

 そういう事になった。

 現首相兼義父?

 平静なままに医療班の手配してましたよ。

 

 

 ……………

 

 

 「貴様に与えられた屈辱、オレは決して忘れなかった。」

 

 暁学園の訓練場、そこで王馬と一輝(偽)は立ち会っていた。

 それを見るのは雇われた解放軍の面々及び手隙だったこの暁学園の関係者(=連盟の方針に思う所がある連中&面倒見切れないとされた問題児で構成された関係者各位)の姿があった。

 

 「貴様を打倒するため、新たな鍛錬を積んできた。最早無様は晒さん…!」

 「じゃ、何時始めるー?」

 

 怒り心頭の状態からやや平静さを取り戻した王馬の言葉を、しかし一輝(偽)は意に介さない。

 “多少”鍛えて固くなった程度である事を既に見抜いていたからだ。

 また、魔力量は増えていないし、足運び及び筋肉の付き方から想定される身体能力も相変わらずの剛剣では、自分に触れる事すら出来ない。

 そして、今周囲に気付かせない様に渦巻いている大気の流動も、以前よりは素早く精密だが、その程度でしかない。

 

 「無論今だ!」

 

 王馬の言葉と同時、一輝(偽)を中心とした周囲の大気が回転、局所的な竜巻が発生してその中心の大気が上空へと飛ばされ、中心の気圧が瞬間的に低下した。

 低気圧の場所は通常よりも大気が薄く、それ故に周囲から大気が流入してくる。

 だが、その際に流入してくる大気が高分圧(=混合気体において、ある1つの成分が混合気体と同じ体積を単独で占めたときの圧力)のほぼ純酸素であればどうなるだろうか?

 局所的な竜巻で身動きを抑えられ、しかも毒ガス同然の気体を周囲へと流し込まれる。

 大凡初見ではどうしようもないそれは、王馬が頭を捻って試行錯誤した技の一つだった。

 

 「はい、お疲れ様。」

 

 しかし、竜巻の中に一輝(偽)の姿は無く、その声は王馬の後ろから響いていた。

 

 「な」

 

 王馬は自身の風による探知をすり抜けた事に驚いて振り向き、しかし、身体に力が入らず、そのまま仰向けに倒れ込んだ。

 そして、倒れ込んだ彼の視界に入るのは、鮮血を吹き出す自身の下半身だった。

 

 「ばかな」

 

 入りも抜きも見えなかった。

 だが、確かに自分の弟は自分が探知するよりも早く動き、斬られた側に気付かせぬ程の技巧と速さを以て自身の胴体を両断した。

 常人の50倍の筋・骨密度を持つ自分の体とそれを上から覆う風の鎧兼ギプスごと。

 

 「次は技も鍛えなよ。」

 

 そういう一輝(偽)の手に得物の姿はない。

 必要な時、必要なだけ使い、それ以外の時は決して出さず使わない。

 己のためなら何であっても斬り捨ててきた彼なりの、それが戦の時以外の信条だった。

 無論、対策の阻害及び正体の隠蔽のためでもあるのだが。

 そんな彼は珍しく斬り捨てた相手を忘れる事なく声をかける。

 それはきっと、幼少時に彼を迫害しなかった数少ない者への礼儀だったのかもしれない。

 

 

 ……………

 

 

 「とっても素敵でしたよ一輝さん!」

 

 医療班に王馬を任せ、誰もが唖然とする中で一輝(偽)は顔合わせも済んだ事だし、と学園内に用意されたという自身の部屋へと向かう事にした。

 先程の初対面の時と同様に既に強者としての気配は完全に消えている。

 だが、誰も声をかけてくる事はない。

 王馬は彼らの中でも確かに実力者であり、その彼がああまで一方的に瞬殺されたのでは、警戒が先立つのも仕方ない。

 そして、一瞬だけ漏れ出た格上に過ぎるその気配、勘の良い者はその隔絶した実力に冷や汗をかいていた。

 彼らが束になった所で瞬殺され……否、斬られた事すら気づかずに死ぬだけだと漸く気づいたのだ。

 そんな中、喜色満面で駆け寄ってきた者が一人いた。

 以前伐刀絶技が暴走状態であった所を助けた少女だった。

 名を紫乃宮 天音、『凶運』の二つ名を持つ中性的な少女である。

 

 「ん、天音か。どうした?」

 「どうしたもこうしたも挨拶ですよ!こんにちは!お久しぶりです!」

 

 元気いっぱい、天真爛漫。

 嘗てはその内側に邪念を抱いていた彼女は、しかし一輝(偽)によってその原因を斬り祓われ、すっかりと丸くなり、年相応(よりも一見して幼く)になっていた。

 

 「おう、久しぶり。元気そうでなによりだ。」

 「はい、一輝さんのお陰です!にしても、一輝さんって月影首相の息子さんだったんですね。似てませんけど。」

 「うん、養子になったんだ。忙しいけど、とても良い人だよ。」

 

 内心でほっこりとしながら、一輝(偽)は天音と連れ立ってその場を後にした。

 

 

 …………… 

 

 

 翌日

 

 「すぅ…すぅ…。」 

 「」

 

 よし、先ずは確認しよう。

 盛大に焦りつつも、自室のベッドの上で天音と共に横になった状態で一輝(偽)は内心で呟いた。

 

 

 

 さて、昨夜あった出来事を説明しよう。

 ここ数か月、入学試験のために家庭教師と共に缶詰になって勉強していたせいで、気晴らしがしたかった一輝は部屋にお酒を持ち込んでいた。

 とは言え、度数の軽いものしかなく、つまみと一緒に録り溜めしていたアニメを見ながら晩酌する予定だった。

 そこに夕飯も一緒だった天音が酒を持参して現れ、以前布教した事もあり、晩酌しながらアニメ鑑賞を共にしていたのだ。

 話が拗れたのはそこからで、天音が一輝(偽)の酒を気に入ったらしく全て飲んでしまったのだ。

 そして、お詫びにと持参した酒を一輝(偽)に勧めたのだ。

 その多くは口当たりの良い飲みやすいワインかジュースみたいなカクテル類だったのだが、そもそも酒自体がそこまで得意ではない一輝(偽)は必然的にカクテルの方を好んで飲んだ。

 飲んでしまったのだ。それらが所謂レディーキラーと言われる“女性でも飲み易いが度数が高くて酔い易いカクテル”だと知らず。

 後はアニメに夢中になっている一輝(偽)にどんどん酒を注ぎ足していくだけで良い。

 内心を一切表に出さずに輝く程の笑顔でこの策を実行した天音は、内心で笑いが止まらなかった事だろう。

 そして前後不覚に陥り、最近のあれそれで欲求を解放していなかった一輝(偽)を誘惑する等、中性的な美少女であり、一輝(偽)自身には直接効かずとも常に最適な行動を提示してくれる伐刀絶技「過剰なる女神の寵愛」の使い手にとっては実に容易い事だった。

 大恩人であり、初恋の相手であり、そして何よりも欲した人。

 伐刀絶技を封じられた自身に害を成そうする有象無象の全てを切り伏せた、自分にとってのただ一人のヒーロー。

 そんな人を手に入れるのに、手段なんて選んでいられなかった。

 

 

 

 そして、気づいたらご覧の有様である。

 

 「……。」

 

 そっとタオルケットを捲り、その下を確認する。

 すると、やっぱりと言うか全裸の自身と全裸の天音、更に情事後特有の生臭い匂い。

 そして何よりも昨夜零れたであろう小さな血痕が雄弁に語っていた。

 「お前、また手を出したんやで」と。

 

 「ふわぁ……あ、一輝さん。」

 

 ぽっと頬を染めた天音がシーツを手繰り寄せて体を隠す。

 如何にも初心な乙女の仕草だったが、見る者が見ればその全てが計算尽くである事が分かっただろう。

 しかし、今の茫然自失した一輝(偽)は気づけない。

 戦闘時なら一瞬で虚偽に気付くと同時に敵を切り捨てる彼も、プライベートでは基本的にただのオタクのあんちゃん(大往生しても性根が変わらなかった)でしかない。

 

 「その、不束者ですが、よろしくお願いしますね?」

 「」

 

 羞恥に包まれながらも止めの言葉を告げる天音に、一輝(偽)は真っ白となって燃え尽きた。

 

 

 ……………

 

 

 暁学園の設立宣言、そして破軍学園への襲撃決行の日。

 予定通り破軍を手抜きしつつも壊滅させた暁学園のメンバーは、潜入していたメンバー二名を回収・帰還した後、作戦成功を祝って有志での宴会を開いていた。

 

 「お兄様、はいどうぞ。」

 「一輝さん、はいこれ。」

 

 そして宴会の行われている食堂の一角、そこでは今回のMVPとその身内二人が殺気混じりの状況でにこやかに睨み合っていた。

 

 「紫乃宮さん、さっきからお兄様に近づき過ぎではありませんか?」

 「黒鉄さんこそ、さっきから一輝さんにべたべたし過ぎじゃない?」

 

 ギシィ!と空気が軋む音が聞こえてきそうだった。

 そんな美少女二人に挟まれた色男は、死んだ目で目の前の料理をつついていたが、あれではたとえ三ツ星シェフの料理であっても味なんて分からないだろう。

 

 「私は妹ですもの。お兄様に甘えたって問題なんかありませんわ。ですよねお兄様?」

 「そっかー。でもそんなにべたべたしてたら、一輝さんが動き辛くないかな?」

 

 二人とも、何故そこで私に振るのでせうか?

 一輝は己が身の不徳の成す所とは言え、そんな事を思ってしまった。

 

 「いや、二人とも邪魔じゃないよ。」

 

 今自分の笑顔が引き攣っていないかどうか、一輝(偽)には自信が無かった。

 

 「もうお兄様ったら。正直に言って良いのですよ。この男女が邪魔だと。」

 「一輝さんも本当の事言って大丈夫だからね。このブラコンが面倒だって。」

 

 ギチィッ!!と再度空間が軋む音が周辺の者達にも聞こえた。

 風使い故に耳が良すぎて全部聞こえていた王馬は頭が痛そうに額を押さえていた。

 

 「先程からの暴言は聞き流すとして……紫之宮さん、貴女はお兄様の何ですか?兄妹間のスキンシップを邪魔しないでほしいのですけれど。」

 

 目障りな女をさっさと排除するべく、珠雫は話を進める。

 しかし、その言葉を聞いた天音はにっこりと花が綻んだ様な笑みを浮かべた。

 もっとも、そこに込められた意味を読み解けば、それは嘲笑なのだが。

 

 「私は一輝さんの恋人ですよ。ねー一輝さん♪」

 「あ゛ぁ?」

 

 ビキキキキィッ!!

 空間が罅割れる音を聞いた全員が、三人から一斉に距離を取った。

 どころか、一部の者は食堂から素早く脱出していく。

 そんな者達に一輝(偽)は羨望の視線を向けるが、彼が爆心地から逃げ出す事は出来ない。

 何故なら彼は当事者であり、これは彼の撒いた種でもあったから。

 

 「外へ出ようぜ…。」

 「久々に、キレちまったよ…。」

 

 微妙に一輝(偽)の布教活動の弊害が見える二人は、勢いよく立ち上がる。

 轟々と魔力を滾らせる二人を見て、一輝(偽)は全力で隠遁しようかなぁと心を明後日の方向へと飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 




次回、七星剣武祭編!


なお、ヒロインは後二人います。
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